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超傑作!『刑事コロンボ・殺人処方箋』――精神科医が、自分の心を見抜かれる瞬間


『刑事コロンボ』の第一作、『殺人処方箋』。

これは単なる犯人当てのドラマではない。

最初から犯人は分かっている。
誰が殺したのかも、どうやってアリバイを作ったのかも、視聴者には全部見せてしまう。

それなのに、最高に面白い。

なぜなら、この作品の見どころは「犯人は誰か」ではなく、

コロンボが、完全犯罪を確信している犯人の心を、どうやって壊していくのか

そこにあるからだ。

犯人は、人の心を読む専門家

犯人のレイ・フレミングは精神科医だ。

人間の心理を分析し、言葉の裏を読み、相手の弱点を見抜くことを仕事にしている。

しかも頭が切れる。
態度は冷静。
自信もある。

自分は人間というものを知り尽くしている。
ましてや、ヨレヨレのコートを着た、うだつの上がらない刑事など恐れる必要はない。

最初は、そう思っていたはずだ。

ところが、そのヨレヨレの刑事が、いつまでたっても帰らない。

「あと、もう一つだけ……」

そう言って、何度も現れる。

一見すると、要領の悪い刑事だ。
質問もまとまりがなく、話も回りくどい。

しかし実際は違う。

コロンボは、犯人の足元に小さな穴を掘っているのだ。

一度に大きく崩さない。
少しずつ、少しずつ掘る。

そして犯人が気づいた時には、もう逃げ道がなくなっている。

あのカウンセリング室の場面

俺が鳥肌を立てたのは、コロンボがフレミングのカウンセリング室へ押しかける場面だ。

コロンボは、ある架空の人物について心理分析を求める。

妻を殺し、共犯の女に妻の格好をさせ、空港で目撃させてアリバイを作った男。

そんな人間は、いったいどんな心理なのか。

もちろん、コロンボが語っているのは架空の人物ではない。

目の前に座っているフレミング本人だ。

しかも、それを精神科医であるフレミング自身に分析させる。

これは尋問ではない。
証拠を突きつけているわけでもない。

だが、これほど恐ろしい追及はない。

コロンボは犯人の専門分野に入り込み、犯人自身の口で、自分の犯罪心理を語らせるのだ。

人の心を読んできた男が、今度は自分の心を読まれる。

しかも相手は、頭が悪そうに見えた刑事だ。

この瞬間、フレミングの中で、コロンボという男の見え方が完全に変わったはずだ。

こいつは鈍いんじゃない。

全部分かったうえで、俺にしゃべらせている。

あの場面は、派手なアクションなど一つもない。
二人の男が部屋で話をしているだけだ。

それなのに、下手な銃撃戦より緊張する。

これこそが『刑事コロンボ』の面白さだ。

人の心を操った男の誤算

フレミングは、共犯のジョーンを愛しているように見せていた。

だが、実際にはどうだったのか。

彼女は愛する女ではない。

犯罪を成功させるための道具だった。

妻の服を着せ、妻のふりをさせ、アリバイ作りに利用する。
危険な役目を負わせながら、自分だけは安全な場所に立っている。

人の心理を操ることに慣れた男だからこそ、女の心まで自由に操れると思っていたのだろう。

だが、コロンボはそこを見逃さない。

完全犯罪を崩す最後の鍵は、物的証拠ではなかった。

利用された女の感情だった。

フレミングが本当にジョーンを愛しているのなら、彼女の死を知らされた時、もっと取り乱すはずだ。

ところが、彼は冷静だった。

自分が助かるためなら、共犯者が死んでも構わない。

その本性をコロンボは見抜き、ジョーンにも見せつける。

そして最後に、ジョーンはフレミングを裏切る。

いや、裏切ったのではない。

最初に裏切っていたのはフレミングの方だ。

彼女は愛されていたのではない。
ただ利用されていただけだった。

だから、最後にリベンジを食らう。

人の心を操り、完全犯罪を作り上げた精神科医が、最後は人間の感情によって破滅する。

なんとも皮肉な結末だ。

コロンボは、証拠より人間を見る

息子よ。

コロンボの強さは、頭がいいことだけではない。

人間をよく見ていることだ。

犯人が何を恐れているのか。
何を隠そうとしているのか。
誰を愛し、誰を利用しているのか。

本人さえ認めたくない心の奥まで見ている。

一方のフレミングは、人間の心理を専門にしていながら、人の心を数字や道具のように扱った。

そこが、二人の決定的な違いだった。

人の心を理解する男と、
人の心を利用する男。

この二人が静かに向かい合う。

大声も出さない。
銃も撃たない。
ただ言葉だけで追い詰めていく。

『殺人処方箋』は、そんなコロンボの魅力が最初から完成している。

第一作にして、すでに最高峰。

そして、あのヨレヨレの男が帰り際に振り返る。

「ああ、それから、もう一つだけ……」

犯人にとって、本当の恐怖はそこから始まるのだ。

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