事例82【2020年:米国等の対香港経済制裁】
経緯
本経済制裁は、2019年の「逃亡犯条例」改正案に端を発する大規模な抗議活動に対し、中国政府が香港への統制を抜本的に強化すべく、2020年6月30日に「中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持法」(以下、国安法)を一方的に制定・施行したことを直接の契機とする[1]。この措置は、1984年の中英共同声明で約束された「一国二制度」及び「高度な自治」を事実上形骸化させるものであり、西側諸国の迅速かつ厳しい対応を招いた。
米国のドナルド・トランプ政権は、最も強硬な措置をとった。まず、国安法の制定を受け、2020年7月14日に「香港自治法(Hong Kong Autonomy Act, HKAA)」[2]を成立させるとともに、大統領令13936号[3]に署名した。これにより、米国法上、香港に与えられてきた関税や技術輸出における「特別待遇」を撤廃し、香港を中国本土と同等に扱う方針へと転換した。軍民両用技術の輸出制限は中国本土と同等の水準に引き上げられ、香港パスポート保有者向けの優遇措置も廃止された[4]。さらに、香港の自治を侵害した中国及び香港の政府高官(林鄭月娥行政長官ら11名を含む)を制裁対象として特定し、その在米資産の凍結や米国への入国禁止といった標的型制裁を発動した[5]。
もっとも、香港自治法の核心は標的型制裁それ自体ではなく、制裁対象者と取引を行った外国金融機関に対する二次制裁(セカンダリー・サンクション)の権限にあった。米ドル建ての取引が介在しない場合であっても、対象者と取引した外国金融機関は、資産凍結、米金融機関との取引禁止、外国為替取引の禁止等によって米国市場から排除されうる[6]。ドル決済からの排除は国際業務を営む金融機関にとって死活的な打撃であり、同法は、香港を舞台とする米中対立の帰趨を金融機関の行動を通じて左右しうる強力な武器として設計されていた。
英国は、旧宗主国として独自の対応をとった。ジョンソン政権は2020年7月20日、香港への武器輸出を禁止するとともに、容疑者引渡条約を停止した[7]。しかし、個人を対象とした金融制裁には慎重な姿勢を見せた。その一方で、制裁とは異なる圧力として、英国海外市民(BNO: British National (Overseas))パスポート保持者に対し、英国での市民権取得に道を開く新たなビザ制度を導入し、香港からの人材流出という形で中国への長期的な圧力をかける戦略を選択した[8]。
欧州連合(EU)の対応は、より抑制的であった。2020年7月28日、EU外相理事会は、抗議活動の鎮圧に利用されうる装備や監視技術の対香港輸出を制限することで合意したが、米国のような個人を対象とした金融制裁の導入は見送られた[9]。これは、中国との経済的関係を重視する加盟国間の温度差を反映したものであった。
制裁の実施は段階的に進んだ。2020年8月7日、米政権は大統領令13936号に基づき、林鄭月娥行政長官ら11名の在米資産凍結等を発動した[10]。同年10月14日には、国務省が香港自治法の定める手続に従い、林鄭氏及び中国政府で香港政策を統括する夏宝竜・香港マカオ事務弁公室主任ら10名を自治侵害の関与者として特定し、議会に報告した。これを受けて財務省は、30~60日以内に、これら対象者と取引のある金融機関を二次制裁の候補として議会に報告することとされ、どの金融機関が対象となるかが次の焦点と目された[11]。政権交代後も方針は継承され、2021年3月16日、バイデン政権の国務省はリストを更新し、全国人民代表大会常務委員会の王晨副委員長や譚耀宗常務委員ら24名を追加した。米中外交トップによるアラスカ会談を目前に控えた牽制であった[12]。累計で34名が香港自治法に基づく制裁対象に指定されている[13]。
しかし、本制裁の中核をなすはずであった金融機関に対する二次制裁は、ついに一件も発動されなかった。この事実が、本事例の有効性を評価するうえでの決定的な論点となる。
中国側は即座に対抗措置を表明した。中国外務省は2020年7月15日に声明を発し、香港自治法に強い非難を表明するとともに、米国の関係者及び組織への報復制裁を実施する方針を示した。前日には米ロッキード・マーチン社への制裁を、さらにその前日にはマルコ・ルビオ上院議員ら4名への制裁を発表している。もっとも、いずれも具体的な内容や時期は明らかにされず、米国の出方を慎重に見極める姿勢がうかがえた[14]。さらに2021年6月、中国は外国の制裁への対抗措置を定めた反外国制裁法を制定し、中国国内で活動する金融機関にとって米国の制裁に従うこと自体が法的リスクとなる「二重の踏み絵」の構造を完成させた[15]。
本制裁は、2026年に事実上の終結を迎えた。同年7月17日、米財務省は、輸出管理及びパスポートの取扱いにおいて中国本土とは異なる対応をとる香港への優遇措置を再開すると発表した。大統領令13936号によって停止されていた措置の撤回である。中国商務省はこれを、米中の経済貿易協議における合意を履行するための重要な一歩として評価すると表明した。米財務省は、香港自治法自体は引き続き有効であり今回の措置の影響を受けないと説明したが、香港の統治構造に何らの回復も見られないまま制裁の実質部分が解除されたという事実に変わりはない[16]。経済制裁の有効性
本経済制裁の究極的な政治目的である「中国に国安法を撤回させ、香港の高度な自治を回復させる」という点において、この制裁は有効ではなかった。
本制裁は複合的な目的を内包していた。公式目的である「強要」に加え、その背後にはいくつかの「ひそかな狙い」が存在した。第一に、ポスト冷戦期の一極構造下で確立された「人権」や「民主主義」といった普遍的価値を侵害する行為は、たとえ大国であっても許容されないという国際規範を示す「ルールを明示する」という目的があった。第二に、中国による「一国二制度」の約束破りという「悪行を世に知らせる」ことで、その国際的な威信を損なわせるデモンストレーション効果を狙った。第三に、香港の国際金融センターとしての機能に制約を加えることで、中国の「相手国の戦略的能力を弱める」という、より長期的な意図も含まれていた。
しかし、これらの目的は何一つ達成されなかった。制裁が無効化した要因は、主に構造的なものである。第一に、中国指導部は、香港問題を「内政問題」であり、国家の主権と安全に関わる「死活的利益」と位置づけていた。そのため、経済的な損失よりも共産党による支配体制の維持を絶対的に優先し、一切の妥協を拒否した。第二に、外部からの圧力は、むしろ中国国内のナショナリズムを刺激し、香港への強硬策を正当化する口実となった。第三に、西側諸国の制裁は足並みが揃わなかった。米国の金融制裁は強力であったが、英・EUはより抑制的であり、国際的な包囲網は完全なものではなかった。第四に、香港の国際金融センターとしての地位を完全に破壊することは、西側諸国自身の経済的利益をも大きく損なうため、制裁には自ずと限界があった。米国外交の取材を長く重ね、米国の制裁外交を主題とする著書をもつジャーナリストの杉田弘毅が指摘するように、米国の金融制裁は国際企業にとって「死刑宣告」となりうる強力な武器であるが、その行使は極めて慎重にならざるを得なかったのである[17]。
以下では、制裁の実施過程を追跡することにより、この無効性の内実をより具体的に検証する。
まず注目すべきは、最も強力な手段が意図的に留保されたことである。日本銀行の政策委員会審議委員を務めた経歴をもつエコノミストの木内登英は、香港自治法の成立直後、香港に拠点を持つ金融機関が国安法と香港自治法によって米中双方から挟み撃ちに遭い、いずれの国を支持するのかという踏み絵を突きつけられる構図になったと指摘した[18]。しかし、その踏み絵を実際に踏ませる決断を米国は下さなかった。米国の金融制裁が機能するのは、国境を越える金融取引の大半がドル建てであり、決済が米国のCHIPSやFedwireを経由し、取引情報がSWIFTを介して伝達されるためである。それゆえ制裁の乱発はドル離れという構造的副作用を伴う。ルー元米財務長官は、米国が意に反する政策を強要し続ければ二、三十年後には各国が米国の経済・金融システムから離れていくだろうと警告した[19]。香港金融管理局の任志剛・元総裁もまた、米国の金融制裁は米国自身にも跳ね返る「もろ刃の剣」であり、米国はそこまで愚かではないだろうとの見方を示している[20]。
次に、制裁の発動手順それ自体が二次制裁を空洞化させた点が重要である。米国はまず大統領令に基づく制裁を発動して対象者を財務省外国資産管理局(OFAC)のリストに掲載し、その二~四か月後に同一人物を香港自治法上の制裁対象に指定するという順序をとった。大手金融機関は常時OFACリストを監視し、掲載された時点で当該人物との取引を停止する。したがって香港自治法に基づく指定が公表される段階では、対象者と取引を継続している金融機関は事実上存在せず、金融機関が二次制裁を受ける可能性はほとんどなかった。法律事務所ステプトウ・アンド・ジョンソンのニコラス・ターナーは、制裁によって対象国政府の政策を変えることは困難であり、バイデン政権もトランプ時代の制裁が効果的でなかったとみていると述べている[21]。すなわち香港自治法の二次制裁は、威嚇としては最大限の効果をもちながら、実行段階では必然的に空振りする構造を、その制度設計のうちに内包していた。
さらに、実際に発動された標的型制裁の効果は、対象者個人の生活上の不便にとどまった。林鄭月娥行政長官は米系クレジットカードが使用できなくなり、自宅に現金が積み上がる状態となった。鄭若驊・律政司長はスタンダードチャータード銀行からの借入を完済し、香港警察トップの鄧炳強氏は住宅ローンをHSBCから中国銀行に借り換えたと報じられた[22]。これらはいずれも制裁への適応行動であり、政策転換を促す圧力としては機能せず、むしろ香港の統治エリートを中国系金融機関の側へ押しやる結果を招いた。
他方で、制裁は金融機関の過剰なコンプライアンスを誘発し、その帰結は制裁発動国の意図と逆転した。国安法の施行後、香港の金融機関は民主活動家の口座や送金の出所を調査するようになり[23]、HSBCは政治亡命を表明した民主派前議員と家族の口座を凍結した。2021年6月に廃刊へ追い込まれた蘋果日報の発行会社・壱伝媒については、当局が凍結を指示していない口座までも、有力銀行が摘発リスクを恐れて凍結し、外部からの入金を拒んだと報じられている[24]。米国の二次制裁と中国の国安法という二重の法的リスクに直面した金融機関は、より確実かつ即時に制裁を科しうる現地の規制権力、すなわち中国当局の側に従った。米国の制裁が守ろうとした自由な報道機関を、制裁がもたらしたリスク環境がむしろ窒息させたのである。同時に、OFAC規制の域外適用は、日本企業を含む第三国企業に対しても取引先審査のコストと萎縮効果を及ぼした[25]。
香港経済に与えた打撃も限定的であり、かつ制裁固有の効果として切り出すことが難しかった。国安法の施行後も大規模な資本流出は起きず、2020年4月以降に140億ドルの資金が香港に流入し、京東集団など中国企業の新規株式公開が相次いだ結果、香港取引所の時価総額は同年7月に世界首位へ返り咲いた[26]。他方、不動産市場は明確に悪化し、2020年1~6月期の商業用不動産投資額は前年同期比7割減、中環(セントラル)のグレードAオフィスの空室率は12年ぶりの高水準となり、在香港米国商工会議所の調査では会員企業の36%が資産や事業の域外移転を検討していると回答した[27]。しかしこれは新型コロナウイルスの影響と国安法による政情不安が複合した結果であり、制裁の効果として分離することはできない。なお、中国四大銀行のドル建て負債は2019年末で約1兆900億ドルに達しており、ドル決済からの排除が現実化すれば国際業務に深刻な支障が生じる構造にあった[28]。脆弱性は確かに存在したが、それを突く決断が下されなかったという事実こそが、本件の核心である。
制裁は中国の政策を転換させなかったばかりか、統制の強化を加速させた。2020年7月には民主派12名の立候補が認められず、立法会選挙は1年延期された。同年11月には全人代常務委員会が新たな議員資格要件を決定し、現職4議員が排除され、他の民主派15議員が抗議して辞職した。香港中文大学が同年9月に実施した調査では、市民の44%が機会があれば移住したいと回答し、そのうち35%は既に準備を進めていると答えている[29]。制裁は、保護対象であったはずの民主派の政治空間を守ることができなかった。
より重大なのは、制裁を求める行為そのものが、被制裁国の国内法上の犯罪として訴追の対象となったことである。蘋果日報創業者の黎智英氏は国安法違反(外国勢力との結託)の罪に問われたが、検察側は2019年7月の同氏の訪米、すなわち当時のペンス副大統領及びポンペオ国務長官との会談を「米国ルート」として重視し、対中制裁を働きかけたことを結託の証拠と位置づけた。検察側はさらに、元衆院議員の菅野志桜里氏との共謀を主張する「日本ルート」も追及している(黎氏はいずれも否認)[30]。制裁の存在は、それが保護しようとした民主派を利するどころか、彼らを処罰するための法的資源を中国当局に提供した。経済制裁が被制裁国の国内統制をかえって強化する方向に作用しうるという逆説の、極めて明瞭な実例である。
最後に、本制裁の終結の様態そのものが、その無効性を事後的に裏づけている。2026年7月の香港向け優遇措置の再開は、香港の自治や人権状況の改善を条件としたものではなく、米中間の経済貿易協議の一環として実現した。香港自治法は法としては存続するものの、その実効的な中核であった大統領令13936号による優遇措置の停止は撤回された。すなわち本制裁は、目的の達成によってではなく、発動国側の対中政策における優先順位の変化によって幕を閉じた。解除の条件が被制裁国の行動変容ではなく発動国自身の戦略的都合に置かれていたという事実は、本制裁が終始「強要」の手段としては機能せず、実質的には非難の表明と交渉カードの造成にとどまっていたことを示している[31]。
結論として、経済制裁は中国の政策を転換させる強制力を持たなかった。それどころか、中国は選挙制度の改変や民主派への弾圧をさらに強化し、香港の中国本土化を加速させるという、制裁発動国が意図しなかったであろう逆の結果を招いた。国際政治の極構造変化による影響
本件は、本稿で定義する「現代過渡期」(2014年以降)の国際政治の構造的特徴、すなわち、米国の一極支配が揺らぎ、米中対立が先鋭化する不安定な多極構造への移行が、経済制裁の有効性をいかに希薄化させるかを明確に示した事例である。
本制裁は、覇権国(米国)とその同盟国が、台頭する挑戦国(中国)のパワー拡大と、その価値観に基づく秩序形成を抑制しようとする、剥き出しのパワーポリティクスであった。中国の行動は、自らの勢力圏(香港)における「セキュリティホール」[32]を塞ぎ、外部勢力(米国)の影響力を排除しようとする、地域覇権国としての行動原理に基づいている。
この不安定な多極構造が、制裁の有効性を著しく希薄化させた。ポスト冷戦初期の一極構造下であれば、より強力な国際的包囲網が形成され、中国はより大きな代償を払った可能性がある。しかし、本件が発生した時期の国際システムは、もはや米国の一極支配下にはなかった。国際社会は一枚岩ではなく、国連人権理事会では、制裁を支持する西側諸国(27カ国)に対し、国安法を支持するキューバの声明に賛同した国々(53カ国)が上回るなど[33]、価値観を巡る深刻な分断が露呈した。
大国を対象とする制裁の限界は、直前の先例においてすでに示されていた。米国家安全保障会議(NSC)元幹部のリー・ウォロスキーは、2014年のロシアによるクリミア併合を受けた金融制裁について、五年後もロシアはクリミアに居座っているだろうと予測し、これを的中させた。その根拠は、ロシアが北朝鮮やイランと異なる大国であり、世界経済との相互依存が強いため包囲網を築きにくいこと、そして専制国家であるがゆえに目先の経済的安定より地政学的利益を優先しやすいことであった。この論理は、そのまま2020年の中国に妥当する[34]。
同時に、制裁の量的膨張それ自体が、その質的希薄化を招いていた。トランプ政権は2017年から2019年末までに3100件を超える金融制裁を発動しており、年平均1040件はオバマ政権の545件のほぼ二倍にあたる。武力行使に比して安価であり、かつ米国が単独で行使できる手段として、金融制裁への依存が強まった結果である。しかし乱発は、被制裁国側に代替インフラ構築の誘因を与える。中国は2015年に創設した人民元の国際銀行間決済システム(CIPS)のテコ入れを急ぎ、デジタル人民元の開発に注力した。国家外貨管理局(SAFE)の元高官である管涛らのリポートは、米国主導の国際金融から排除される前に自前のインフラへ移行すべきだと説き、中国国内の危機感を映すものとして注目された[35]。中長期的には、人民元建て原油決済の拡大などを通じたドル基軸通貨体制そのものの侵食も視野に入る[36]。
すなわち、一極構造下において「武器としてのドル」は、行使しても摩耗しない資産に近かった。しかし覇権が相対化する過渡期においては、行使するほど代替システムへの移行を促し、自らの権力基盤を削る消耗資産へと性格を変える。米国が香港自治法の二次制裁を発動しなかったのは、単なる技術的な配慮ではなく、この構造的制約に規定された選択であったとみるべきである。極端な選択肢としては、香港の外貨準備を凍結して米ドル・ペッグ制(カレンシーボード制)を崩壊させる手段も理論上は存在し、香港科技大学の雷鼎鳴教授が指摘するように、それが実行されればペッグ制の維持は不可能となる[37]。銀行系シンクタンクでチーフエコノミストを務めた後に大学に転じた、国際金融を専門とする経済学者の長谷川克之が、香港自治法によって米国が香港のカレンシーボード制の「生殺与奪を握っている」と評したのは正確であるが[38]、その握力は、行使されないことを前提としてはじめて成立するものであった。
結論として、国際政治の構造が多極化するにつれて、経済制裁は国際規範の執行という建前を失い、大国間の覇権争いの直接的な道具へとその性格を変容させる。そして、対抗勢力が存在する多極構造下では、被制裁国がその圧力を回避・吸収する余地が拡大し、経済制裁の有効性は著しく希薄化するという、本稿の中心命題を本件は明確に裏付けている。さらに、米国の対応は、多極構造に内在する戦略的計算によっても規定されていたと推察される。民主主義や人権の擁護という公的な正当化の裏で、米国にとって香港は、ライバル国である中国との全面的な衝突のリスクを冒してまで守るべき死活的な国益とは見なされていなかった可能性がある。それゆえ、一連の制裁は、非難の意思表示とコストの賦課を目的としつつも、システム全体を揺るがしかねない決定的な対立は回避するという、計算された抑制的な措置であったと解釈することも可能であろう。2026年に至り、香港の統治状況が何ら改善しないまま、制裁が対中経済交渉の取引材料として巻き取られたことは、この解釈の妥当性と、本稿の中心命題の帰結とを、最も端的に示すものである[39]。
[1] 羽田野主、木原雄士「香港国家安全法案を可決 中国「一国二制度」骨抜き」『日本経済新聞』2020年6月30日。
[2] United States Congress, Public Law 116-149: Hong Kong Autonomy Act, approved July 14, 2020, https://www.govinfo.gov/app/details/PLAW-116publ149 (accessed August 16, 2025).
[3] United States, Executive Office of the President, Executive Order 13936 of July 14, 2020: The President's Executive Order on Hong Kong Normalization, Federal Register, vol. 85, no. 138 (July 17, 2020), 43413–43425, https://www.federalregister.gov/documents/2020/07/17/2020-15646/the-presidents-executive-order-on-hong-kong-normalization (accessed August 16, 2025).
[4] 中村亮「米で香港自治法が成立 中国の金融機関制裁が可能に」『日本経済新聞』2020年7月15日。
[5] 倉田徹「『香港国家安全維持法』の制定と大規模な弾圧」『アジア動向年報 2021年版』(アジア経済研究所、2021年)140-141頁。
[6] 瀬川奈都子「強まる米安保規制 買収や調達、制裁対象の見極め難しく」『日本経済新聞』2021年9月1日。
[7] Dominic Raab, statement in Parliament, July 20, 2020: “The UK will extend to Hong Kong the arms embargo that we have applied to mainland China since 1989. […] the UK will suspend our extradition treaty with Hong Kong indefinitely,” UK Government, https://www.gov.uk/government/speeches/hong-kong-and-china-foreign-secretarys-statement-in-parliament (accessed August 16, 2025).
[8] 倉田「『香港国家安全維持法』の制定と大規模な弾圧」140頁。
[9] Council of the European Union, Council Conclusions on Hong Kong, Presse 520, Brussels, July 24, 2020, https://www.consilium.europa.eu/media/45222/council-conclusions-on-hong-kong.pdf (accessed August 16, 2025).
[10] 西村博之「米、もろ刃の金融制裁乱発 中国狙い撃ちでドル離れも」『日本経済新聞』2020年8月20日。
[11] 永沢毅「香港長官ら「自治侵害」関与 米国務省が認定」『日本経済新聞』2020年10月15日。
[12] 木原雄士「米、香港の自治侵害リストに24人追加 中国けん制」『日本経済新聞』2021年3月17日。
[13] 木原雄士「香港紙葬った銀行の深謀 「自由なき金融」に傾斜」『日本経済新聞』2021年7月15日。
[14] 羽田野主「中国が報復制裁方針を表明 米の香港自治法成立に反発」『日本経済新聞』2020年7月15日。
[15] 木原「香港紙葬った銀行の深謀」。
[16] 「米、香港の優遇措置再開 トランプ氏が1期目に停止」『日本経済新聞(共同通信)』2026年7月18日。
[17] 杉田弘毅「香港『金融制裁』で激化する『ファイブアイズ』vs.『一帯一路』経済圏攻防」『Foresight』2020年7月31日、https://www.fsight.jp/articles/-/47155(2025年8月16日アクセス)。杉田弘毅(1957年生まれ)は共同通信社の国際報道記者・論説人。一橋大学法学部卒業後、1980年に共同通信社に入社し、ソ連崩壊や湾岸戦争を取材した後、テヘラン支局長、ニューヨーク特派員、ワシントン特派員、ワシントン支局長、編集委員室長、論説委員長を歴任し、特別編集委員を務めた。専門は米国政治・外交及び中東で、2021年度日本記者クラブ賞を受賞している。米国の経済制裁を正面から論じた著作として、杉田弘毅『アメリカの制裁外交』(岩波新書、2020年)がある。
[18] 「米香港自治法 識者に聞く 「米中双方から挟み撃ち」」『日本経済新聞』2020年7月15日(野村総合研究所・木内登英エグゼクティブ・エコノミストへのインタビュー、聞き手は志賀優一)。木内登英(1963年生まれ)はマクロ経済・金融政策を専門とするエコノミスト。早稲田大学政治経済学部を卒業後、1987年に野村総合研究所に入社し、フランクフルト及びニューヨークで欧米経済の分析を担当した。2004年に野村證券へ転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストに就任。2012年から2017年まで内閣の任命により日本銀行政策委員会の審議委員を務め、2017年7月より野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト。著書に『異次元緩和の真実』(日本経済新聞出版社、2017年)、『トランプ貿易戦争』(日本経済新聞出版社、2019年)等がある。
[19] 西村「米、もろ刃の金融制裁乱発」。
[20] 木原雄士「香港の金融機関、米中両にらみ 国家安全法施行1カ月」『日本経済新聞』2020年7月29日。
[21] 木原「香港紙葬った銀行の深謀」。同記事は法律事務所ステプトウ・アンド・ジョンソンのニコラス・ターナーの見解を引く。
[22] 木原雄士「香港銀、米中の板挟みに 金融制裁でリスク回避」『日本経済新聞』2020年9月17日、及び木原「香港紙葬った銀行の深謀」。
[23] 木原「香港の金融機関、米中両にらみ」。
[24] 木原「香港紙葬った銀行の深謀」。
[25] 瀬川「強まる米安保規制」。
[26] 木原「香港の金融機関、米中両にらみ」。
[27] 川上尚志、木原雄士「香港不動産、急ブレーキ コロナに国安法が追い打ち」『日本経済新聞』2020年7月15日。
[28] 木原雄士「中国、不良債権問題が再燃 4大銀行の残高1.6兆円増」『日本経済新聞』2020年9月2日。
[29] 木原雄士「〈回顧2020〉香港、奪われた一国二制度」『日本経済新聞』2020年12月28日。
[30] 伊原健作「香港、民主派新聞創業者の審理再開 米中の火種に」『日本経済新聞』2024年11月20日、及び同「香港民主派新聞創業者、「外国と結託」巡り裁判で攻防」『日本経済新聞』2024年12月2日。
[31] 日経「米、香港の優遇措置再開」。
[32] 野口哲也「国際政治理論からみた香港『一国二制度』の理論的限界」(日本大学大学院総合社会情報研究科修士論文、2018年)14-15頁。本稿でいう「セキュリティホール」とは、中国が、香港の自由な言論空間や民主制度を通じて、外部勢力が中国本土の政治体制に影響を及ぼすことを警戒している点を指す。
[33] 倉田「『香港国家安全維持法』の制定と大規模な弾圧」139頁。
[34] 西村「米、もろ刃の金融制裁乱発」。
[35] 西村「米、もろ刃の金融制裁乱発」。
[36] 長谷川克之「人民元の地位向上で動揺も ドル基軸通貨体制の行方」『日本経済新聞』2023年5月23日(「経済教室」欄)。長谷川克之(1964年生まれ)は国際金融を専門とする経済学者。1988年に上智大学法学部を卒業して日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行し、国際金融調査部、ロンドン支店、調査部を経てみずほ総合研究所に出向、市場調査部長、副本部長、チーフエコノミスト等を歴任した。1997年ロンドン大学経営大学院(LBS)修了。2022年に東京女子大学特任教授、2024年4月より同大学教授。国際通貨制度、国際金融市場、国際金融センター等を研究対象とし、共著に『ソブリン・クライシス』『激震 原油安経済』(いずれも日本経済新聞出版社)等がある。
[37] 木原雄士「香港ドル売りが加速 カイル・バス氏「ペッグ制保てず」」『日本経済新聞』2022年7月19日。
[38] 長谷川「人民元の地位向上で動揺も」。
[39] 日経「米、香港の優遇措置再開」。
