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【第69話】嵐のように去っていく

前回の続き。。 ※不具合にて再アップしました

いきなり俺のアパートに押しかけてきたゴップ。

よく考えてみれば、今日が俺たちにとって初めての”二人きり”の時間だった。

そして俺たちは、いわゆる一線を越えた。

古い言い回しだが、それ以上の表現が見つからない。何しろ、ほんの数時間前までは、仲の良い飲み仲間程度の距離感だったのだから。

ベッドに横になり、ゴップを腕枕しながら、しばらく余韻にひたっていた。エアコンの効いた部屋の静けさの中、彼女の息づかいが規則正しく響いてくる── そんなひとときに、どこか夢のような気分さえあった。

だが突然、ゴップが何かを思い出したようにバッと上体を起こすと、やや急ぎ気味の口調で言った。

「俺チャン、もうバイトに行かなきゃ…」

俺の反応を待つ間もなく、ゴップはそのままシャワールームに入っていった。

【俺脳内】
えっ?帰るの?いきなり来て、いきなり帰るの?さっきの展開に満足はしている。いや、むしろ最高だった。でもこれは、いったい何だったんだ?
「急に会いたくなったから」って言ってたけど、俺が部屋に居なかったらどうしてたんだ?いや、そもそも、今日は初めての二人きりだろ? いきなり押しかけてきて、流れるように一線を越えて……で、もうバイトって……。展開が早すぎて、ついていけねえって。まあでも、先輩からもらったオカモトうすうすが活躍したし……俺としては大満足……。それにしても、ゴップは着てても凄いけど脱いだらもっと凄いな…。これから、俺たちは正式な恋人になるんだろうか?でも……K美がタイに来るのは、そう遠くない未来。いやいや、それでも今は、これでいいんだ。今を全力で楽しむ。それが俺のスタンス。……できれば今日は、バイト休んでくれたら良かったんだけどな。それにしてもゴップ、どんだけ積極的なんだよ……。

思考があっちこっち飛び交う中、シャワーを終えたゴップが髪を整えながら部屋に戻ってきた。そして何も言わずに、スルリとバイトのユニフォームに袖を通す。

さっきまでの体温が嘘みたいに、もう仕事モード。

それでも、ユニフォーム姿のまま俺の横にちょこんと腰掛けるあたりに、ほんの少しだけ名残惜しさを感じた。

「もう行っちゃうの?寂しいな」

俺がそう言うと、ゴップは視線を落とし、言葉を飲み込んだように黙ったまま。

その仕草はまるで、言いたいことがあるのに言い出せずにいる── そんな子供のようだった。

モジモジとした沈黙が十数秒。

(ま、まさかこの流れは、順番が逆だけど… 告白か!?)

ドキドキしながら見守っていると、ゴップがぽつりと口を開いた。


「ねぇ、俺チャン…… お金、貸して欲しいんだ」


……あっ、そっち…… カネか……。

急に現実に引き戻される感覚。

初めて身体の関係を持った興奮も、冷静になってみれば、こういうことが起こるのがタイでは普通なのかもしれない。

ジェーンとの付き合いで感覚が麻痺してたのかもしれないが、やっぱりこれが本来のスタイルなのかもな、と思う。

「いくら必要なの?」

「……2,000バーツ」

思ってたよりも、妙に具体的でリアルな金額。

「あげるんじゃなくて、貸すの?」

「うん……」

「オーケー。わかった」

俺の返事に、彼女は安心したように笑った。

「俺チャン…… 絶対に返すからね…」

ゴップは小さな声でそう言いながらお金を受け取り、ソファーに置いていたスカジャンを肩を羽織ると、名残惜しそうに一度だけこちらを見て、ドアを開ける。

「俺チャン、その”サーイシン”汚れてるよ?もう外したら?」

「あ、これ? (これは…)」

俺の次の言葉を待つことなく、ゴップはバイト先となるトンクルアンへ向かうため、足早に部屋を出ていった。

その背中が見えなくなってから、ようやく俺は息をついた。

── 行っちゃった、か。

嵐のようにやってきて、嵐のように去っていく。その間に起きたすべてが夢みたいで、現実味に欠けるほどだった。

でも、冷静になって振り返れば──

俺たちの関係を何も知らない第三者がこの一幕だけを見たとしたら、どう映るだろうか。

”押しかけHの強制費用回収事件”

そんなタイトルをつけられてもおかしくない。きっと誰かに話せば、軽い笑い話として扱われて終わるのだろう。

だけど、俺の中では、もう少しだけ違った意味を持っていた。

(このサーイシン…気にしてるのかな….)

この先、ゴップとはどういう付き合いになるんだろうか?

俺はその答えが出ないまま、まだ温もりの残るベッドにぼんやりと横たわっていた──。

どこか寂し気な表情のゴップ

▶️【第70話】次の目的地も紙の中 -Gダイアリーに導かれて- に、続く。


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