「一人でどれだけ売上を生み出せるか」で職業を見る――商社、M&A、人材紹介、SAPコンサルの違い ※夏季休業中の投稿
仕事の価値を測る方法はいくつもある。
年収。
役職。
学歴。
資格。
会社の知名度。
しかし最近、私は別の尺度が面白いと思うようになった。
「一人の人間が、年間でどの程度の売上を生み出せる仕事なのか」
という尺度である。
もちろん、この尺度だけで人間の価値や仕事の重要性を測ることはできない。
医師、教師、研究者、公務員など、社会的価値が大きくても売上高では測りにくい仕事はたくさんある。
それでも、民間企業の仕事を考えるうえで、
一人の労働者が、どの程度の経済活動を動かしているのか
を見ることには意味がある。
調べてみると、職業によってその構造は驚くほど違う。
商社マンは、なぜ何十億円もの売上を動かせるのか
一人あたりの「売上高」が最も大きくなりやすい職業の一つが、商社である。
鉄鋼。
化学品。
エネルギー。
食品。
機械。
原材料。
こうした商材では、一人の担当者が年間数十億円、場合によっては100億円を超える商流に関与することも珍しくない。
例えば、
100億円の商品を仕入れ、
102億円で販売する。
売上高だけを見れば102億円である。
しかし、この仕事によって本当に生み出された付加価値は、単純化すれば2億円程度になる。
ここに商社ビジネスの特徴がある。
売上高は巨大だが、売上高の大部分は商品の仕入価格である。
さらに、その100億円の商流を担当者一人が裸一貫で生み出したわけでもない。
会社には、
信用力
資金調達能力
物流インフラ
海外拠点
既存顧客
仕入先との関係
長年蓄積された商権
が存在する。
したがって、
「一人で100億円を売ったから、年間2,000万円を売る専門職の50倍優秀である」
とはならない。
商社では、
本人の能力 × 会社の巨大なインフラ
によって大きな商流が動いているのである。
投資銀行やM&Aは「一件」の売上が巨大
次に、一人あたりの売上高が非常に大きくなりやすいのがM&A関連の仕事である。
企業買収では、
100億円。
1,000億円。
場合によっては兆円規模。
という金額が動く。
もちろん、アドバイザーがその金額そのものを売上として受け取るわけではない。
しかし案件規模が大きいため、成功報酬やアドバイザリーフィーも大きくなる。
一件で、
数千万円。
大型案件なら1億円以上。
という売上が発生することもある。
年間に数件の大型案件を成立させれば、一人あるいは小さなチームで億円単位の売上を生むことができる。
これは、
「時間を売る仕事」ではなく、「成立した取引の価値に対して報酬を得る仕事」
だからできる。
ただし、ここでも会社の力は大きい。
大型M&A案件を任せてもらえるのは、
会社のブランド
過去の実績
経営者とのネットワーク
金融機関との関係
海外ネットワーク
があるからでもある。
したがってM&Aの売上高にも、
個人能力と組織能力
が混ざっている。
ヘッドハンターも、一人あたり売上高がかなり高い
意外に一人あたりの売上高が高いのが、人材紹介である。
例えば年収800万円の人材を企業へ紹介し、成功報酬が年収の35%なら、
800万円 × 35% = 280万円
になる。
一人の転職を成立させるだけで、約300万円の売上になる。
年間10人なら約3,000万円。
年間20人なら約6,000万円。
年間30人なら約9,000万円。
トップクラスになれば、億円に近い売上を作ることも理論上は可能である。
この仕事の特徴は、
会社の設備ではなく、人間関係構築能力そのものがかなり直接的に売上になる
ことである。
企業から求人を預かる。
候補者を探す。
候補者の話を聞く。
その人の強みを理解する。
企業へ推薦する。
面接を調整する。
双方の不安を解消する。
条件交渉を行う。
入社までフォローする。
つまり、
信頼 → 情報 → マッチング → 成約 → 売上
という構造である。
工場も、大規模設備も必要ない。
優秀な人ほど、
「この人に相談したい」
という個人的な信用を蓄積できる。
その意味では、人的資本が非常に強く売上へ反映される仕事である。
ただし、ヘッドハンターには大きな弱点もある
一方、人材紹介は景気に左右されやすい。
企業が採用を止めれば、求人がなくなる。
転職希望者がいても、
採用する企業がなければ売上にならない。
特に景気後退局面では、
採用凍結
採用人数削減
求人取り下げ
が起こる。
つまり、本人がどれほど優秀でも、市場そのものが縮小すると売上を維持しにくい。
さらに、一人のエージェントが扱える候補者数にも限界がある。
面談。
企業との打ち合わせ。
推薦。
面接フォロー。
条件調整。
これらには時間が必要だからだ。
トッププレイヤーでも、
自分一人の時間を使う限り、どこかで売上の上限にぶつかる。
そこで次の段階が、
マネージャーになること
である。
自分が年間5,000万円売るだけではなく、
10人のメンバーの生産性をそれぞれ500万円高めることができれば、
組織全体では追加5,000万円の売上になる。
ここで初めて、
自分の能力を他人へレバレッジする
ことができる。
SAPコンサルタントは「高単価だがスケールしにくい」
SAPのような高度ITコンサルタントも、一人あたり売上高はかなり高い。
例えば月額単価180万円なら、
180万円 × 12か月 = 2,160万円
である。
シニア層なら200万円を超える案件もある。
したがって、一人のコンサルタントが年間2,000万円前後の売上を生むことは十分あり得る。
しかも、この売上は商社とはかなり性質が違う。
SAPコンサルタントが売っているのは、
商品ではない。
工場でもない。
資本でもない。
本人の知識と経験そのもの
である。
会計。
生産管理。
購買。
販売。
原価計算。
システム設計。
プロジェクトマネジメント。
こうした知識を顧客企業へ提供する。
したがって、売上高のかなり大きな部分が人的資本に帰属する。
しかし最大の問題は、
一人の人間には一か月しかない
ということである。
月200万円のコンサルタントが急に10案件を同時に担当して、
月2,000万円を稼ぐことは難しい。
だからSAPコンサルタントも、ある段階から、
専門家 ↓ アーキテクト ↓ プロジェクトマネージャー ↓ プログラムマネージャー ↓ IT戦略 ↓ IT責任者
へ移っていく。
自分が設定作業をするのではなく、
数十人、数百人の仕事を設計する側
になるのである。
「一人あたり売上高」だけでは公平ではない
ここまで見ると、商社が圧倒的に見える。
商社:数十億~100億円以上の商流
M&A:数千万円~億円単位の手数料
人材紹介:数千万円
SAP:2,000万円前後
しかし、この数字だけで順位をつけるのは明らかにおかしい。
なぜなら、
会社から与えられたレバレッジの量が違う
からである。
商社社員には、
資本
信用
商流
ブランド
物流
海外ネットワーク
がある。
投資銀行にも、
ブランド
顧客ネットワーク
金融機能
過去の案件実績
がある。
SAPコンサルやヘッドハンターでは、これらの比重が相対的に小さい。
つまり、本当に比較したいなら、
「会社の力を除いた後に、本人にどれだけ価値が残るか」
を見る必要がある。
私なら「会社補正後の個人付加価値」で見る
例えば、ある商社社員が年間100億円を担当しているとする。
しかし同じ会社で同じポジションなら、平均的な社員も90億円担当できる。
この場合、
100億円すべてを本人の能力とは評価できない。
重要なのは、
平均90億円のところを100億円にした10億円分
である。
しかも売上ではなく、
粗利
利益
事故削減
在庫削減
新規取引
まで見た方がいい。
同じことは人材紹介にも言える。
平均的なエージェントが年間10人の転職を成立させる会社で、
ある人が20人を継続的に成立させているなら、
同じブランド、同じシステム、同じ市場環境でも約2倍の成果
を出していることになる。
これは個人能力としてかなり評価しやすい。
SAPも同じである。
同じプロジェクトに、
普通のコンサルタントと、
非常に優秀なコンサルタントがいる。
どちらも月200万円で請求されていても、
片方は言われた設定をする。
もう片方は、
設計ミスを発見する。
部門間の矛盾を解消する。
海外拠点との合意形成を進める。
数千万円規模の手戻りを防ぐ。
この場合、
請求単価だけでは二人の価値は測れない。
本当にスケールするのは「人を動かす側」
ここまで考えると、一つの共通点が見えてくる。
高度専門職も、高度営業職も、
プレイヤーである限り、本人の時間がボトルネックになる。
だからトッププレイヤーは、どこかで次のステージへ進む。
ヘッドハンターなら、
プレイヤー
↓ チームリーダー
↓ マネージャー
↓ 事業責任者
SAPなら、
コンサルタント
↓ アーキテクト
↓ PM
↓ プログラムマネージャー
↓ IT戦略・CIO
M&Aなら、
案件担当
↓ ディレクター
↓ 顧客責任者
↓ 組織経営
となる。
価値の源泉が、
自分が何をするか
から、
自分がいることで、何人の成果が上がるか
へ変わるのである。
最強なのは「個人能力」と「レバレッジ」の両方を持つ人
私は、一人あたり売上高を調べながら、最終的にはこの結論に至った。
高い売上を扱うことと、
本人が優秀であることは、
同じではない。
巨大企業なら、
平均的な社員でも巨大な商流を担当できることがある。
逆に、
小さな売上しか持たない専門職でも、
会社を辞めた瞬間に価値が消えるわけではない。
本当に強い人材とは、
会社の看板を外しても価値があり、なおかつ組織の力を使ってその価値を拡大できる人
なのではないか。
専門知識だけでもない。
人脈だけでもない。
会社のブランドだけでもない。
Individual Capability × Organizational Leverage
――個人能力と組織レバレッジ。
この二つの掛け算で考えると、職業の見え方はかなり変わる。
年収ランキングや会社ランキングとは違う、
「この人は、どこまで自分自身の力で経済価値を作り、その能力をどこまで拡張できるのか」
という尺度である。
私は、こちらの方が「仕事ができる人」を考えるうえで、ずっと面白い尺度だと思う。
なお、ここから導かれる示唆は、「高学歴無能は、自分で売上高をつくらなくても良い間接部門や、インフラ系企業がオススメ、ヘッドハンターやコンサルティング、外資系金融は不向き」となる。
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