品川は「駅」から「面」へ動き始めた――では、リニアが来る橋本(神奈川県)はどうするのか
東京の南側で、かなり興味深い都市戦略が動き始めている。
JR東日本の**「広域品川圏(Greater Shinagawa)」**である。
名前だけを見ると、品川駅周辺の巨大再開発のように思える。
しかし、調べてみると少し違った。
対象になっているのは品川駅だけではない。
浜松町、田町、高輪ゲートウェイ、品川、大井町。
JR東日本は、この5駅にまたがるエリアを一つの「広域品川圏」として捉えている。
2026年3月28日には、TAKANAWA GATEWAY CITYのグランドオープンとOIMACHI TRACKSのまちびらきを契機に、この広域品川圏の取り組みを本格始動させた。JR東日本自身が、従来の駅を中心とした開発を「点」としてではなく、開発が連鎖するエリア全体として捉える考え方を明確にしている。
私は、この「点ではなく面で考える」という発想が面白いと思った。
そして、そこで思い浮かんだのが神奈川県相模原市の橋本だった。
品川は、一つの駅前に全部を詰め込んでいない
Greater Shinagawaを見ると、大規模開発の中身も駅によって違う。
高輪ゲートウェイには、オフィス、商業、ホテル、文化施設、研究・交流機能などを備えたTAKANAWA GATEWAY CITYがある。
大井町では、約3ヘクタールの旧社宅跡地を活用したOIMACHI TRACKSが2026年3月にまちびらきした。
浜松町にはWATERS takeshibaがある。
それぞれが独立した再開発でありながら、JR東日本はそれを5駅にまたがる一つのエリアとして扱っている。
さらに、街を結ぶものは線路だけではない。
JR東日本はSuicaを広域品川圏における「イノベーション・デジタル基盤」と位置づけ、モビリティやエリアサービスまで含めた連携を進めている。2027年春には5駅でウォークスルー改札の実証も予定している。
つまり、
駅を造る。
駅前にビルを造る。
それで終わり。
ではない。
複数の駅、複数の街、鉄道、不動産、デジタルサービスを横につなぎ、一つの都市圏として価値を高めようとしている。
JR東日本は、このエリアについてグループ保有ビル床面積約150万平方メートル、年間営業収益1,000億円超という規模を示している。
もちろん、橋本とは規模も条件も全く違う。
しかし、学べる考え方はあると思う。
では、橋本はどうするのか
橋本にも巨大な変化が迫っている。
リニア中央新幹線の神奈川県駅(仮称)が建設中だ。
JR横浜線。
JR相模線。
京王相模原線。
そして将来のリニア。
交通結節点としての橋本の重要性は、今後大きく変わる。
ただし、ここで一つ注意しなければならない。
橋本について、
「リニアが来るらしい。だったら駅前をどう開発しようか」
という段階だと思って話を始めるのは間違いである。
橋本駅南口のまちづくりは、すでにかなり具体的に動いている。
橋本では既に13.7ヘクタールのまちづくりが始まっている
橋本駅南口では、UR都市機構が施行する約13.7ヘクタールの土地区画整理事業が進んでいる。
2025年9月25日には国土交通大臣から事業計画の認可を受けた。
これは単なる構想図ではない。
URが正式な施行者となり、道路や交通広場などの公共施設整備と土地利用転換を一体的に進める事業段階に入っている。
URは、この事業について、
駅と街区が融合した「駅まち一体のまちづくり」
を目指すとしている。
相模原市も橋本駅周辺を、
広域交流拠点
産業交流拠点
イノベーション拠点
として育てようとしている。
南口には商業・業務・住宅などの複合都市機能だけではなく、ものづくり産業交流の機能も想定されている。
市の土地利用方針には、展示場、会議室、インキュベーション、産学連携窓口などまで例示されている。
つまり、
「橋本駅前に産業機能を持たせたらどうか」
というのも新しい提案ではない。
すでに市は考えている。
ここを知らずに橋本の未来を語れば、確かに表面的な議論になってしまう。
京王橋本駅も変わろうとしている
さらに京王電鉄も動いている。
京王グループの中期経営計画「HIRAKU2030」では、橋本を重点的なまちづくりエリアとして位置づけている。
そして橋本駅について、
リニア開業と周辺まちづくりに先行し、駅移設計画を具体化して工事に着手する
方針を掲げている。
ただし、駅の具体的な位置や完成時期まで全て確定したという意味ではない。
ここも重要だと思う。
大きな方向は決まっている。しかし、街の細部はまだこれから決まる。
その途中に、今の橋本はいる。
2026年夏の今も、都市計画は動いている
さらに直近では、2026年7月14日から28日まで、リニア駅周辺地区の地区計画原案が縦覧され、意見書の受付が8月4日に終了したばかりである。
つまり橋本は、
完成した街を眺めている段階
でも、
何も決まっていない白紙の段階
でもない。
私はここが非常に重要だと思う。
基盤整備は既に動いている。
しかし、その巨大な投資からどこまで広い経済効果を生み出せるかは、まだ考える余地がある。
というタイミングなのである。
小さな「共創」の実験も既にある
橋本駅南口には、もう一つ興味深い施設がある。
JR東海が2024年3月25日に開設したFUN+TECH LABOだ。
延床面積は約351平方メートル。
巨大施設ではない。
7室のレンタルオフィスや交流スペースなどを備え、企業、大学、行政などが新しい技術やサービスを実証・共創するための場所として使われている。
私はむしろ、この「小ささ」が面白いと思う。
いきなり巨大なイノベーションセンターを建設するのではなく、
まず人と技術を集めて試してみる。
橋本では、その種も既に蒔かれている。
だから私は「橋本に何か造ろう」と言いたいわけではない
ここまで調べて、私の問題意識は少し変わった。
当初なら、
「リニアが来るのだから、橋本にもっと産業拠点を造るべきではないか」
と考えたかもしれない。
しかし、現状を調べれば、その言い方は違う。
13.7ヘクタールの土地区画整理は既に動いている。
リニア駅は建設中だ。
京王も駅移設を具体化している。
相模原市も産業交流・イノベーション機能を計画に入れている。
FUN+TECH LABOという共創拠点も既にある。
だったら、次に考えるべき問いは、
「橋本駅前に何を造るか」
だけではないのではないか。
Greater Shinagawaから学びたいのは「巨大開発」ではない
ここで、最初の品川の話に戻る。
橋本でTAKANAWA GATEWAY CITYのような巨大開発を造ればよい、と言いたいのではない。
品川と橋本では条件が違いすぎる。
Greater Shinagawaでは、JR東日本自身が鉄道に加えて大量の土地や不動産資産を持つ。
一方の橋本では、
JR東海。
JR東日本。
京王電鉄。
相模原市。
神奈川県。
UR。
民間企業。
大学。
地権者。
多くの主体が関わる。
一社が全体を垂直統合するモデルにはなりにくい。
しかし私は、それを弱点だけだとは思わない。
むしろ、
品川が「統合型」の面なら、橋本は「共創型」の面をつくれるのではないか。
行政、鉄道会社、企業、大学が、それぞれ既に持っている資産をつなぐ。
そういう別のモデルがあり得る。
「13.7ヘクタール」の外まで考えられないか
ここで私が一番考えたいのは、この点である。
橋本南口13.7ヘクタールの開発は重要だ。
しかし、その経済効果を13.7ヘクタールの中だけで完結させる必要はない。
例えば、
橋本で企業同士が出会う。
そこから近隣の製造企業へ行く。
大学の研究者と共同研究する。
少し離れた別の街のR&D拠点へ移動する。
さらに別の交通結節点で、半導体や電子技術の企業とつながる。
こうしたネットワークができれば、橋本の価値は、
「駅前に何平方メートルのビルが建ったか」
だけでは測れなくなる。
Greater Shinagawaが複数駅を「面」として考えているなら、
橋本でも、
駅前開発の効果を、沿線の産業・大学・研究拠点へ広げる
という発想があってよいのではないか。
仮に「Greater Hashimoto」と考えてみる
これは正式な政策名ではない。
あくまで、考え方を整理するための言葉遊びである。
仮にGreater Hashimotoと呼んでみる。
ただし、それは橋本の周囲に巨大ビル群を建設するという意味ではない。
私が考えたいのは、
橋本を起点に、既に存在する企業、大学、研究開発拠点を一つの経済圏として見る
ことである。
品川が、
鉄道+不動産+デジタル+都市サービス
による「面」なら、
橋本は、
交通+製造業+大学+研究開発+共創
による「面」にできないだろうか。
しかし、本当に橋本の周りにそんな産業があるのか
ここまで書くと、一つ当然の疑問が出てくる。
そもそも橋本の周りに、つなぐ価値のある企業や研究機関が本当にあるのか。
なければ、ここまでの話は机上の空論である。
そこで私は、まず相模原市内の企業を調べてみることにした。
相模原というと、
東京や横浜へ通勤する大きな住宅都市
というイメージが強いかもしれない。
ところが調べてみると、かなり違う景色が見えてきた。
宇宙。
電池。
ロボット。
FA。
精密加工。
高度な製造業が存在する。
そして、さらに横浜線を進むと大学があり、その先には別の産業集積がある。
ただし、それは次回以降、一つずつ確認していきたい。
最初から「壮大な回廊構想ありき」で話を進めるつもりはない。
まず何が既にあるのかを調べる。
その上で、
何がつながっていないのかを考える。
そして最後に、
つなぐ価値が本当にあるのかを検証する。
品川は「点」から「面」へ動き始めた。
橋本でも既に、大きなまちづくりが始まっている。
では、その効果を駅前だけで終わらせず、もっと広い地域へ波及させることはできるのだろうか。
この問いを、この連載で追いかけてみたい。
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