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The Tinyco Skankers #01 「超絶まずいカレーと、バンド結成の話」


「まずい。」その一言から、僕らのバンドは始まった。 とてつもなくまずいカレーが、口コミでバズった話をしよう。 ……でも、その前に自己紹介をしておかないといけないね。 僕の名前は Benny。 ちっぽけだけど最高の仲間たちと The Tinyco Skankers というスカバンドをやっている。 一応リーダーということになっていて、担当はトランペット。 好きなものは、コーヒーとカレー。 一見まったく関係がなさそうだけど、実は音楽もコーヒーもカレーも、とてもよく似ている。 リズム、香り、余韻、そして個性。 少し配合が変わるだけで、まるで違う世界が生まれる。 昼間は喫茶店で、自家焙煎のコーヒーと、自分で何年も研究して作り上げたスパイスカレーを出している。 オープンしてからずっと、提供しているカレーはたったの二種類。 自分では納得のいく味だった。 ……もっとも、こだわり過ぎたせいか、お客さんのほとんどは常連さん。 流行る気配はまったくない。でも、それでいいと思っていた。 あの日までは。


今から10年前。 「もう一つ、新しいカレーを作ろう。」 そう思い立ち、半年かけて試作を繰り返した。 完成したのは、10種類のハーブを使った、今までにないスパイスカレー。 香りは複雑。後味は独特。 自信は……あった。


記念すべき最初の一皿を食べたのが、一人の常連客だった。 名前は Raf。後に、僕らのドラマーになる男だ。 彼は毎週火曜日と金曜日、必ず店にやって来る。 二種類のカレーを交互に注文し、黙って食べて帰る。無口。物静か。 笑ったところも、誰かと話しているところも、一度も見たことがなかった。 その日も、新メニューをじっと見つめ、少しだけ考え、 静かにハーブカレーを指差した。 僕は少し緊張しながら見守っていた。 一口。二口。三口。 表情は変わらない。そして最後まで食べ終えた。 僕は心の中でガッツポーズをした。


その瞬間だった。彼が、人生で初めて口を開いた。 「まずい。」 ……。 え? それだけ? 僕の半年が、その一言で終わった。 もちろん、気を取り直して他の常連さんにも食べてもらった。 結果は……全員、大不評。 「これは失敗だな。」そう思って、新メニューを引っ込めることまで考えていた。


一週間後。 いつものように愛車で店へ向かうと、何かがおかしい。 開店30分前。店の前には20人ほどの行列ができていた。 「何かイベントでもあるんですか?」 そう聞くと、全員が口をそろえて言った。 「ハーブカレーを食べに来ました。」意味が分からない。 店を開けても、お客さんは全員ハーブカレーを注文する。 翌日も。その翌日も。何故かハーブカレーばかり。 何が起きているのか、本当に分からなかった。 そして二週間後。ようやく理由が判明する。 「超マニアックで、理解不能なくらいまずいカレーがある。」 そんな口コミが、じわじわと広がっていたらしい。 「一度は食べるべき。」 「人生で経験してほしい。」 「ここまでまずいのは逆に芸術。」 そんな評価まで付いていた。 そして、その口コミの発信源は…… 最初の一口で「まずい。」と言った、あのRafだったのだ。 後から知ったことだけど、 Rafは昔、海外で人気バンドのドラマーだったらしい。 そういえば、カレーを待つ間、彼はいつも指先でテーブルを叩いていた。 そのリズムは不思議なくらい心地よく、店のBGMと自然に混ざっていた。 あの頃は気づかなかったけれど、彼はずっと音楽の中にいたんだ。 「ありがとう。」 そう伝えたことがきっかけで、少しずつ会話をするようになった。
気づけば一緒に音を鳴らし、 やがて The Tinyco Skankers が生まれた。 今では、あのハーブカレーは店の人気メニューになっている。 だけど、今でもお客さんは食べ終わると笑顔でこう言う。 「本当にまずかったです。」 そして深々と頭を下げて、 「ありがとうございました。」 ……いや、褒められてるのか、けなされてるのか。 10年経った今でも、まだよく分からない。 Rafは勿論、あれ以来ハーブカレーを口にしたことは一度もない。


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