この春、一人飲みデビューしたい人に送る飲酒ハック
春ですね、一人飲みの季節です。他の季節の一人飲みも趣深いものではありますが、「春は一人飲み、ようよう白くなりゆく山際、かけつけのホッピーがめちゃくちゃうまい、さっさと中おかわりを注げ、枝豆はよ出さんかい」と清少納言も書いているように、春という季節は古来より一人飲みに最も適した季節と言われています。
ただ、一人飲みをしたことがない、という人が驚くべきことに一定数いるわけです。その中には、やってみたいけど勇気が出なくて…という人もいるらしいとのこと。入ればいいじゃん、男でも女でも金玉ついてんだろと思う一方で、そういえば、1人でほいほいどこにでも入ってる今となっては考えられないのだけれど、店に入るのに躊躇していた時期が自分にもありました。
というわけで、この春一人飲みデビューをしたい! 私生活はガタガタでも飲酒ライフだけは安定させたい! 約束して飲みに行くような友だちがいない! 酒は好きだけど人間は嫌いだし人間にも嫌われている! という一人飲み初心者に向けてのちょっとした飲酒ハックをつらつらと書いていこうかと思います。
店選び
まずは店選びです。「面構えで選ぶ」という直感に任せた手法もありますが、いかにも一人飲みによさそうな渋い地方の老舗店にいったら店長と常連客から罵倒を浴びせ続けられたり、絶対に美味しくなさそうなファミレス内装ぽい店だったのに、入ってみたらコスパ最高でリピート確定みたいな店もあるし、シックなダイニングバーだと思って入ったら店長と常連客がガチで金賭けて大富豪やってたりするので、必ずしも外観ではわからないところがあります。
そこで、まずは店選びの際に気にしたほうがいい基礎的なポイントを上げていこうかと思います。もちろん、これを守ったからといって必ず当たるわけではなく、鬼ハズレ店に当たることもあります。その場合は、これは人生の修行だと割り切って、諦めてください。
カウンター主体の店を選べ

テーブルがあってももちろんいいです。ただ、基本はカウンターがメインの店を選びましょう。そうしないと、4人席に1人で案内され、周りがわいわい騒いでる中で1人スマホでXを見ながら微笑む怪人となってしまいます。それに耐えられるメンタルを鍛えたいなら別に構いませんが、それは孤力(コリキ)という鍛えれば鍛えるほど周りから浮いてしまうロクでもない力なので、いったん筋トレはやめましょう。
カウンターだからと言って、ビビる必要はありません。スマホをいじりながらだらだら酒を飲んでいる人、文庫本を読みふけっている人、じっと何かに耐えながら時折呻き声を上げて酒を見つめている人もたくさんいます。常時奇声を発しているとかじゃなければ、自由に過ごして構いません(たまに発してる人もいるけどスルーされる)。
テーブルが多すぎる店だと、自分と酒の空間がグループの声と笑いの力で壊されるんですよね。これは単純な物理の問題です。なので、カウンターに年季の入った酒飲みがいるのが見えるかもしれませんが、カウンターメインの店を選びましょう。大丈夫、ほら、怖くない、あれはただ酔っぱらっているだけで、薬とかはやってないから(たぶん)。
小さすぎない

カウンター主体の店を選んだ時点で「広すぎる」ということはほぼないとは思うのですが、小さすぎるとそれはそれで問題が起きる可能性が高いです。まず、入りづらい。小さくても成立してる店って常に人が入っていることが多いので、まず物理的に狭いです。特に体の大きい人なんてのは躊躇してしまいますよね。もしあなたが力士である場合は、土俵にすら上がれない場合があり、不戦敗でカド番ということになります。
また、小さい店の場合、常連比率が異常に高いです。快く迎えてくれる店も多いですが、常連だけのよくわからない話で盛り上がって蚊帳の外ということもけっこう多くなる。いきなり初心者がそこに飛び込んでグルーヴを生み出すことはなかなか大変でしょう。なので、最初はそれなりの広さの店にしておいたほうが無難です。
ただ、そういった小さい店の方が面白い場合は多いので、ある程度広い店で飲酒力を高めたら、軽くチャレンジしてみたらいいと思います。あれ? この店の人ずっと身近な人間のセックスの話ばかりしてつまらないな? と思っても、一見ならさっさと会計して出ていけるので、河岸を変えましょう。
立ち飲みは気軽に行ける

店の選択肢をさらに減らすために、立ち飲みという条件を加えるのは1つの解決手段です。立ち飲みの何がいいかというと、基本的には1-2人の客が多いということですね。たまに狭い立ち飲み屋に7人とかのグループで来る人たちもいますが、個人フットサルにチームで来るようなものなので、おとなしく大箱の居酒屋に行くか、侍になって野武士に襲われる村を救ってください。
1人当たりの滞在時間が短いこともいいですね。やはり立ちながら人間そんな長い時間飲んでいるわけにもいかず、基本的には短くなります。滞在時間が短くていいことは、あっ、隣の人合わないな、と思ってもちょっと我慢してれば入れ替わることですね。ただ、世の中には鉄の足腰を持つ人間がおり、4軒立ち飲みを回って5時間飲んでるとかいう狂人超人も存在するので、やはり世界は広いな、と思わざるを得ません。その足腰を立ち飲み以外に使って欲しいものですが、そう上手く物事は回らないのです。
また、立ち飲みは平均的には座り席の店よりも人と人の距離が近い。ある程度他の人との交流を持ちたい人は、立ち飲みのほうが距離を詰めやすいでしょう。時折、立ちのみでヘッドホンして文庫を読んでいるストロングスタイルもいますが、それは故あってこの世に残存している怪異なので無視しましょう。
立ち飲みは流動性が激しい分、人の当たり外れのどちらも大きくなりますが、良くも悪くも接触時間が短く、大怪我には至らないことが多いので、一人飲みチャレンジにはうってつけです。いやになったらさっと帰りましょう。
困ったらバーへ行け

いきなりバーなんてハードルが高い……と思うかもしれませんが、むしろ一人飲みデビューは、普通の居酒屋なんかよりバーの方が断然楽です。特に女性。実は私も1人飲みのデビューはバーでした。その店は明け方の路上で常連のアル中客が馬乗りになってマスターをボコボコにしているのを目撃するなど、後々考えるとかなり特殊なバーでしたが、それはまた別の話。
まず、基本的に少人数が多いです。せいぜい多くて3人、1人客か2人組がほとんどのため、1人でいきなり乗り込んでも浮くことはほぼありません。ただ、それはあなたが服を着ていた場合の話なので、全裸で来店することはお勧めしません。
まともなマスターなら、初めて1人で飲みに来たこと、どういうお酒が好きか、場合によっては懐具合まで言えば、いい感じの酒を提案してくれます。たまに、とにかく「うちはジャパニーズウイスキーでやってますんでねえ!」というツーシーム1本の融通の利かないメキシカン救援投手みたいなバーテンダーがいますが、その場合は諦めてください。
また、客の扱いに慣れています。話したそうな人には話相手になり、放っておいて欲しい人は適度に放っておく。そういう絶妙な距離感を取ってくれるので、居心地がいいことが多いです。他の人と話したそうな人には、他のお客さんとの間に立って話を振ってくれたりもします。時折、ひたすら自分の話をマシンガントークして客の体を宙に浮かせてボコボコにする無限コンボ系マスターもいますが、その場合は諦めてください。
一人飲みにおける立ち振る舞い
さて、店に入った後ですが、基本的にはいきなり割腹自殺をしたりしない限りは、どう振舞っても大丈夫です。ただ、酔った勢いで度を過ぎれば周りから白い目で見られ、最終的には出禁の後、市中引き回しの上獄門に処される可能性もあります。そうならないためにも、基本的な一人飲みの構えを習得する必要があるでしょう。
ただ、これは基本の構えです。店によっては不正解のこともありますので、あくまで1つの目安としてください。また、慣れてきたら、自分独自の構えを習得し、新しい飲酒拳法を編み出してください。
飲め

飲んでください。いや、飲みに来てるんだから当たり前だろ、と思うかもしれませんが、よく見ると飲んでない人多いんですよね。周りとのおしゃべりに夢中になってたり、孤独飲酒スマホマンにこのパターンはありがちです。しかし、飲み屋は一定量酒を飲んでもらうことを前提として成り立っています。店員さんは顔で笑っていても「(頼んで欲しいな~)」と思っていることも多いでしょう。
喫茶店じゃないので、なんとか3-40分に1杯程度は頼みたいところです。もしそのペースで飲めないなら、間にソフトドリンクを挟むか、余計に食べるかしたほうがいいでしょう。そして、もう飲めなくなったら、さっさと帰る。だらだらとその場にいないで店を出るのが、一人飲みの流儀です。これは常連になればなるほどそうなってしまうのですが、今一度自分でも肝に銘じたいですね。
食べろ

食べてください。飲み屋では、食べ物の注文をすることが暗黙の了解となっています。店によっては、1人1品とかルールがあったりもします。ルールがない場合、別に頼まなくても何か言われることはほぼありませんが、店員さんは顔で笑っていても「(頼んで欲しいな~)」と思っていることも多いでしょう。もちろん、バーやドリンクメインの店ではその限りではありません。
2軒目以降でそんなに食べれない場合もあるかと思いますが、その場合でも腹に溜まらないもの(エイヒレとか)を頼むと喜ばしいでしょう。どうしても食べれなければ、食べる分も余計に飲みましょう。すごい勢いで飲んでる人は、「あっ、すごい勢いで飲む人だ」となって、食べ物を注文しなくても何も思われません。ジョブは飲人(のみんちゅ)に変化します。問題は、加速度的に死に近づくことですが、やむを得ないでしょう。
むやみに話しかけるな

飲み屋では自由に振舞っていいというものの、たまたま隣になった人がフルスロットルでがんがん話しかけるのは、高確率で嫌がられます。たまに嫌がらない人もいますが、その場合はたいていその人自身が特級の警戒人物である可能性が高いので、潰し合ってください。
特に異性に対しては気をつけましょう。たとえナンパ目的じゃなくても、初めて会った異性にがんがん話しかけると、相手からも店からも要注意人物としてフラグが立てられます。これは男性から女性に話しかけるのが頭に思い浮かんでるかもしれませんが、女性から男性に話しかける場合ももちろん当てはまります。がんがん話しかけてくる女性に辟易してる男性の姿、けっこう酒場ではよく見ますね。
店によってスタンスも違うし、関西ではまたノリも違うとは思いますが、東京ではこんな感じでしょう。我々は飲み屋でたまたま会っただけの他人で、時と場所が違えば殺し合う運命だったかもしれない、そういう意識を忘れないでいたいですね。
話しかけろ

上記の「話しかけるな」という掟と矛盾しますが、話しかけてください。これはむやみやたらに話しかけろというわけではなくて、タイミングをちゃんと見計らって話題に入ってください、ということです。そうすることで、飲み屋での立場がモブから人に進化します。人に進化すると、扱いが如実に変わります。
もちろん、これは強制ではありません。ひたすら酒を飲みながらスマホを見てダラダラしたい人にとっては、わずらわしいだけでしょう。そういう人には極力話しかけないようにしましょう。ただ、1人飲みをする時の大きな醍醐味の1つとして、「普段話さないような人と話すことができる」というのがあります。もちろん人それぞれのスタンスはありますが、どうしても1人の世界に浸りたいとかでなければ、外に飲みに来ているんだから、人と少し触れあってもいいんじゃないでしょうか。
上記のようにがんがん話しかけると警戒されますが、タイミングをある程度測って控えめに話しに入って行けば、多少見当違いなことを言っても、全然受け入れてもらえます。むしろ、ちょっとズレたこと言った方が、ツッコミどころがあっていいくらいまであります。
どうしてもうまく話に入っていけない! という場合には1つオススメの方法があります。それは、外見に明らかにツッコミどころのあるポイントを作っていくことです。変な日本語メッセージの書いてあるTシャツを着てったり、夜なのにサングラスしてたり、クソ寒いのに短パン履いてたり、おもしろ髪型をしたりしましょう。絶対に我慢できなくて声をかけてくる人がいるので、できるだけ平然としているのがコツです。自分の場合は、かっこいいと思ってやたらとポケットが多いシャツを着ていたら、「ポケット多すぎやろ」と話しかけられて、その人とは今でも飲み屋でよく会って話す仲になってます。
金を払って帰れ

ちゃんと金を払って帰りましょう。話が盛り上がっていたり、酔っぱらってくるときちんとした判断ができなくなりますが、酒をある程度飲んだら会計をして帰りましょう。その際、立ち飲み店とかは現金しか使えないところがけっこうあるので注意してください。
1件目の滞在が短いなら、その後に調子に乗って2軒目、3軒目と回ってしまってもいいと思います。ただ、余力があるうちはいいんですが、店を回れば回るほど酔っていくので、失敗をする確率は加速度的に上がっていきます。ミスった店には顔を出しづらくなり、せっかくの挑戦が苦い記憶にもなりかねません。
そういう失敗も教訓とはなりますが、やらないに越したことがないのは間違いありません。私の統計によると、3軒目以上の店にいくと、だいたいロクなことになりません。酒も腹も八分目を心がけていきましょう。でも飲んじゃうんだよねえ。
一人飲みだけではなく

まだ一人飲みをしたことのない人、これから立ち飲みをしたい人に向けて、長々と飲酒ハックを書いてみました。ここまで書きましたが、すべて読んだ後でまるっとこのおせっかいを忘れても全然かまいません。結局、一人飲みは、やるか、やらないか、です。飲み屋の扉を開けたら、そこは店とあなたの出会いの場ですし、そこでどうするかというのはあなたの自由なわけです。
それならどうして書いたの、と言われれば、店選びや立ち振る舞いについて知識を得ることで、一人飲みの世界に飛び込む後押しになればいいかなと思ったからですね。これは個人的な経験なのですが、上記の超絶入りづらい雰囲気を出してたマスターボコボコバーに勇気を出して入り、一人飲みの世界に飛び込んだことで、私の人生は大きく変わりました。それ以来びっくりするくらい多くの人と知り合い、それに比例して尿酸値は上がりましたが、主にいい方面に変わったんじゃないでしょうか。一人飲みをしたいけど勇気がない、という人がこれを読んで一人飲みをしてくれたら嬉しいですね。
でもこれって一人飲みに限った話じゃないんですよね。人生って、何かを始めないと何も始まらないんです。小泉進次郎構文のような形になってしまいましたが、それがいい年まで生きてきての実感としてあります。いろんなことをやってその都度楽しんだり失敗をしたりしてきたのも、なにかを新しく始めたからこそなんですよね。確かに新しいことを始めるのは勝手もわからないし、精神的な負担があるのもわかります。ただ、待っていても人生は何も与えてくれないんですよね。
春は新しいことを始めるのにいい季節です。編み物でもいいし、ランニングでもいいし、ボルダリングでも、バンド組んでも、物語を作っても、世界同時革命を志してもいいでしょう。合わなかったらさっさとやめちゃっても全然いいんです。何かを始めて、人生の分岐をちょっとずつ増やしていくのは、遠い将来にやらなかった後悔をたくさんするよりは悪くないんじゃないでしょうか。それが一人飲みだったら、この文章を思い出してください。
