もう一つの居場所#49
7月の中旬。
35度を超える。
(暑すぎるやろ……)
営業車の温度計は39度を表示している。
酷暑日の一歩手前。
そんな真夏の中、暑中のご挨拶へと赴く。
そして、行く先々でのランチを楽しむ。

いや、この行く先々でのランチがメインであるともいえる。
(そういうたら、香川から帰ってきてからうどん食べてへんな)
そう思い、訪問先の近くにあったうどん屋さんへ向かう。

(美味しいけど、やっぱ香川はすごいな)
食べ終えて、記憶の美化ではなく、ふとそう思った。
そんな「行く先々ランチ > 仕事」の一日を終え、足早にもう一つの居場所へ向かう。
そう、先週に引き続き【鰻】を楽しみに。
暖簾をくぐり、挨拶をし、いつもの場所に座る。
(……ないやん。うなぎ……ないやん。)
やや……いや、かなり落ち込みながらマスターに聞くと、
「ええのあらへんかったんや」
と返ってくる。
そんな話をしていると、「来週も頼むわ!」と話していた常連さんも来られ、同じように残念そうな表情を浮かべる。
そこへもう一人の常連さんがナイロン袋を手に現れ、
「これ、一緒につまもう」
と言ってマスターに袋を渡した。
中には、その常連さんが漬けた糠漬け。


「いただきます」
そう言って一口。
(うまい……めちゃうまい。)
自分でも糠漬けを漬けているが、こうはならない。
「めちゃくちゃ旨いですね!」
と言うと、
「俺の手の菌がいっぱい入っとるからな」
と返ってくる。
(……いらんこと言わんでええのに。)
そう思いながらも、店中が笑いに包まれる。
他の人が漬けた糠漬けをいただく機会なんて、そうそうない。
茄子もきゅうりも今が旬。
(俺もまだまだレベルアップせなあかんな)
そんなことを思いながら、漬物をつまみ、ビールを飲む。
楽しみにしていた鰻は食べられへんかった。
それでも、誰かが「一緒につまもう」と持ってきてくれた糠漬けのおかげで、その夜は十分満たされた。
目当てのものがなくても、笑い合える人がいる。
だから、この場所には何度でも帰ってきたくなる。
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