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『SとX』第5話・番外編│ 息子と私、性に関わる仕事への偏見。もし母親がセックス系YouTuberだったら?

結論から言うと、性交痛やED、セックスレスなど性に関する悩みを扱う医療や性教育は、誰かを助けるための大切な仕事であっても、「性に関わる」というだけで偏見の目を向けられることがあります。その偏見は、発信する本人だけでなく、家族や恋人など身近な人にまで及ぶこともあります。

本記事では、Netflix『SとX』第6話で描かれた性に関わる仕事への偏見と、性交痛外来専門医である私自身のYouTube発信を支えてくれた息子とのエピソードを通して、医学に基づく性の情報を発信することの必要性と、それを支える人の存在について解説します。


Netflix『SとX』第5話に、個人的にとても胸に刺さる場面がありました。
※ここから第5話のネタバレを含みます。

(第1話からの感想は ↑ から読めます。)


セックスカウンセラー・霜鳥先生のクリニックで働いていた男性看護師。インターネットによって勤務先が知られ、家族からは「そんないかがわしい所で働くのはやめてくれ」と言われ。勤務先を隠していたことを知った恋人からは「私に嘘をついていたのね」と別れを告げられます。

追い詰められた男性看護師は霜鳥先生に辞表を提出しました。

性に関わる仕事をする人が背負うものは、本人への偏見だけではない。その偏見は家族や恋人にまで及ぶことがあります。この場面を見て私は、日本ペインクリニック学会学術集会での研究発表で受けた、ある質問を思い出しました。


性に関わる医療情報を発信する医師にも偏見や誹謗中傷が向けられる

私は富永ペインクリニックで性交痛外来を開設し、YouTubeチャンネル『女医 富永喜代の人には言えない痛み相談室』では、性交痛、ED、セックスレスなどについて発信しています。

誰にも相談できず、正しい医療情報にもたどり着けず、ひとりで痛みや不安を抱えている人に情報を届けるためです。

しかし、動画の中には、アナル、クンニリングス、オナニー、フェラチオ、セックスなど一般の医師がほとんど口にしない言葉も次々と出てきます。

もちろん顔出し、実名です。狭い松山市ですから、身元が知られることは避けられません。発信を始めると「キチガ〇医者」「恥を知れ」「とうとう気が狂った」「〇んでくれ」そんな言葉も容赦なく飛んできました。


当時、日本ペインクリニック学会で、性交痛に関するオンライン医療教育について発表したところ、会場からこんな質問を受けました。

「先生がこの内容をYouTubeで発信して、ご家族には何も言われなかったのですか?」

私にとっては意表を突かれた質問でした。発表内容や医療教育の効果ではなく「家族はどう思っているのか」と聞かれたのです。

私は家族に恥じるようなことをしているつもりは全くありません。正しい性知識が届かず、性交痛やEDに悩みながら誰にも相談できない人がいる。その人たちに医師として情報を届ける。そこには明確な目的があり、私は不退転の覚悟で顔を出していました。

だから、医療従事者からその角度からの質問が飛んできたことに衝撃を受けたのです。


性について発信する母親を高校生の息子が友人に紹介してくれた

今でこそ私のYouTubeチャンネルは登録者数30万人、再生数7800万回に成長しましたが。始めた頃は登録者数は50人にも届かない。動画を公開しても再生数は回らず、「どうすれば100回再生されるのだろう」と真剣に悩んでいました。

そこで、当時高校生だった息子に動画を見せ、どうすれば登録者数が増えると思うか相談しました。息子は動画を見て、

「再生回数100回もいってない。クソ動画だな……。
 初速は大事だしな。頑張ってな。」

と言って、自分の部屋に戻っていきました。自分はやると決めて始めたけれど数字は伸びない。このまま続けて意味があるのだろうか。不安しかありませんでした。

ところが翌日から登録者数が少しずつ増え始めました。不思議に思った私は息子に聞きました。

「ねえ、何かした?」
「ああ、声をかけておいた。クラスの友達に登録してもらったよ。うちの母親がYouTubeを始めちゃって登録者が伸びずに困っているから、ちょっと登録してやって、って」

息子が所属していたボート部の友達たちは、私も車で送迎したことのある優しくて気のいい子たちでした。きっと私のドギツいサムネイルを見ながら『富永の母ちゃん、えらいこと始めたよな』と苦笑いしたことでしょう。チャンネル登録をすればYouTubeを開くたびに、友達のお母さんの「セックス」「オナニー」「ED」というサムネイルが出てきます。さぞかしドギマギしたと思います。

それでも、たくさんの高校生たちが登録してくれました。


家族が仕事の意味を理解してくれることは、偏見の中で発信を続ける力になる

息子は「私の仕事を恥ずかしい」と思うこともできました。母親に「やめてくれ」と言うことも、友達に黙っておくこともできました。

けれど、息子は逆に、自分の友達に母親のYouTubeを広めてくれました。友達にお願いできたということは、私がなぜ性について発信しているのか、その仕事の意味を彼なりに理解してくれていたのだと私は勝手に解釈しています。

だから、学会で質問を受けた時、「高校生の息子が同級生に声をかけて登録者を増やしてくれました」と答えることができました。


性に関わる仕事への偏見は情報を必要とする人にも影響する

『SとX』第5話の男性看護師と、私の息子のエピソード。二つの違いは、性に関わる仕事が正しいか間違っているかではありません。その仕事を理解し、支えてくれる人が身近にいたかどうかです。

性交痛もEDもセックスレスも、現実に多くの人が悩んでいる問題です。それにもかかわらず、性に関わるクリニックは「いかがわしい所」と呼ばれ、そこで働く医療従事者まで、後ろめたい仕事をしているかのように見られる。
その偏見によって、本人だけでなく家族や恋人との関係まで壊れてしまうこともある。それは、あまりにも重い『社会的コスト』です。

しかし、医師である私まで性を語ることをやめてしまえば、玉石混合の膨大な性情報の中から、医学に基づく信頼できる情報源の一つが失われます。その結果、性に悩む人たちは信頼できる相談先を失い、個人の経験則に基づく怪しげな情報に惑わされ、時間もお金も浪費させられてしまうでしょう。

だから私は、これからも発信を続けます。


最後に。

高校生だった息子と登録してくれた友達のみんなへ。あの時、君たちが増やしてくれた数十人の登録者がスタートでした。その一人ひとりが、今の30万人につながっています。

さあ、高校生だった君たちも大人になって、当時の動画の意味がいろいろな意味で分かるようになったと思います。

富永の母ちゃんは助けてくれたみんなのことを決して忘れません。愛媛から、君たちの飛躍を心から応援しています。

本当にありがとう。⠀⠀
そして、これからも頑張ってね。


富永喜代
医師・医学博士/ミリオンセラー作家/SNSプロデューサー
愛媛県松山市にて富永ペインクリニックを開業。2万例以上の臨床麻酔経験を持つ日本麻酔科学会認定 麻酔科指導医。EDや性交痛をはじめとするセクシャルウェルネスの診療に注力。
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