【銘柄12項目分析#2】三菱重工業 | 4事業の増益は1,503億円、全社の増益は772億円
決算短信の1ページ目に、こういう数字が並んでいました。
受注高 7兆6,536億円。売上収益 4兆9,741億円。事業利益 4,322億円。当期利益 3,321億円。フリー・キャッシュ・フロー 8,934億円。このうち受注高・事業利益・当期利益・フリーCFの4つが、いずれも過去最高です。受注残高は13兆2,376億円まで積み上がりました。
セグメント別のページに進むと、4つある報告セグメントの事業利益が並んでいます。
エナジー:2,053億円 → 2,672億円(+619億円)
プラント・インフラ:596億円 → 841億円(+244億円)
物流・冷熱・ドライブシステム:204億円 → 330億円(+125億円)
航空・防衛・宇宙:999億円 → 1,515億円(+515億円)
4つとも増益です。 足すと、増えた額は1,503億円。
ところが、同じ表のいちばん下、全社の事業利益の増減欄には +772億円 と書いてあります。
こんにちは、とろろです。三菱重工業(7011)を保有しています。今回はこの会社を、私がいつも使っている12項目のチェックに通しました。結果は○が11個、△が1個、×はゼロ。数字だけ見れば、かなり良好な部類です。
ただ、この記事で書きたいのは11個の○ではなくて、上の1,503と772の差のほうです。
なお、この12項目をChatGPTに読ませて判定する手順は、プロンプトごと1本にまとめてあります。
そもそも、12項目に分解すると何が変わるのか
会社の決算を「良かった/悪かった」で終わらせないために、私は毎回、同じ12個の項目に通しています。3つの層に分かれています。
層1は、企業の足腰。 売上・利益率・自己資本・手元現金。決算短信の1ページ目でほぼ判定できる部分で、ここは機械的にやります。
層2は、成長の実体。 受注残、どのセグメントが牽引しているか、投資をどこに入れているか。ここは1ページ目では絶対に分かりません。セグメント情報の注記まで降りる必要があります。
層3は、外部環境。 国の予算、為替や金利の向き、需要が3年後も続く理由、参入障壁、地政学。

なぜわざわざ分解するのか。理由はひとつで、全社の数字は、増えた理由と減った理由が打ち消し合った"後"の姿しか見せてくれないからです。
今回の三菱重工は、それがそのまま形になっています。4つの事業が全部で1,503億円ぶん増やして、全社では772億円になった。差の732億円ぶんの出来事は、全社の数字だけ見ているかぎり存在しないことになります。
では、ひとつずつ通していきます。
層1:足腰は、すべて○でした
① 売上成長率 → ○
売上収益の3期推移です。

3期のCAGRは+12.1%。直近も加速しています。基準(3期CAGR +10%以上、かつ直近期も前年比プラス)を満たすので○です。
この会社は2025年9月に、連結子会社だった三菱ロジスネクスト(現ロジスネクスト)の資本関係見直しを決めて、同社の事業を非継続事業に分類しています。決算の数字が「その事業を含む/含まない」の2通り存在するということです。

同じ会社の同じ期が、減収に見えます。
会社は「除く」ベースで組み替えた数字を並べているので、資料どおりに読めば間違えません。危ないのは、古い記事やまとめサイトから前期の数字を拾ってきて、最新の数字と並べたときです。基準が混ざった瞬間に、+14%の増収が▲1%の減収に化けます。
なお会社の来期見通しは5兆4,000億円で+8.6%。実績の+14.1%からは減速する計画です。判定は変えませんが、注記として残しておきます。
② 事業利益率 → ○
この会社は「営業利益」ではなく「事業利益」という指標を使っています。IFRSの独自指標で、売上収益から売上原価・販管費・その他の費用を引いて、持分法投資損益とその他の収益を足したものです。

3期を通して改善しています。単年の増減ではなく推移で見るのが基準なので、ここは素直に○。 同業と並べるとこうなります(すべて2026年3月期)。

ただしIHIだけ「営業利益」で、他2社は「事業利益」です。 計算式が違うので、この3つを並べて順位をつけることはできません。水準感を掴むための参考までにしています。

③ 自己資本比率 → ○(ただし、条件つきです)
私の基準は「40%以上、または同業種平均以上」で○です。37.3%は40%に届いていません。
なので後段のほうで判定しています。同業はこうです。

10ポイント以上の差がついているので○にしました。
ここは正直に書いておきます。 私が「同業種平均」と呼んでいるのは、この2社だけです。母数2で平均を名乗るのは、本当は少し乱暴です。それでも○にしたのは、重工の財務構造(工期が長く、大型設備を抱え、前受金で回す)を共有する会社の中で頭ひとつ抜けている、という事実自体は動かないからです。
基準は曲げていませんが、基準の後段に頼っているということは、覚えておいてもらったほうがいいと思います。
④ 手元資金・ランウェイ → ○
この項目は本来、赤字が続いている先行投資型の会社が「あと何年走れるか」を測るためのものです。営業CFが黒字なら、計算せずに○として流します。
営業CF:5,304億円 → 9,426億円
現金及び現金同等物:6,578億円 → 1兆3,348億円
純有利子負債:△8,191億円(借入より現金が多い状態)
機械的には即○です。ただ、ここも素通りしないでおきます。
フリー・キャッシュ・フローが8,934億円(前期比+5,506億円)と大きく増えているのですが、会社自身がその内訳を説明資料に出していて、そこに「前受金 +6,635億円」という項目があります。
前受金は、まだ工事も納品も終わっていない段階で先に受け取っているお金です。売上でも利益でもなく、将来やる仕事に対する預り金。会社は期末の前受金残高を2.2兆円と開示しています。
「営業CFが9,426億円あるから盤石」と読むのと、「そのかなりの部分が、これから仕事をして返していく預り金だ」と読むのとでは、意味がだいぶ違います。④は○のままですが、現金の色は見ておく価値があります。

層1は ①○ ②○ ③○ ④○。×はゼロ。足切りにはかかりません。
ここまでは決算短信の1ページ目と、財務指標の推移表でほぼ判定できます。ここから先が、財務指標だけを見ていると絶対に届かない層です。
自分の持っている銘柄で、同じことをやるなら
この12項目をChatGPTに読ませて判定させる手順を、プロンプトごと1本にまとめています。層2から先が、まさにこの記事で書いていく部分です。
層2:1,503億円と772億円の差を追いました
⑤ 受注残 → ○
重工・防衛・プラントでは、受注残高が先行きを最も正直に示します。
受注高:6兆4,051億円 → 7兆6,536億円(+1兆2,484億円)
売上収益:4兆3,611億円 → 4兆9,741億円
受注残高:10兆2,362億円 → 13兆2,376億円(+3兆0,013億円)
基準は「受注残高が前年比で増加、かつ受注高>売上高」です。受注高7兆6,536億円が売上収益4兆9,741億円を大きく上回っているので○。受注残高13兆2,376億円は売上収益の約2.66年分で、仮に明日から新規受注がゼロになっても2年半ぶんの仕事が手元にある計算です。
セグメント別に見ると、積み上がっている場所がはっきりしています。

エナジーが2兆円ぶん増えています。会社の説明では、大型ガスタービンを35台受注し、GTCC(ガスタービン複合発電)の受注残だけで5兆円を超えたとのこと。
ひとつ注記。 来期の受注高見通しは6兆8,000億円で△11.2%。会社は「GTCCを中心に好調を維持」と説明していますが、数字としては減る前提で計画が置かれています。
⑥ セグメント別の利益構成 → ○(ここが、この記事の本題です)
冒頭の話に戻ります。
会社の決算説明資料には、セグメント別の内訳がこう出ています(単位・億円)。

4つの事業の増益を足すと1,503億円。そこから732億円が引かれて、全社は+772億円になっています。
「その他及び全社又は消去」という1行に、増益の半分近くが吸い込まれている。この1行が何なのかを、もう一段降りて見ます。
決算短信の注記まで降りると、1行が2つに割れる
説明資料では1行ですが、決算短信のセグメント情報の注記では、これが2つに分かれています(単位・百万円)。

検算すると、+150,495 △56,812 △16,430 = +77,253 で、連結の増減とぴったり合います。
つまり732億円の内訳は、「その他」が568億円、「全社又は消去」が164億円です。
(細かい話ですが、こちらの百万円ベースだと4セグメントの増益は1,504.95億円になります。さきほど億円の表を足して出した1,503億円との差は、会社の資料が億円未満を切り捨てて表示しているためです。以下は百万円ベースで進めます)
この2つが何なのかも、短信の注記に書いてあります。
「その他」=報告セグメントに含まれない、データセンター&エネルギーマネジメント事業等の成長分野に関する事業や、アセットビジネス
「全社又は消去」=報告セグメントに含まれない収益・費用。具体的には全社基盤的な研究開発費や、社全体の事業に係る株式からの配当等
「その他」が+300億円から△268億円へ、568億円ぶん悪化している。ここがいちばん大きい。
ここで、危うく間違えかけました

同じ決算説明資料に、事業利益の増減を要因別に分解したページがあります。

この「アセットマネジメント △560億円」には、会社の注記がついています。前期は640億円あった(本牧の土地売却ほか)のが、今期は80億円だった、と。
「その他」の悪化が568億円。アセットマネジメントの下押しが560億円。
数字がほとんど同じです。しかも「その他」の定義にはアセットビジネスが明記されている。ここまで揃うと、「その他が568億円悪化した原因は、前期にあった土地売却益がなくなったからだ」と書きたくなります。私も一度そう書きかけました。
でも、それは書けません。
理由は3つあります。
1つめ。「その他」には、データセンター&エネルギーマネジメント事業等の成長分野も入っています。 アセットビジネスだけの区分ではありません。成長分野に先行してコストを入れていれば、そのぶんも同じ枠でマイナスに出ます。
2つめ。のれん減損300億円(電源システムソリューション)が、どの区分に立ったのかが開示されていません。 これが「その他」に入っていれば、560と568が近いことの意味はまったく変わります。短信・決算説明資料・有価証券報告書のすべてを当たりましたが、どこにも書かれていませんでした。
3つめ。そもそも切り口が違います。 増減分析は「要因別」(為替がいくら、減損がいくら)、セグメント注記は「組織別」(どの事業部門がいくら)。縦と横で切った表を並べて、数字が近いから同じもの、とは言えません。
だから正しい結論は「たぶん土地売却益の反動」ではなく、「732億円の内訳は、開示からは分解できない」です。
数字が一致することと、原因が特定できることは別のことです。検算は通るのに解釈が間違っているという誤り方があって、これは合計が合ってしまうぶん、たちが悪い部類だと思っています。
そのうえで、⑥は○にしました
私の基準では、牽引と足枷が同居している場合、「足枷があっても牽引が明確に上回り、全社が増益」なら○です。4セグメントすべてが増益で、全社も+22%の増益。形式的に基準を満たしています。基準は曲げていません。
ただ、基準を満たすことと安心してよいことは別なので、足枷の性質を1文で書いておきます。
足枷には、一過性のものと構造的なものが混ざっています。 前期の土地売却益が今期はなかったこと(△560億円)と、のれん減損(△300億円)は、来期も同じだけ出るとは限らない一過性寄り。一方で「賃金アップ等 △267億円」は構造的です。 人件費は来年になったら元に戻る類のものではありません。
「今期の下押しは全部一過性だったから、来期は全部戻る」と読むと、267億円ぶん間違えます。
⑦ 設備投資・研究開発費の方向 → ○
まず金額です(広義ベース・決算説明資料)。

どちらも金額が増え、売上比でも増えています。 会社の来期計画はさらに増額。基準の「売上比で増加傾向」は満たします。
次に「どこに入れているか」です。ここは有価証券報告書に、セグメント別の設備投資額(有形固定資産の計上額)が載っています。

(この表も億円未満を切り捨てているので、内訳を足しても合計とは2億円ずれます)
有報の注記によれば、内容はエナジーが「GTCC関連設備の拡充」、航空・防衛・宇宙が「飛しょう体関連設備の拡充」。受注残が積み上がっている場所と、投資先が一致しています。 ○の条件を満たします。
ただ、この表には気になる形が2つあります。
ひとつめ。当期に最も投資したのは航空・防衛・宇宙(709億円・+87%)ですが、来期の計画では450億円に減ります。 代わりにエナジーが540億円→870億円で最大になる。投資の重心が1年で入れ替わる計画です。防衛の受注残が4兆円ある会社の投資計画としては、少し意外な形でした。
ふたつめ。研究開発費2,890億円のうち、2,089億円(72.3%)が「受託研究等の費用」です。 これは有価証券報告書に明記されています。受託研究は、顧客から費用を受け取って行う研究です。「研究開発費が37%増えた」を「自腹の先行投資が37%増えた」と読むと、実態からずれます。 航空・防衛・宇宙セグメント単独の研究開発費は1,854億円あり、この構成を作っている中心です。
なお、上の表の合計1,783億円と、その前の表の設備投資1,839億円は別の概念なので一致しません。前者は有形固定資産の帳簿上の計上額、後者はキャッシュベースの投資支出に生産準備役務等を含めたものです。同じ「設備投資」という言葉で、違うものを指しています。
層2は ⑤○ ⑥○ ⑦○。
層3:外部環境は、1つだけ△です
⑧ 国策・予算の裏付け → ○
私はこの項目で、「テーマに属しているから○」は付けないことにしています。その予算が当社の事業に実際に流れる経路を、数字で説明できることを条件にしています。
三菱重工は、それが有価証券報告書に載っていました。
有報には「主な相手先別の販売実績」という開示があります。

単一の顧客で、連結売上の2割です。 しかも1年で4ポイント上がっています。
参考までに、防衛予算そのもの(契約ベース)の推移はこうです。

エネルギー側にも根拠があります。第7次エネルギー基本計画が閣議決定され、再生可能エネルギーに加えて原子力を最大限活用する方針が示されました。会社はこれを受けて、既設PWR・BWRの再稼働支援や革新軽水炉「SRZ-1200」を事業機会に挙げています。原子力事業の規模は、2011〜2019年度が年約2,000億円、2020〜2024年度が年約3,000億円、2025年度以降は年3,600〜4,000億円という見通しです。
閣議決定済みで、金額と期間があり、当社に流れる経路が数字で確認できる。○です。
ただし、同じ数字が別の顔も持っています。 売上の2割が単一顧客というのは、追い風であると同時に集中です。防衛予算は2024年度をピークに、2025年度・2026年度と2年連続で前年を下回っています。
⑨ マクロ感応度 → ○
為替(必須)
会社の来期前提は1ドル150円・1ユーロ180円。そして「未確定外貨」として事業利益に効く分が40億USD・8億EURと開示されています。単純に言えば、未確定分について為替が1円動くと事業利益が40億円動く計算です。
実績では売上計上の平均レートが152.2円/USD → 150.4円/USDとわずかに円高方向に動き、為替影響は△40億円。来期見通しでは+40億円とプラスに置かれています。なお2026年8月4日に出た第1四半期では、円安進行にともなう為替差益で当期利益が前年同期比+97%になりました。現在の局面は追い風側です。
地域別の売上

ただし航空・防衛・宇宙だけは日本が80%(1兆1,178億円)で、円安の恩恵はセグメントによってかなり違います。
金利と景気循環
有利子負債5,157億円に対して、純有利子負債は△8,191億円。借入より手元現金のほうが多い状態です。D/Eレシオ0.16。金利上昇で資金調達が圧迫される兆候は、現時点の開示からは見えません。 重工はシクリカルですが、受注残が売上の2.66年分あることが緩衝材になります。
商品市況
ここは書けることがありませんでした。有報のリスクに「資材・輸送費・物価の高騰」「レアメタルを含む材料・部品の調達困難」という記載はあります。しかし業績前提としての資材価格は開示されていません。 為替のように「1ドル150円」と置いてある数字が、資材にはない。「開示なし」として記録します。
為替が追い風、金利が中立寄り、循環は受注残で緩衝。○としました。
⑩ 需要ドライバーの持続性 → ○
この項目の判定は、いつも同じ問いでやっています。「3年後もこの需要が続く理由を、1文で説明できるか」。
エナジーについては、会社が出典つきのデータを載せています(McCoy Power Report)。発電用ガスタービンの世界需要です。

2年で2.4倍。会社の説明は「石炭/石油火力からの転換、再エネの負荷変動吸収の役割に加え、データセンターを中心とした旺盛な電力需要を背景に市場拡大」。同社の大型ガスタービン(100MW以上)の契約残台数は48台(21GW)→74台(33GW)まで増えています。
一時的なブームか、構造要因か。判断材料は「年限と金額のついた計画に紐づいているか」だと思っています。データセンター投資、第7次エネルギー基本計画、防衛予算。いずれも複数年の計画として金額が置かれているものなので、○にしました。
ひとつだけ注記。 GTCCの受注高は来期見通しが2兆3,000億円で、前期を下回ります。需要の話と受注の話は、山と谷のタイミングがずれます。
⑪ 参入障壁 → ○
3つあります。大型ガスタービンは、会社が「旺盛な需要に対応すべく、増産体制を構築中」と書いているとおり、需要があっても作れる量に上限があります。自社の制約であると同時に、新規参入者が今から追いつけないという意味でもあります。原子力は許認可と長期の実績要件、革新軽水炉SRZ-1200の開発主体という立ち位置。防衛は防衛省が単一顧客で売上の20.2%、装備品の取引実績と秘密保持が前提になる領域です。
ただ、逆向きの記述も有報にあります。
「代替性の限られる特定の材料・部品のサプライヤー等が競合他社に買収されたり、倒産・廃業したりした場合に代替調達先を手配できないことや、サプライヤー等の労働力不足、品質問題、工程混乱等が発生することにより、顧客への製品・サービスの提供などに影響が生じる可能性がある」
売る側では壁に守られていて、買う側では代替が効かない。 障壁というものが、常に自分の味方とは限らないという話です。○にはしましたが、この非対称は記録しておきます。
⑫ 地政学リスク → △(12項目で唯一の△です)
この項目は、向きが両方あります。同じ緊張が、防衛には受注の追い風、調達には供給網の逆風として効きます。
追い風のほうは明確です。 防衛予算、エネルギー安全保障、豪州向けフリゲートの受注。逆風のほうで、目に留まった開示がありました。 決算説明資料の業績見通しのページに、こう書いてあります。
「業績見通しには、中東情勢の影響を含めておりません。足許の影響は限定的ですが、情勢は流動的であり、引き続き状況を注視して参ります」
この注記は、同じ資料の中で3回出てきます。
会社が出している来期の売上5兆4,000億円・事業利益5,400億円という数字は、中東情勢が現状のままである前提で作られている、ということです。「影響を織り込んだ上でこの数字」ではなく、「影響は入れていない」。3回書いてあるのは、それだけ会社側が線を引きたかったということだと思います。有報の主要リスクにも「中東地域における紛争・テロ等による製品の減産・コスト増加・事業活動の停滞」が明記されています。
この項目で私が必ず記録している2点も書いておきます。
1つめ、調達の特定国依存。 有報には「資材調達の基本方針」といった方針の記述はありますが、国別の調達比率は開示されていません。 生産拠点については「特に日本やタイなどに集中」という記載があります。推測で埋めず、「開示なし」を結論とします。
2つめ、売上の地域構成。 日本47%/米州27%/アジア・パシフィック14%/EMEA12%。特定国への極端な偏りはありません。
追い風と逆風が両方あり、しかも会社自身が逆風の一部を見通しから外している。基準の「追い風と逆風の両方がある」に該当するので、△です。
12項目を並べた結果と、私の判断

○11/△1/×0。 私が今まで通した中では、いちばん○が多い結果になりました。
足切りルールにも引っかかりません。層1に×はゼロ、④も○、層3にも×はありません。
ただ、○が11個ついた銘柄の記事の締めとしては、少し変なことを書きます。
この会社は、12項目のチェックがいちばん機能しにくいタイプでした。
理由は⑥です。4つの報告セグメントが全部増益で、全社も増益。私の基準に照らすと、素直に○が付きます。 でも実際に起きているのは、増益1,503億円のうち732億円が報告セグメントの外側で相殺されているという事だった。そしてその732億円の内訳は、開示からは分解できませんでした。
12項目は「どこを見るか」を決める道具であって、「見た先に答えがある」ことまでは保証しません。今回は、見る場所は正しく指せたけれど、そこに答えが置かれていなかったという結果です。
参考:株価の織り込み
判定とは別に、株価の位置も見ておきます。2026年8月19日時点で、株価4,370円、PER(予想)38.6倍、PBR(実績)4.63倍、時価総額14兆7,428億円、配当利回り(予想)0.66%。
そして、会社が短信に載せている「時価ベースの自己資本比率」という指標があります。株式時価総額÷総資本です。
2024年3月期 77.8%
2025年3月期 127.5%
2026年3月期 171.6%
3年で2.2倍になっています。会社の実力が伸びているのは12項目で見たとおりですが、株価はそれよりずっと速い速度で織り込んでいるということでもあります。
私の判断
私の判断:継続保有。買い増しはしません。
○が11個ついた会社で買い増さない理由は、上のPER38.6倍・時価ベース自己資本比率171.6%です。事業の判定と、株価の判定は別の作業だと思っています。12項目は事業を見る道具であって、株価が高いか安いかは何も教えてくれません。
私がいちばん気にしているのは、⑦で見た「投資の重心が1年で入れ替わる」ほうです。 防衛の受注残が4兆円あるのに、来期の設備投資計画では防衛が709億円→450億円に減り、エナジーが最大になる。会社の中でいま何が優先されているかは、社長のコメントより設備投資計画のほうが正直に出ると思っています。
これから何を見るか
判定を出したら終わりではなくて、「何が変わったら見直すか」を先に決めておくようにしています。3つ置きました。
① 「その他」の事業利益が、来期どうなるか
今期△268億円だったこの区分が、来期プラスに戻るなら「土地売却益の反動だった」という読みが後から裏付けられます。戻らなければ、データセンター事業等の先行投資が構造的に乗っているということになります。今回分解できなかったものが、時間の経過で分かる形です。
② 防衛省向け売上の比率が、20.2%からどう動くか
防衛予算は2024年度をピークに2年連続で減っています。比率がさらに上がるなら集中が進み、下がるならピークアウトの兆候です。どちらでも情報になります。
③ GTCCの受注高が、来期見通しの2兆3,000億円を上回るか
今期2兆6,526億円からの減少計画です。上振れるならデータセンター需要が想定より強い、計画どおりなら会社の読みが正しい。
いずれも確認は四半期決算ごと。引っかかったときも、元の判定は消しません。 「一過性だと思ったものが、実は構造的だった」が何回あったかを数えられるほうが、次の判定が良くなるからです。
この12項目、使ってみませんか
ここまで書いてきた12項目は、私が保有銘柄を判断するときに毎回通しているものです。
正直に言うと、手作業だとかなり重いです。今回も、決算短信・決算説明資料・有価証券報告書を行き来して、セグメント情報の注記まで降りて、数字を突き合わせました。しかも今回は、資料を全部読んだうえで「分解できない」という結論に着地しています。
なので、この作業をChatGPTにやらせる手順を、プロンプトごと1本にまとめています。決算書を貼り付けて、順番にコピペしていくと12項目の判定が出てくる形です。
そのなかに「AIが必ず間違える箇所」という一覧を入れているのですが、今回のケースはその応用編でした。近い数字が2つ並んでいるとき、AIは高い確率で「だから原因はこれ」と書いてきます。 しかも合計は合っているので、検算では捕まりません。「その2つは同じ切り口で切った表ですか」と聞き返せるかどうかが、分かれ目になります。
本記事は筆者自身の投資判断の記録・整理を目的としたものであり、特定銘柄の推奨や投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行なってください。筆者は三菱重工業(7011)株式を保有しています。

