『8番出口』を横目で見て、「面白そう」より「利益率が高そう」と思った話

金曜ロードショーで放送された映画『8番出口』を家族が見ていた。
私は最初から腰を据えて鑑賞していたわけではない。
家の中で別のことをしながら、ときどき画面を横目で見ていた程度である。
白い地下通路を二宮和也が歩いている。
しばらくして、また同じような地下通路を歩いている。
さらに時間がたって画面を見ると、やはり地下通路を歩いている。
私は率直に言って、まったく興味を持てなかった。
「これは一体、何が面白いのだろう」
そんなことを思いながら眺めていた。
もともとは「異変を探す」ゲームだった
調べてみると、『8番出口』は、もともと2023年に発売されたインディーゲームである。
プレイヤーは無機質な地下通路を歩き、いつもと違う「異変」があれば引き返す。異変がなければ、そのまま進む。判断を間違えずに8番出口まで到達すれば脱出できる。
つまり、地下通路を舞台にした間違い探しと脱出ゲームを組み合わせた作品である。
ゲームであれば、自分で異変を探し、自分で進むか引き返すかを決める。間違えれば0番に戻されるため、それなりの緊張感が生まれる。
しかし映画では、その判断をするのは画面の中の主人公である。
観客も異変探しに参加できるとはいえ、私には「同じ地下通路を何度も歩いている映像」にしか見えなかった。
もちろん、作品には父親になることへの不安、他人を見て見ぬふりする心理、同じ場所をさまよい続ける現代人といった意味が付け加えられている。
ただ、私には「単純なゲームを95分の映画にするため、後から物語や社会的な意味を足した」という印象の方が強かった。
深い寓話と受け取る人もいるだろう。しかし私は、そこまで乗ることができなかった。
それより気になったのは「いくら儲かったのか」
作品の内容には惹かれなかった一方で、別の意味では強く興味を持った。
「これ、かなり利益率が高い映画なのではないか」
映画の中心となるのは、ほぼ同じ地下通路である。
主要な出演者も多くない。戦争映画のように大量のエキストラや兵器を動かすわけでもない。世界各地でロケをするわけでもない。大規模なカーアクションや建物の爆破もない。
あの無限に続く白い通路は、実在する駅ではなく、倉庫内に造られた巨大セットだったという。全長100メートルを超えるセットなので決して安くはないだろうが、一度造れば、ポスターや照明、小道具などを変えながら何度も使用できる。
もちろん、二宮和也や小松菜奈の出演料、セットの建設費、東京メトロでの深夜撮影、映像加工、宣伝費などはかかっている。
したがって「低予算映画」と断定することはできない。製作費や利益率は公表されていないようだ。
それでも、大人数の出演者、多数のロケ地、大規模なアクションを必要とする作品と比べれば、費用を管理しやすい企画だったことは間違いないだろう。
興行収入は51億円超
『8番出口』の国内興行収入は51.7億円に達した。
映画のチケット売上がそのまま製作者の利益になるわけではない。一般的には、興行収入の約半分を映画館が受け取り、残りから配給会社の手数料や宣伝費などが差し引かれるらしい。
51.7億円なら、映画館側の取り分は約26億円。
製作側に回る原資は、おおむね18~23億円程度と考えられるようだ。
そこから制作費や宣伝費を回収するため、実際の利益は不明である。それでも、この作品構成で51.7億円という売上は、かなり効率がよいように見える。
さらに映画館での収入だけではない。
海外配給、動画配信、テレビ放映、Blu-ray、グッズ、書籍などの二次収入も加わる。今回の金曜ロードショーでの放送にも、当然ながら放映権料が発生しているはずだ。
私が録画された作品を横目で眺めている間にも、この映画は新たな収益を生み出していたわけである。
誰が利益を受け取るのか
利益を受け取る中心は、映画「8番出口」製作委員会に出資した企業という構図らしい。
構成企業として確認できるのは、東宝、STORY inc.、オフィスにの、メトロアドエージェンシー、AOI Pro.、ローソン、水鈴社、トーハンである。
利益は、基本的に各社の出資比率に応じて分配される。ただし、具体的な出資比率や利益額は公表されていない。
なかでも東宝は強い。
東宝は製作委員会の出資者であるだけでなく、国内配給も担当している。さらにTOHOシネマズで上映されれば、映画館側の収入も得られる。
つまり東宝は、製作、配給、興行という複数の段階で収益を得られる。最大の勝者は、おそらく東宝だろう。
また、二宮和也の個人事務所である「オフィスにの」も製作委員会に入っている。
二宮和也は単に出演料を受け取る俳優ではなく、自分の会社を通じて映画に出資し、成功時の利益を受け取る側にも回っていた可能性がある。脚本協力にも名前を連ねており、主演俳優以上の関与をしていたことが分かる。
これは賢い。
決められた出演料だけを受け取るより、ヒットしそうな企画に出資して権利を持った方が、大成功した際の収益は大きくなる。投資家っぽい。
原作者はどれくらい受け取ったのだろう
個人的に気になるのは、原作ゲームを1人で開発したKOTAKE CREATEに、どれほどの利益が還元されたのかという点である。
原作者は製作委員会の構成企業には入っていない。
一般的には、映画化権の使用料や契約に応じたロイヤルティーを受け取る。また、映画のヒットによって原作ゲームの販売本数が増えるという利益もある。
しかし、映画が51億円を売り上げたからといって、原作者にその一定割合が自動的に入るわけではない。最終的には契約次第である。
そもそも原作ゲームがなければ、この映画は存在しなかった。
白い地下通路を歩きながら異変を探すという、極めて単純でありながら人に説明しやすいアイデアを生み出したのは原作者だ。そのアイデアを映画会社が大規模商品に変換し、51億円を超える興行収入にした。
この収益のうち、最初の発明者にどれほど戻ったのかは興味深いところである。
内容よりもビジネスモデルが面白かった
作品の好き嫌いは人それぞれである。
原作ゲームを知っている人なら、異変の実写化やゲームの再現度を楽しめるだろう。家族や友人と一緒に「今のは異変だ」と話しながら見るのも面白いのかもしれない。
ただ、私には最後まで刺さらなかった。
地下通路を何度も歩く映像を見ても、その先を知りたいとは思えなかった。
その一方で、
「既に知られているゲームを原作にする」
「説明しやすい設定を使う」
「主要な舞台と出演者を絞る」
「観客も参加できる仕掛けを作る」
「二宮和也を主演に据える」
「映画館、配信、テレビ、海外販売まで展開する」
というビジネス設計には感心した。
作品として面白いかどうかと、商品として優秀かどうかは別の話である。
私にとって『8番出口』は、映画の内容よりも、「限られた素材から、これだけ大きな売上を生み出した企画」の方がはるかに興味深かった。
金曜ロードショーの録画を横目で見ながら、私は異変ではなく、利益率を探していたのである。
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