全財産。置いていきます。
以前のnoteに、父のお店の家賃を兄と私で負担している話を書いた。
母の生活費に加えて、父のお店の家賃。
正直、私にとって決して楽な出費ではない。
それでも「長女の務め、やり切れるもんならやってやろうじゃないの」と腹を括っていた——のだが、ここに来て一気に潮目が変わる出来事が起きた。
想像を超えて来た父の奇行
先日、父の店に出向いたときのこと。
次回の通院予約を確認していると、「そういえば……」と、父がおもむろに年季の入った汚ねぇ引き出しから1冊の通帳を取り出してきた。
家賃を負担するようになってからというもの、父は会うたびに兄への感謝の言葉を何度も口にするようになっていた。
もっとも、「私も負担してるんだよ」と何度伝えても、その事実は父の脳内に一秒たりとも留まることはない。……が、そこはもう諦めた(笑)
父はかねてから、家賃を負担してくれている長男に、自分の蓄えから200万円ほど送金したいと申し出ていた。
一人の漢として、子に負担をかけているのがどうにも申し訳なかったのだろう。
とはいえ、私も兄も親のお金をあてにして人生設計をしているわけではない。仮に200万円を受け取っても、当面の家賃に充てるだけ——と、すでに兄とは話がついていた。
ところが、である。
父は200万円どころか、全財産を差し出してきた。
文字通り、全・財・産だ。
通帳を入れるケースにはキャッシュカードまで同梱。暗証番号も口頭で伝授され、「全部持っていけ」と言うのだ。
いや、ちょっと待って。
「この通帳以外、手元にいくら残ってるの?」と聞けば、「10万」と即答。
いやいやいや、もっとちょっと待って!
10万円!?
10万だけ残して全額を娘に渡すって、正気の沙汰じゃない。
「いや、10万じゃ絶対足りないでしょ!」と訴える私に、「10万もあれば充分だべ〜」とケラケラと笑う父。
億単位の借金を背負って泥水をすすってきた人間の思考回路は、本当に理解が及ばない。
「そこから200万は長男に渡してくれ」の一点張りなので、
「お兄ちゃんとはもう話がついてる。私の使ってない口座に200万入れておくから、少なくともそれで3年分の家賃にはなるよ」と伝えると、それならば・・と父もようやく納得してくれた。
ここ数年は、2ヶ月で5万円の年金と、わずかながらのお店の売り上げの中だけで、生活費をやりくりしている父。
……それにしても、だ。
全財産を差し出すという判断、どこをどう経由したらそこに着地するのか、いまだに謎である。
私がとんでもない悪女だったらどうするつもりだったのか。いくら娘とはいえ、信用するにも限度があるだろうよ。
持つ親と、持たざる親
さすがに最近は学習したのか、私の逆鱗に触れるような戯言をようやく言わなくなってきた母だが、ほんの数年前まではよくこう豪語していた。
「あんたたちは良かったんだよ〜!親に財産がなくてw 下手に財産なんてあったら兄弟で取り合いの喧嘩になるんだから。何もない親で良かったばい!かーっかっかっか!!」
私のチャンネルを見て下さっている方なら、
このセリフの後にどんな修羅場が展開されたか、だいたい想像がつくと思う。
でも——悔しいことに、今なら母の言い分も少しだけわかる。
もちろん貧乏より金はあったほうがいい。ただし、無条件で喜ばれるのは「現金のみ」だ。
広い土地は途端に持て余す。加えて墓、仏壇、株式、でかい納屋、山、田畑、会社etc……。
"あればあったで"地獄を見ている人が、この世にはごまんといる。
万人が喉から手が出るほど欲しがる一等地ならまだしも、人口が減り続けるこの日本で、田舎の広大な土地なんぞ、むしろ無いほうがマシまである。
持て余した土地を前に途方に暮れる人々を、私は嫌というほど見てきた。土地や家が広ければ、モノもあっという間に繁殖していく。
昭和と平成をまたいで堆積した荷物の山の整理に加えて、買い手のつかない土地を手放すに至っては、もはや苦行であり、罰ゲーム。最近では負動産なんて言い方をしたりする。
その点、うちの両親には兄弟で奪い合うような家も土地もない。喧嘩のしようがないのだ。
借金まみれだった父は、気づけば数百万円の資産をこしらえてくれていたし、母も生活を立て直し、微々たるものとはいえ、コツコツと蓄えを増やしてくれている。
高収入の家庭が落ちるワナ
「一度上げた生活水準を下げるのは容易ではない」とよく聞く。
現役時代に例えば1,000万円プレイヤーだとしても、年金は月せいぜい30万円にも及ばない。
月々100万円の暮らし振りを見直さなければ、途端に生活は破綻する。
だがうちの両親は順応性がバグっているのか、小金持ち時代の記憶をきれいさっぱり紛失し、雀の涙ほどの金で満足できる仕様に、自らをダウングレードしてくれた。
「人生は何とかなる」
昔は大っ嫌いだった母の口癖だが、この両親を見ていると、そんな気がしてくるのだから不思議だ。
貰えるものは貰ってやろう、86歳
父もさすがに近頃は、人生の終焉を意識し始めているようだが、郡山市だけの制度なのかは知らないけれど、90歳になると行政から50,000円もらえるらしい。
「5万もらうために、90まで生きねぇとな!ガハハハハ」と笑う父。
その5万への執念、大いに結構。
「ガンも脳腫瘍もやったけど、内臓だけはなんともねぇからな!w w」
父に言わせれば、「脳腫瘍なんてただのデキモノ」らしく、それすらも豪快に笑い飛ばす。
平均寿命から逆算しても、父の面倒は最後までしっかり見届けられそうだ。
全財産を託してくれた父の信頼に応えるべく、父の命ある限りサポートしよう——と誓いつつ、あと20年は余裕で生きそうな母のことを思うと、正直ほんの少しだけ気が重い……という話は、ここだけの秘密にしておこう。
とりあえず父から預かったお金は、ATMの引き出し限度額もあるので、まずは普段使わない口座に50万ほど移し、そのスクショを兄に送った。
父の了承済みとはいえ、ATMで引き出す時は、なんだか悪事を働いているようで少しドキドキした。
兄からは「お前が急に海外旅行にでも行き出したら即税務署に密告するからな」と、しっかり釘を刺されている。
すかさず「行くわけねぇわ!」と返しつつ、「CHANELの新作バッグ素敵よね〜」とだけ伝えておいた(笑)
父の生き様
私は幼い頃からずっと、母から父の悪口を聞かされて育った。
母は、娘の私にだけは自分の味方でいて欲しかったのだと思う。
そんな母の気持ちも分からなくはないが、夫としては最低最悪な父でも、娘にとっては決して悪い父親ではなかった。
「子供らには迷惑をかけない」といつも言っていた、そんな父の生き様を見せてもらったような気がする。
あの汚ねぇ引き出しから出して来た、一冊の通帳。
これは、思ったよりもずっと重い、「父の覚悟」なのかも知れない。
あ、なんかそろそろ死にそうな感じ出ちゃってるけど、まだ全然死にそうにもないけどねw
「ちょっと10万ほど持って来てくれ〜」という電話も、いつでも受けられるようにしとこっと!(笑)
