刑務所だけが「No」といわない国で~司法と福祉の連携から見えてくるもの|犯罪学教授が解説
立正大学教授 丸山泰弘(犯罪学・刑事政策)が、ニュースでは聞けない犯罪学、刑事政策の話について、分かりやすく解説します。過去に配信したエピソードを順番に紹介していきます。今回は「刑事司法と福祉の連携」です。
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この10数年で当たり前のように語られるようになった「司法と福祉の連携」。そもそもなぜ始まったのか、“連携”の意義、大切にしたいことについて、犯罪学・刑事政策教授が解説します。
スタッフからひとこと
番組で時々出てくる「長崎で働いていた」というエピソード。その勤務先が、今回のエピソードでも紹介した、刑務所での知的障害者の調査を行い、「触法障害者」支援の礎を築いた長崎の社会福祉法人 南高愛隣会です。私は大阪出身で、長く京都の龍谷大学に通いました。夢破れ、さてどうしましょうか、というタイミングで、「司法と福祉の連携」の研究事業の担当者の募集に出会い、遠路はるばる長崎に就職したわけです。長崎での暮らしは驚きの連続でした。初出勤の3日後、暗闇の中で足元を見失い、2メートル転がり落ちたりしました。そんな話はまたいつかどこかでするとして…。
私が就職を考えた頃、南高愛隣会は「全国に『地域生活定着支援センター』を作る」ことに取り組んでいました。地域生活定着支援センターは、刑務所を出る際に、高齢であることや障害があることで支援を必要とされる方に、出所前から準備をし、社会との橋渡しをするという役割を担います。当時、その話を聞いた時、大切な取り組みだと思いつつも、全国となると10年かかるな、と思いましたが、なんと3年で全国につくってしまいました。長崎の法人が「定着をつくろう!」と全国行脚をしていると聞いたときはなかなかの驚きでした。その法人での取り組みをまとめた本(『居場所を探して:累犯障害者たち』(長崎新聞社、2012年))を読み、今まで考えてこなかった“障害者福祉の視点で刑事政策を考える”ことに興味が湧きあがりました。
その後、その本に出てくる人たちと同僚になりました。特に年齢の近い人たちとは親しく話すようになると、取り組みの背景にあった生の声を聞くことができました。「刑務所に利用者になる人を迎えに行く」場面がテレビで流れたことで、親戚から「遺書を書いてから動きなさい」と言われた人。放火の経験がある方が利用者になったことで、建物中から火をつけられるものを隠して回り、夜は一緒に寝た人。みんな、経験を積み、「あの頃はね」と笑いながら話してくれていましたが、裁判とも刑務所ともまったく関係なく生きてきた職員1人1人にとって、この取り組みがどれだけの負担(物理的にも精神的にも)だったのかと痛感しました。その1人1人のチャレンジと、ともに歩んでくださった当事者の方々のおかげで、今、ここまで進めることができたと思っています。
20年くらいの取り組みをへて、南高愛隣会でやっていることは全国に広がりました。今考えると、やっていたことは特別なことではなく、“普通の福祉支援”だったんだと思います。「前科がある人」とか「犯罪者」ではなく、「必要な支援が届いてなかった人」として、その人がその人らしく生きて行けるよう、その幸せを支える仕事をする。それが、「司法と福祉の連携」にあたり、福祉人が取り組んでいることなのだと思います。
配信で話しきれなかった(ここでも書ききれない)、胸熱なできごとは、「司法と福祉の連携」を先導した、南高愛隣会の創立者・田島良昭の語りをまとめた『一隅を照らす蝋燭に‐障がい者が"ふつうに暮らす”を叶えるために』(2018年,中央法規出版株式会社)第6章にまとめられています。短くまとまっていて、とてもわかりやすいです。ぜひ、お読みください。
配信では、「司法と福祉の連携」の歴史をふまえ、忘れちゃいけない“再犯防止”という言葉について語りました。最近出版された『司法福祉のおしごとガイド』(2026年、旬報社)はサブタイトルが「再犯防止から孤立防止へ」となっていました。なるほどなぁとしみじみ噛みしめています。この本は、現在司法と福祉の場面で活躍する職業の人たちのインタビューがまとめられています。南高愛隣会からはじまった取り組みが、どのように広がったかという現状がよくわかります。すごく興味深いおしごと本ですので、是非ご一読をおススメします。
最後に。「司法と福祉の連携」を生んだのは『獄窓記』(2003年、ポプラ社)という1冊の本でした。著者は、先日の衆議院議員選挙で当選した山本譲司さん(現在は山本ジョージさん)。久しぶりに政界に復帰されました。山本さんだから見える景色に基づいた取り組みをしていただけるのではないかと楽しみに応援しています。(み)
こんな話をしています
・刑務所が福祉施設になっていた
・刑務所は唯一「No」といわない施設
・「再犯防止」は誰のため?
丸山 同じ頃、すごく象徴的な事件がありました。2006年の下関駅放火事件。
南口 74歳の男性が、刑務所を出てわずか8日で行き場を失い、「刑務所に帰りたくて」火をつけた事件ですね。
丸山 あれは考えさせられる事件で、今でもいろんなところで語られてます。
南口 生活保護を申請しても断られ、わざわざ万引きをしても釈放され、最後にたどり着いた下関駅で事件に及んでしまいました。
丸山 この事件の前も何度かボヤ騒ぎで刑務所に行くということがあったので、その経験が頭にあったんでしょうね。
南口 当時、龍谷大学の浜井浩一先生が、「刑務所だけは唯一『No』と言わない施設だ」と言ってましたよね?
丸山 いいトスあげますね!例えば、いろいろ困難があるからと、福祉施設に行くと「定員がいっぱいなんです」とかあって、難しい。
南口 今日の今日、ってのはけっこう難しいと思います。
丸山 下関の方のように「今日生活保護を受けたいです」と言っても「無理です」ってなったり、病院に「入院させてください」と言っても「病床がいっぱいです」ということがある。
南口 実際、それはあることですね。
丸山 でも、あらゆるところで無理だといわれる人が、唯一「No」と言われないのが刑務所なんよね。
つづきを聞く…
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・刑務所内の知的障害者の実態調査
犯罪学の視点から語るエンタメ作品
『「子どもを殺してください」という親たち』(2017年~、日本)
原作:押川剛 漫画:鈴木マサカズ
『タガタメ』(2004年、日本)
歌:Mr.Children、作詞:桜井和寿、作曲:桜井和寿
ツミナハナシを話すヒトたち
丸山泰弘:立正大学法学部 教授/知的エンターテインメント・クリエイター
南口芙美:合同会社黒子サポート 代表
※2人とも、一般社団法人 刑事司法未来 理事
でてきた用語・人物
CAPIC
山本譲司
下関駅放火事件
地域生活定着支援センター
田島良昭
再犯防止推進法
平野区市営住宅殺人事件(番組で取り上げたアスペルガー症候群と診断されたた男性が実姉を刺殺した殺人事件)
もっと知りたい
司法と福祉の連携の歴史を知るなら
司法と福祉の連携がなぜはじまったのか? どのような苦労があったのかについてはこちらの書籍から。
拘禁刑とは何か?
2025年6月からは処罰ではなく懲らしめではなく、「個別処遇」がはじまっています。この背景には今回お話しした司法と福祉の取り組みが関係しています。「拘禁刑」とは何かについては、こちらの配信でお話ししています。
番組初の書籍化『マルちゃん教授のツミナハナシ 市民のための犯罪学』発売決定!
わかりやすく、親しみやすく“罪”と“罰”を考える。ポッドキャスト番組「丸ちゃん教授のツミナハナシ」が書籍化されます! 是非お買い求めください。
番組MC・丸山泰弘 初の新書『死刑について私たちが知っておくべきこと』発売中!
「丸ちゃん教授のツミナハナシ」メインパーソナリティーの丸山泰弘が、ちくまプリマ―新書(筑摩書房)にて、初めての新書『死刑について私たちが知っておくべきこと』が発売されました。「紀伊國屋じんぶん大賞2026」にランクイン! 是非お買い求め下さい。
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「丸ちゃん教授のツミナハナシ-市民のための犯罪学-」
・主催:一般社団法人刑事司法未来
構成:合同会社黒子サポート
