おすすめの“法廷エンタメ”TOP3!|犯罪学の視点から語る
立正大学教授 丸山泰弘(犯罪学・刑事政策)が、ニュースでは聞けない犯罪学、刑事政策の話について、分かりやすく解説します。過去回をアップしました。「おすすめ法廷エンタメ ベスト3」です。
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ツミナハナシの視点でエンタメを紹介するシリーズの第1回目。今回は「法廷エンタメ」です。3人それぞれのおすすめポイントをお楽しみいただきたいと思います。
スタッフからひとこと
みなさんは、好きなエンタメジャンルはありますか? 推理もの、スポーツもの、動物ものなどなど…私は、刑事裁判もの、特に被告人側が主役のものを観ると、エネルギーが沸き上がり、やおら立ち上がって「民衆の歌」を歌いたくなります(もちろんガマンしています)。そんなわけで、「法廷エンタメ」がテーマの今回、何をご紹介すべきかと悩みに悩みましたが、全体で見るとよいバランスになったと自負してます。
そんなわけなので、山口さんチョイスの『99.9-刑事専門弁護士-』も楽しく観てました。実験や、現場検証を重ねることで、検察の立証の不自然さをついて0.1%に挑む弁護士とパラリーガルたち。松本潤さん演じる主人公の弁護士だけではなく、パラリーガルが活躍するのも嬉しいポイントでした。
実は私、お世話になった人から「たまには飲もう!」の友人まで、かなりの人数の弁護士と知り合いです。その経験からいうと、実際の刑事弁護はドラマのような劇的に冤罪をあばいていくものではありません。被害者に謝罪に行ったり、被疑者・被告人がこの後どうやって生きていくのかの道筋を探ったり、それはそれは地道で大変な活動なのです。それに、ツミナハナシ第36回でもお話ししたように、「冤罪」といっても「真犯人は別にいる!」とは限りません。多くは「量刑」や「適応される刑罰」の冤罪で(それって何?と思われる方は是非第36回を聞いてみて下さい)、これもまた、地道で大変な道のりになります。そしてもちろん、この人は犯人ではない、という冤罪事件に「出逢った」となれば、なんとしてもその冤罪を晴らさねばなりません。そのために、何十年もかかる闘いを続けている弁護士も、何人もおられます。
例えば、『99.9-the movie-』にヒントを与えたであろう「名張毒ぶどう酒事件」。事件発生は1961年、35歳で逮捕された奥西勝さんは、1964年に1審で無罪になるも、1969年に控訴審で死刑判決を受け、その後確定。冤罪を訴え、9回の再審請求を行いましたが、死刑確定から43年、死刑の執行はない一方で、再審の開始は認められず、2015年に89歳で八王子医療刑務所でお亡くなりになりました。35歳の逮捕から89歳まで、54年間にわたり、自由を奪われ、死刑執行の可能性があるという人生でした。
この短い文章の中でも「ちょっと待って?」と思いませんか。1審で無罪になっているのに、なぜ控訴審があったのでしょうか?日本は無罪の判決に対して検察官が控訴をすることができます。これって、当たり前のことではなく、被告人に不利益になる控訴は認められない国もあるんです。9回も再審請求してもなぜ認められなかったのでしょうか?再審をするに値する情報はたくさんありました。さらに、89歳まで毎日、自分は今日、死刑になるかもしれないと思い続ける人生を送らせたことはどうでしょうか。そんなこと、あっていいと思いますか?
私は、奥西さんのことを思い出す度、ご存命の間に外に出て、青空の下を歩いていただきたかったと、今でも思うのです。でも、来るべきだったその日は、来ませんでした。私が生きているこの国がもつ刑事裁判のシステムは、基本的人権の尊重を掲げる憲法にかなうものなのかと、絶望的な気持ちになります。2024年には、奥西さんの妹さんが出された再審請求が否定されました。ご遺族(と弁護団)の闘いは、まだ終わっていないのです。(この経緯は映画『いもうとの時間』として映画化されています)
このように、『99.9』を見ると、実際の事件がベースになっているなと感じることもあります。映画は名張毒ぶどう酒事件だけではなく、今も死刑囚として冤罪を晴らそうとされている「和歌山カレー事件」も思い出させます。SeasonⅡの第5話は「御殿場事件」を基にされていたと思います。こちらも、ドラマの終わりと、現実は違います。そんな時、「こんな風に進めばさぁ…」と暗い気持ちになってしまうのです。現実は辛く、こうやって書いていても、涙が出ます。
でも、だからこそ、こうやって人気のあるエンタメが冤罪事件に影響を受けていることを嬉しく思います。『99.9』を楽しんだ人たちの中で、1人でも、2人でも、名張毒ぶどう酒事件にたどり着き、さすがにこれはひどくないか?と思ってくれたら…と願うことができるからです。現実はエンタメ通りにいかない。でも、そんなことを広く知ってもらうのもエンタメの力だし、心が折れてしまいそうになる中で、「正義は勝つ」という理想を思い出させ、鼓舞させてくれる。だから私は刑事裁判もののエンタメが好きだし、「民衆の歌」を歌いだしたくなるのだと思います。(「民衆の歌」は刑事裁判にまったく関係ないですが…)
どうかこの思いが皆さんに届きますように。これからも興味深く面白いエンタメに出会えること、そしてエンタメを通じて、人権を守ることが尊重される世界に近づいていけることを祈っています。(み)
こんな話をしています
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★配信日:2024年5月28日
※apple podcast、amazon musicでも配信しています。youtubeは遅れての配信になりますので、ポッドキャストからお聞きください。
紹介した作品
『99.9 刑事専門弁護士』
出演:松本潤、香川照之、杉咲花、他
『量刑』
作:夏樹静子 (2001年,光文社)
『いとこのビニー』(原題:My Cousin Vinny)
監督:ジョナサン・リン
出演:ジョー・ペシ、マリサ・トメイ、ラルフ・マッチオ、他
1992年/アメリカ/カラー
ツミナハナシを話すヒトたち
丸山泰弘:立正大学法学部 教授/知的エンターテインメント・クリエイター
南口芙美:合同会社黒子サポート 代表
山口裕貴:フリーランス(パラリーガルなど)
※3人とも、一般社団法人 刑事司法未来 理事
出てきた用語・人物
法廷劇
サスペンス
コメディ
もっと知りたい
テーマ別おススメエンタメベスト3
色々なテーマに添ったエンタメを紹介するシリーズ。過去に「少年犯罪」「被害者問題」「死刑」「依存」「刑務所」を取り上げています。
(※ #34 2024年5月28日配信/構成:合同会社黒子サポート)
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