入れ歯は、外出着ではなかった
66歳になって、自分の体と対話する時間が増えたと感じる。
家でのんびりみそ汁を飲んでいた。
みそ汁に入っているえのきと油揚げを奥歯で味わいながら噛んでいた。
その時、ふと気づいた。
私は左側だけでしか噛んでいないと。
これではいけない気がする。
片側だけで噛んでいたら、あごの形が変わってしまうかもしれない。
そこで、口の中のえのきたちを右側に移動させた。
さて噛もうとした。
ところが、そこには噛む歯がなかった。
お恥ずかしい話だが、私は一本だけ入れ歯を入れている。
それまで削ったり詰めたりして何とか持たせてきた。
しかし、とうとう、抜くしかなくなった。
迷いに迷って、部分入れ歯を選んだ。
奥から2番目の歯だから、入れ歯をいれなくても、見た目にはほとんど分からない。
普段の食事にも、特に困らなかった。
だから私は、外出する時だけ入れ歯をつけていた。
それは、家着からお出かけ用の服に着替えるような感覚だった。
入れ歯は、私にとって外出着だった。
ところが、食事をしている自分の口の中に意識を向けてみると、そうでもないことに気づいた。
左側だけで、せっせと食べている。
右側は、ずっと休んでいる。
入れ歯は、なくても困らないもの、ではなかった。
かといって、特別な日のために身につけるものでもない。
勝負下着のようなものでもない。
起きている間、そこにいてくれる、あって当たり前のものなのだ。
そう考えると、一本の入れ歯が少し身近なものに感じられた。
66歳になって、自分の体と話をすることが増えた。
「ちゃんと両方使っているか」と、口の中から教えてもらうこともある。
部分入れ歯は、外出着ではない。
普段の私の口の中に、ちゃんといてもらおうと思う。
入れ歯は、外出着ではなかった
毎日note連続投稿2669日目
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※優谷美和さんの画像をお借りしました。
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