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小象のような足になった朝

もう持病の薬の効き目は切れていた。
「帰ったら少し横になろう」

そのつもりだった。
それなのに、家に着くと庭の草が気になった。

車を自宅の庭に入れる。
最後の力を振り絞り車庫入れをした。

玄関までの道のりがいつも以上に長く感じられた。
両肩に重しを乗せているようで、足も上がらない。
自分でも、ゾンビのような歩き方だと思った。

チラリと庭の草に目が行く。

土日の休日にやった草取りの残りの部分だ。
「ここ、早くきれいにしたい」
そう思った。

重い玄関のドアを開ける。

「ただいま」

「おかえり」

娘がいた。
元気そうな顔を見たら、気持ちが少し軽くなった。

冷蔵庫からバナナと麦茶を出し、しばし椅子に座ってくつろいだ。
お腹が満たされると、気持ちも少し落ち着く。
すると、不思議なことに体の疲れまで少し軽くなった気がした。

「私、これから草取りをするから」

誰に言うまでもなく、自分に言った。
私は上着を脱ぎ長袖を着た。

いつも机の上に置いている、温度と湿度が分かる時計を持って庭に出た。
すぐに温度は31度に変わった。
もっと暑いと思っていたので
「そんなものか」と思った。

「大丈夫だ」
心の中で言った。
帽子をかぶり、手袋をはめた。

携帯電話からYouTubeの音を流しながら、黙々と草を抜いた。
思ったより根が深い。
引き抜く時に力が要った。
草が抜けた瞬間だけ、ちょっと気持ちがいい。

しゃがんでいるとだんだん足が痛くなってきた。
作業ズボンの裾から、むき出しのくるぶしが丸見えだった。
いつもだったらくるぶしが隠れる長めの靴下を履いて、長靴を履いて草取りをする。
虫に刺されないよう、できるだけ素肌を出さないようにしている。

しかしその日は、着替えるのが面倒だった。
更に、長靴ではなく通勤用のズックのまま。
まあ、大丈夫だろう。
そう思って、そのまま草取りを続けた。


午後5時を知らせる音楽が、隣の役場から聞こえてきた。
それでも、もう少しだけ。
そう思って続けた。

やっと終わった。

辺りを見回す。
砂利が見えなくなるほど草が茂っていた庭がすっきりしていた。
これで外に洗濯を干す時も安心だ。

私はそのままお風呂に入り、娘の作ってくれた夕食をいただいた。
一日の終わりに食べる温かいご飯は、やっぱりおいしかった。


その夜だった。

足のくるぶしの辺りがかゆくなってきた。

「お母さん、それ酷いよ」

娘が心配した。
見ると赤く腫れている。
かゆい。
とにかく、かゆい。

でも、虫刺され用の塗り薬が見当たらない。
仕方なく、冷湿布を貼ってそのまま眠った。


翌朝、目覚めたら小象の足のように、くるぶしが腫れていた。
やはり湿布では効き目が無かった。

草取りをする時は、長袖長ズボン、手袋、帽子、長靴、長い靴下。
これが基本。

ひとつくらいは大丈夫だろう。
そう思って省くと、あとで痛い目を見る。
身をもって知った朝だった。





小象のような足になった朝

毎日note連続投稿2672日目
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※優谷美和さんの画像をお借りしました。

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