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首がジジイでつらい

ある朝、俺はいつものように洗面台の前に立っていた。

目的は髭を整えること。

いつも通り電動シェーバーを手に取り、鏡を見ながら、頬だのアゴだのを微調整していた。

その時だった。

ふと、目線が下に落ちた。

首。

え?

俺の首?

なんか、ジジイすぎねえか?

顔はまだいい。

いや、決して若者ではない。

しかし、まあ、髪型、服装、姿勢、表情、謎の自信。

このあたりでなんとか誤魔化せている。

だが、首。

首だけが完全に裏切っていた。

顔が「まだ戦えます」と言っている横で、首が「町内会の副会長です」と名乗りを上げている。

俺は焦った。

すぐに調べた。

首のシワ、たるみ、老化、改善、原因、対策。

検索窓に中年男性の悲鳴を打ち込む。

出てくる答えはだいたい同じだった。

保湿しましょう。

日焼け止めを塗りましょう。

姿勢を正しましょう。

レチノールを使いましょう。

美容医療もあります。

なるほど。

つまり、対処療法である。

俺が欲しいのは違う。

俺は根治したい。

この首ジジイ問題を根本から叩き潰したい。

そこで一つの仮説にたどり着いた。

首が痩せたのではないか。

俺はここ数年でかなり体重を落とした。

昔は脂肪という名の天然ヒアルロン酸が、首まわりにパンパンに充填されていた。

それが痩せたことで、皮膚が余り、筋が出て、急に年季の入った和紙みたいになったのではないか。

ならば答えは一つ。

脂肪ではなく、筋肉で埋めればいい。

首を筋肥大させればいい。

首を太くすれば、シワもたるみも張るのではないか。

天才か。

俺は首を鍛えることにした。

とはいえ、首の鍛え方なんて知らない。

スクワット、ベンチプレス、懸垂。

その辺はわかる。

だが、首。

首だけは未知の領域である。

下手したら人体の重要インフラを自ら破壊することになる。

そこで元プロ格闘家に聞いてみた。

「首ってどうやって鍛えるの?」

返ってきた答えはシンプルだった。

「紐にダンベルをつけて、歯で噛んで、ひたすら耐えます」

え?

「めちゃくちゃキツいです」

はい。

「しかも歯がダメになります」

終了。

俺の中のチャレンジャーが静かに着席した。

首ジジイは嫌だ。

だが、歯なしジジイはもっと嫌だ。

首の若返りを求めた結果、歯を失う。

それは進化ではない。

ただの部位交換型老化である。

首が少し若返る代わりに、歯が引退する。

そんな取引に乗れるわけがない。

それはもう美容ではない。

修行である。

というわけで、俺は静かに方針を変更した。

根治は一旦諦める。

対処でいく。

保湿する。

顔に塗っていたものを首にも塗る。

顔はアゴまでではない。

顔は鎖骨まで。

これを今日から我が家の憲法とする。

結局、首ジジイ問題は、人間が中年になると突きつけられる現実なのかもしれない。

腹立たしい。

ただ、歯を犠牲にしてまで首に抗うほど、俺もまだ狂ってはいない。

だから今日も俺は、鏡の前で首にクリームを塗る。

内心ブチギレながら。

「お前、頼むから顔面チームの足を引っ張るなよ」

そう言い聞かせながら、今日も中年男性の地味なアンチエイジング活動は続いていく。

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