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【あがり症|美大中退編14】世一先輩「女の子にもてるためです!」|ふるえるままに、すすめ51

あがり症でHSP気質のうにが、美大受験、大学中退、そしてその後も続いていく日々の中で、変わりたくても変われない、どうしようもない自分を抱えたまま世界を泳いでいく『うに』のイラスト付き連載エッセイです。うまくいかない日も多いけど、うにはうにのまま、ふるえるままに進んでいきます。

はじめてましての方はこちらからどうぞ】
★子供のころのあがり症は(1)こちら
★あがり症を抱えたまま働きだしたストーリーは(4)こちら
★美大受験期・美大中退編は(21)こちら


「弓も矢も、ここにあるの自由に使えるから大丈夫。道着もいらないよ。動きやすいジャージでおいで」

千石先生にそういわれて、高校のジャージを着ておそるおそる行ってみた初日。
弓道場にいたのは、うにひとりでした。

「あの、先生…もしかして、うにひとりだけ……ですか?」
「はい、そうだけど?」

え。もしかして、マンツーマンですか?!

千石先生はにっこり笑いました。
「さあ、道場に入る前に、入り口で一礼。それから、稽古を始める前に、神棚への礼」

教えてもらったのは「二礼二拍手一礼」の基本作法でした。

「まっすぐ立って、姿勢よく。まずは、45度の礼を2回。次に、胸のところで手を合わせて、右手をちょっと引いて、2回拍手。ここでお祈りをしたら、45度の礼を1回。そして、最後に軽く一揖(ゆう)」

(ゆう…? あ、会釈のことっぽい)

うには先生の動作を見ながら、とにかく見様見真似でやってみました。
ぎこちないったらない動きです。

(神様への挨拶って、正式にはこうやるのかあ……
今まで初詣とか適当だったなあ……
っていうか、そうか、弓道って、神道だよね、
神事だもんなあ、神聖なことなんだなあ)
と、いつものことながら、
理解が追いつてくるのが遅いよ、うに。

礼拝を終え、いよいよ弓かな……
と思ったらそんなことはなく。

最初は、道場内の歩き方(すり足)、方向の変え方、座り方(跪座)など、基本動作の練習がみっちり。

すり足ひとつとっても、やったことがないので全然うまくできません。

「う~ん、固いねえ。ほらほら、頭が揺れてる」と、千石先生に若干笑われつつ、うには先生の動きを見ながら、その後ろを懸命についていきます。

完全に、カルガモの親子状態でした。

そんなわけで、最初のうちはまったく弓に触る気配すらなく、

先生とマンツーマンで、ひたすら「礼拝」と「動き方」の練習の繰り返しでした。

地味っ。


でも、やっているうちに気づきました。
(あれ……私、こういう世界、好きかもしれない)って。

弓道って、その瞬間その瞬間で、やることがひとつなんです。

すり足で進む。
方角を変える。
右足を半歩引いて跪座をする。

それができるようになったら、今度は弓を腰に構えて、

すり足。
方向転換。
右足を半歩引いて跪座。

ひとつずつ、順番に足されていく。

あれもこれも同時にやりなさいといわれると
フリーズしてしまう、うになんですが

でも弓道は違いました。

次に何をするのか。
どちらを向くのか。
どこで座るのか。
どう立つのか。

ほとんど全部決まってて、
なんて快適……!


楽しいかも……!!


一般的には弓道の型って、

雑念を減らす、とか、自我を抑える、とか
型に身を預けて心を整える、みたいな、

修行とか瞑想に近い意味を
持ちやすいと思うんです。

だから、普通の人なら
厳しく堅苦しく感じるのかもしれません。

でも、うにには逆でした。

ひとつひとつ、型どおりに動けばいい。
型以外のことを判断しなくていい。
人の思惑を読まなくていい。
その場その場で変わる状況の
最適解を臨機応変に考えなくていい。

むしろ、余計な動作をいれると
「無駄な動きが多い」と言われる。

これって

うにの大好きな、
ルーティンの世界なわけです……!
OMG!

目の前で千石先生が見せてくださる所作を
そのまま真似すれば良いから、
とにかくわかりやすくて。

しかも、弓道って、目的が自己鍛練なんですよね。
誰かと競う必要がない。
比べられることもない。
当たる当たらないも関係ない。
ただひたすらに、先生の背中を見て学び(真似び)
昨日までの自分よりより良くなるよう
努力するだけ。
これがまた不思議なんですが、自由を感じて。

うに、この世界、好き。


このようなわけで。

うには、かなり長いあいだ、弓を引くどころか
体配ばかりをみっちり練習していたのに、
それが嫌になることもなく、
たんたんと弓道場に通うようになったのでした。


立ち上がれない

射に入る前の体配には、

所定の位置まですり足で進む。
方角を変えて、的を正面に見る。
右足を半歩引いて、跪座。
揖をする。
膝立ちになり、左足の膝を立てて、そのままスッと立ち上がる。

という所作があります。

ところが、うには最後の、

「左足の膝を立てて、上半身を垂直に保ったまま、スッと立ち上がる」

これができませんでした。

立ち上がろうとすると、グラグラ。

倒れないようにしようとすると、
今度は上半身が前に倒れて不恰好に。

何度やっても、スッと立てない。

そんなうにを見て、千石先生がひと言。

「太ももと、腹筋、背筋を鍛えよっか」

筋力不足だった……!
毎日歩いているだけでは足りなかった……!

というわけで、その日から、
うには家で、せっせとスクワットを始めました。


弓が引けない

「じゃあ、この弓を引いてごらん」

千石先生が、普段ご自分で使っている弓を渡して下さいました。

(ついに、弓の練習が始まるようです!)

うには言われた通りに引いてみたのですが――

「む、無理です~~💦」

力を入れているつもりなのに、びくともしません。

そんなうにを見て、千石先生はにんまり。

「ふふふ。そうだろ~」

……なんだか、ちょっと嬉しそうです。

それから先生は、道場に備え付けてあるシンプルな弓を一本持ってきました。

「じゃあ、これならどうかな」

今度はどうだ、と引いてみると――

「う……っ」

これもなかなか強い。

でも、さっきとは違って、なんとか引けます。

そうか。弓って、どれも同じじゃないんだ。
強い弓と、弱い弓があるんだ……!

「先生の弓、すごく強かった……
先生、凄い……」

と、思わずうにが呟くと
千石先生はニンマリして

「背筋、鍛えたいねえ。
家で壁に手をついて、腕立て伏せ」

……。

というわけで、家でのトレーニングメニューに、壁腕立て伏せが追加。


息が足りない

さらに、何度も何度も指導されたのが、呼吸法でした。

「大三(だいさん)で、息を吸って」

「はい、ここから。息を少しずつ吐きながら、引き分け」

「そのまま、長~~く、細~~く息を吐きながら、会へ」

「へその下が、丹田ね、そこにぐっと力を入れて」

「そうそう。息は細く、細く、吐き続ける~」

先生の言う通りに、一生懸命やってみるのですが――

(ぐうううう……)

途中で、どうしても苦しくなってきます。

(せ、先生……息が……息が足りなくなっちゃいます~~~!!)

弓を引くだけでも大変なのに、

姿勢を保って、
お腹に力を入れて、
そのうえ呼吸までコントロールする。

くうううう

「う~ん。家で腹式呼吸の練習かな」

……。

こうして、

スクワット。
壁腕立て伏せ。
腹式呼吸。

うにの家トレメニューは、着々と増えていったのでした。


世一先輩が軽い


その日も、朝の弓道場には、うにと千石先生しかいませんでした。

いつものように、すり足。方向転換。跪座。揖。

ひとつずつ。

静かな道場に、足袋の擦れる音だけが響きます。

「はい、もう一回。息を吐くとき、さらに意識して肩を下げて」

「はい」

うにが姿勢を整え直した、そのときでした。

道場の入口のほうから、突然、

「千石先生、おはようございます!」

やたら元気な男性の声が響きました。

そこに立っていたのは、20代半ばくらいの男の人でした。

すらりとした長身に、短く整えた黒髪。
きちんと七三に分けた前髪の下には、少し三白眼ぎみの、きりっとしたつり目。ちょっと怖そう……な見た目に反して、表情は、にこにこと満面の笑み。

「おう、世一(よいち)、どうした」

千石先生は、特に驚く様子もなく答えました。

「今日は仕事じゃないのか?」

「昨日まで出張だったんで、代休で!
先生、これ、後でみなさんにどうぞ!」

世一と呼ばれたその人は、手土産の紙つづみを見せてにこっと笑いました。

さっきまで少し鋭く見えていた目が、笑った途端、すっと細くなって一直線になります。ちょっと狐みたい。

「で、そちらが……?
先生が最近、朝に若い子教えてるって」

千石先生が、少し呆れた顔をします。

「おまえ、それ見に来たのか」

「だって気になるじゃないですか。出張明けで疲れてたんで休もうかなーとは思ってたんですよ。でもどうせなら、先生のお顔を見に♪」

言いながら、世一はうにのほうを見て、にこにこしています。

気になるな~!


あ~、気になるな~!

「お前、わしの顔みてないだろ……」


うには、とりあえず頭を下げました。

「あ、あの、はじめまして……うにです」

「どうもー。俺、世一です、谷、世一。
よいち、は余り一、じゃなくて
世界で唯一の、一ね!

いやあ、本当に、『うに』だ! わはは」

軽っ。


千石先生が、やれやれという顔をしました。

「こいつは昔からこうなんだよ、軽いんだよなぁ」

「風のように軽やかに、が信条ですから」

「弓道始めた理由が、また、酷くてな~」

すると世一は、少しもためらわず、胸を張りました。

「女の子にモテるためです!」


朝の道場に、世一の声がきれいに響きました。

うには固まりました。

(……は?)

千石先生はというと、

「な? うにも、どうかと思うだろ」と、うにに同意を求めます。

「だって弓道って格好いいじゃないですか。袴はくし。姿勢いいし。弓でぱあ~んと的中なんか出したら、絶対女の子にもてると思って!」

「それで、モテたのか?」

「それが、うちの高校の弓道部、入ってみたら男ばっかりだったんすよね~」

千石先生が大きく笑いました。

うにも、思わず笑いそうになります。
でも先輩です。笑っちゃいけない……かもしれない。
ぐっと丹田に力をいれて堪えます。

世一はそんなことにはまったく構わず、道場に上がってくると、神棚に向かって礼をした後、

「先生、ちょっと見てていいです?」

と言って、道場の隅に腰を下ろしました。

(うわあ……見られる……)

さっきまで先生と二人きりだったのに、急にひとり増えただけで、ものすごく緊張します。

「はい、じゃあ続き」

千石先生もまったくお構いなしです。

うには再び弓を構えました。

大三。

引き分け。

会。

「ふう~~……」

息を細く吐きながら、必死に形を保ちます。

「肩、落として」

「腕の筋肉で引くんじゃなくて、肩甲骨で引くんだよ」

「そうそう。肩甲骨を寄せて、肩を下ろして」

「耐えて、耐えて、丹田にためて」

(ぐうううう……)

先生の声だけに集中したい。

集中したいのに――

(あああ……道場の隅に座ってる人の視線が気になる~~💦)

そんなうにを、
世一先輩は道場の隅から
ニヤニヤと面白そうに眺めていました。

ぜ~~ったいに、面白がってる!!!


つづく!

つづきはこちら!


大切なお知らせ
本作は実体験に着想を得たエッセイですが、プライバシー配慮のため登場人物・団体・時系列・場所等に創作・合成・編集を含みます。特定を意図していません。ただし、うにが感じた気持ちと気づきは本物です。

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※本作は実体験をもとに再構成した創作エッセイです。


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