見出し画像

詩ことばの森(400)「琴の音」

琴の音

山門には札所と書かれていた
だれもいない参道を歩く
どこからか琴の音いざなうように
風の流れるまま本堂へと歩く

南無観世音まします 補陀落浄土を願う
巡礼者たちの残影が白く霞む夏
過去と現在と未来をさまよう夏
遠い時間のうちに境内は静まり
わたしの願いも 白い夏の幻となる

ふりかえると そこに誰かがいた
そんな気がしたのも 琴の音のせいか
奥の院のある 裏山から流れる小川の
せせらぎといっしょになって
わたしの耳にやわらかな響き
悲しい声も 苦しい声も
怒りも 憎しみも
軽やかに流され やがて消えてゆく

さまよう心のままに
巡礼の道を わたしは歩きつづける
琴の音のひとに
書いていただいた御朱印を抱いて

(森雪拾)

いいなと思ったら応援しよう!