整体師とお坊さんとカカシ 第28話
新大阪駅で降りるのは二回目だ。子どもの頃、母とUSJに行ったときにここで乗り換えた覚えがある。
「わあ、やっぱり博多と感じが違うねぇ。ハイヒールモモコみたいなファッションの人がホントにいるんだ・・・・・・」
ホームを歩きながら感心する母のつぶやきが妙に残って忘れられない。
あれから20年近く経ち、大人になって一人で降りた新大阪駅にハイヒールのような衝撃はない。だが平日火曜日とありサラリーマンたちの波に抗いながらホームを進まねばならず、博多から出てきた田舎者であることを痛感した。何とか大阪メトロを探し当てて御堂筋線に乗り換える。
辻田深園は看護学校時代に交換した携帯番号を解約したらしく、電話しても繋がらない。
先日の京都研修で久々に再開したが、あのようなハプニングがあったからゆっくり話すことも出来ずにいた。
そこにきて、私が田中大造さんの自宅で販売中止になったサプリを発見。奥さまによると「ナニワ癒やしックス」で購入したという。とにかく深園に連絡をとらねばとFBG本部にかけあって今の電話番号を教えてもらった。
現在は大阪市浪速区の大国町でひとり暮らししているという。私が「会いに行くから」と押し切る形で話をつけて、新幹線に飛び乗ったというわけだ。
御堂筋線の大国町駅(だいこくちょうえき)で降りたら改札口で深園が待っててくれた。
「ども」
「ども」
私が軽く手を上げたら、深園も同じように返した。お互いにどう心を開いたものか戸惑いがあるのだ。
かつての親友も長いこと音沙汰がなく、久々に再会したかと思えばワケアリな感じで口も聞かない。これは私の事情だが青い光の力を目の当たりにした深園が失神。あげくの果てに発禁サプリを販売した疑惑が発覚して、半ば強引に会う羽目になった。
そんな状況でお互いに「キャー久しぶりー」「遠いところ大変だったでしょう」なんて上っ面だけで喜ぶ気持ちにはなれないものだ。
「とりあえず、うちで何か食べながら話そっか」
深園は歩きながらそう言うと、通り沿いのコンビニに寄った。
外食すれば出費がかさむし、自宅だと込み入った話も気兼ねなく出来る。私も彼女の適確な判断に従うしかない。
「せっかく大阪に来たんだから、こだわりの鉄板お好み焼きとか、肉吸いとか食べてみれば。あ、このサンミーっていう菓子パンもめちゃ美味しいよ」
「へーっ、やっぱり地域色があるんだね。あ、徳島県産すだちのぶっかけ三輪そうめんだって。見てるだけでヨダレでてきちゃう」
どんどん買ってしまいそうなのを抑えるのが大変だった。昼食と缶チューハイをゲットして深園んちに向かう。
歩いて5分ほどのエキチカワンルームマンションの1階に部屋を借りていた。
「ここ15階まであるから上の方が見晴らしはよさそうだけどね。1階だとすぐ外だから出かけるのに時間がかからないし、こっちもいいかなって思えるようになった」
深園が鍵を開けながら住み心地を話していたが、部屋は思ったより広くてひとり暮らしには十分そうだ。
「クッションとかないけど、適当に座ってね」
オシャレなちゃぶ台という感じの丸いローテーブルにコンビニで買った食料と缶チューハイを並べてようやく落ち着いた。
「まずはカンパイしよっ」
深園がプルタブをプシュッといわせるので私も遅れをとるまいと続く。
「よーし、じゃ大阪にカンパーイ」
「いえーっい」
アルミ缶を軽く合わせて歓声を上げればとりあえずモヤモヤは置いてハイテンションになれた。
お好み焼きをつまみながらお酒が進むにしたがい、昔のように打ち解けてくる。
「あのときはびっくりしたよー!京都研修で何か見覚えがあるなって思ったら深園じゃん。しかも私を見ても知らんふりするしさ。けっこうショックだったんだから」
「こっちのセリフだっちゅうの。なぜ整体の研修に舞がいるの?ていうか私も整体師になってるし、目が合ったらどうしよう。緊張してあんな感じになっちゃったのよ」
深園から当時の心境を聞いて思い当たる節があった。当然のように自分を中心に考えていたが、深園からすれば看護師になったはずの私があそこに居たのだから同じように驚いても不思議はない。
「なんだぁ、じゃあ二人とも同じ匂いがしてたってことね」
「やっぱり、似た者どうしなのよ」
アハハハハ
ほろ酔いで笑い合った。
私は今がその時とばかりに一歩踏み込んでみる。
「なんで辞めたの、看護師。私も話すけど長くなるし、深園から話してよ」
「なにそれ、私だってけっこういろいろあったんだから。まあいっか、どうせ話さないと許してくれないんでしょ」
深園が渋々という感じで話し始める。
「あれから都内の総合病院に採用されたんだけどなんか馴染めなくてさ。ほら血が苦手じゃん。だから無意識に引け目を感じてたのかも。先輩ナースから早くしろ、手際が悪いってダメ出しばかりされて、ドクターからも味噌っかす扱いされてたと思う。それに夜勤が苦手で精神的にも肉体的にもガタガタになってくのがわかった」
「夜勤はじわじわ響いてくるもんね」
私は相づちを打ちながら、夜勤明けに整体サロン・ツンノーテと出会ったことを思い出した。だが今は深園の話に集中するべきだろう。
「それでいろいろ探してたら訪問看護ステーションが募集してたのね。採用条件に看護師の実務経験3年以上ってあったから、あと半年頑張って転職しようって心に決めたの。看護学校のときもコミュニケーション技術だけは得意で、実習でも患者さんとおしゃべりするのが好きだったのよね。だから訪問看護はぴったりだった。でも・・・・・・」
「でも?なんかあったんだ?」
深園が戸惑ったので、少し背中を押してみた。
「セクハラよ。看護実習でも看護師になってもセクハラはあったし、多少は我慢してきたわ。でも、認知症のおじいちゃんから抱きつかれたときは参った。なんかやるせなくなって、それ以来モチベーションが切れちゃった」
「セクハラはホント悩ましい問題よね。それで辞めたんでしょ。懸命な判断だったと思うわ。で?なぜ整体を始めたの」
私はさりげなく核心に近づこうとした。
「病院もだけど訪問看護をしていたらマッサージしてほしいってよく言われたわ。でも、看護師は医師の指示がなければマッサージは違法になるでしょ。後々、あん摩マッサージ指圧師は国家資格だから時間的に無理だけど、整体は民間資格だから取れそうだなって思った。そこで情報を集めていたらFBGを見つけたわけ。都内や関東圏は苦手意識がついちゃって、関西の整体院で探したらナニワ癒やしックスが募集していたの」
いよいよナニワ癒やしックスの登場だ。ここからは深園を傷つけないように言葉を選びながら追及せねば。私はすぐ調子に乗る己に釘を刺した。
「私はこないだの京都研修で二回目だったけど、深園はこれまで何回ぐらい受けたの?」
「京都で四回目かな。ほらFBGは講習や研修を受けたらランクアップするでしょ。うちの方針が『どんどん受けてどんどん売ってどんどん昇格』だからね」
「それって、ナニワ癒やしックスの院長、犬丸先生だっけ、が考えた独自の方針なの?」
犬丸という個人名が出た瞬間、深園の目が泳いだ。
「え?犬丸さんが考えたっていうか、FBGの方針でしょ」
「たぶん違うと思う。FBGとしてはそれぞれの院長に任せているはずよ。私は整体サロン・ツンノーテに所属しているけど、講習だって受講するかどうか各自の都合で決めていいし」
「なんか心配だな、舞こそそんないいかげんなとこに入っていて大丈夫なの?」
「ちょっと待って、ヤバイかも・・・・・・」
私は深園の反応に混乱した。
洗脳されているのだろうか。それは深園か私か。コンマ秒の速さで脳みそフル回転させた。
従来の私ならばどちらが洗脳されているか判断しただろうし、9割以上の確率で深園が洗脳されているとはじき出したに違いない。だが今は是風和尚から聞いた言葉がよぎる。
「お前たちはなぜ、そうやって答えを知ろうとするのだ」
答えを急いではいけない。もっとよく考えろ。
私はどうなのよ。野中さんから洗脳されてることになるのかしら。勉強会で教わったことを鵜呑みにしているけど、ホントにそれでいいの。でも整体に関してそれを上回る知識を持ってないわけだしいいんじゃない。野中さんの勉強会で学んだから、講習会で阿比留先生に教わったこともある程度ついていけたわけだし。それは『洗脳』ではなく『学習』だと思う。
じゃあ深園はどうなの。もっと深刻な悩みを抱えているような気がする。
そうよ、あの件を確かめないといけないわ。彼女の心の奥にある『本心』を引き出すためにも。
「ねえ深園。あの夜、滝の前で犬丸先生に何をされていたの」
私が放ったひと言で彼女の顔が真っ白になった。ストレスで自律神経が乱れ血管が収縮している可能性が高い。やがて感情が爆発する。
「違う!違うの!あの人は、犬丸さんは悪くない、私のことを心配してくれてるんだから」
みるみる涙が溢れて頬を流れボタボタこぼれ落ちていく。
私はなんとうかつなのだろう。
そんな深園の姿を見てようやくわかった。
「恋」しかも一方的に操られる「恋の奴隷」なのだと。
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