芋出し画像

小説『ドリップアりト ―砕かれた人生に宿る䞀滎―』

粉々に砕かれた人生でも、その䞀滎は螊る。


【あらすじ】

完璧䞻矩、むゞメ、停り。そしお、二床のう぀病。
僕の人生は音を立おお粉々に砕け散った。
呌吞の仕方も忘れるほど、分厚く、
也いた壁に閉じ蟌められた日々。
その暗闇の先で芋぀けた「螊る䞀滎」ずは。

たるで、珈琲ができるたでのような人生の物語。
党10章゚ピロヌグ玄32,000文字の䞭線私小説

䞭線䜜品ですので、
お奜きなコヌヒヌを片手に、
ゆっくりず時間をかけおお読みいただければ幞いです。


【登堎人物】

  • 䞻人公䞀ノ瀬玔 

  • 友人広瀬培

  • カフェ ノィノィアンのマスタヌ堀隆文


【読者の皆様ぞ】

本䜜品は「note創䜜倧賞20264/8〜7/8」ぞの応募䜜です。
本来、埌半郚分は有料で公開しおおりたしたが、
遞考期間終了たで無料で公開するこずにいたしたす。

䞀人でも倚くの方に、この物語が届くこずを願っおいたす。


※この䜜品は、筆者の実䜓隓をベヌスにした、
セミフィクションの私小説です。

䞀郚、プラむバシヌや物語の構成䞊、
名称の倉曎や脚色を加えおいたすが、
綎られおいる感情の倚くは
僕の身に起きた真実に基づいおいたす。




第䞀章カッティング


-34æ­³-

二〇二二幎
䞀ノ瀬玔。独身。倧手メヌカヌの支店長。
そしお、明日は誕生日。
「自分ぞのご耒矎」ずいう名目で、
今倜は自分を甘やかすこずにした。
ずっず気になっおいた、
郜内でも指折りの高玚レストランに来おいる。

前菜を口いっぱいに頬匵り、
゚ビずマッシュルヌムのアヒヌゞョを食す。
熱せられたオむルの䞭で、
ガヌリックがほんのり銙る。

マッシュルヌムを口に含んだ。

 味が、しない。

たるで束になった茪ゎムを噛んでいるみたいだ。

「ふふっ 」

思わず笑いが挏れた。

高いからっお、矎味しいずは限らないんだな 。

「店で䞀番高い赀ワむンをお願いしたす」

店員を呌び、淡々ず告げる。
店員が手慣れた様子で銘柄や
ノィンテヌゞの説明を添えおくれるが、
その名前すら、今の僕の耳をすり抜けおいった。

ただ、グラスに泚がれる液䜓を䞀点に芋぀め、
店員が去るず同時に、それも数秒で飲み干した。

血のような色が、空のグラスに虚しく残った。

メむンは奮発しお牛フィレのステヌキだ。
埅぀間、目の前に䞊べられたカトラリヌを
じっず芋぀めおいた。
その冷たい塊が、スパンコヌルのように
グラグラず茝き、芖界の端で火花を散らす。



䞀点を芋぀めおいるず、
呚囲の客の顔が溶けお消えおいくようだった。





ふず、我に返るず、
い぀の間にかステヌキが目の前に運ばれおいた。
味も分からぬたた頬匵り、
ものの数秒で胃に流し蟌む。

隣の垭からカチャカチャず
ナむフず皿がこすれる嫌な音が響いおきた。

耳障りだな。力みすぎなんだよ。
それくらいスマヌトにできるようになっおから、
こういう店に来ればいいのに 。

苛立ちで指先が震えた。自分の心の狭さを、
口にかすかに残る牛の匂いずワむンの苊味で
無理やり塗り぀ぶす。

次に届いたのは、デザヌトのティラミスず、
倧奜きなコヌヒヌ。それらを亀互に口ぞ運ぶ。
飲み終えたコヌヒヌの濁りがカップの底で
足掻いおいる。


僕はそれを眺め、ただじっず、
逃げ堎を倱っおいくさたを芋぀める。







䜙韻に浞っおいたのか 、
気づけばしばらくの間、爪をいじっおいた。

さっさず䌚蚈を枈たせお
逃げるように店を埌にする。







垰りの電車は、なぜか混んでいた。
今日は、䞀分䞀秒も無駄にしたくない。
カバンを䞡手で抱えながら
抌し蟌たれるようにしお、
窮屈な箱の䞭に䜕ずか収たり、扉が閉たる。
入口の窓に映る瞮こたった自分の姿を
芋おいるうちに 



自分ず目が合い、思わず目を背けお我に返った。
気づけば、降りる駅だ。






家に垰るず僕を埅っおいたのは、
寂しく散らかった狭い間取りず静寂 

リビングの50むンチテレビに、
お気に入りのミュヌゞカル映画を映し出す。
画面の䞭では、
極圩色の衣装に芆われた螊り子たちが、
軜やかなステップで人生の矎しさや垌望を
歌い䞊げおいる。
僕はそれを眺めながら、
冷蔵庫にあった最埌のビヌルを煜った。

久々に芳るミュヌゞカルだからか、
酔っおいるからか、
今の僕にはギラギラずボダけお
䞊手く映像を盎芖できない。

歌声が倧きく響く。ダンスがグルグルず匟ける。

画面の䞭が賑やかになればなるほど、


僕の座る゜ファの呚りだけが、

ゆっくりず床に沈んでゆく 







気づくず、手に握ったチャンネルを芋぀めたたた、
映画はい぀の間にか終わっおいた。

「久々の映画は、集䞭できないな 」








最埌に、い぀もはシャワヌで枈たせるけれど、
今倜は特別に湯船を匵った。
莅沢な䞀日の締めくくり。
たっぷりのお湯に肩たで浞かり、目を閉じる。

「最高の人生か 」

先ほどの映画のセリフを
自分に蚀い聞かせるように、独り蚀が挏れた。
倧手メヌカヌに勀め、
幎収はそこそこ、ある皋床の生掻。
その肩曞きは、今の僕には重すぎお、
仕事を思い出すたびに呌吞が止たる。
心臓に重りでも぀いおいるかのように、
芖線がゆっくりず底ぞ匕きずられおいく。
湯船に浞かれば、
この胞の぀かえず筋肉の緊匵も
少しは和らぐだろうず思った。





本圓に、思い残すこずは䜕ひず぀ない 


 いや、もう、䜕も残っおいないんだ。

僕は、新品のカミ゜リを手に取った。

芖界が、急激に絞り蟌たれおいく。
点けっぱなしのテレビの音も、
口に残るビヌルの匂いも、
すべおが遠い䞖界の出来事のように溶けおいく。
僕の目には今、ステンレス補の刃に反射する。
鈍い銀色の光が無機質に映る。
芖線が自分の手元ぞず寄る。
さっきレストランでも無意識にいじっおいた
芪指の爪。
その付け根にある、癜く小さな半月型の暡様。
芖界が極限たでに絞られる。
䞖界から色が消え、
ただ「無」に近い癜ず銀だけが、
僕の芖界を支配した。








「――そろそろ、やるか」



僕の人生は、ずいぶん前から脆く厩れ去り、
粉々になっおいた。

その冷たい刃先が、僕の薄い皮膚に觊れた瞬間。

挆黒の䞀滎が床に萜ちおいく 。


第二章テロワヌル


-0æ­³-

目に刺さるような、暎力的な倏の光。

䞀九八八幎八月。 真っ癜な産院の倩井。

モノクロに映るこの䞖界が、

僕が最初に芋た景色だった。

僕は、その光の䞭で産声を䞊げた。

自分自身の叫び声が、
遠い耳鳎りのように聞こえおいただろう。

埌になっお母から䜕床も聞かされた。


「玔が生たれた日、
耳が痛くなるくらい泣いおいお、
看護垫さんの声が聞き取れなかったんだよ」


父が僕の指に觊れ、
「真っ盎ぐに、玔粋に」ず願っお
「玔」ず名付けたこずも、埌に母から聞かされた。

祝犏。期埅。無垢な願い。

人生の最初のペヌゞには、
そんな眩しすぎる蚀葉たちが䞊んでいた。

あの日、僕を包んでいたはずの倏の熱気は、
今、どこぞ消えおしたったんだろう。


-1æ­³-

「居間に集たった芪戚たちの真ん䞭でね、
玔はよちよちず歩いおたよ。
転びそうになるず、
みんなが『おっず』ず手を出しお。
玔が笑うず、郚屋がパッず明るくなるのよ」

母か祖母が話しおくれた、僕の蚘憶の原颚景。

赀ん坊の僕には、
その居間はあたりにも広すぎただろう。

囲んでいる倧人たちは芋䞊げるほどに倧きく、
その隙間から差し蟌む光はどこたでも明るい。

䞖界は祝犏に満ちおいたに違いない。

僕は、本胜的に気づいおいたのだず思う。

僕が笑えば、みんなも笑う。

だから僕は、期埅に応えるように、
無邪気な子䟛ずしお真っ盎ぐに歩いおみせる。

でも、ふず芖界の端。遠く離れた郚屋の隅。
父は䞀人でビヌルを飲んでいたらしい。

きっず目が合っただろう。
感情の読み取れない、無機質な芖線。

僕は䞀瞬、動きを止める。

その時、父は、ほんの数ミリだけ口角を䞊げる。

それを芋お、僕は倢䞭になっお
たた次の䞀歩を螏み出す。

それが、僕の「挔じる人生」の始たり。

最初の䞀歩だったのだろう。

誰かの期埅を読み取り、
誰かの喜びのために自分を差し出す。
そんな歪な正解を積み重ねた先が、
手銖の皮膚に冷たい刃を立おた自分に
繋がっおいくのだず、
あの眩しい光の䞭にいた誰が予想できただろうか 


-2æ­³-

「玔は、本圓に手のかからない子だったわね」

母が満足そうに、䜕床も繰り返したその蚀葉。
それは僕にずっおの勲章であり、
同時に、自分を抌し殺すために自分自身にかけた

「最初の呪い」でもあったのだろう。

今、思い返すず、その蚀葉を向けられるたび、
僕はどんな顔をしお、どんな気持ちで飲み蟌めば
正解だったのだろう。

どれだけ歳月をかけおも、
この答えは今も分からないたただ。

僕はどうやら、
いわゆる「むダむダ期」がなかったらしい。

欲しいおもちゃが買っおもらえなくおも、
公園から垰りたくなくおも、
僕は地べたに寝転んで泣き叫ぶこずはしなかった。

泣きそうになるず、
決たっお父の無衚情な顔が浮かぶ。

あるいは、困ったように眉を䞋げる母の顔。

それを芋るくらいなら、
我慢する方がずっず楜だったのかもしれない。

本胜的なものだったのだろう 。



「玔は、本圓にいい子ね」



そう蚀っお頭を撫でられるたび、
僕は自分の心の䞭に、
小さな消えない「空掞」ができおいった。


-3æ­³-

保育園の先生は、い぀も母に蚀っおいたそうだ。

「玔くんは本圓に手がかからない、いい子ですね。
お友達ずも元気よく遊んでいたすよ」

母は嬉しそうに僕の頭を撫でおいた。

その手の枩もりが、
この時の僕が理解しおいた「正解」だず思う。

園庭を党力で走るのが奜きだった。

䞉歳の僕が芋る園庭は、
どこたでも広く、どこぞでも行けるような
自由な光に満ちおいたはずだ。

勢い䜙っお掟手に転び、
膝から血が流れたこずがあった。

それでも僕は泣かなかった。

「痛かったねヌ」 心配そうに顔を芗き蟌む先生に、
僕は涙を堪えおニッコリ笑い

「平気だよ」

ず匷がったのをかすかに芚えおいる。

絆創膏を貌っおもらいながら、
耒めおくれる先生の顔を芋るのが、
膝の痛みよりもずっず心地よかったず思う。

痛みずいう自分の感芚を、
誰かの笑顔ずいう「倖の感芚」で塗り぀ぶす。

それが僕にずっおの歪な達成感だったのだろう。


-4æ­³-

友達が泣いおいれば頭を撫でに行き、
先生が困っおいれば真っ先に駆け寄る。

「玔くんは本圓に頌りになるわね」

その蚀葉をもらうたび、
抑えきれない喜びを䞡手で隠しおいた蚘憶がある。

自分が良いこずをしおいるこずが、誇らしかった。

呚囲の期埅を先回りしお、
誰かが望む「理想の自分」を差し出す。

「次はどうすれば耒めおくれるかな」ず、

クむズの正解を次々に圓おおいくような快感が、
幌い僕の心を占めおいく。

かけっこでも、僕は垞に䞀番だった。

笛の音ず共に地面を蹎り、颚を切る。

芖界の端で流れおいく景色はどこたでも明るく、
ゎヌルテヌプの先で埅぀みんなの声揎だけを
目指しお走った。

䞀番になり、耒めおもらうたびに嬉しかった。

だから、走るのが奜きだった。

自分が「完璧」でいる限り、
䞖界䞭の誰もが僕を倧奜きでいおくれる。

そんな、枩かな光の䞭に守られおいるような
党胜感を感じおいたのだろう。


-5æ­³-

お遊戯䌚では䞻圹になり、
リレヌではアンカヌを走った。

母も先生すらも、僕を芋お誇らしげに笑っおいる。

その期埅を背負うこずは、
僕にずっお最高に心地よかっただろう。

けれど、その完璧な䞖界に亀裂が入った蚘憶を
鮮明に芚えおいる。

リレヌ本番で、僕はバトンを萜ずした。


カランッ 

ず也いた音がしお、
僕の手から䞀瞬で期埅が消えた。

頭の䞭が真っ癜になった。
心臓が耳元で激しくバクバクず鳎り、
呚囲の景色が急速に狭くなる。
僕の䞖界から色が消え、
地面に転がるあの「バトン」だけが、
冷たくこちらを芗いおいるように芋えた。

叫び出したかった。

僕のせいで負けそうになったから 、
泣き出しそうだった。

でも僕は、
こちらを詊すように芗くそのバトンを拟い䞊げ、
無我倢䞭で走り続けた。

そしお、拳䞀個分の差で䜕ずか1䜍になった。

ゎヌルした埌、悔しくお泣いおいる友達を暪目に、
僕はひどく安堵しおいた。

――負けたら、完璧じゃなくなる。

――完璧じゃなくなったら、耒めおもらえない。

そんな恐怖を抱えながらも、僕は笑顔でいた。

その「挔技」が、五歳の僕にはもう、
呌吞ず同じくらい圓たり前になっおいた。

広かったはずの園庭が、
その日、ほんの少しだけ狭く芋えた気がした。


-6æ­³-

小孊校の入孊匏。

ピカピカのランドセルを背負った僕がいた。

家族からの満足そうな芖線をいたも忘れない。

䞖界はどこたでも明るく、
毎日が茝いお芋えおいた。その幎の冬たでは 。



冬になるず、

家族からの熱い芖線は、
生たれたばかりの効に向けられた。

父も、祖父母たちも、
みんなが新しい呜の誕生を心から喜んでいた。

それを芋た僕は、蚳も分からぬたた


「これは喜ぶべきこずなんだ」

ず反射的に反応しお、粟䞀杯の笑顔を浮かべた。

けれど、珟実は残酷だった。

家の空気は䞀倉した。

母の手は垞に効に取られ、
父の芖線も僕を通り越しおベビヌベッドに向く。

僕がただそこにいるだけでは、
誰も僕を芋おくれなくなった。

芖界の隅に、遊び叀されお汚れたおもちゃが、
がんやりず映りこちらを向いおいる。

テストで癟点を取った時。
先生が僕の解答甚玙をクラスのみんなに芋せお、

「今回は、䞀ノ瀬くんだけが癟点でした」

ず蚀った。誇らしい気持ちの裏偎で、
僕は少しだけ、喉が枇くような感芚を芚えた。


――次も、癟点を取れば耒めおもらえる。


気持ちがいい。

でも、それに応え続けなければ、
僕に居堎所はなくなるんじゃないか 。

い぀の間にか、僕は隣の垭の友達の答えを、
悪びれもせず芗くようになっおいた。

眪悪感なんおなかった。

癟点を取るこず以䞊に、
倧切なこずはないず思い蟌んでいたから。

繰り返されるテストの床に、
僕の芖線は手元で䞍快に笑う綺麗な甚玙ず、
豪快に笑う隣のペン先しか芋えなくなっおいった。

六歳の僕は、
もう自分を繕うこずを無意識にこなしおいた。

僕の䟡倀は「ずっず癟点がずれるこず」
でなければならない。

そう信じお疑わなかった。

そんな僕に、孝則ずいう芪友ができた。
孝則の家は狭くお、
お䞖蟞にも綺麗ずは蚀えないほど
物が乱雑に散らかっおいたけれど、
そこにはい぀もゲヌムがあった。

「玔、これやろうぜ」

散らかった郚屋で、孝則ずコントロヌラヌを握り、
画面の䞭で競い合ったり、敵を倒しおいく。

僕の家では味わえない、埃っぜくお自由な空気。

ゲヌムの画面に熱䞭しおいる間だけは、
誰かの顔色をうかがうこずも、
次のテストの心配をするこずも忘れおいられた。

あの薄暗い郚屋の、
発光するモニタヌだけを芋぀める時間は、
芖界を極限たで狭め、小さな䞖界に没入できる
唯䞀の䌑息だったのかもしれない。


-7æ­³-

僕は「挔じ分ける」こずを芚えおいた。

孊校では、誰かが芋おいるずころで
真面目に掃陀をする「立掟な生埒」を挔じ、
家では教科曞を広げお
熱心に勉匷する玠振りを芋せ、
父ず母の「立掟な子」を挔じる。

けれど、隣にいる効が、
䜕もしおいないのに熱い芖線を独占しおいる。

その光景を芋るたび、
胞の奥に黒いモダモダが溜たっおいった。

それから、僕は倖ぞもあたり出なくなり、
ろくに勉匷もしなくなった。
しかし、テストの点はい぀も満点だった。
父ず母は蚀った。



「玔は、できる子だから 」



その蚀葉を济びるたびに、僕は心から喜んだ。

けれど、その蚀葉は喜び以䞊に「呪い」ずなっお
僕を瞛り぀けおいく。

僕はすっかり努力を捚お、䜕もせず成果を出すこず
――効率よく「正解」をかすめ取るこず――
を求め続けるようになった。

攟課埌、孝則の家ぞ行けば、

砎れた障子の隙間から差し蟌む光の䞭で、
毒々しい色をした炭酞飲料を飲みながら、
ゲヌムのボタンを乱暎に叩く。

乱雑に絡たるコヌド、埃を被り、
積たれ厩れたカセット。
狭い郚屋で、魅力的に発光する画面だけが
僕の芖界を芆い尜くしおゆく。


――どちらが本圓の僕なんだろう。


そんな疑問が䜕床か浮かんだが、
答えなんおどうでもよかった。
誰かが喜ぶ「僕」であり続けおいれば、
この「幞犏な䞖界」で満足に過ごせるのだから。

もうこの時から、
自分を守るために自分を殺す術を、
僕は完璧に仕䞊げ぀぀あった。

あの出来事が、起きるたでは 。


第䞉章モノカルチャヌ


-8æ­³-

僕が必死に積み䞊げおきた「できる子」ずいう
完璧に思えたメッキは、
音を立おお剥がれ萜ち始めた。

理由は簡単だ。

この頃になるず、僕はろくに勉匷もせず、
ろくに運動もしおいなかったからだ。

あんなに奜きだったかけっこも、
い぀の間にか䞀番が取れなくなっおいた。
二番になるくらいなら、走らない方がいい。
完璧でいられないのなら、
最初からやらない方がマシだ。
そう思っお、僕は走るのをやめた。



孊校からの垰り道、
通っおいた保育園の暪を通った。



か぀おはあんなに広く、
どこたでも自由に芋えおいた園庭が、
今は驚くほど狭く、苊しく感じる。
䞖界が萎んでいく感芚が襲った。
そしお、僕の窮屈な癟点満点の生掻は、
ある時あっけなく終わりを迎える。












教宀に響く先生の怒声が、
最悪な日々の幕を開ける号砲ずなった。

垞習化しおいたテストでの冒涜が、
先生に芋぀かったのだ。

けれど、僕をそれ以䞊に打ちのめしたのは、
連絡を受けお孊校に来た母の、
ひどく萜ち蟌んだ顔だった。
叱られるよりも、
その「倱望」ずいう名の静かな拒絶が、
僕の心に深く突き刺さった。















ヌヌヌヌ
感じたこずのない恐怖ぞず倉わる。
僕を包んでいた枩い「祝犏」の空気は、
䞀瞬にしお凍り぀いた。
歪んだ「満点の生掻」は、
跡圢もなく無様に厩れおいった。
居堎所を倱った僕は、
自分を誀魔化すために自慢話を䞊べ、
停りを重ねるようになった。

「こんなすごいこずがあった」

「家にいけばあんなものがある」
「僕はすごいんだ」ず虚勢を匵れば匵るほど、
呚りの友達は䞀人、たた䞀人ず離れおいく。













気づけば、
僕の隣に立っおくれおいたのは、
孝則だけだった。










僕は、砎れた障子の向こう偎にある、
あの薄暗い郚屋に、
たすたす深く䟝存しおいくようになった。
ゲヌムのドットが
窮屈そうに箱の䞭に抌し蟌められおいる。
それを圓たり前のように
僕は凝芖しおそこから動けない。
高いノむズが狭い郚屋に響き枡り、
耳の奥を掻きむしる。
本圓の䞖界から目を逞らし、
狭い箱の䞭で、点の䞀郚ずなっおゆく。
そこだけが、
僕が生きられる唯䞀の堎所だず
信じお疑わなかった。


-9æ­³-

僕の䞖界は、たすたす狭く、
暗い堎所になっおいった。
クラスの連䞭の芖線が冷たい。
誰かが笑っおいるず、
自分の嘘がバレお
銬鹿にされおいるんじゃないかず、
耳の奥がカッず熱くなる。

孊校での僕は、もはや「完璧な優等生」ではなく、
「䜕を考えおいるか分からない、嘘぀きな䞀ノ瀬」だった。
家に垰れば、
効の無邪気な笑い声が高いノむズのように
錓膜を搔きむしる。
䜕も嘘を぀かず、
ありのたたの姿で愛されおいる効を芋おいるず、
胞の奥がチリチリず焌けるように痛んだ。










「食欲ないの」
母にそう蚀われお気づく。
自分はずっず箞の先を芋぀めお、
倕食の付け合わせを転がしおいた。

母の心配そうな声さえ、
今の僕には「期埅に応えられない圹立たず」ぞの
催促にしか聞こえない。
僕はただ黙っお、自分の郚屋にこもり、
足元のカヌペットの毛矜立ちをじっず芋぀める。













あずは、逃げるように孝則の家ぞ向かう日々。
孝則の家でコントロヌラヌを握っおいる間だけは、
僕は「䜕者」でもなくお枈んだ。
盞倉わらず砎れた障子の隙間から入る光が、
埃を癜く浮かび䞊がらせおいる。
そのモノクロヌムな静寂ず比䟋しお、
発光する箱の䞭だけは色鮮やかな魔法が攟たれ、
敵をなぎ倒す。
その䞀瞬の䞇胜感だけが、
僕がただ生きおいるこずを蚌明しおくれる
唯䞀の䞖界だった。


-10æ­³-

この幎、僕は自らの手で唯䞀の䞖界を焌き払った。









僕は䞀人になった。


たった䞀人の芪友、孝則ず喧嘩をしたのだ。

理由はあたりに些现で、そしお惚めなものだった。あれほど没頭しおいた箱の䞭で、
僕は孝則に党く勝おなくなった。
勉匷もダメ、運動もダメ。
嘘を塗り重ねおボロボロになった僕の䞭に、
唯䞀残されおいた「ゲヌムだけは埗意」ずいう
最埌の䞀片たでもが、
目の前で粉々に砕け散った。

耐えられなかった。



その箱の䞭でさえ「敗者」になるこずは、
僕ずいう人間の消滅を意味しおいた。



僕は孝則に、剥き出しの怒りをぶ぀けた。
「もういいよ、お前ずなんか遊ばない」
今なら分かる。

本圓に謝らなきゃいけないのは、僕の方だった。
けれど、
十歳の僕は、倧奜きだった芪友よりも、
ちっぜけなプラむドを遞んだ。
謝る方法も、自分を蚱す方法も知らなかった僕は、
そのたた孝則ず疎遠になった。
障子が砎れた、あの埃っぜくお枩かい郚屋は、
もう僕の居堎所ではなくなった。
逃げ堎所を倱った僕は、本圓の意味で
独りきりの暗闇に攟り出されたんだ。











攟課埌の教宀で、
僕はただ自分の机の傷をじっず芋぀めおいた。













芖界に入るのは、誰かが圫った萜曞きず、
自分の指先だけ。
䞖界はこんなに広いのに、僕の居堎所は、
この数十センチの机の䞊しか残されおいなかった。


-11歳‐

小孊校の卒業を間近に控え、僕は、
䞖界から色が消えたような日々を送っおいた。
孝則がいない攟課埌は、
耐えがたいほど静かだった。

䞀人でいるこずは、
自分が誰からも必芁ずされおいないこずを
突き぀けられる「拷問」ず同じだった。
けれど、誰かに近づこうずすれば、
たたあの惚めなプラむドが邪魔をする。
――もう、誰も信じられない。
――でも、䞀人になるのは、死ぬほど怖い。
人を信じお、たた裏切られるくらいなら、
最初から心に鍵をかけおおいたほうがいい。
僕は、誰の心にも螏み蟌たず、
自分の心にも螏み蟌たせない「透明な壁」を、
自分の呚りに匵り巡らせた。













卒業匏の予行挔習。冷え切った䜓育通の床。
僕はただ、
自分の䞊履きの先をじっず芋぀めおいた。
芖界は足元のわずかな円の䞭に収たり、
呚囲のざわめきは遠く、
たるで濁った氎の䞭に朜っおいるかのように
籠もっお聞こえる。










「䞭孊校に行けば、きっず党郚やり盎せる」
呪文のように、それだけを繰り返しおいた。

汚れた過去も、
぀いた嘘も、
芪友を傷぀けたあの日も、
党郚この小孊校に眮いおいこう。

僕はただ、春が来るのを震えながら埅っおいた。
新しい堎所に行けば、
たた「完璧な僕」に戻れるはずだず信じお。


-12æ­³-

二〇〇〇幎、
千幎玀の到来に䞖間は浮き足立っおいた。

正盎、僕はそんなこずどうでもよかった。
自分のこずで粟䞀杯だったのだ。
䞭孊にあがった僕の生掻は、
意倖にも順調に滑り出した。

小孊校時代の「惚めな䞀ノ瀬」を
知る奎は少なかった。
昚幎味わった「䞀人がっち」ずいう名の拷問が、
皮肉にも僕の挔技力を磚き䞊げおいた。

堎の空気を読み、
誰が䜕を求めおいるのかを瞬時に刀断し、
最適な蚀葉を投げかける。

知ったかぶりの虚蚀はただ残っおいたけれど、
それすらも「堎を盛り䞊げるスパむス」ずしお、
以前よりずっず狡猟にコントロヌルしおみせた。
新しい友達もでき、
䞀緒に笑い合うこずもできた。
けれど、
心の䞭にはい぀も、
抜けない棘のような違和感があった。
――孝則。
同じ校舎の䞭にいるのに、
䞀床も蚀葉を亀わすこずはない。

廊䞋ですれ違うたびに、
心臓が握り朰されるような感芚に襲われる。

あの日、プラむドを優先しお「唯䞀の䞖界」を
焌き払っおしたったずいう埌悔。

そしお、
あれほど䟝存した関係が
いずも簡単に壊れるのだずいう絶望。

僕は、誰かず笑いながらも、
心のシャッタヌは重く閉ざしたたただった。

あれから僕は、












気が付くず

自分の足元ばかりを芋぀めるようになっおいた。
たたに顔を䞊げおも、
笑うクラスメむトの顔は
どこかフィルタヌ越しのように遠く、
珟実味がない。
たるで、
音の消えたモノクロ映画を芳おいるような、
色圩を欠いた光景。
もう二床ず、あんな思いをするくらいなら、
誰も信じない方がマシだ。
いや、違う  
ただ、もう信じるのが、死ぬほど怖いのだ。
こんなこずを考えながら、平和を装っおいた。

しかし、その停りで䜜られた平和ですら、
あえなく打ち砕かれおゆく 。


-13æ­³-

友達が増え、このたた「安党な䞖界」を
泳ぎ切れるず思っおいた僕に、暗雲が立ち蟌めた。

芖力が萜ち、メガネをかけ始めた。

ただそれだけのこずだった。

けれど、クラスの䞍良たちが攟った
「メガネっ子」ずいう嘲笑たじりの蚀葉は、
驚くほど速く教宀䞭に䌝染し、
僕は栌奜のむゞメの察象になった。

昚日たで笑い合っおいた「友達」は、
䞀瞬で、僕を囲む冷ややかな「芳客」に倉わった。
順調だった毎日が、砂の城のように脆く厩れ去る。
陰湿さを増しおいくむゞメに耐えられず、
僕は逃げるように孊校を䌑むようになった。








数週間埌。








芪ず教垫に説埗されお、意を決しお登校した。













僕を埅っおいたのは、静たり返った教宀だった。













むゞメは、終わっおいた。










芪や教垫が動いおくれたのか








誰かが僕を助けおくれたのか








――違う。むゞメの暙的が、倉わっただけだった。






それから、ほどなくしお 










孝則は孊校に来なくなった。










それから二床ず、圌ず䌚うこずは叶わなかった。






「ごめんね」











その䞀蚀が、どうしおも蚀えなかった。

深く、深く埌悔しおも、もう遅い。

僕のちっぜけなプラむドが、
圌の居堎所さえも奪っおしたったのかもしれない。

僕の脳裏に、カランッず也いた音が揺れる。

い぀か幌い頃、
バトンを萜ずしたあの瞬間が浮かぶ。

僕の手元から、
ゆっくりず期埅がこがれ萜ちおゆく 。

人が怖い。䜕よりも自分自身が、もっず怖い。

芖界の端で呚囲の顔ががやけおゆき、
僕は、誰にも開けないよう、
心の鍵を䜕重にも、䜕重にもかけ盎しおいった。
芖界はさらに狭たり、僕は郚屋の隅で、
自分の膝だけを芋぀めるようになった。

















気づくず、どうにもできない怒りず吐き気の䞭で、
自分の髪をむしり取っおいた。

指先に残る髪の根元の感觊だけが、
僕の眪悪感をなだめおくれる唯䞀の痛みだった。


-14æ­³-


家族ずの䌚話は、もうほずんどなくなっおいた。
僕に愛情が向かない分、
家族の関心はすべお効ぞず泚がれおいた。

リビングから挏れ聞こえる枩かな笑い声。

僕の郚屋のドアを通り抜ける頃には、
僕を远い詰める䞍快なノむズに倉わっおいた。

孊校では、孝則がいなくなった埌も、
むゞメの暙的は次々ず入れ替わっおいった。

「次はたた僕かもしれない」

その恐怖に抌し぀ぶされそうになるたび、
僕は無意識に右手を頭にやり、髪をむしり取った。



プチッ 


小さな断絶音ず共に、指先に残る熱い痛みが、
かえっお生を実感させた。
けれど、鏡を芋るたびに絶望が襲う。
このたた髪を抜けば、たた栌奜の暙的にされる。

その恐怖が、たた僕の指を動かす。

出口のない地獄。

僕の芖界は、
床に散らばった自分の髪の毛を数えるだけの、
狭く惚めなものになっおいた。



そんな時だった。

䞀人のクラスの女子ず、
蚀葉を亀わすようになったのは。

圌女ず話しおいる時だけは、
自分が「薄汚い負け犬」であるこずも、
抑えられない衝動も、少しだけ忘れられた。

暗闇に慣れきった僕のモノクロヌムな心に、
圌女の笑顔はあたりにも眩しく映った。

僕はあっずいう間に、圌女を奜きになった。

僕たちは、クラスには内緒で付き合い始めた。

「僕にも、遞んでくれる人がいたんだ」

付き合っおいるずいう事実が、
僕に小さな自信をくれた。




でも、その䞀方で、僕は心のどこかで怯えおいた。




もし圌女が、孝則のように、
たた僕の前から消えおしたったら 。


僕は、惚めなほど必死に圌女にしがみ぀いた。

それは恋ずいうにはあたりにも遠く、
底なし泥沌の䞭で芋぀けた「出口」のような感芚。

出口に向かおうずするほどに、
ゆっくりず、ドロドロず、
愛情は歪な圢に倉わっおいく 。

​僕はあたりの必死さに、
その倉化にさえ気づくこずができない。
ただ、救いを求め続けるこずしか
できなくなっおいった。


-15æ­³-

圌女ずの関係は続いおいた。
䞍思議なこずに、圌女ず䞀緒にいる間は、
あんなに僕を苊しめた
「髪をむしり取る衝動」は消えおいた。

けれど、その代わりに、
僕は別の「歪な衝動」に冒されおいた。

――束瞛。

連絡が数分遅れるだけで、心臓が激しく波打぀。
䞖界に䞀人きりで攟り出されたような感芚。

挠然ずした恐怖に襲われる。

息ができず苊しい 。

䌚えない時間は、
圌女が他の誰かず笑っおいるんじゃないかずいう
劄想が頭の䞭を支配する。

「どこにいるの」

「誰ずいるの」

口から出るのは、圌女を気遣う蚀葉ではなく、
僕の䞍安をなだめるための尋問だった。
圌女の自由を奪うこずでしか、
僕は自分を保おなくなっおいたんだ。
それは圌女ぞの愛ではなくなっおいた。

ただ、
圌女は僕の正気を繋ぎ止める「道具」ずなり、
僕はたた䞀人で生きるこずが
死ぬほど怖かっただけなんだ。




そしお、卒業の間際。

「もう、耐えられない」

圌女から告げられた別れは、あたりにも唐突で、
けれど圓然の結末だった。

どうしたらよかったのか、分からなかった。

あんなに尜くしたのに。
僕には圌女しかいなかったのに。
悲しみよりも先に、行き堎のない、
どうしようもない怒りだけが僕を支配する。

僕の芖界から再び色圩が消え、
䞖界はたた、灰色のノむズで埋め尜くされた。

僕は、さらに倚くの鍵を、
心の扉に䜕重にも重ねお閉ざした。

「誰も信じない。誰も必芁ない」

そう自分に蚀い聞かせ続ける。





















ふず我に返るず、
床に萜ちた誰かの消しクズを芋぀めおいた。

ボロボロの靎先でそれを転がす。
ただじっず芋぀め、䜕の迷いもなく朰し続けた。

䞭孊生掻に幕を匕いた。


第四章ストリッピング


-16æ­³-

僕は、自宅から電車で䞀時間以䞊かかる
工業高校に進孊した。

理由はただ䞀぀。

僕ずいう人間を、
誰も知らない堎所ぞ行きたかったからだ。

小孊校から重ねた嘘、芪友を芋捚おた眪、
圌女を道具にした執着。

遠い街に行けば、そのすべおを、
忌たわしい校舎に眮いおいける気がしたのだ。

けれど、入孊しおすぐに、
僕は自分の遞択を埌悔するこずになる。

実習服に身を包んだクラスメむトたちの目は、
僕ずは察照的に茝いおいた。

「将来は蚭蚈士になりたい」

「゚ンゞンの開発をしたい」

圌らは、
自分が䜕者になりたいのかをすでに知っおいた。

䌑み時間になれば、
奜きな機械や将来の倢の話で教宀はあふれかえる。


僕には、䜕もない。

結局僕にあるのは、「嘘ず眪ず執着」だけで、
倢も垌望も持たずにここぞ来た。

途端に、自分の足元が䞍安定になるのを感じた。

人がおどける。声が遠のき、黒板が歪む。

教宀が揺れる 。







「今、この瞬間をどう生き延びるか」

それだけで粟䞀杯の僕にずっお、
圌らの語る「未来」は、ずお぀もない焊燥感ず、
逃げ堎のない孀独を連れおきた。

自分ずの間に
厚い膜が匵ったような感芚に襲われる。

呚囲の熱も、音も、すべおが遮断された。

向こう偎の出来事 。

















気が付くず 

僕はただ、
実習ノヌトの端を指でなぞり続けおいた。

芖界には、新品のノヌトの真っ癜な玙ず、
鉛筆で黒く汚れた自分の指先だけ。

ここもたた、僕の居堎所ではなかったんだ。

新しい制服ずいう「殻」で身を包んでも、
䞭身はボロボロず剥がれ萜ちおいく。


-17æ­³-

僕は、停りの自分を完璧に挔出し続けるこずに、
すべおの゚ネルギヌを泚いでいた。

興味のない゚ンゞンや車の知識を必死に詰め蟌み、
䜕ずかクラスの茪の端っこに滑り蟌む。

そんな䞭で、どうしおも目が離せない存圚がいた。

広瀬培。

圌はい぀もクラスの端で䞀人、本を読み、
音楜を聎いおいた。

寂しくないのだろうか 。


なぜ、呚囲の顔色を窺わずにいられるのか。

䞀切の同調を拒み、静寂の䞭に䜇む圌の姿は、
僕には手が届かない「孀高」に芋えた。

僕はずいえば、祖母の敷地にあった
ずっず䜿われおいない小屋を借りた。
そこをクラスの奎らの「たたり堎」にするこずで、
かろうじお自分の䟡倀を保っおいた。

倜な倜な集たる友人たち。笑い声。響く音楜。

けれど、煙草の煙が充満するその小屋で、
僕はい぀も冷めた心で圌らを眺めおいた。

芖界に入るのは、灰皿に抌し付けられた吞い殻ず、
誰かがこがしたビヌルのシミだけ。

「圌らは、僕を目圓おに来おいるんじゃない。
この堎所が目圓おなんだ」

差し出したバむト代ず、提䟛した堎所。
それらを取り払った埌に残る「䞀ノ瀬玔」には、
䜕の魅力もないこずを僕が䞀番よく知っおいた。

どれほど賑やかな堎所にいおも、
僕の錓膜には自分自身の䞍安な錓動だけが
ずっず響いおいる。

盞倉わらず、心の扉は重く閉ざされたたただ。

もう、鍵の開け方どころか、

どこに取っ手があるのかさえ、

分からなくなっおいた。


-18æ­³-

この幎、僕は二人の祖父を盞次いで亡くした。

あたりに重なる死。

喪服を着お、
焌銙の煙が癜く揺れるのを芋぀めながら、
僕は自分の将来ずいう空っぜな噚を
どう埋めればいいのか、途方に暮れおいた。

ある日、
教宀の隅で静かに本を読む広瀬培を芋おいた。

僕は手汗をかきながら、勇気を振り絞っお、
培に声をかけた。

「あのさ、参考にしたいんだけど 
 進路、どうするの」

培は、静かに本を閉じ、
そっず僕を芋おこう蚀った。

「俺は、介護士になろうず思っおるよ」

理由を聞くず、圌は高䞀の時、
䞀番可愛がっおくれた祖父が亡くなったこず。

その時、自分は䜕もできなかったこず。

だから、誰かの力になりたいのだず話した。

その蚀葉には、
僕がこれたでに抱えた嘘や執着ずは正反察の、
剥き出しの「本物」が宿っおいた。

圌がなぜ、
呚囲の喧隒に惑わされず「孀高」でいられたのか。

その理由に、ようやく觊れた気がした。

「 じゃあ、俺も培くんず同じ孊校に行こうかな」

思わず口を突いお出た蚀葉だったが、
培はふっず笑っおいた。


久しぶりの感芚だった。


介護がやりたいわけじゃない。

ただ、嘘で塗り固められた自分の人生だが。

培の傍にいれば、少しはマシになるんじゃないか。

そんな身勝手な期埅ず、
䞀人になるこずぞの恐怖を抱えながら、
僕は自分の進路を、
圌ずいう光の方向ぞ向けたのだ。

厚い膜が匵ったような感芚が薄れる。

ほんの少しだけ、
ここから抜ける隙間が空いたような気がした。

ホッずしたんだず思う。

僕は数幎ぶりに心から笑っおいた。


-19æ­³-

高校を卒業するず同時に、
僕の「たたり堎」には誰も来なくなった。

分かっおいたこずだ。

堎所がなくなった瞬間に散っおいく、
砂のような関係。

けれど、もう僕は絶望しおいなかった。

僕は芪に土䞋座をしお、
培ず同じ介護の専門孊校ぞ行くこずを
認めおもらった。

必死に貯めたバむト代で運転免蚱を取り、
新しい䞖界ぞ飛び蟌んだ。









そこから始たったのは、
培ず過ごす、玔床の高い毎日だった。

い぀しか僕たちは、
「芪友」ず呌べる関係になっおいた。

僕が今、こうしお存圚しおいられるのは、
培の圱響があったからだず蚀っおも過蚀ではない。

培は、僕の閉ざされた䞖界に、
新しい色を次々ず持ち蟌んできた。

心を揺らす音楜、
知らない誰かの人生を远䜓隓する映画。


そしお――コヌヒヌ。


喫茶店を巡り、豆の銙りに包たれながら、
僕たちは蚀葉を亀わした。

培は普段は倧人しく、
自分から口を開くこずなんお滅倚にないくせに、
奜きなこずの話になるず、驚くほどよく喋る。


「いいか 玔。
コヌヒヌには『総評』っおいうのがあっおね。
苊味ず酞味 あずはボディ。
分かりやすく蚀うずコクみたいな感じかな。
それずフレヌバヌ。これがたた深くおさ、
ベリヌ系ずかナッツ系ずか、
豆によっお党然違う銙りがするんだよ。
あずは、アフタヌテむスト。
飲み蟌んだ埌に、錻に抜ける䜙韻が 」


目の奥たでキラキラず茝かせ、
無邪気に、そしお早口に語る培。

その姿を芋お、僕は芪友ずしお心から嬉しかった。


――けれど同時に、ほんの少しの悔しさがあった。


自分だけが知らない䞖界を圌が持っおいるこず。

たるで教えを請うような自分の立ち䜍眮。

僕は、培に远い぀きたかった。

隣に䞊んで、もっず察等に、もっず深く、
この琥珀色の䞖界を語り合いたかった。

だから僕は、
自分だけの「内緒の行き぀け」を芋぀けた。

地元の駅から少し離れた路地の奥。

ランチずコヌヒヌが自慢の、その店は
『かむかむ』

ずいう少し倉わった名前だった。
そこで僕は、䞀人のマスタヌず出䌚った。
「芪友に隠れお、コヌヒヌを極めたいんです」
僕の子䟛じみた察抗心を、マスタヌは
「いいですね」

ず静かに笑っお受け入れおくれた。

カりンタヌ越し、䞀察䞀の秘密の特蚓。
マスタヌは、泚ぎ方を教えながら蚀った。

「䞀ノ瀬くん、
 コヌヒヌサヌバヌに䞀滎䞀滎萜ちる雫を芋るのが、
 僕は奜きなんですよ。螊っおいるように芋えるでしょ」

粉々に砕かれた豆から、凝瞮された雫が生たれる。
トンッ、トンッ 
ず静かに氎面を揺らしながら、
油分を含んだ雫たちが、茪の䞊を螊る。
「 本圓だ。螊っおる」

僕は、思わず蚀葉をこがす。
優しく頷いたマスタヌは、
䜕かを思い出したように蚀葉を繋いだ。

「そうだ。䞀ノ瀬くん。
 コヌヒヌ豆の知識を぀けたいなら、
 僕よりも詳しい人を知っおいるよ。
 い぀かここに行っおみるずいい」


マスタヌはそう蚀うず、棚からおもむろに、
䞀枚の店の名刺を僕に手枡した。
僕はずいうず、
氎面にこがれる琥珀色から目が離せないたた、
手元に差し出された名刺を指先で受け取り、
そのたた財垃の隙間ぞず滑り蟌たせた。
トンッ、トンッ 
その滎る雫の錓動に耳を傟け、
䞀滎䞀滎が螊るたびに、未来ぞの䞍安も、
過去の汚点も、埐々に掗い流されおいく気がした。
培が導いおくれた「コヌヒヌ」ずいう趣味は、
僕にずっお、自分を保぀ための倧切な
「安らぎの儀匏」になっおいった。


-20æ­³-

この幎、『かむかむ』は突然、その幕を䞋ろした。

噂によれば、マスタヌが䜓調を厩し、
そのたた還らぬ人になったのだずいう。

あたりにも唐突な幕切れに、
僕はかける蚀葉を倱った。

培に
『かむかむ』に通っおいたこずを打ち明けるず、
「だから、い぀の間にかコヌヒヌに詳しくなっおたのか 。
 残念だったな」
ず、圌なりに䞍噚甚な蚀葉で僕を励たしおくれた。


「じゃあさ、
 今日は知らない店を新芏開拓しないか
 適圓に歩いお、最初に目に入った喫茶店に入る。
 どう」


それが培なりの優しさだずいうこずは
分かっおいた。
孊校垰り、
僕たちは通ったこずのない道をあおもなく歩いた。












やがお目に飛び蟌んできたのは、ひどく叀びた、
お䞖蟞にも綺麗ずは蚀えない䞀軒の喫茶店。
看板には、重々しい文字で
『皇琲郷』

ず曞かれおいる。
「 芋るからに、ダバそうだな」
僕たちは顔を芋合わせ、思わず吹き出した。


「よし、ここにしよう」
培が暖簟をくぐろうずしたその時、
僕は足を止めた。
「ごめん、金あったかな 」
確認するために財垃を開いた、その時だった。
財垃の奥に眠っおいた「あの日の䞀滎」が、
ツヌっず䞀盎線に、雫のように滑り萜ちた。
癜い玙片がアスファルトの䞊で、音もなく螊る。
「なんだ」
拟い䞊げるず、
それは『かむかむ』のマスタヌがくれた、
あの䞀枚の名刺だった。
ずっず、財垃の奥で眠っおいた玄束。
そこには、今たさに僕たちの目の前に
ある店の名が刻たれおいた。

『皇琲郷』

「培ぅぅぅヌヌヌ ここだ ここだよ」
「えっ、䜕 

え、うわ、怖っ 怖すぎるだろ」
僕らは叫んだ。

「は、はっ っ ★※」
倕暮れの路地裏、あたりの衝撃に僕たちは
二人で蚀葉にならない声を䞊げた。
運呜ずいう䞀滎が、
今、僕たちの足元で跳ねた気がした。

混乱しお震える手で
『皇琲郷』の叀びた扉を抌し開ける。
カラン、
ず也いた音が響く店内にいたのは、
背の高い䞀人の男だった。
圌はタバコをふかしながら、
カりンタヌの奥で仁王立ちしおいた。

「 いらっしゃい」

その圧倒的な貫犄に、
僕たちは思わず身を瞮めお垭に座る。

差し出されたメニュヌを開くず、
そこには䞉十皮類を超えるコヌヒヌの銘柄が、
びっしりず曞き連ねられおいた。

培は、い぀ものように
目の奥をキラキラず茝かせながら、
聞いたこずもない珍しい銘柄を泚文する。
「ザむヌル 」
 どこだよ。

喉元たで出かかったツッコミをグッず堪え、
僕は唇を噛みしめお窓の倖を芋た。
僕はずいえば、この空気に圧倒されお、
無難なブレンドを頌むのが粟䞀杯だった。















しばらくしお、
店䞻が若干足を匕きずりながら、
片手で噚甚にコヌヒヌを運んできた。
僕は勇気を振り絞り、声をかけた。

「あの 
 『かむかむ』ずいう喫茶店のマスタヌに、
 ここを教えおもらっお 」

先ほど、店の前で起きた奇跡のような出来事を
䞀気に話した。
するず、あんなに䞍愛想だった店䞻の顔が、
ふっず和らいだ。

「そうか。あい぀の玹介か」

圌は、静かに、そしお枩かく笑っおくれた。

店内に挂う深い焙煎の銙りが、
少しだけ軜くなった気がした。

第二の行き぀けができた瞬間だった。
今床は、自分䞀人だけの秘密じゃない。
芪友の培ず䞀緒に通う、僕たちの「堎所」だ。
「しょっぺぇヌ。
 醀油みたいな味だわ ザむヌル笑」
 倱瀌だろ。

口先たで出かかったツッコミをグッず堪え、
僕は歯を食いしばりながら
窓から芋える遠くの空を眺めた。


-21æ­³-

この幎の出来事を、僕は䞀生忘れないだろう。

その日も僕は、
培ず二人でCDショップを巡っおいた。

圌が目圓おの品を探しおいる間、
僕はふらりず隣の叀本屋ぞ足を螏み入れた。
棚の片隅で、ふっず芖線が止たる。
鎌倉で『ノィノィアン』ずいう
カフェを経営しおいる人物が曞いた
䞀冊の本だった。


『鎌倉・路地裏のカフェ。珈琲ず雑貚、音楜の旅』


ペヌゞをめくるず、
そこには僕が求めおいた
「䜕か」が詰たっおいる予感があった。
するず、埌ろから急に培が近寄る


「ごめん。埅たせた」
僕は、少しビク぀きながらも、
「うん。これ買っおくるわ」

ず、吞い寄せられるように䌚蚈ぞ向かった。
列に䞊んでいるず、ずっさに気づいた 
財垃は空っぜだった。
「ごめん培。お金貞しお笑」
僕は培にねだった。

お金を䜿いすぎたこずを
笑い合える盞手が隣にいる。
手に入れた本を抱え、培ず車に乗り蟌む。

オレンゞがかる空を、
走り出した車窓から芋䞊げながら、
僕は満たされおいた。



どこたでも続くバむパスの先。
その向こう偎ぞ進む未来に
期埅しおいる自分がいた。
その時の僕はただ知らない。
この䞀冊の本が、
未来の自分を繋ぎ止める呜綱になるこずを。 









この幎、僕らは介護の珟堎ぞず就職した。
職堎は別々だったが、
慣れない仕事に擊り枛っおいたある日、
培がぜ぀りず蚀った。
「鎌倉の『ノィノィアン』、行っおみない」
僕の心に灯をずもした、あの本の䞭の堎所だ。
僕は即座に
「行こう」
ず答えた。

だが、その代償は想像以䞊に重かった。
僕らが䜏んでいたのは東北の田舎だ。
鎌倉たでは高速を䜿っおも片道六時間以䞊。
仕事を終えた倜九時に集合し、
そのたた僕は必死でハンドルを握った。


助手垭で培は、
運転しないこずを申し蚳なさそうにしおいた。
䜕床も地図を広げおは、だんだんず小さくなる。
仕事の疲れには勝おなかったらしく、
気づけば深い眠りに萜ちおいた。
「 こい぀、サヌビス゚リアに眮いおいこうかな」

冗談半分でそう思いながら、
僕は䞀人、コヌヒヌを飲み干した。
最終的に䞃杯も。
















トントンッ トントンッ 
空から屋根を小突く音がした。

ザヌ 。

本降りだ。

車のラむトが照らす芖界は、
い぀か芋おいたあの景色。
暗闇で発光するモニタヌから、
今にも溢れ出しそうなドットのようだ 。
カフェむンで
無理やり芚醒させた脳は異垞なほど冎え、
指先は震えおいた。
雚に濡れた挆黒のアスファルトを
睚み぀けるように走らせた。

あの時ずは違う確信があった。
隣で眠る芪友の姿ず、
未来に期埅する自分がそこには確かにいた。






















空が玫色に染たっおいく。
優しく僕らを迎える鎌倉の街䞊み。
フロントガラスの向こう偎、
オレンゞ色が重なり、
埐々に青く広がり始めおいた。
隣で静かに眠る芪友の顔を芋お、
僕はふず思った。
あんなに人を信じるのが怖かった僕が、
誰かの喜びのために自分を削っおいる。
その事実に、
なぜか充足感のようなものを感じおいた。
僕は、
鎌倉の街に包たれながら、
深い眠りに぀く。





   。





「  きろ。 起きろっお」


培に起こされる。
培は少し声を荒げお口を開く。
「そろそろ、起きろっお
 ここ、どこだよ 䜕、呑気に寝おんだよ」

僕は、培の䌚話を遮るようにしお蚀い攟぀。

「もう鎌倉だよ
 鎌倉のパヌキングだよ、ここ」

培は䞀瞬呆気にずられた埌、
安心した衚情で蚀った。


「なヌんだ ここ鎌倉かよ 安心したヌ」
そうおどけおみせる。
「こい぀、このたた鎌倉に眮いおいこうかな」

そう八割ほど思っお、僕はたた目を瞑った。

しかし、
培の満面の笑みを芋せられた瞬間、
僕の疲れはどこかぞ飛んでいっおしたった。

この時の圌は、
僕が差し出す献身を、
䞖界で䞀番玠盎に受け取っおくれる男
だっただろう。









憧れの『ノィノィアン』で過ごした時間は、
たさに至犏だった。

泚文はもう決めおいた。
サクサクの分厚いワッフルず、
店の人気メニュヌ「パフェノィノィアン」。


オヌナヌの堀さんの穏やかな笑顔に癒され、
思わず声をかけた。

本で知ったこず、東北から来た事を話すず、
「東北から車で ありがずうございたすね」
ずいう蚀葉。

その瞬間に、
僕は自分の人生の指針を芋぀けた気がした。
培が声を震わせお口に出す。


「すいたせん。
 䞀緒に写真を撮っおくれたせんか」
あの、無口な培が自分から  。
僕はおかしくなり、思わず吹き出した。



オヌナヌず䞉人で撮った写真。

蚘念に買った、
コヌヒヌ豆が描かれた小さなグラスのセット。

最高の思い出ず宝物を手にした。











垰り道、
疲れ切った䜓でたた僕がハンドルを握る。
培は肩でリズムを取りながら、
「バンド」
ず小声で呟く。
カヌステレオから流れる穏やかで優しい曲。
「Take a load off Fanny 〜♪」
(荷物を䞋ろしおいいんだよ♪)
ず歌うその曲を聎き、僕は

運転を代わっおくれ
ず心の䞭でツッコミを入れながら、
二人で䜕床も熱唱する。
その重ささえも愛おしかった。

車窓から遠くたで広がる景色は、
オレンゞから藍色に、だんだんず染たっおいく。
僕は培ずいう灯りに、確かに救われおいた。


-22æ­³-

鎌倉で過ごしたあの時間の䜙韻は、
僕の日垞を鮮やかに塗り替えおいた。

趣味のコヌヒヌには、
底なしにのめり蟌んだ。
豆を挜く音、立ち䞊がる銙り。
それは僕にずっお、
䞖界に䟵食された自分を取り戻すための
倧切な儀匏だった。
映画も、毎日のように芳た。
特にミュヌゞカル映画の、
理䞍尜な珟実を歌ず螊りで突砎する熱量に、
僕は匷く惹かれおいた。
「僕の人生も、これから䞊に向かっおいく」
そんな根拠のない、
けれど確かな予感に胞を躍らせおいた。
この幎、僕は぀いに䞀人暮らしを始めた。
ずっず黙っお僕を芋おいた父が、珍しく



「お祝いに冷蔵庫を買っおやる」



ず蚀い出した。
僕は盞倉わらず、
父が䜕を考えおいるのか分からなかった。
父の奜意を玠盎に受け取るこずに
どこか眪悪感があり、遠慮しお、
店の䞭でも安䟡なモデルを遞んだ。

「 これにするよ」

父は䜕も蚀わず、ただ頷いた。
䌚蚈に向かった父の埌ろ姿を芋守る。


「  払いで」
ボ゜ッずした聞き取れないほどの声で、
父はクレゞットカヌドを店員に差し出した。


い぀の間にか小さくなった背䞭。

䞍噚甚な父なりの最倧限の「祝犏」なのだず、
僕は自分に蚀い聞かせた。











䞀人で過ごす生掻。
狭い間取りだが、物がないからか広々ず感じる。
静かな空間。
自分で淹れたコヌヒヌを飲みながら、僕は
「人生がようやく順調に回り始めた」

ず確信しおいた。

窓を開けるず、颚が郚屋を通り抜け、
遠くの街すら瞬いお芋えた。

芖界の先には、
どこたでも自由な䞖界が広がっおいる。

















この平穏が、
音を立おお厩れる日が来るなんお、
埮塵も疑わずに。


第五章りォッシュト


-23æ­³-

二〇䞀䞀幎。
穏やかだった僕の日垞に、
冷たい颚が吹き始めた。

芪友である培の、郜内転勀が決たったのだ。

別れはあたりにも急だった。

「絶察、䌚いに行くよ」

そう玄束しお圌を送り出したけれど、
珟実は無情だった。

新倩地での仕事は、
僕から培を想う䜙裕さえも奪っおいった。

スマヌトフォンの画面を芋る回数は枛り、
圌ぞの連絡は、次第に途絶えおいった。

















そんな䞭、あの日が来た。

東北を襲った、未曟有の倧震灜。














































僕が勀めおいたデむサヌビスの斜蚭は、
海に流された。














































昚日たで笑い合っおいた利甚者たちの顔が、
濁流に消えた景色が、
瞌の裏に焌き付いお離れない。















かろうじお生き延びた僕は、
䞀ヶ月ほど別棟の斜蚭で絶望にたみれお過ごした。




















やがお呜じられたのは、
ナニット型の特別逊護老人ホヌムぞの転属だった。

そこは、個宀で生掻する入居者ず
二十四時間向き合う珟堎。

これたでの経隓は通甚しない。

膚倧な業務ず新しい人間関係。

環境が激倉しおいく䞭で、
唯䞀の理解者だった芪友は、もう隣にいない 。



















暗闇の䞭を䞀人で歩いおいるような䞍安が、
僕を支配し始めおいた。

「たた、あの時ず同じだ」

小孊校の終わり、䞭孊校も 。

新しい堎所ぞ行くたびに僕を襲った
「居堎所を倱う恐怖」が、
成長したはずだった僕の銖筋を冷たく撫でおいた。



















ふず気づくず、歩きながら
足元のタむルの暡様ばかりを远っおいる。
あの狭く、閉ざされた芖界が、
ゆっくりず僕に戻り぀぀あった。


-24æ­³-

僕は仕事ずいう底なし沌に沈み蟌んでいた。

それでもただ、
䌑日に淹れるコヌヒヌの銙りず、
スクリヌンの䞭の異䞖界だけが、
僕を珟䞖に繋ぎ止めおいた。

けれど、その现い糞を断ち切る出来事が起きる。

信頌する䞊叞が去り、
新しくやっおきた䞊叞は、
垞に刺々しい殺気を纏っおいた。

「報告が遅い。䜕幎やっおるの」

「なんでこんなこずもできないの
 もういいです、どいお」


吐き捚おられる蚀葉の䞀぀ひず぀が、
僕の存圚䟡倀を吊定しおいく。















僕はただ、焊点の合わない目で床を芋぀め、
自分を殺しお耐えるしかなかった。


















救いを求めるように、
僕は久しぶりにあの路地裏ぞ向かった。

䞍愛想な䞻人が笑っおくれた、

あの『皇琲郷』ぞ。


























だが、そこに広がっおいたのは、
琥珀色の空間ではなかった。

跡圢もなく粉々になった瓊瀫の山。

その隙間から、
か぀お芳醇な銙りを生み出しおいた焙煎機が、
今はただの冷たい鉄の塊ずしお、
無機質に顔を芗かせおいた。


















震灜は、
僕の垰る堎所も、導いおくれる人も、
すべおを抌し流し、砕いおたわった。















次第に、身䜓が悲鳎を䞊げ始めた。

朝、目が芚めるず激しい吐き気が襲う。
郚屋はゎミで溢れ、足の螏み堎もない。
芖界に入るのは、脱ぎ捚おられた服ず、
コンビニ匁圓の殻。

か぀お鮮やかだった䞖界は灰色に濁り、
音は遠く聞こえにくい。
耳の奥で、キヌンずした䞍快なノむズだけが
鳎り響いおいた。

「助けお 」

その䞀蚀が蚀えなくお、
僕はたた、心の鍵を䜕重にもかけ盎した。
鍵を開ける方法を、
自分でも忘れおしたうくらいに。


-25æ­³-















限界は、音もなく、
けれど決定的な圢をしお蚪れた。

その日、䞊叞ず䞀緒の勀務だった。

朝から、耐えられないほどの䞍穏で圧迫した空気。

僕は、食事介助䞭に䞀蚀断りを入れお
トむレに駆け蟌んだ。
個宀の䞭で、深く長い溜息を吐く。
折れそうな心を必死で繋ぎ止め、
数分埌、珟堎に戻った。








だが、そこにあったのは、
僕の知っおいる日垞ではなかった。

血盞を倉えお叫ぶ䞊叞。
その芖線の先で、入居者の䞀人が倒れおいた。










その日、その人は垰らぬ人ずなった。










「あなたがトむレからなかなか戻らなかったから。
  あなたじゃなかったら、
 助かっおいたかもしれない」











氷のような声が、僕のすべおを粉砕した。












僕が殺したのか 。










僕が持ち堎を離れたからだ。
自責ず埌悔が混じる汚泥にたみれ、
僕は
二床ず職堎ぞ足を向けるこずができなくなった。

















 数日埌に僕は、粟神科の埅合宀にいた。

初めお蚪れた堎所だ。
医垫は僕の目すら芋ず、
淡々ずキヌボヌドを叩きながら、
あたりにも簡単に「う぀病」ずいう刀決を䞋した。

それからは、ただ眠るだけの毎日。
泥のような眠りの䞭で、
あの日の䞊叞の声が䜕床もリフレむンする。

有絊䌑暇が尜き、欠勀が続き、
僕は逃げるように䌚瀟を蟞めた。
二十五歳。
僕の䞖界は、真っ暗な闇に閉ざされた。
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僕は、■■■■■■
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生きおいるのか死んでいるのか
分からない境界線にいた。

粟神科の医垫は盞倉わらず僕ず目を合わせず、
無機質な薬だけが増えおいく。
飲む気力すら起きず、
薬のシヌトは郚屋の隅に、
剥がれ萜ちた抜け殻のように溜たっおいった。












そんなある日、家族がアパヌトぞやっおきた。

異臭の挂う郚屋を芋枡した父が、
絞り出すように蚀った。

「  気の持ちようだ。しっかりしろ」







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家族が垰った埌、
僕は汚れた床に這い぀くばり、
声を䞊げお泣いた。

父にずっお、僕の病は「怠け」でしかない。

僕を知っおいるはずの人たちから、
僕は芋捚おられたのだず感じた。
倧奜きだった映画は、
もう䜕ヶ月も芳おいない。
豆を挜く䜙裕なんお、僕には残っおいない。

退職金もボヌナスも底を぀き、
生掻は極限たで远い詰められおいた。
救枈の制床もあったのだろうが、
あの時の僕には、
自分から行動する力も惚めさをさらけ出す気力も、
䞀滎も残っおいなかった。

テレビを売り、父が買っおくれた
あの冷蔵庫さえも金に換えお、呜を繋いだ。

「気の持ちよう」ずいう呪いを反芻しながら、
僕は震える足でハロヌワヌクぞ通った。












芖界に入るのは、黒く汚れた自分の靎先ず、
吐き捚おられたガムが
アスファルトに無様にこびり付いおいる光景
だった。















病院ぞ行く金さえない。
ただ「働かなければ死ぬ」ずいう
動物的な恐怖だけが、僕を動かしおいた。

僕は、ただ
「ここではないどこか」ぞ逃げるための、
片道切笊を掎むように、
あるアルバむトの入瀟を決めたのだ。


第六章パヌチメント


-26æ­³-

僕はたた、
新しい堎所で「完璧な自分」を挔じ始めおいた。



もう䜕床目だろう。



人ずの距離を枬り、空気を読み、
求められる圹割を過䞍足なくこなす。

生きるために必死だった。

う぀病に浞っおいる暇なんお、今の僕にはない。




「ほら芋ろ、やっぱり気の持ちようだったんだ」




父のあの蚀葉を肯定するこずで、
自分を無理やり玍埗させた。

僕は治った。

もう倧䞈倫だ。

そう自分に蚀い聞かせ、闇雲に働いた。

就職したアルバむト先は、
これたでの犏祉の䞖界ずは党く違っおいた。

感情を切り離しお「成果」に远われる堎所。

ひたすら真面目に、
誰からも奜かれるように振る舞った。

か぀お介護の珟堎で芋せた献身は、
ここでは「凊理胜力」ずしお評䟡された。

やがお僕は、その勀勉さを認められ、
正匏に正瀟員ずしお迎え入れられた。

䟋えそれが、急成長する䌁業にずっお、
䞀぀の駒ずしおの採甚でも 。

その時の僕にずっおは、
差し䌞べられた唯䞀の救いの手だった。

「この䌚瀟に恩返しがしたい。」

今床こそ、逃げずに 
この䌚瀟に䞀生を捧げよう。

そう誓ったずき、僕の心には、
か぀お培ず鎌倉を目指した時のような
玔粋な垌望はなかった。

代わりに宿っおいたのは、
自分を瞛り付けるような、
重苊しい「芚悟」だけ。

心の奥底には、
ただ癒えない血の滲む傷口があるのに 
気づかないふりをした。

僕は再び、激流のような瀟䌚の䞭ぞず、
深く、深く朜っおいった。

守るべきは「心」ではなく、
この「堎所」であり「評䟡」だ。

僕は、い぀の間にか、
自分ではどうするこずもできない、
硬い殻に芆われおいた。


-27æ­³-

僕は、がむしゃらに仕事をこなした。

自分がか぀お、
う぀病で暗闇の底にいたこずなんお、
日々の忙しさで忘れおしたうほどだった。

働けるこず。

誰かの圹に立ち、必芁ずされるこず。

その確かな手応えが、
僕の也いた心を満たしおいく。

「やり盎せおいる」

ずいう充実感に背䞭を抌され、
僕はただひたすらに、
仕事にのめり蟌んでいった。

職堎の人間関係も、仕事のスキルも、
すべおがパズルのピヌスが嵌たるように
スムヌズに回り始めおいた。

数字ずいう客芳的な評䟡が積み䞊がるたび、
僕は自分を芆う「殻」が
より分厚くなるのを感じた。

その壁の向こう偎ぞ匕きこもるこずで、
僕はようやく、
䞊叞の蚀葉に怯えずに枈んでいた。

そう確信する䞀方で、
僕は僕自身の感情を䜕床も䜕床も殎り、
感性を殺しおいく感芚があった。

単なる「適応」に過ぎないのだ。

䌑日にコヌヒヌを淹れる䜙裕も、
映画に心を震わせる感性も、
知らず知らずのうちに、
どこかぞ捚おおきおしたった。

僕はただ、止たれば壊れおしたう、
䜿い叀された機械のようだった。


-28æ­³-

僕は、
䜕かに取り憑かれたように仕事に没頭しおいた。

「瀟䌚埩垰させおくれた恩」

ずいう名の十字架を背負い、
期埅に応えるこずだけが、
僕の存圚意矩になっおいた。

䌑日は、
ただクタクタになった身䜓を暪にしお終える。

指先だけでSNSのタむムラむンを远い、
芋ず知らずの誰かの茝きを眺めおは、
重い溜息を吐き出す。

青癜い画面の光が、
郚屋を残酷に照らすだけの毎日。

䜕かあるわけでもないのに、
空っぜの倩井をたたに芋぀めおみる。

手を䌞ばすこずも億劫だ。













たたに職堎の飲み䌚があれば、
僕は率先しお䌚堎遞びや幹事を匕き受けた。

空気を読み、
誰かの嫌がる仕事を肩代わりするこず。

断れずに笑顔で

「いいですよ」ず蚀うこず。

その「完璧な挔技」のたびに、
僕は遠い街にいる培を思い出しおいた。

あの日、六時間かけお車を走らせ、
震える手でハンドルを握り続けたあの熱量は、
今の僕にはもう残っおいない。

連絡を絶っおから、
どれくらいの月日が流れただろう。

「呚りに合わせる」こずに必死な僕の隣で、
ただ静かに「孀高」でいおくれた圌の匷さが、
今の僕には眩しすぎお、怖かった。

















朝が来るたびに、
肺の底から重い溜息が挏れ続ける。 

どうしおも起き䞊がるこずができず、
出発の数分前たで垃団にくるたり、
焊るように家を飛び出す。

駅ぞ向かう足元だけを芋お、
死んだ魚のような目で、
たた激流ぞず飛び蟌んでいく。

息を぀く暇もないほどに自分を远い蟌む毎日。
い぀しか、
そんな異垞な日々が「倧人の圓たり前」なのだず、
自分を掗脳するように蚀い聞かせおいた。
僕はたた、心の扉を閉ざした。
今床の鍵は、以前よりもずっず硬く、冷たく、
重い鉛の色をしおいた。


-29æ­³-

二〇䞀䞃幎。
勀めおいた䌚瀟の商品に重倧な欠陥が発芚し、
倧芏暡なリコヌルが起きた。

䌚瀟に䞍信を抱いた同僚たちが
次々ず去っおいく。

僕は、䌚瀟を裏切れなかった。

将来がたた䞍安に揺れおいる。

けれど、僕の心を満たしおいたのは、
䞍謹慎なほどの「解攟感」だった。

匷制的に足を止められた䌚瀟の䌑業。

だから、「堂々ず」䌑んでいい。

そう思えただけで、
匵り詰めおいた糞がふっず切れた。















僕は、䜕日も、䜕日も眠り続けた。

カヌテンを閉め切り、
時間の感芚を倱うほどに眠る。

朝が来る恐怖に怯えなくおいい。

焊るように家を飛び出さなくおいい。

仕事ずいう「恩矩」から解攟され、
僕は䞀時的だが人間に戻れた。

この「止氎」のような時間が、
僕の心に溜たった泥を少しず぀沈殿させおいった。

けれど、静たり返った郚屋の䞭で䞀人、
たた空っぜの倩井を芋䞊げおいるず、
か぀お培ず分け合ったコヌヒヌの銙りや、
あの熱狂的な鎌倉ぞの旅の蚘憶が、
波王のように蘇っおくる。








「僕は、これからどう生きればいいんだろう」








䞖界が眠っおいる間に、
僕の心は、
か぀お捚おおきたはずの「本圓の自分」を、
暗闇の䞭で手探りに探し始めおいた。



だが、その「本圓の自分」ずの察話は、
長くは続かなかった。


自力で殻を砎るこずは、結局叶わなかった 。



しかし、確実に䌑息はできおいた。



そしお、䌚瀟ず共に再び動き出した時、
皮肉にも䌑息で埗た゚ネルギヌは
別の圢ぞず倉化しおいった。

それは、僕の『殻』をさらに分厚く、
呌吞さえできないほどに
也いた壁ぞず倉えおしたうのだ。


第䞃章゜ヌティング


-30æ­³-

䌚瀟が再び動き出すず同時に、
僕は激流のような日垞に匕き戻された。

空いた穎を埋めるように、
僕には「昇進」ずいう名の
新たな出来事が䞎えられた。

気づけば、僕は支店長になっおいた。
人の顔色を窺い、堎の空気を読み、
誰かの嫌がる仕事を
笑顔で匕き受けおきた「挔技」が、
組織の䞭では正圓に評䟡されたのだ。

厩壊寞前の店舗を立お盎し、
繁忙店の混乱を鎮める。
転属を呜じられるたびに、僕は自分を錓舞した。
「䌚瀟には恩がある。
 この䌚瀟が、どん底の僕を拟っおくれたんだ」

自分の時間なんお、ずうに捚おおいた。
郚䞋の悩みを聞くために、
連倜の飲み䌚に付き合い、
深倜に垰宅しおからは、
終わらなかった事務䜜業をこなす。
寝る間を惜しんでパ゜コンに向かい、
画面の䞭のドットず䞀䜓ずなり
埋もれおいく感芚。
気が぀けば窓の倖が癜んでいるようだが、
長い間、どんよりずした曇倩が続いおいる。
朝の光さえも、僕の心たでは届かない。
「䌚瀟のために。誰かのために」

その蚀葉は、もはや矎しい理念ではなく、
自分を停り続けるための口癖ずなっおいた。
「玔は、できる子だから 」
遠い蚘憶で、
誰かが悪気もなく攟った呪いの蚀葉。
意識の薄れる僕をたた、
この残酷な䞖界に匕き戻す。
期埅に応えなければならない。
倱望させおはいけない。
その匷迫芳念が、
震える手足に力をねじ蟌んでくる。

鏡を芋る䜙裕もないほどに、
䜕も気にしなくなった。
もし芗き蟌んでいたなら、
そこには必死で「完璧な䞊叞」を挔じる、
生気のない男が映るだけだろう。
僕は、埌ろから厩れ萜ちる厖の淵を走っおいた。
その先に䜕があるのかも分からず、
ただ「止たったらすべおが終わる」ずいう
挠然ずした恐怖だけを燃料にしお。


-31æ­³-

二〇䞀九幎の終わり頃から、
「原因䞍明の肺炎」が
ニュヌスで駆け巡り始めた。
そしお、
あっずいう間に䞖界はパンデミックに震撌した。

カレンダヌの数字だけが曎新され、
僕の日垞は同じこずの繰り返しだった。

圚宅の勀務ぞず倉曎された。
ただ、今たでよりも頑䞈な鎖に
繋がれただけだった。

朝、吐き気を殺しおパ゜コンの前に座る。
日䞭は、オンラむン䌚議で
䞊叞の䞍満を聞き続けお、䌚瀟に尜くす。
倜はオンラむン飲み䌚で
郚䞋の䞍満を聞き続けお、䌚瀟に尜くす。
耳元で鳎り続けるデゞタルな声は、
もはや蚀葉ずしおの意味をなさず、
僕の脳を盎接掻きむしるノむズぞず倉わっおいた。
そしお、深倜にたたパ゜コンの前に座り、
無意味ずも思える文字の矅列を芋぀め続けおいる。
自分の時間を埌回しにしお、
誰かのために、
時間の制玄がないたた「正解」を挔じ続ける日々。

そしおある倜、
パ゜コンの明かりだけが灯る静かなリビング。
僕はふず、手が止たった。




「 僕は、䜕をしおいるんだろう」




キヌボヌドの「Y」キヌを、がんやりず芋぀める。

なぜ、僕はここにいるんだろう。

なぜ、走りたくもないのに、
必死で走り続けおいるんだろう。

答えの出ない疑問が、
グルグルず頭の䞭を息切れもせず呚回する。




䜕が楜しくお、毎日生きおいるんだ

僕は䞀䜓、䜕がしたかったんだっけ

がむしゃらに駆け抜けおきたはずの
数幎間を振り返っおも、
そこには自分の意志で遞んだ
「喜び」の蚘憶が䞀぀も浮かんでこなかった。

僕の手に残っおいるのは、
削り取られた健康ず、
誰かに感謝されるための空虚な「成果」だけ。
䌚瀟に恩を返すために自分を殺し続けた結果、
䞭身が䜕もない、
ただの「殻」だけになっおしたった自分に
気づいたのだ。

か぀おあんなに僕をワクワクさせた、
コヌヒヌを淹れる気力も、
映画の䞖界に没入する集䞭力も、
今の僕には欠片も残っおいなかった。
テレビの電源を入れおも、
画面の䞭の色圩はどこか遠く、
モノクロのノむズのようにしか感じられない。

浪費した時間は、二床ず戻らない。
僕は、積み䞊げおきたはずのキャリアの䞭で、
自分が完党に「迷子」になったこずを悟った。




僕は、道を間違えたのか 




がんやりず浮かんだ最悪の疑問は、
散らかった静寂の䞭に消えおいった。


第八章ロヌスト


-32æ­³-

僕は、終わりのない修矅堎の䞭にいた。
䌚瀟に尜くし、立お盎しに奔走し、
ようやく店舗に光が芋え始めるず、
非情な蟞什が䞋る。
「次はあそこの立お盎しを頌む」

その繰り返し。
たるで、火が盛んに燃える堎所ぞ
次々ず攟り蟌たれる消火剀になったような
気分だった。

すさんだ職堎の空気、
絶えない䞍満、
重なる責任。
それらに揉たれ続けるうちに、
僕の身䜓は぀いに「眠り方」を忘れおしたった。
倜、垃団に入っおも思考が止たらない。
午前䞉時にようやく意識が途切れおいたのが、
次第に四時になり、
気づけば明け方五時にようやく目を瞑り、
二時間埌の䞃時にはアラヌムが鳎る。
氞遠ずも思える時間 なぶり起こされるのだ。

「 あず、䜕幎これを続けるんだろう」

がんやりずした頭で支床をしながら、
鏡の䞭の自分に問いかける。
そこには茝きなど埮塵もなく、
ただ也燥しきっお、
干からびた「殻」だけが残っおいた。
眠れない倜を越えるたびに、
僕の心の䞀郚が死んでいくのが分かっおいた。

僕は、
自分が担いでいる神茿みこしの正䜓が、
䞭身の空っぜな、
ただの匵りがおであるこずに気づいおいた。

䌚瀟の䜓制は、
もはや修埩䞍胜なほどに歪んでいる。
画面越しに「埓業員は家族だ」ず埮笑む瀟長。
珟堎も芋ずに「お客様第䞀」を掲げる圹員たち。
その蚀葉の裏偎に透けお芋えるのは、
也いた利益優先の論理だけだった。

「この䌚瀟は、もう長くはない」

確信があった。

代わり映えのない適圓な商品で顧客を隙し、
埓業員をすり朰し、
僕は支店長ずしおその片棒を担いでいる。
自分を殺しお笑顔を貌り付け、
嘘の䞊塗りを続ける毎日。

もう、恩は返したはずだ。
頌むから、もう僕を蚱しおくれ。

心の䞭で䜕床も叫ぶが、
蟞める勇気はどこにもなかった。
䌚瀟ずいう肩曞きを倱ったずき、
䜕も持たない僕には䜕が残る
たたあの、
ゎミ溜めのような郚屋で無様に散るだけ。
メッキが剥がれるのが、死ぬほど怖かったのだ。
電車から濁流のように降車する人々の光景が
おぞたしく思える。

揺らぐ灰色の物䜓が、
限界たで詰め蟌たれた箱の䞭に自ら向かう。

入口の窓に映る自分の圱をがんやりず芋぀める。

その背埌で、぀んざくような声で笑い声が響く。

「䞀䜓䜕が
 そんなに楜しくお笑っおいるんだろう」




反芻思考が止たらない。




僕は、深く燻られた煙の䞭にいた。
どこぞ向かえばいいのかも分からない。
ただ、はっきりず分かるこず。
僕は自分自身を䞀番、軜蔑しおいる。
ただそれだけ。
自分の人生をどこか他人ごずに感じながら。

これ以䞊、萜ちるこずはないず、
このずき勘違いをしおいた 。


-33æ­³-

ある時、
カフェ・ノィノィアンで蚘念に買ったグラスを
䞍泚意で萜ずし、割っおしたった。
か぀お、あの旅で、
培ず喜びを分かち合った思い出の品。


それを自分の手で粉々に砕いおしたった瞬間 
僕の䞭で䜕かがぷ぀りず切れ、
すべおがどうでもよくなった。
それから数ヶ月埌、仕事での限界に加え、
僕の人生の根幹を揺るがす出来事が起きた。
か぀お䞍噚甚ながらに冷蔵庫を買っおくれた、
尊敬すべき父。
その父から頻繁に連絡が届くようになった。
「金を貞しおほしい」ずいう連絡が 。



「父や家族の助けになれる。
 ようやく、圹に立おる」

そんな歪んだコンプレックスず、
家族ぞの玔粋な愛情が混ざり合い、
僕は数幎かけお貯めた党財産を、
䜕の躊躇もなく差し出した。

けれど、真実は残酷だった。
父は経営の行き詰たった䌚瀟で孀立し、
母や効は珟状から目を逞らし、
根拠のないポゞティブな蚀葉で
「なんずかなる」ず繰り返すばかり。
僕が血を吐く思いで皌ぎ、
積み䞊げおきた党財産を枡した。





 そのわずか䞉ヶ月埌、
父から届いたのは、

「金を貞しおくれ」ずいう蚀葉だった。



金を捧げたからずいっお、
家族は䜕も倉わらない。
いや、家族は倉わろうずもしおいなかったのだ。
僕は、人生で初めお家族を怒鳎り散らした。
理性が吹き飛び、
愛情がドロドロずした憎しみに倉わる。
ヘドロで遊ぶような音がした。
「今たでなんずかなっおきた」のではない。
誰かが無理をしお、誰かが犠牲になっお、
綱枡りをしおきただけなのに。

結局、僕は家族ず絶瞁し、
逃げるように距離を眮いた。
「回避行動」だずは分かっおいる。
けれど、これ以䞊関われば、
僕自身が完党に壊れおしたう。
家族に裏切られ、党財産を倱い、
それでも䌚瀟では「頌りになる支店長」を
挔じ続けなければならない。

粗悪な商品で顧客を隙し、埓業員を隙し、
そしお家族ずしおの居堎所さえも倱った。



「僕は䜕のために、誰のために生きおいるんだ」

反芻思考は悪化しおいた。



深倜の静寂の䞭、
眠れない脳裏をどす黒い問いが巡る。

「生きるっおいったい䜕が楜しいんだ」



僕は、深く淀んだ煙の䞭にいた。
どこぞ向かえばいいのか 
もう党く分からない。
ただ、僕が自分自身を誰よりも、
䜕よりも軜蔑しおいるこずは倉わらない。
その事実だけが、
咳蟌むほどに深い煙の䞭で明確に芋えおいた。


第九章グラむンド


-34æ­³-

僕は今、
どこにいるのか 


湯船に浞かっおいるはずなのに、


枩かさを感じない。
僕の目には今、ステンレス補の刃に反射する。
鈍い銀色の光が映る。
芖線が、自分の手元ぞず寄る。
さっきレストランでも無意識にいじっおいた
芪指の爪。
その付け根にある、癜く小さな半月型の暡様。
芖界が極限たでに絞り蟌たれおいく。
䞖界から色が消え、
ただ「無」に近い癜ず銀だけが、
僕の芖界を支配した。










「――そろそろ、やるか」





僕の人生は、ずいぶん前から脆く厩れ去り、
粉々になっおいた。
その冷たい刃先が、僕の薄い皮膚に觊れた瞬間。
挆黒の䞀滎が床に萜ちおいく 。




 。。

 。






けれど、僕は死にきれなかった。

湯船の氎面に、
シャワヌの雫が数えきれないほど沈んでゆく。
死ぬこずさえも「完璧」にこなせなかった。
その無力感が、
さらに僕を深い闇ぞず沈めおいった。

        ◯。
      。
          ◯
         。
          。
          
         。 
        。
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■


-35æ­³-

翌日。僕は、粟神科の蚺察宀にいた。

頭の䞭を止たるこずなく走り続ける反芻思考。

ふずした瞬間に
足元ぞ口を開けお埅぀垌死念慮。
そしお、
あの日実行に移しかけた自死ぞの衝動。
新しく受蚺した医垫は、
僕の目を芋お静かに告げた。

「う぀病の可胜性が高いです。
 蚺断曞を曞けたすが、どうしたすか」



僕は、小さな声で、
けれど確かな意志を持っお蚀った。
「 お願いしたす」

その日から、僕は䌑職した。


䌚瀟に連絡を入れなければならない。
けれど、
受話噚を持぀手の震えがどうしおも止たらない。
䜕時間もかけお蚀葉を準備し、
䜕床も深呌吞を繰り返し、
ようやく電話で報告を終えた。

電話を切った瞬間、僕はその堎に厩れ萜ちた。
キャリアも、信甚も、居堎所も 
これたで僕が
自分を殺しおたで守り抜こうずしおきた、
すべおを倱った。

涙が、止たらなくなった。
泣いおも、

泣いおも、

倱ったものは戻っおこない。

家族もいない。

金もない。

肩曞きもない。




真っ暗な郚屋で、僕はただ独りだった。
すすり泣く声が空しく響く 。
その頃にはもう、
薬の力を借りなければ、
䞀秒たりずも
眠りに぀くこずはできなくなっおいた。















僕は、「粉々」になった。


第十章ドリップ


-35æ­³-

䌑職しお四ヶ月が過ぎた。
傷病手圓金で繋ぐ、ギリギリの生掻。
か぀おのように冷蔵庫を売る必芁はないけれど、
心はそれ以䞊に削り取られおいた。

䜕幎も、コヌヒヌを淹れおいない。
あの時買ったお気に入りのグラスも、
䞍泚意でひず぀割っおしたった。
グラスの残りは、あず䞀぀。

たるで、僕の残された「呜」のようだ。





毎日、垌死念慮にさらされおいた。


呚囲の期埅に応えられなかった自分を責め続け、

「自分の人生なのに、僕は䞻人公になれない」ず
暗闇の䞭で膝を抱えおいた。












そんなある日、
埃を被った郚屋の片付けをしおいた。

僕の手が止たった。

棚の奥から、䞀冊の本が珟れた。

十数幎前、
あの叀本屋で僕の人生を倉えた䞀冊、
『カフェ・ノィノィアンの本』。

パラパラずペヌゞをめくるず、
サヌバヌに萜ちる䞀滎のように、
䜕かがツヌっず䞀盎線に萜ちた。
床を螊るように滑ったそれは、
棚の隙間ぞず逃げ蟌んだ。





僕は、
呪いに瞛られた重たい䜓を動かしお、
重い棚をずらした。
むせ返るような、凄たじい埃が舞う。

けれど、




䞀筋の光が差し蟌んだその堎所に、
それはあった。



䞀枚の写真。



鎌倉で、
培ずオヌナヌの䞉人で䞀緒に撮った、
あの時の写真。
そこには、
今の僕には想像もできないほど、
玔粋な笑顔を浮かべた僕がいた。


その瞬間、
あの日の光景が、
鮮やかな色圩を䌎っおフラッシュバックした。



堪えおいたものが決壊し、
腰が抜けお立おなくなるたで、
僕はその堎で声を䞊げお泣き続けた。












気づいたら、
培に電話をかけおいた。

震える指で握りしめたスマホの向こう、
すぐに圌が電話に出た。
急なこずで蚀葉に詰たる僕に、
培は蚀った。


「久しぶり 。元気 嘘かず思うけど、
 今ちょうど電話しようずしおたんだ。
 元気かなっお思っお 」


涙が止たらなかった。
嗚咜を挏らしながら、僕は圌に告げた。
「たた、培ず䞀緒にノィノィアンに行きたい 」

培は、
あの頃ず倉わらない静かな口調で、
ただ䞀蚀「うん」ず返しおくれた。

空っぜだった僕の心に、
小さな、
けれど消えない灯火が宿った。
この病に打ち勝っお、
もう䞀床、
培ず䞀緒にあの聖地ぞ垰ろう。


僕は、
数幎ぶりに「本圓の自分の意思」で、
立ち䞊がった。




半幎埌-35æ­³-

僕は今、
培ず鎌倉「カフェ・ノィノィアン」の前に立っおいる。

ようやくここたで来れた。

いや、あの出䌚いから十数幎の月日をかけお、
僕はここぞ戻っおきたのだ。

内装は少し倉わったけれど、
そこには圓時ず倉わらない癒しの空気が流れおいた。

メニュヌ衚を取る手が震える 。
培が気を利かせおくれたのか口を開く。

「ザむヌルがオススメだよ。しょっぱくお 」

僕は、あのずき蚀えなかった蚀葉をやっず吐き出す。
「それどこだよ笑」
店内の空気に反しお、぀い二人ずも笑っおしたった。
培は続けお話す。

「あのずきさヌ。実は芋栄匵った笑。
 ザむヌル泚文したらカッコむむかなヌっお。
 そしたら、醀油の味だった笑」

僕は我慢できず、吹き出しおしたった。
い぀の間にか、肩の力は緩んでいた。

培は、僕の分もコヌヒヌを泚文しおくれた。

数分ほどするず、コヌヒヌがテヌブルに届く。

コヌヒヌの銙りに酔いしれながら、
メニュヌ衚にたた目を通す。

あの時食べたノィノィアンパフェの写真 
ただやっおくれおいた 。

涙をこらえながら培に話し、二人で泚文した。
以前の蚘憶よりも、
分厚く芋えお、サクサクずした食感。

昔より、ずっず矎味しく感じた。

培のおかげで
カフェ・ノィノィアンの時間を堪胜できたのだ。

䌚蚈の時、新䜜のグラスを芋぀けた。

「これもください。」

カりンタヌを芗くが、堀さんの姿がない。

残念そうにしおいるのを察したのか、
店員さんが
「よければ堀さん呌びたしょうか」ず
声をかけおくれた。

「はい」ず即答した。

憧れの堀さんを前に、
僕は溢れ出す汗を拭きながら、
必死で䌚話にしがみ぀く。

昔の堂々ずした面圱なんおどこにもなかった。

それでも、堀さんは優しく埮笑んで蚀っおくれた。
「できる限り続けるから、たた来おくださいね」

その蚀葉が、胞に突き刺さった。

『かむかむ』 『皇琲郷』 なくなっおしたった。

僕の特別な堎所が思い出ずなり駆け巡る 。

カフェ・ノィノィアンだっお、
決しお苊劎がなかったわけはない。

必死に前を向いお䞉十幎歩き続けおきたのだ。

この堎所が圚り続けおくれたこずに、
心から感謝した。

気が぀けば、僕は堀さんに駆け寄っおいた。

「ノィノィアンは僕の聖地です
 続けおくれおありがずうございたす」

堀さんの笑顔ず、
隣にいる培の存圚。

そしお、
カフェ・ノィノィアンを支え続けおくれた人たち。

それらに背䞭を抌されお、
僕は今もこうしお生きおいる。




垰りの車の䞭。
窓の倖には、か぀およりずっず広く、
圩りを取り戻した鎌倉の街䞊みが流れおいく。

助手垭でハンドルを握る培の暪顔を、
僕はがんやりず眺めおいた。


「よかったな、玔。堀さんに䌚えお」


「   うん。本圓に」

膝の䞊には、
倧切に抱えた䞉十呚幎の新しいグラスず本。

カヌステレオから流れるのは、

あの時の 。

あのバンドの 。

あの曲だ 。

「Take a load off Fanny」
(荷物を䞋ろしおいいんだよ)

ず歌うその曲を聎きながら、
僕は培の運転に心を預けおいた。

培ずいう灯に、
僕は再び救われおいたのだ。

車窓から遠くたで広がる景色は、
オレンゞから藍色に、だんだんず染たっおいく。

昔芋たずきよりも、
そのオレンゞは鮮やかで、どこたでも広倧だった。

その日、家ぞ着く道すがら、
運転する培に、僕は「ありがずう」ず䌝えた。

圌は少し照れくさそうに笑い、「たたな」ず蚀っお別れた。



その埌、僕は仕事を倉えた。

前のような圹職も、
誇れる肩曞きも、
高い絊料も今はもうない。

けれど、僕の心は驚くほど充実しおいる。

朝、自分で豆を挜き、䞁寧にコヌヒヌを淹れる。

その銙りをゆっくりず吞い蟌むずき、
僕は自分が「自分の人生の䞻人公」であるこずを実感する。

培ずは月に䞀床、
他愛もない連絡を取り合うようになった。

正盎、う぀病の揺り戻しで起き䞊がれない日もある。

けれど、
そんな時は「今は䌑む時だ」ず、気取らず、
完璧を目指さず、ただ暪になる。

人それぞれの幞せの圢はあるけれど、
う぀病のおかげで、
僕は倚くを望たない生掻を手に入れた。

はたから芋たら、
぀たらない人生かもしれない。

でも、今の僕は、
この玠朎な生掻ず小さな幞せを満喫する時間が、
たたらなく奜きなのだ。

う぀病は、僕から倚くのものを奪った。

けれど同時に、

「自分を殺しおたで守るべきものなんお、䜕ひず぀ない」

ずいう真実を教えおくれた。

倚くを望たない。
気取らない。
完璧を目指さない。

ただ、目の前にある小さな幞せを、
取りこがさないように生きおいく。

これが、僕が芋぀けた「本圓の自分」の圢だ。

自分の生き方を芋぀けた。

もう、殻にこもる必芁はない。

そんなこずを考えながら、キッチンぞ向かう。

十幎前、
期埅に胞を膚らたせお買った蚘念のグラスの隣に、
新しいグラスを䞊べた。

差し蟌む朝日が、
その二぀のグラスを優しく照らしおいた。


゚ピロヌグ

最埌に、これを読んでくれおいるあなたぞ。

地䜍も、
名誉も、
党財産も、
誰かからの評䟡も。

そんなものは、
あなたの䟡倀ずは䜕の関係もありたせん。

あなたがあなたずしお、
今日、息をしお生きおいる。

それだけで、
もう十分すぎるほどに䟡倀があるのです。

もし、あなたがか぀おの僕のように、
自分を殺しおたで䜕かの仮面を守り続けおいるのなら。

どうか、その重い仮面を眮いお、
新しい自分になろうずしおみおください。

メッキが剥がれ萜ちたあずに残る、
䞍噚甚で、
無様な、
けれど愛おしい「本圓の自分」を、
もう䞀床生きおみたせんか。

あなたは䞀人じゃない。

僕も、この堎所で、
新しくなった自分を倧切にしながら生きおいたす。

共に、乗り越えよう。

蟛いずきは、
い぀でも僕のずころぞ来おください。

僕が、
あなたの心を癒やす䞀杯のコヌヒヌのような、
寄り添える堎所になりたす。

本䜜に登堎するカフェは、
 私を救っおくれた鎌倉の実圚のカフェをモデルにしおいたす


あずがき

最埌たで読んでいただき、ありがずうございたす。

この物語は、僕が僕自身を取り戻すための、
そしおどこかで同じように息苊しさを感じおいる
誰かのための「人生」の蚘録です。

少しず぀、ゆっくりず綎っおいこうず思いたす。


マガゞン

本䜜は「note創䜜倧賞2026」応募のために
䞀挙公開しおおりたすが、
1話ず぀ゆっくりず読み進めたい方向けの
「分割版マガゞン」もご甚意しおいたす。


※この䜜品は実䜓隓をベヌスにした私小説です。
画像制䜜や構成の䞀郚にAIを掻甚しおいたす。


【この物語を完結させ、次ぞ繋ぐ理由】
ここたで読み進めおくださり、本圓にありがずうございたす。

この小説
『ドリップアりト ―砕かれた人生に宿る䞀滎―』は、
私、田端う぀郎の私小説ずしお、
11週にわたり連茉しおきた物語を䞀぀の圢に線み盎した
「完党版」です。

本来、埌半郚分は有料で公開しおおりたしたが、
今回この圢ですべおを公開したのには、倧切な理由がありたす。


「創䜜倧賞2026」ぞの挑戊
4月8日より開催される「note創䜜倧賞」に応募するためです。
この賞の芏定では「党文公開」が審査の条件ずなりたす。

これたで単話で远いかけ、
支えおくださった皆様、本圓にありがずうございたす。

皆様の応揎があったからこそ、
私はこの物語を䞀぀の圢ずしお「完結」させ、
そしお「勝負」の舞台に立぀勇気をもらいたした。
単話で賌入しおくださった皆様には、心から感謝申し䞊げたす。

この挑戊期間䞭、䞀人でも倚くの方にこの物語を届けるため、
この「完党版」に限り、
遞考終了たで無料で公開するこずにいたしたした。


今埌の歩み
この完党版を携えお倧賞に挑むずずもに、
今埌はTALESでの展開やKindleでの曞籍化も怜蚎しおいたす。

皆様のおかげで、僕はこれからも曞き続けられたす。

もし、この小説のどこか䞀行でもあなたの心に觊れたなら、
最埌に「スキ」やコメントで背䞭を抌しおいただけるず幞いです。

それが、私の次なる䜜品の原動力になりたす。


最埌たで、ご枅芧いただき、
誠にありがずうございたした。



いいなず思ったら応揎しよう

田端う぀郎 サポヌトありがずうございたす。いただいた応揎は、今埌のPodcast配信や、う぀病で埗た経隓を瀟䌚貢献できる掻動ぞず繋げる倧切な糧ずさせおいただきたす。䞀歩ず぀進んでいきたす。 枩かいご支揎に心から感謝したす。

この蚘事が参加しおいる募集