Zoomの画面越しに、置き物になっていた私の話
先週の面談3件は、全滅だった。
メールを開いても新しい連絡はない。
面談待ちの案件はゼロ。
先週まで並んでいた案件の棚は、見事なまでに空になっていた。
在庫管理の世界なら完全な欠品状態である。しかも補充予定なし。
少し気持ちは沈んでいたが、今日は週に一度の講師とのZoom面談の日だった。
ただ、今回はひとつ報告できることがあった。
ポートフォリオである。
3回連続で面談担当者から言われた。
「ビジュアルが弱いですね」
最初は意味がよく分からなかった。
私はずっと文章を書いてきた人間だ。ポートフォリオなのだから、文章がしっかりしていれば良いと思っていた。
ところが現実は違った。
3回目の面談でも同じことを言われた。
さすがに悔しかった。
そこで私はCanvaを開き、ChatGPTに教わりながらポートフォリオを作り直した。
夜中までかかりながら、2日がかりで何とか完成させた力作である。
Zoomが始まると、私は少し誇らしい気持ちで経緯を説明した。
「ビジュアルが弱いと言われまして」
「それでCanvaを覚えて作り直しました」
講師はうなずきながら聞いていた。
そして一言。
「ちょっと見せて」
画面共有が始まった。
ここから先の15分間を、私はたぶん忘れないと思う。
まずタイトルの位置が動いた。
次に写真が入れ替わった。
余白が広がった。
文字の大きさが変わった。
ページの順番が変わった。
リンクの貼り方が変わった。
説明文が整理された。
私が文字で埋め尽くしていたページは、写真を大きくしただけで急に見やすくなった。
「あれだけ悩んだのは何だったんだろう」
そう思うほどだった。
気づけば別物になっていた。
講師のカーソルは一度も迷わない。
まるで完成形が最初から見えている人の動きだった。
私は途中からメモを取ることすら諦めた。
「なるほど」
「あ、そうなんですね」
「はい」
口から出る言葉もその三種類だけになった。
熟練のフォークリフト運転手が、迷いなく荷物を運び、棚を組み替え、15分で倉庫全体を整理し直してしまう。
私が2日かけて積み上げた棚が、次々と組み替えられていく。
私は何をしていたか。
見ていた。
ただ、見ていた。
Zoomの画面の隅で、小さく映る60歳のおじさん。
ほぼ置き物だった。
タイトル通りである。
もちろん講師は親切だった。
嫌味もない。
むしろありがたい。
ありがたいのだが、画面の前の私はといえば、帳簿だけ持って立ち尽くしている倉庫の係員そのものだった。
15分後。
見違えるほど見やすくなったポートフォリオが画面に残った。
そして講師は最後に言った。
「来週はまた案件獲得ですね」
「一日10件応募、頑張ってください」
重たい指示である。しかし不思議と嫌じゃなかった。15分で私のポートフォリオを生まれ変わらせてくれた人の言葉は、素直に胸に沁みる。
画面が閉じた。
静かになった部屋で、私は一人パソコンを見つめた。
ポートフォリオは良くなった。
確実に良くなった。
でも案件はゼロである。
欠品状態は変わらない。
しばらくして、玄関のドアが開いた。
「ただいま〜」
買い物から帰ってきた妻だった。
妻は荷物を置くと、私のパソコン画面をのぞき込んだ。
「へえ、きれいになったじゃない」
少しうれしくなった。
ところが次の一言で現実に引き戻される。
「で、仕事は取れたの…?」
痛いところを突いてくる。
ポートフォリオは進化した。
でも案件はゼロだ。
私は苦笑いした。
欠品したら補充する。
棚が空なら埋める。
在庫管理を38年やってきた人間には、その感覚だけは染みついている。
もっとも、一日10件応募という入荷指示は、正直かなり重たい。
まずは1件応募してから考えることにした。
台所から、お好み焼きのソースの匂いが漂ってきた。
60歳の新人ライターに必要なのは、気合いより在庫補充。
地道な旅は、まだ続いている。
