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オムライスは2分先で待っていた。|渚は今日も遠回り

今日は頑張らない日にしよう。

朝、枕に顔を埋めながら誓った。

掃除もしない。

洗濯もしない。

「あとでやろう」
それが今日の合言葉。

休日くらい、それでいい。

ソファに体を預ける。

転がるクッションはいつだって怠け者の味方だ。

「私今日何もしないでいいかな?」

クッションは何も答えない代わりに、私を静かに受け止めた。

「どうぞ、ごゆっくり。暗くなるまでご一緒します。」代わりに私が答えてみる。


動画を一本。

おもしれぇ

もう一本。

気付けば、お昼。時間の早さに正直ビビる。

ここまで計画通り。
何もしていないことに、罪悪感が胸を刺す。

「グゥ…」お腹の催促が聞こえる時間。

私の通知オンはデフォルトでこれ。

他に選択肢はまるで無く、願うなら小鳥の囀りが良かった。
それなら外で鳴りようが机をガタガタさせたり、ゲホゲホしたりしなくて済むのに。

さて、何を食べよう。

そんな日に限って、不思議と食べたくなるものがある。

脳裏に浮かぶ黄色い御馳走

ふわふわの卵に、少し甘めのケチャップライス。

洋食屋さんのトロトロオムライスだ。

思い出しただけで、お腹からの遠慮がちな通知音が呼びかけてくる。「グゥ…」


指は迷わず、宅配アプリを開く。

指が勝手に、大盛りオムライスを選びカートへ入れようとする。
やめてくれ、いいんだよ、そこは並で。

これ以上太ったら、周りから馬鹿にされるだろ。
「やーい、歩くおにぎり」
黙れ。名前が海っぽいからって、ノリと掛けるな。逆三角はこの際認めるが今日だけにしろ。

注文ボタンまで、あと少し。スルスル。

そこで、お届け予定時間が表示される。

約60分。

グゥ…(訳……あの、60分って、すみません、カスタマーセンターに一度、繋いでもらってもいいですか?え!胃袋は対象外?うーん困りましたねー)」だそうだ。

お腹は納得していない様子だ。
奇遇だな。私も同じだ。

一時間かぁ……。

オムライスを食べたい気持ちは私も変わらない。

どうしたものかと画面を眺めていると、

こんな案内が目に入る。

「店頭受け取りなら約20分でご用意可能。」

二十分。

それなら、ずいぶん早い。

家で一時間待つより、車で受け取りに行ったほうがいいかもしれない。

今日は何もしない日だったが、

二十分で食べられるなら話は別。

私は迷わず、

「店頭受け取り」

を選んだ。

注文を済ませると、

私はすぐに立ち上がる。

財布にスマホに、キーケース。それらをお気にのショルダーバッグに詰め込み準備を進める。

忘れ物なし。

今日は何もしない日だったが、受け取りへ向かう足取りだけは例外だ。

クッションが名残おしそうに私の形を残していた。

エンジンをかける。

私の脳は現在オムライスでできている。異様なフワフワで出来ている。

卵は淡い黄色で、表面はツヤツヤと光っている。

バターの甘い香りに、トマトチャップの酸味が少しだけ混ざる湯気。

スプーンを入れ一口頬張ると、ふわふわ卵と、少しの甘酸っぱさを残すチキンライスが口に広がる。

最後にはバターのコクが優しく舌を包み込み、幸せの蓋を被せてくれる。

バックミラー越しの自分の腑抜け顔に一瞬どきりとする。私は気を抜くとこんな顔になっているのか。ドラレコ車内映像は一生見ないと固く心に決めた。

信号を一つ越えて、

角を一つ曲がると、

目的のお店の看板が見えてくる。車のガラス越しでもいい匂いが伝わってきそうだ。

車を駐車場の白線に滑り込ませ、エンジンを切る。

シートベルトを外し、車内に置いたスマホを手に取る。

家を出てからの所要時間、およそ2分。

「いや!近っ!?」






……

……

いや。いや、いや、いや。ちょっと待て。

ちょっと待て。私よ。

名前が「渚は今日も遠回り」で活動しているからってこれは流石に頭が悪くないかい?
別にネタ探しで生きてる訳じゃないんだよ?

配達一時間。店頭受け取り二十分。

到着までの片道およそ2分。

これは絶対店内で食べた方が早いやつ。

ここはよく来るお店だ。どうして早く気付かなかった。友達とも来たりするし。
店の人も私の事、知っているかも知れないレベル。

まぁ、まぁ取り敢えず落ち着こう。

私は色褪せた木の扉に手をかけ、体重を乗せるように、ゆっくり押し開いた。

「いらっしゃいませ〜」見慣れたお店の人が近づいてくる。

「何名さまですか?」

今さら店内でお願いしますとも言えないので、店頭受け取りしかないよな。そういえば、お店で受け取るの初めてだった。

「あっ、Uberで来ました。」

……

ん?何この間は?

店員さんはにこりと笑って言う。

「暑い中、ご苦労様です。」って言いながら笑顔。「店長、Uber さん来ましたよー!」

いや、いや、違います。その、少しだけ同情した笑顔はやめて下さい。私は単に自分の食べる分のオムライスを受け取りに来ただけです。信じて下さい。

ほら、こうゆうときの胃袋でしょ、いつもの通知音頼みますよ!

「……」
何、他人の顔決めてるんだよ。この裏切り者。

私はまぁまぁの説明時間を要し、オムライスを受け取ると、静かに助手席にそれを置いた。


店で食べれば早かったかもしれない。

だけど、ソファに腰を下ろし、テレビをぼんやり眺めながら、ゆっくり味わうオムライス。

この時間だけは、私だけの特等席。

今日いちばん落ち着く場所が、たぶんきっとここだったのかもしれない。



今日もひとつ、驚いて。

今日もひとつ、恥ずかしくなって。

それでも今日という日は過ぎていく。

渚は今日も遠回り。



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