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言葉より先に伝わるもの

風邪をひいて、声が出なくなりました。
もともと少し耳が遠くなっている夫には、私のかすれ声がほとんど届きません。
テレビの音量は数字で表示されるのでわかりやすいのですが、夫はそこは認めたくないようで、
「本編になると音が小さくなるんだよ」
と、毎回テレビのせいにしています。
その言い訳するところが、最近ちょっと可笑しくなります。
 
午前中は、久しぶりに横になることにしました。
診療室に出ていた時には、多少の風邪くらいでは休めませんでした。
熱があっても、声が出なくても、とりあえず現場に出ました。
でも今は違います。
「今日は寝ていよう」
そう決められることが、なんだか贅沢に感じました。
これも、夫の引退後に始まった『ふたり時間』の変化なのかもしれません。

夫はその日、仕事でした。
昼近くに1階の診療室から2階に上がり寝室に来て
「お昼食べられる? 俺の弁当食べれば?」
と言いました。
私は食欲がないわけではなかったので、
「大丈夫。自分で作るよ」
と断りました。
言ったあとで、
せっかく気をつかってくれたのに悪かったかな、
と少し思いました。
夫はそのあとも、何度か寝室をのぞきに来ました。
「大丈夫?」
と聞くわけでもなく、
ただ、そっと様子を見るだけ。
私も夫のこと気づいていたけどわざと気づかないふりをしました。
 
不器用で、気が利くタイプではないけれど、
こういうところが夫らしいなと思います。
若いころは、
もっとわかりやすい優しさを求めていた気がします。
でも今は、
黙って様子を見に来てくれるだけで十分あたたかい。
長く一緒に暮らすと、
言葉より先に伝わるものが増えていくのかもしれません。

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