【掌編私小説】丁寧すぎて
別れて間もない元カノが、大量の酒の空き瓶を
欲しがっていた。妹が、演劇で使うらしい。
俺がバーで働いているから、作品に合う様に
なるべくお洒落な洋酒のビンを何十と家に溜めた。
大きな段ボール箱、強い透明なテープ、数mの
ロール状のプチプチをふた巻きホームセンターで
買って、夜な夜な空き瓶を水洗いして拭き上げては丁寧に分厚く巻き、翌日の早朝に俺の家の
最寄り駅で待ち合わせ。
車がナビに惑わされてかなり迷ったらしい。
…寒空の下で1時間弱は待った。
家に戻るには箱が重過ぎた。
…まぁ、いいんだけどさ。いいんだけど。
その夜、LINEが元カノから来た。
「妹がすごく感謝してた!
梱包が丁寧すぎて家族でびっくりしたよ!」
そう送られてきた。
丁寧にした甲斐があったな、と思うより先に、
俺は家族で中身を見たという話が、何だか妙に
引っ掛かった。
妹さんは俺達の事情を知っていた。
別れたことも、今の体だけの関係も、
妹さんは知っていた。親御さんは知らない。
だから余計にその行為が妙に思えてならない。
俺は、何かを確かめられたような気がした。
箱の中に違う気持ちが詰まってるんじゃないかと。
歯噛みして、スマホを布団に投げた。
冷蔵庫の牛乳を飲む。
その後またすぐLINEをまた見る。
手持ちの残りの2本を吸う。
…よせ。それ以上でもそれ以下でもないんだよ。
…こういうことを思ってしまったり、
思いつくのが不誠実なのは分かってる。
見てみたというより、検閲された気分になった。
結果的にフラれてしまうまでの一週間は
必死だった。自分の気持ちを、7日間も使って
全力で差し出したのに届かなくて、誕生日にくれたジッポと、大量の吸い殻だけが俺に残った。
だから、過敏で馬鹿みたいな反応を
してしまうんだ。
ただ瓶だけ詰めたって言ってんだから、
それを信じてくれたっていいじゃないか。
だけど、違うのは分かってる。
そうじゃないって事くらい。
…ただの好奇心だって、分かってるよ!
分かってんだけどさ!検閲じゃねぇって!
フラれた元カノに未練があった。
まだ何か関われればと思って懸命に瓶を集めた。
だが瓶の他に良からぬ何かが入っていたらという、家族総出の検閲に思えてしまった。
…別にそんな歪んだ表現しねぇよ。
頭の中がさっきからうるさいんだよ…
あー……クソッ、冷蔵庫にビールが無ぇ。
煙草…置いてきた。何なんだよ。全く。
あ、明日は二人で忘年会する約束してたよな…
終
