「山本先生、初めてのスターバックス」(短編小説)
スターバックスの店内は少しざわついていた。
人が多い。
音も多い。
山本先生は列に並ぶ。
前の人は慣れたように注文している。
「トールで」
「グランデで」
「アイスのベンティで」
山本先生はその言葉を聞きながら、少しだけ考える。
長かった。
本当に長かった。
自分の番になる。
店員が聞く。
「サイズはいかがされますか?」
山本先生はメニューを見る。
横文字が並んでいる。
トール、グランデ、ベンティ。
少しだけ沈黙。
店員は待っている。
山本先生は言う。
「普通ので」
店員は一瞬止まる。
「…トールサイズでよろしいですか?」
山本先生は頷く。
「それでええ」
それだけだった。
受け取ったカップには「T」の文字。
山本先生は席に座る。
周りはみんな違うサイズの名前を言っている。
でも、見た目は同じコーヒーだった。
山本先生は飲む。
少しだけ熱い。
ふと思う。
「名前が違うだけで、だいたい同じやな」
長かった。
本当に長かった。
そしてもう一度カップを見る。
「サイズいうんは、選んでるようで選ばされとるもんかもしれんな」
それだけだった。
外に出ると、風が少し強かった。
カップは軽かった。
でも中身はちゃんとコーヒーだった。
それだけだった。
