あの日の後悔 吉田温泉
沼津の街を歩いていて、ふと「吉田温泉」の前で足が止まった。

かつてこの街で暮らしていた頃は、まだ営業していた。
ただ、独特の渋みと圧倒されるような佇まいが「よそ者」には敷居が高く感じられ、結局一度も客として暖簾をくぐることはなかった。

営業していた頃、ドラマ『孤独のグルメ』でお馴染みの久住昌之さんが原作を手がけたテレ東ドラマ『昼のセント酒』の舞台にもなった。
今になって、猛烈に後悔する。
あのとき、少しばかり勇気を出して、あの引き戸をガラリと開けていればよかった。あとになってから「行っておけばよかった」と頭を抱える。そのときの瞬発力ってやつは、本当に大事だとしみじみ思う。

現在は銭湯としては営業していない。けれど、完全に寂れてしまったわけではなく、最近はアートの展示や各種イベントの会場として第二の人生を歩んでいる。
湯気が立ち込めていた場所に、今は別の熱気が集まっている。
看板の文字を眺めながら、もう二度とあの頃の湯には浸かれないという事実と、あのとき臆病だった自分を、なんとなく苦笑いしながら受け止める。
今日はただ、この後悔をポケットにしまって、もう少し歩くことにしよう。
