敷居、音立てて崩壊中「教科書が絶対教えない」ヘンテコ・クラシック音楽の世界

こんにちは!クラシック音楽といえば、何を想像しますか?豪華なドレスやタキシード、重厚なパイプオルガン、咳払いすら許されない静寂のホール……。「なんだか敷居が高そう」「難しそう」と敬遠されがちなジャンルの筆頭かもしれません
ですが、ちょっと待ってください
クラシックの作曲家たちって、実は現代のユーチューバーやSNSクリエイター以上にぶっ飛んだネタに走っていた変人たちの集まりだったりします。
今回は、音楽史に燦然と輝く(?)超絶奇抜なタイトルと演出を持つクラシック曲を厳選してお届けします「高尚な芸術」というイメージを粉々に砕き割り、思わず「なんじゃそりゃ!」とツッコミを入れたくなる魅惑の世界へようこそ!
1.静寂も音楽!?無音の4分33秒
『4分33秒』(ジョン・ケージ作曲)
奇抜度: ★★★★★
ツッコミどころ: 演奏者が何も弾かない
【演奏の手順】
1. 奏者がステージに登場する
2. 楽器の前に座る(または立つ)
3. 楽譜を開く(またはストップウォッチを構える)
4. 4分33秒間、一切演奏しない
5. 礼をして去る
【曲の詳細と分析】
アメリカの現代音楽作曲家ジョン・ケージが1952年に発表した、音楽史上で最も有名な「無音」の楽曲です。第1楽章・第2楽章・第3楽章と分かれていますが、すべての楽章に「Tacet(休む=演奏しない)」と書かれています。
「え、じゃあ何を聞けばいいの?」と思いますよね。ケージの狙いはまさにそこ、演奏者が音を出さないことで会場のざわめき・外を走る車の音・聴衆の咳払いや呼吸音……そうした「その場に存在する環境音すべてを音楽として聴く」というコンセプトなのです。
【考察&クスッとポイント】
これ、初演の時は観客がブチギレたそうです「金を払って静寂を聴かされた!」と(笑)
でも考えてみてください、現代社会ってスマホの通知音や街の喧騒で常に頭が休まりませんよね?1950年代に「無音の中に立ち現れる環境音に耳を澄ませよう」と提案したケージは、時代を先取りしすぎたデジタルデトックスの教祖だったのかもしれません、ちなみにCD音源も発売されていますが、無音のトラックが流れるだけです。(爆)
【根拠・参照情報】
参照文献:Tomkins, Calvin (1965). The Bride and the Bachelors: The Heretical Courtship in Modern Art. (ジョン・ケージの生涯と『4分33秒』の初演時のエピソードを記録した伝記・美術評論書)初演日・場所:1952年8月29日、ニューヨーク州ウッドストック(デヴィッド・チューダーによるピアノ演奏)
2.物理的に空を飛ぶ狂気
『ヘリコプター弦楽四重奏曲』(カールハインツ・シュトックハウゼン作曲)
奇抜度: ★★★★★(規格外)
ツッコミどころ: 演奏者が4機のヘリコプターに乗って飛び立ち、ヘリの中で演奏する
クラシックの演奏会場といえばコンサートホールですが、ドイツの前衛作曲家シュトックハウゼンは「ホールが狭すぎる」と考えたのか、演奏者をヘリコプターに乗せました。
【曲の詳細と分析】
ヴァイオリン2名・ヴィオラ1名・チェロ1名で構成される「弦楽四重奏」通常なら仲良く並んで演奏しますが、この曲では奏者4人がそれぞれ別のヘリコプターに乗り込みます。
ヘリが上空に飛び立ち、爆音のプロペラ音の中で奏者たちが演奏、その音と映像をマイクとカメラで拾い地上にあるコンサートホールのスピーカーとモニターにリアルタイムでミックスして流すという、スケールが大きすぎる楽曲です。
【考察&クスッとポイント】
演奏条件として「ヘリコプター4機」「熟練のパイロット4名」「特注の伝送装置」が必要なため、演奏されるたびに莫大な予算がかかります。
弦楽器のシュプールのような高音と、ヘリコプターの「バババババ!」という回転音が混ざり合う音響は、もはや音楽というより「音の兵器」奏者は高所恐怖症だったら絶対に引受拒否したいお仕事No.1です。シュトックハウゼンは「夢の中でヘリコプターに乗って演奏する弦楽四重奏が見えた」から作ったそうですが、夢の再現のために国家予算レベルの演出をする情熱には脱帽です。
【根拠・参照情報】
参照情報:シュトックハウゼン作品目録(Stockhausen Courses Kürten 公式アーカイブ)初演:1995年アムステルダム(ホランド・フェスティバルにて、アルディッティ弦楽四重奏団による演奏)
3.クラシック界のオフィスワーク
『タイプライター』(ルロイ・アンダーソン作曲)
奇抜度: ★★★★☆
ツッコミどころ: パソコンの先祖「タイプライター」が打楽器として大活躍
【曲の詳細と分析】
アメリカのポピュラークラシックの巨匠、ルロイ・アンダーソンが1953年に作曲した軽快で楽しいオーケストラ曲です。
ソロ楽器としてフューチャーされているのは、なんと本物のタイプライター!
文字を打つ「カタカタカタ……」という音、行の末尾に達した時に鳴る「チーン!」というベル音、そして用紙を左に戻す「シャー!」というレバー移動音が、見事にオーケストラの音色とシンクロします。
【考察&クスッとポイント】
この曲のソロ演奏者は、ヴァイオリニストでもピアニストでもなく「めちゃくちゃタイピングが速い打楽器奏者」です。
楽譜にはタイピングのタイミングが緻密に指定されており、指を痛めないために特殊なフォームで叩く必要があります「チーン!」の音に合わせて素早くレバーを戻す姿は熟練のオフィスワーカーそのもの、今で言うなら「キーボードの打鍵音とEnterキーのパーン!という音で曲を作ってみた」というVTuberのバズ動画みたいなセンスを、70年以上前に完成させていたのが凄いです。
【根拠・参照情報】
参照文献:Speed, Burgess (2004). Leroy Anderson: A Bio-Bibliography. Greenwood Press. (ルロイ・アンダーソンの楽曲解説と作品目録)楽曲成立:1953年作曲。映画『底抜け大学教授』(1963年)でジェリー・ルイスがこの曲に合わせてタイプライターを叩くパントマイムを行ったことで世界的に有名になる
4.上司への「無言の抗議」を音楽に
交響曲第45番『告別』(フランツ・ヨーゼフ・ハイドン作曲)
奇抜度: ★★★☆☆
ツッコミどころ: 演奏中に団員が1人ずつ蝋燭を消して帰っていく
【曲の詳細と分析】
「交響曲の父」と呼ばれる大作曲家ハイドンが、パトロンであるエステルハージ公爵のために書いた作品(1772年作曲)です。
曲の最終楽章の後半、奇妙なことが起こります。曲が続いているにもかかわらずオーケストラの団員たちが1人、また1人とおもむろに譜面台の蝋燭を吹き消し、楽器を片付けてステージから退出していくのです。最終的には2人のヴァイオリン奏者だけが残り、ひっそりと曲が終わります。
【考察&クスッとポイント】
なぜこんな珍妙な演出をしたのか?
実はこれ「公爵様、そろそろ休暇をください……僕たち家に帰りたいです」という団員からの労務環境改善要求(ストライキ)でした。
当時、公爵の夏の離宮に長期間拘束されていた団員たちは家族に会えず疲弊していました。そこでハイドンは、直接苦情を言う代わりに「曲の中で団員が帰っていく」というユーモア溢れる演出を仕掛けたのです。
幸いにもエステルハージ公爵はセンスのある人物だったため、このメッセージを理解し「みんなが帰るなら、我々も明日戻るとしよう」と言って翌日全員に帰宅許可を出しました。音楽を使った史上最もスマートで平和な労働組合運動と言えます。
【根拠・参照情報】
参照文献:Robbins Landon, H. C. (1976). Haydn: Chronicle and Works, Vol. 2: Haydn at Eszterháza 1766-1790. Indiana University Press. (ハイドンの生涯と『告別』交響曲の成立背景に関する一次資料に基づく記述)
5.え、曲の途中で終わり…!?
交響曲第9番『フィナーレ』(各作曲家のジンクス&未完の美)
奇抜度: ★★★☆☆
ツッコミどころ: 9番目の交響曲を書くと死ぬ(という都市伝説)と
【曲の詳細と分析】
タイトルというよりはクラシック界に伝わる有名な概念「9番のジンクス」に関するお話です。
ベートーヴェンが超名作「第九(交響曲第9番)」を書いた後に亡くなったことから、クラシック界には「作曲家は第9交響曲を書くと、それが遺作となり死んでしまう」という恐ろしいジンクスが生まれました。
シューベルト・ブルックナー・ドヴォルザーク・マーラーといった巨匠たちが、ことごとく交響曲第9番(またはその制作中)でこの世を去っています。
【考察&クスッとポイント】
このジンクスを本気で怖がったのがグスタフ・マーラーです。
彼は9番目の交響曲を作る際、呪いを回避するためにナンバリングをつけずに『大地の大歌』というタイトルで発表するという「タイトル偽装」を試みました「これならカウントされないだろ!」と思ったわけですね
その後「よし、これで1曲分カウントをズラせたぞ」と安心したマーラーは、改めて『交響曲第9番』を作曲・完成させました。……しかし、続く『第10番』の途中で帰らぬ人に、結局ジンクスからは逃れられなかったというなんとも切なくもコントのような実話が残っています。
【根拠・参照情報】
参照文献:De La Grange, Henry-Louis (1995). Gustav Mahler: Volume 3. Vienna: Triumph and Disillusion (1904–1907). Oxford University Press. (マーラーが第9交響曲のジンクスを恐れて『大地の歌』に番号をつけなかったエピソードの記録)
また、アルゼンチン出身の現代音楽家マウリシオ・カーゲルが1981年に作曲した『フィナーレ(Finale)』は「演奏中にマエストロ(指揮者)が激しく倒れる」という奇抜な指示で非常に有名な楽曲です。
『フィナーレ』でマエストロが倒れる演出の詳細
この曲は約20分のオーケストラ作品ですが、終盤(約15分〜20分が経過したあたり)で楽譜に極めて具体的なト書き(指示)が書かれています。
演出の流れ:
演奏中、指揮者が突然けいれんを起こしたように体が硬直する
左手で自分のネクタイを緩め、胸をさする(心臓発作の演技)
譜面台を掴み、譜面台ごと客席側に向け仰向けにガッシャーンと倒れ込む
その後、コンサートマスター(第一ヴァイオリンのトップ奏者)が代わりに指揮を引き継いで曲を最後まで演奏し切る
6. タイトルからして直球の衝撃
カノン『俺の尻を舐めろ(Leck mich im Arsch)』(ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲)
奇抜度: ★★★★★(下ネタの極み)
ツッコミどころ: 天才モーツァルトが作った、あまりにも酷い歌詞
【作品基本データ】
・作品番号:KV 231 (K³ 382c)
・作曲者:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
・歌詞(日本語訳):俺の尻を舐めろ、きれいに綺麗に舐めろ!
【曲の詳細と分析】
教科書では「神に愛された天才」「優雅で美しい旋律の神様」として描かれるモーツァルト、しかし彼のプライベートな作品や友人宛の手紙には下ネタが溢れ返っていました。(笑)
この曲は、6つのパートが追いかけっこをする「カノン」形式で書かれた合唱曲です。音楽的には非常に美しい対位法(クラシックの高等な作曲テクニック)で書かれているのに、歌詞は「俺の尻を舐めろ」の連呼です。
【考察&クスッとポイント】
モーツァルトは酒場の友人たちと歌って爆笑するためにこの曲を作りました。
「美しい旋律に乗せて、最低の歌詞を歌う」というギャップ萌え(?)は、現代のアニソンやパロディソングの原点、後世の研究者やモーツァルトの妻コンスタンツェは、彼の名誉を守るために歌詞を「お互いに親しくなろう」みたいな無難な内容に書き換えて出版しようと苦心しましたが、原典研究によってバッチリバレてしまいました。
天才だって、友達と集まれば小学生並みの下ネタで大爆笑する普通の男だったと思うと、一気に親近感が湧いてきませんか?
【根拠・参照情報】
参照データ:モーツァルト作品目録(Köchel Verzeichnis)KV 231。参照文献:ザルツブルク・モーツァルテウム財団(International Mozarteum Foundation)所蔵の自筆譜およびモーツァルトの手紙書簡集
7.頭上注意!打楽器の限界突破
『ティンパニとオーケストラの協奏曲』(マウリシオ・カーゲル作曲)
奇抜度: ★★★★☆
ツッコミどころ: 演奏の最後に、演奏者がティンパニに頭から派手に突っ込む
【曲の詳細と分析】
アルゼンチン出身の現代音楽家マウリシオ・カーゲル(1931-2008)は、「視覚的劇場性」を音楽に持ち込んだ第一人者です。
この協奏曲では、迫力あるティンパニの演奏が繰り広げられた後、曲の最高潮である最後の最後で、指示を受けた奏者が紙で作られたティンパニの皮へ頭からダイブして演奏が終わります。
【考察&クスッとポイント】
楽譜にはしっかりと「(ティンパニの中に)頭を突っ込むこと」と指示(フェードインならぬダイブイン)が書かれています。
真面目な顔をしてクラシックの打楽器奏者が太鼓に突っ込んで身動きが取れなくなる図は、ドリフの大爆笑かバラエティ番組のコントの結末そのもの、カーゲルは「音楽は耳で聴くだけでなく、目で見る演劇でもある」と考え、大真面目にこの演出を提示しました。クラシックの「こうあるべき」という固定観念を壊す、最高にロックでチャーミングな楽曲です。
【根拠・参照情報】
参照情報:マウリシオ・カーゲル作品楽譜(C.F. Peters Edition『Konzert für Pauken und Orchester』スコアの演奏指示より)カーゲルの「新劇場(Neues Musiktheater)」概念に関する音楽史的文献
奇抜なクラシック作品一覧(まとめ)
今回ご紹介した「教科書が教えないヘンテコ・クラシック」を一覧表にまとめました。
4分33秒
作曲家: ジョン・ケージ
発表/制作年: 1952年
一言でいうと: 1音も弾かずに環境音を聴く曲
ヘリコプター弦楽四重奏曲
作曲家: シュトックハウゼン
発表/制作年: 1995年
一言でいうと: 4機のヘリに乗り込んで空中で演奏
タイプライター
作曲家: ルロイ・アンダーソン
発表/制作年: 1953年
一言でいうと: 事務用品がまさかの花形ソロ楽器
交響曲第45番『告別』
作曲家: ハイドン
発表/制作年: 1772年
一言でいうと: 演奏中に団員が帰る無言のストライキ
交響曲第9番『フィナーレ』
作曲家: マーラー・マウリシオ・カーゲル
発表/制作年: 1910年頃・1981年
一言でいうと: 書くと死ぬ?恐怖のナンバリング呪い・マエストロ(指揮者)が曲の途中に倒れる
俺の尻を舐めろ
作曲家: モーツァルト
発表/制作年: 1782年
一言でいうと: 天才がガチで作った美しい下ネタ曲
ティンパニ協奏曲
作曲家: カーゲル
発表/制作年: 1992年
一言でいうと: 最後にティンパニーへ頭から派手にダイブして終了
おわりに:クラシックは「大人の本気の悪ふざけ」だ!
いかがでしたでしょうか?
「クラシック音楽=静かに座って聴く難解なもの」というイメージが、少しでも覆されたなら幸いです。
かつての作曲家たちも現代の私たちと同じように笑い、ふざけ、上司に文句を言い、新しい演出で観客を驚かせようと試行錯誤していた生身の人間にすぎません、そう考えると高尚な額縁の中に飾られていたクラシック音楽が、急に人間味あふれる身近なエンターテインメントに見えてきませんか?
音楽に「正解の聴き方」なんてありません「なんだこれ!」「アホだなあ(褒め言葉)」と笑いながら聴くのも、立派なクラシックの楽しみ方なのです。
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