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第1章-2「CIA工作員の変死」

「そんなにむくれるな。聞いてやるから早く言えよ」
 白石は公安畑、しかも外事警察一筋で、巡査の頃から朝鮮半島を見てきた「生き字引」のひとりだった。白石が外事警察に入った頃は北朝鮮による拉致問題や核開発に世間の関心が集まっていた。白石はその期待に応えるべく周囲が驚くような情報を次々に収集した。
 そんな白石にとって外山が摑んで来る情報は大半がすでに知っているものだった。しかし外山は日々成長を見せるだけでなく、心底情報の仕事が好きなことが伝わり、それを白石は心地良く感じていた。そこに引っ張り上げた責任が加わり、白石としては面倒を見ないわけにはいかなかった。そして2人とも根っからの情報屋という共通点がさらに関係を強固なものにしていた。
「デイン・ミラーって知っていますか? その人物が1週間くらい前に死んだらしいです。話では浴槽内で死んでいるのを、外出先から戻った奥さんが発見したって話でした」
 白石は話を聞いた瞬間、良い情報だと思った。だが「その人物」という言い方を聞き、すぐに外山がミラーに関する知識がないことにも気付いた。外山も外山で聞きかじった情報にどれだけの価値があるのか分からず、探りを入れるつもりで話を切り出した。しかしそこは完全に見抜かれていた。
「ふぅん。そうか」
「何だ…。面白い話だって言っていたけど違うのか…」
 外山は白石の聞き流すような一言を聞いて少し落胆した。
 情報は関係のない者にとって、何の価値もない与太話でしかない。しかし白石はどんな情報を持ち帰っても何らかの反応を示した。したがって外山は担当の情報でなくても価値がありそうな情報は何でも採って来ては白石にぶつけていた。
 外山は肩を落とすと独り言を呟きながら自分の机に戻ろうとした。すると白石が背中越しに声を掛けた。
「待て。その情報の出所はどこだ?」
 2、3歩歩き始めた外山だったが、振り返るとにんまりとした表情を見せながら駆け寄るように白石の机に戻った。
「主任。やはりこの情報、何かあるんですね!」
 ドヤ顔の外山は白石に顔を近付けると問い質した。
「そいつの名は通称『アレス』。中国担当のCIA工作員だ。確かメディカルアメリカの日本副支部長だったと思うが、死んだのか?」
「CIAなんですか!? ネタ元は詳しい検視結果を知りたがっていたようですけど、そう言う話だったんですね。ちょっと待ってください。それって、死因を疑っているってことですよね」
 ネタ元とは情報提供者を意味する。外山はネタ元がミラーをCIA関係者だと言わなかったことを不快に感じながらも、CIA関係者が殺害されたとなれば大きな事件に発展すると期待せずにはいられなかった。
 映画などの暗殺はライフルで狙撃されるシーンが多い。狙撃による暗殺は力を誇示したり、または見せしめにするための方法である。したがって真の暗殺とは殺害したことさえ気付かせない。その最たるものの1つが薬殺である。
 昔はすぐに毒の効果が現れるため暗殺者が逃げる間もなく捕まっていた。しかし今では胃ではなく腸で吸収させる遅延型の毒物も開発されている。実際に各種治療薬も胃から吸収するものと腸から吸収する2種類が市販されている。したがってミラーがCIAの工作員であることを知る者が薬殺を疑うのは当然だった。

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