見出し画像

【平均さん】偏差値28で平均以下。行ける高校は二校だけだった|第12話

あなたの偏差値はいくつですか?

偏差値は平均を50、標準偏差を10として、集団の中で自分がどの位置にいるのかを示す数値です。

大勢の結果を並べると、真ん中が高く、両端へ行くほど人数が減っていくベルカーブとして表されることがあります。

世の中でよく語られるのは、その右端にいる人たちです。

上位一%の才能、突出した成績、選ばれた人の考え方。

ところが、同じだけ真ん中から離れていても、左端にいる人の話は、成功者のようには語られません。

偏差値28は平均より22低く、得点が正規分布に近いと仮定すれば下位約1.4%に当たります。

これが右側なら「上位約1.4%」と肩書になるのに、左側では、本人が何を考えてそこへ着いたのかさえ、なかったことになりがちです。

主人公の平均さんは46歳。

中学二年生の全国テストで偏差値28を記録した、かなり端の「平均以下さん」でした。

ただし、平均さんという人間が、丸ごと左端にいるわけではありません。

偏差値は平均以下でも、現在の年収は平均以上。

転職回数は平均以上で、一社にとどまる年数は平均以下。

普通の人とは、あらゆる項目で真ん中にいる人ではなく、突出したプラスと、できれば見せたくないマイナスを、同じ身体の中へ抱えた人なのかもしれません。

今回は、その左端に置き去りにされた「偏差値28」から、平均さんを見ていきます。

平均さんは百問すべてに答えていた。

途中で体調を崩したわけでも、不良を気取って白紙で出したわけでもなく、問題を読み、これだと思う選択肢でマークシートを埋めていった。

適当に選んだとしても、何問かは当たりそうなものである。

ところが平均さんは、自分の頭で考えたことによって、勘よりも器用に正解を避け、偏差値28へたどり着いた。

いや、百問全部、考えたんだけどな。

全国で下から約五千人の集団におり、その半分ほどは無回答や途中退席だったと、平均さんは記憶している。

最後まで答えて同じ場所にいたのは百人ほどだったというから、努力を数字に変える方向だけが、きれいに反対を向いていたらしい。

その後、母親も同席する三者面談が開かれた。

「高校へは行かせたいです」

母親が言った。

「行ける学校は二校です」

先生が答えた。

「行けるところへ行きます」

平均さんも答えた。

進路相談は、その三つでほとんど終わっている。

夢を聞かれることも、学校を選ぶ条件を並べることもなく、二校しか残っていないなら、そのどちらかへ手を伸ばすしかなかった。

母親は高校へ行かせようとしていたし、先生も入れる学校を探し、平均さんも投げ出してはいない。

誰も手を抜いていないのに、道だけが、もうほとんど残っていなかった。

平均さんが進んだのは、東京でも学力が最下位クラスで、後に『ごくせん』のモデルになったと聞く高校だった。

そこでは、中学まで正解だと思っていた「頭のいい人」の形が、少しずつ崩れていった。

教科書を開けば寝てしまう同級生が、アルバイトには遅刻せず、十八歳になるまでこつこつ金を貯め、誕生日を迎えると運転免許を一度で取り、その日のうちに車を買う。

一人だけではなく、平均さんの周りでは、だいたい全員がそんな調子だった。

おいおい、試験、通るんじゃん。

全国テストで上位に入る力はなくても、欲しい車があり、そのために働き、必要な交通ルールを覚えるとなれば、彼らは途中で答案を放り出さなかった。

筋が通らないことには教師が相手でも食い下がる一方、自分が納得した決まりなら驚くほど素直に守る。

興味と目的が一本につながったときだけ、教室で眠っていた頭が、急にエンジンをかけるのである。

平均さんは偏差値28だった。

同級生たちも、学校の成績だけを見れば、ベルカーブの左側に集められていたのだろう。

しかし、毎日働くこと、金を貯めること、免許を取ること、自分の車を選ぶことまで別々のベルカーブに置いてみれば、彼らがすべて平均以下だったとは思えない。

じゃあ、頭がいいって何なんだ。

平均さんには、分からなくなった。

ただ、分からなくなったことだけは、中学時代より少し賢くなったような気がした。

ずっと後になって、平均さんは、ひろゆきが宇宙飛行士の選抜について話す動画を見た。

学歴などの背景を外して試験をしても、結局は東大を出たような人が残り、会話や情報処理の能力には差がある、という趣旨の話だった。

平均さんも一度は、やっぱり地頭のいい人が残るのかと納得しかけた。

ところが、画面を閉じる前に、十八歳の誕生日を待っていた同級生たちの顔が浮かんだ。

いや……これ、多分違うなぁ。

そもそも宇宙へ行きたい人たちが受ける試験では、全員のエンジンが最初から宇宙へ向いている。

『宇宙兄弟』の中へ、車の免許を取りたい同級生を放り込んでも仕方がない。

彼らは宇宙飛行士の試験なら途中で寝たかもしれないが、欲しい車へつながる問題なら、一度で合格した。

能力の差は、きっとある。

ただ、その能力が表へ出てくるかどうかは、何のために頭を使うのかによって、ずいぶん変わる。

平均さんが高校で見たのは、頭の悪い人が急に賢くなる瞬間ではない。

興味のない場所では、そもそもエンジンへ火を入れない人たちだった。

なお、JAXAが2021年度募集で撤廃したのは学歴と専門性の応募条件であり、経歴を隠したわけではない。

選抜では英語、一般教養、STEM分野、小論文などの試験も実施されているため、平均さんが見た動画の説明と、実際の制度は分けておく必要がある。

46歳になった平均さんは、偏差値28のままではない。

年収は現在も平均以上にいる。

その一方、転職を繰り返し、一社に長くとどまれず、我慢が利かなかっただけではないかと思う夜もある。

行ける場所が二校しかなかった少年は、行ける会社を見つける力だけなら身につけた。

ただし、入った場所へ居続ける力まで一緒に育ったのかは、本人にもまだ分からない。

平均以下と平均以上は交代せず、今も同じ人の中で働いている。

あなたの偏差値はいくつですか?

その数字は、あなたの全部ですか?

平均以下?  平均以上???


#平均さん #偏差値 #ベルカーブ #高校進学 #ごくせん #宇宙兄弟 #平均以下

いいなと思ったら応援しよう!

ヤギヲ ここまで読んでいただきありがとうございます。 「面白かった」「また読みたい」と思っていただけたら、応援していただけると嬉しいです。次の記事を書く力になります。