パジャマ・プログラミング
発明家の田中博士が、奇妙なパジャマを開発した。
見た目は、ごく普通のピンクのパジャマである。
ただし、着て眠ると、プログラミングができるようになるという。
布地には特殊な極細繊維が織り込まれており、眠っているあいだの脳波を読み取りながら、プログラミング言語の知識を脳に定着させるらしい。
博士は、その製品を「パジャマ・プログラミング」と名づけた。
問題は、本当に効果があるかどうかだった。
そこで博士は、隣に住む佐藤さんに頼んでみることにした。
佐藤さんは六十歳を過ぎた会社員で、コンピューターにはまるで詳しくなかった。
「プログラミングなんて、一度もやったことがないよ」
「だからいいんです。何も知らない人ほど実験には向いています」
博士はパジャマを一着渡した。
「一週間、これを着て寝てください」
佐藤さんは半信半疑だったが、無料でもらえるならと引き受けた。
一週間後。
佐藤さんは博士の家へやってきた。
かなり機嫌が悪そうだった。
「博士、あれはダメだよ」
「ダメ?」
「全然プログラミングなんてできるようになってない」
博士はノートパソコンを開き、佐藤さんの前に置いた。
「では、簡単なプログラムを書いてみてください」
「無理だよ」
「Pythonは?」
「知らない」
「JavaScriptは?」
「お茶の種類か?」
博士は頭を抱えた。
完全な失敗である。
特殊繊維の設計に半年かけた。
脳波装置にもかなりの金を使った。
それなのに、何の効果もなかった。
博士は落ち込んだ。
そのとき、佐藤さんの奥さんがやってきた。
「先生、ちょっといいですか」
「なんでしょう」
「主人、何か変なんです」
博士は顔を上げた。
「どこがですか?」
「このパジャマを着るようになってから、寝言が変わったんです」
「寝言?」
「はい。前は『もう食べられない』とか『明日は休みだ』とか、そのくらいだったんですけど」
奥さんは少し困った顔をした。
「最近はずっと、フォーとか、イフとか、エルスとか、リターンとか言ってるんです」
博士は立ち上がった。
「本当ですか!」
その夜、博士は佐藤さんの寝室にノートパソコンを置いた。
そして佐藤さんの手を、キーボードの上に乗せておいた。
翌朝。
博士たちが画面を見ると、そこには数百行のプログラムが完成していた。
エラーは一つもなかった。
しかも、博士が半年かけても作れなかった画像認識ソフトまで完成していた。
博士は震えた。
「成功だ……」
佐藤さんは画面を見た。
「何だ、これ?」
「あなたが書いたんですよ」
「俺が?」
「寝ながら」
佐藤さんはしばらく黙っていた。
そして言った。
「じゃあ、会社でどう使えばいいんだ?」
博士は少し考えた。
「勤務時間を睡眠時間に変えてもらうしかありませんね」
