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印税で食えてる、はだいたい嘘だ。

地元の友達との二次会、居酒屋。

生ビールを二杯目に入れたあたりで
隣に座った同級生が急に思い出したように言った。

「あ、そういえばお前、あの曲書いたんでしょ?」

うん、まあ、と答えると、目の色が変わった。

「印税だけで年収1千万とかでしょ、それ」

僕は、へへ、と笑ってごまかした。

否定するのも面倒だし、かといって本当のことを話すと、たぶん空気が変わる。だから「まあね」くらいの顔をして、話を次に流した。

会計のとき、その同級生がさりげなく多めに出そうとした。

「いいって、お前は。印税あるんだから」

断るのに、少し時間がかかった。

でも正直に言うと、あの時ちゃんと言えばよかったと思っている。

印税で食えてる、はだいたい嘘だ。

印税は、届くまでに何人もの手を通る

まず、あまり知られていない話から。

一曲の印税は、書いた人ひとりの懐にそのまま入るわけじゃない。作詞と作曲で分かれるし、編曲者にも取り分がある。事務所や音楽出版社を通していれば、そこにも入る。JASRACやNexToneのような著作権管理団体を通す分、手数料も引かれる。

要するに、あの居酒屋の会計と同じだ。

遠くから見ると「一曲でいくら」というまとまった金額に見える。でも実際は、大人数で割り勘した後の、ひとり分の額でしかない。

しかも、これは「ヒットした場合」の話だ。

多くの曲は、そもそもそこまで再生されないし、放送されないし、配信されない。CDが売れる時代でもない。

だから、「あの曲書いたんでしょ」と言われる曲があっても、その一曲だけで生活が成り立つケースは、正直かなり少ない。

しかも、その"取り分"は半年後にしか来ない

印税って、ヒットした瞬間にドンと振り込まれるものだと思われがちだけど、そんなに甘くない。

その月に使われた分が、数ヶ月後にまとめて集計されて、さらにその後に振り込まれる。「今月ヒットしたから今月潤う」なんてことは、基本的に起きない。

通帳に印字された数字を見て、二度見したことがある。話題になったはずの月から半年遅れで、そこにあったのは、拍子抜けするくらい小さな金額だった。

金額の波も正直かなり激しい。多い月もあれば、驚くほど少ない月もある。生活費として計算するには、あまりにも不安定だ。

友人にこの仕組みを説明すると、だいたい驚かれる。「え、そんな先なの?」「そんなに分かれるの?」って。

そう、みんな知らないだけなんだと思う。印税は、思ってるよりずっと遅くて、思ってるよりずっと少ない。

「曲を書いた人」と「食えてる人」は、別の人種だ

ここが一番言いたいところなんだけど。

「あの曲を書いた」という事実と、「その人が音楽で食えている」という事実は、まったく別の話だ。

世の中に名前が知られている曲を書いた人でも、普通に他の仕事をしていることは珍しくない。編曲や講師業、プロデュース業、時には音楽とまったく関係ない仕事をしながら、曲を書き続けている人もいる。

これは恥ずかしいことでも、失敗でもない。
むしろ、それが普通なんだと思う。

でも外から見ると、「ヒット曲を書いた人」というだけで、勝手に「印税で左うちわ」というイメージが貼られる。本人が何も言わなくても、周りが勝手にそう思ってくれる。

そのギャップを、本人はだいたい黙って抱えている。

僕もそうだった。むしろ、作家デビューしたての頃が一番ひどかった。
周りの期待値だけが先に膨らんで、生活はまるで変わらなかった。
あの居酒屋のとき、内心では割り勘の計算をしていたのに、外から見たら「印税生活のやつ」だった。

本当に生き残ってるのは、印税に"賭けてない"人だ


じゃあ、実際に音楽で生活を成り立たせている人は、何が違うのか。

見てきた範囲で言うと、共通しているのは
印税一本に賭けていないことだ。

楽曲提供の制作費。プロデュース業。編曲やアレンジの仕事。作家仲間内のディレクション。教える仕事。複数の収入の柱を、時間をかけて組み立てている。

一発当てて、それで一生食っていく。そういう物語に憧れる気持ちは、正直、僕にもある。でも現実に生活を回している人ほど、そこに頼っていない。

「ヒットを当てにいく」んじゃなくて
「当たらなくても回る仕組みを持っている」。

この違いが、地味だけどかなり大きい。

だから、憧れるのをやめた方がいい


若い頃の自分に言うとしたら、こう言うと思う。

「印税で食えるようになりたい」を目標にするのは、たぶんやめた方がいい。

目指すべきは、一曲を当てることじゃなくて
曲を書き続けられる仕組みを自分の中に作ることだ。

書く力。伝える力。関係を作る力。複数の収入源を持つ発想。
そっちの方が、よっぽど生活を支えてくれる。

一曲のヒットは、人生を変えるきっかけにはなる。でも、それだけで生活が完成するほど、この世界は甘くない。

最後に

あの地元の友達に、今なら正直に言えると思う。

「印税生活、あんまりないよ。あの日も、割り勘で払うつもりだった」

見栄を張るなら、「まあね」で流した方が楽だった。

でも、印税より、自分で会計を払える方が、よっぽどかっこいい。

印税で食えてる、はだいたい嘘だ。

本当にかっこいいのは、印税で食ってるやつじゃない。
印税に頼らなくても、笑って生きていけるやつだ。

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