見出し画像

鉄オタの視点で「友近サスペンス劇場」を語りたい。

YouTube「フィルムエストTV」で『友近サスペンス劇場Ⅱ「寝台特急“はつゆき”殺人事件」』が公開された。トラベルライター黛京子演じる友近さんと相方でカメラマンの奥野茂を演じる芝大輔さん主演によるあの頃風のサスペンスドラマだ。

第1弾の舞台は主演2人の故郷愛媛県だったが、第2弾は石川県七尾市「和倉温泉」。寝台特急「はつゆき」を舞台に繰り広げられる西村京太郎的な鉄道ミステリーになっている。元々フィルムエストのファンで、かつ鉄道オタクでもある僕にとってはなかなか興味深い。フィルムエストTV主宰で監督「にしい(西井紘輝)」さんが鉄オタのことを見透かしているかのように妥協しないこだわりが気に入った。鉄道だけでも3000文字書ける。

寝台特急「はつゆき」

寝台特急「はつゆき」は実在しない架空の列車。名前もそうだが、高山本線の寝台特急、そこを経由して都内と金沢を結ぶ列車は国鉄時代にも存在しなかった。架空は架空でもルートがありそうな上、本物に即した部分は多い。ヘッドマークのフォントもこだわっている。

列車番号

「はつゆき」の列車番号は「8017列車」。何気ない番号に見えるかもしれないが、国鉄やJRのルールに則している。

  • 8000→臨時列車

  • 17→下りの特急

  • 列車→機関車牽引の旅客列車、貨物列車

現在まで機関車が牽引する旅客列車、貨物列車は「列車(略して、レ)」と記されるのが原則で、下り列車は奇数。京子によるナレーションで「はつゆき」が「行楽シーズンに運転される」と言及し、車内アナウンス(声 にしい監督)でも「臨時寝台特急」と明言されている。それを示す8000もプラス。実在のルール通りになっている。

にしい監督が発信したポストのリプライを見てみると元鉄道員やファンなどたくさんの有識者から回答が寄せられた。基本的な付番法則や過去に北陸本線で走っていた列車の列番を提案している。ここまで健全で有益なスレッドは監督やフィルムエストの影響力あってのものだと思う。

EF65形501号機

ドラマと同型「EF65形535号機」
世界観の元になる1980年代にブルートレインの先頭にいた。
2012年に廃車の後、東芝府中事業所で保存。武蔵野線車内から見える。

東海道本線で先頭に立つ機関車は国鉄時代に実在した「EF65形501号機」。「P型」と呼ばれる高速かつ寝台特急仕様として開発されたEF65形初期モデルだ。「さくら」「はやぶさ」など東海道本線におけるブルートレインを牽引したフラッグシップだった。

1980年代後半にEF66形に寝台特急牽引の座を譲った後は高崎運転所(→ぐんま車両センター)へ転属した。「ELぐんま」などイベント列車として牽引。P型トップナンバーである個体として人気を博したが、2024年で営業運転は終了した。

そんな本物の名車をCGで再現し、架空ヘッドマークまで付けた。ドラマのモチーフが80年代かつ前作の1989年より古いならばP型のEF65はジャストフィット。昭和ではできない「フィルムエスト」ならではの芸当だ。

DD51形555号機

DD51形
「はつゆき」のうち高山本線と北陸本線における牽引機
(という設定)
現在は工事列車(レール輸送)で活躍。

金沢駅到着場面では「DD51形555号機」にチェンジ。高山本線が非電化区間であり、岐阜〜金沢間をDD51形が牽引している。(京子のナレーションでも「機関車を付け替える」と言及。)

同じ号機は高山本線にある「美濃太田機関区」に所属していたこれまた本物の番号。ブログにも高架化前の岐阜駅などで撮られたありし日の様子が写っている。AIが生まれる以前なのでほぼ確で本物だ。

DD51自体、北海道内での「北斗星」や山陰本線内での「出雲」など架線がない線区へリレーする形でブルートレインを牽引した実績はある。美濃太田に所属したDD51は高山本線の貨物列車を牽引したことはあるが、寝台特急としては架空となる。これもまたCGがなせる技だけど、数が多いし架空で適当な番号もつけられる。わざわざ美濃太田にいた実在車両を調べ上げたところも妥協しない。

24系25形

14系寝台車@九州鉄道記念館
形式は違うが24系とデザインはほぼ一緒。
機械室のような電源車があるか無いかぐらい。

客車は24系25形客車がほぼそのまま再現されている。B寝台を基本として、京子が宿泊する1人個室A寝台「ロイヤル」や食堂車もある豪華仕様だ。

北斗星?

出演者と列車を絡めるシーンでロケ地となったのは茨城県筑西市にあるレジャー施設「ザ・ヒロサワシティ ユメノバ」の「レールパーク」。寝台特急「北斗星」で使用された客車4両と電気機関車「EF81形」が保存されている。

「トワイライトエクスプレス」スシ24形500番台
余剰となった485系食堂車を改造。
屋根がかまぼこ形じゃない平面になっている異端児。
屋号は「ダイナープレヤデス」

名古屋駅でのシーンをよく見ると食堂車の屋根が低い。映っていたのは「スシ24形500番台」といい、昼行特急の食堂車廃止で余剰になった「485系」の食堂車を改造した。かまぼこのすり身だけ切り取ったような平面屋根ですぐわかる。

「北斗星」「トワイライトエクスプレス」に連結されたものの、「はやぶさ」「出雲」など東海道ブルートレインでは見られなかった。(後者の食堂車は屋根が揃った生え抜きタイプ。)

東京駅で京子と奥野が乗車するシーンでは「北斗星」でしか見たことない「流れ星印のロビーカー」もあったし、ディナーに出てくる料理もフランス系、側面を見れば帯が金色。
「めっちゃ北斗星みたいな寝台特急やなぁ“はつゆき”って」
と鉄オタが思っていたら、ロケ地がそれだった。

北斗星があるレールパークには他に4種類の車両が展示されている。人気者や茨城県ゆかりの車両など。

  • 東北・上越新幹線「E2系」

  • 蒸気機関車「D51」

  • 鹿島臨海鉄道リゾートトレイン「マリンライナーはまなす」

  • 関東鉄道常総線キハ101形(旧国鉄キハ30形)

最寄り駅からタクシーかバスを使わないといけないぐらい遠いけど、いつか行ってみたい。

久野知美さん

このロケ地を選定に携わったのは「女子鉄アナウンサー」久野知美さん。スタッフロールの「協力」を見ると名を連ねる。久野さんが関わっているとなれば、「あー久野さんやったら、そこまでやるわな笑」と嬉しくなる。

久野さんはかなり濃いめの鉄道好きで仕事の大部分は鉄道系。東武鉄道や西武鉄道で列車内自動放送に採用されたり、「日本鉄道賞」の選考委員で鉄道ファン代表として携わったり。鉄道好きなら知らない人はいないぐらいだ。ちなみにホリプロ所属してたときのマネージャーは「鉄道BIG4」の1人で知られる南田裕介さんだった。

YouTubeで見た時刻表トリック

クライマックスでは「時刻表トリック」が登場する。犯人が東京で「はつゆき」に乗ったふりをして下車。アリバイを作ったのちに1人を殺め、後続の「こだま311号」で熱海駅へ先回りするというトリックがある。

この手のことは現代でもできる。YouTuber西園寺さんもエンタメ要素として常用する手段になっている。東京駅発下りの寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」を乗り逃しても、後続の新幹線「こだま」に乗り込めば、熱海駅へ先回りすることが可能だ。これとさらにもう1本列車を加え「鬼」が見張る東京駅を脱出。心理の裏の裏をかいた、だまし討ちに成功した。

YouTubeは3年前で、2026年3月のダイヤ改正からは東京発車が24分繰り上がった。でも、同じトリックは健在で東京21:45発の「こだま911号」に乗れば熱海へ先回りすることができる。

0系新幹線
画角には無いけど側面が小窓の後期車。
2008年完全引退の有終の美を飾った。

時代背景に合わせて、闇の中を走る新幹線も0系になっている。小窓の車両だから後期製造分となるが、時代を考えるとビンゴだ。京都鉄道博物館にいる初期型の0系も当時も現役でいたからどの道、正解ではある。

駅名看板も服も

駅名看板はにしいさんがフォントなどを徹底的に調べ上げて再現。名古屋駅は「尾頭橋おとうばし駅」や「金山駅※」がなかった頃で、熱田駅が隣になっている。

※当時の金山駅は中央本線単独駅。東海道本線に金山駅ができたのは1989年。

現代の名古屋駅
国鉄由来のフォントが忠実にドラマでも再現。
写真は関西本線のホーム。

名古屋駅などJR東海の駅名看板は国鉄から引き継いだ墨文字フォントを管轄するほぼ全駅で使用している。フォント好きのにしい監督らしさが出ているし、隣の駅が「かなやま」でも「おとうばし」でもなくて「あつた」だと気づいたのはファインプレーだ。

客扱専務車掌や鉄道公安職員の衣服、車内備え付けの浴衣、リネンなどは「鉄道被服研究会」が協力。にしい監督だけではなし得ないニッチな団体もまた協力。どういう経緯で知り合ったのかは謎だけども。

妥協なきオタク過ぎるこだわり

こう考えると、にしい監督の妥協のないオタク過ぎるこだわりには目を見張る。というよりも、「リアリティなかったら許しまへんで」と言わんばかりの鉄オタの目が厳しいことをよく理解してらっしゃると思う。

鉄道好きである僕にとっても、鉄オタから揚げ足取りにされることは一番嫌いだし、なるべくあってはならんと思う。鉄道員が理解していないのに、鉄オタが理解しているという状況もあるぐらい。そういう心理をにしいさんはわかっていると思う。というより、久野さんいなかったらここまでできないと思う。

フィクションではあるけど、本当にあったかのように作り上げる「フィルムエスト」フォーマットとは相性がいい。鉄道や西村京太郎サスペンスを愛する人にとっても満足度の高い仕上がりになったのは間違いないと思う。

第1弾に続き、京子と奥野のお馴染みの仲良しコンビで、前作以上に奥野演じる芝さんが弾けて面白かった。本当は下戸なのに真逆の呑兵衛演じているのはすごい。愛煙家ゆえの渋いガラガラ声もなんか昭和の感じがする。

京子演じる友近さんも1人コントで得た演技力と昭和サスペンス好きの観察眼で迫力ある形になっていた。

出演陣を見ると民放サスペンスドラマ経験者の俳優、石川弁話者、クセの強い沖縄弁芸人、サスペンスドラマ大好きの七尾市職員までキャストが幅広いのも個人的にお気に入り。

作品自体も好きだったけど、自分の好きな鉄道までマリアージュするとなんぼでも見てられる。飽くなき追求心とこだわりはフィルムエストそのもの。テレビマンとして協力者をたくさん巻き込めるのも有能な証拠なのだろう。

にしい監督にはまいりましたわ笑

いいなと思ったら応援しよう!

Yuki(ゆうき) ストリートミュージシャンの投げ銭のような感覚でお気軽にどうぞ。

この記事が参加している募集