「火の鳥」の凄さ、手塚治虫の凄さを改めて語る
今回は、手塚治虫「火の鳥」について少し書いてみたい。

これは手塚先生のライフワークにして代表作とされる漫画だが、その詳細は
・黎明編
・未来編
・ヤマト編
・宇宙編
・鳳凰編
・復活編
・羽衣編
・望郷編
・乱世編
・生命編
・異形編
・太陽編(以上、発表順)
という12編に分かれてて、本来はこれに「現代編」が加わって完結する構想だったらしい。
ただし、先生は「太陽編」連載終了の翌年に逝去なされてしまい、残念だが本シリーズは完全なカタチでの完結を見ることは永久に叶わなくなってしまった・・。


いや、私は別に「現代編」がなくとも本シリーズは十分に成立してると思うよ。
聞けば、その「現代編」はアトムやブラックジャックが出てくる手塚オールキャスト構想だったとの説もあり、だとすりゃ駄作に終わった可能性だって十分にあったんだからね?
大体、そういうオールキャストの企画ってのは、先生はそれまでにも日テレ24時間テレビのスペシャルアニメ企画等で何度か試してた記憶があるけど、それはほとんどのパターン、ぐだぐだの駄作だったし・・(笑)。

でね、この12編のうち、私から見て最も重要だと思えるのが序盤に発表した2編、「黎明編」と「未来編」なんですよ。
・・あ、この2編がシリーズで最も面白い、という意味ではありません。
このシリーズ全体において、構造上で最も重要な位置づけにあるユニットだという意味です。
何が重要かといえば、それは下図↓↓の円環構造、いわゆる無限ループ構造というところにあるわけで・・。

はい、ご覧になってお分かりの通り、時系列では一番古いのが「黎明編」でありつつ、その時系列で最も進んだ先、「未来編」最後のオチが「黎明編」の冒頭部分に繋がる(つまり「未来編」の未来は「黎明編」)という不思議な輪廻システムになってるわけです。
これ、どう考えても本シリーズにとっては最重要のギミックだろうに、それをいきなり序盤で情報公開してしまった手塚先生の意図が私はよく理解できないわ・・。
言ってみりゃ、「ワンピース」第1話で「海賊王に、俺はなる」と宣言したルフィが、第2話でいきなり「ひとつなぎの財宝」を手にしてて、「いや~これまで大変な冒険だったな」とか言いつつ、次の第3話から長い「回想」の本編が始まる、みたいなプロットですよ?
そういうプロットの構成って、正直どうなんでしょう。

ちなみに私は、このループ構造についてはもう少し各所に伏線を張りつつ、後半ぐらいまで構造そのものについては秘匿しておいた方が良かったんじゃないかな、と考えてるクチなのね。
いくら何でも、普通に考えてシリーズ2作目で最重要情報開示は早すぎるでしょ~。
・・でも、先生が敢えてこうしたことの意味は、そのループ構造を超える、さらに大きなギミックが最終章の「現代編」には準備されてた、ということかもしれん。
気になるわ~。
先生の書斎に、何か構想メモでも残ってなかったのか?

で、「黎明編」は、そのプロトタイプとなるものが1956年で既に発表されていたという。
それが、上の画の「漫画少年」版。
我々がよく知る1967年版と細部がだいぶ異なるようだが、それでも日本神話をベースにしてるところなどは何も変わっていない。
手塚先生として、この1950年代当時から日本神話の歴史的解釈というやつをどうしてもやりたかったんだろう。
<「黎明編」に見る、先生の日本神話解釈>
①アマテラス=邪馬台国女王/卑弥呼(その弟はスサノオ)
②二二ギ(天孫)は卑弥呼と無関係の渡来系騎馬民族
(ちなみに現在では、学界で騎馬民族征服説は完全否定されつつある)


私がなかなか面白いなと思ったのが、ここでは熊襲側からの視点で卑弥呼や二二ギを語ってるんだよね。
熊襲側から見りゃ、卑弥呼も二二ギも侵略者であり、どっちもが悪に他ならない。
割とイメージ的に【熊襲=蛮族】という歴史認識だった人も多いと思うが、敢えてその逆で描いたところが手塚先生らしさである。

さらに、手塚先生らしさの第2弾というのもあって、それはここに旧約聖書創世記の概念を挿入してきたところだね。
上の画のグズリ、そしてその妻ヒナクは、いうなれば「楽園追放の憂き目にあったアダム&イブ」という構図に似せて描かれている。
ここで一番重要なことは、グズリ&ヒナクはアダム&イブと同様、「原罪」を背負ってる、という動かしがたい事実なんだ。
グズリの「原罪」

スパイとして熊襲に潜入し、集落の民に慕われつつも結局はそれを裏切り、熊襲を壊滅に導いた。
その一方、ヒナクへの情は捨てきれず、最後は邪馬台国を裏切り、ヒナクを連れて逃亡。
ヒナクの「原罪」

夫の死後、間もなくグズリと親密になる。
やがてグズリが裏切り者と知って激しく憎悪するも、最終的には熊襲復興の為と割り切ったのか、グズリとの間にたくさんの子をもうけた。
で、こういう「原罪」というのは決してリセットされることなく、子孫代々全ての人に受け継がれていくものなんだ。
・・で、これ以降の「火の鳥」各編は、「黎明編」登場人物たちが背負った「原罪」がその後にどういう形でまた降りかかっていくのか、そのカルマを描いたものだと解釈してください。

いや、あるいは逆かもしれん。
思えば「黎明編」の過去が「未来編」なんだし、ひょっとしたら「未来編」の原罪が「黎明編」に降りかかった構図なのか?
・・そんなの分からんよ。
そもそも全体がループ構造である以上、一体「原罪」の起点がどこからなんて、そんなのはハッキリさせようがないじゃん!

で、「黎明編」「未来編」に続くのが、「ヤマト編」「宇宙編」なんだよね。
これは各サブスクで配信されてるテレビアニメ版には入ってないので、ここに貼っておきます。
「ヤマト編」 時間約50分
「宇宙編」 時間約50分
「ヤマト編」は、まさに「黎明編」のループ構造。
またしても熊襲にスパイが送り込まれ、そのスパイがヤマトタケル、ということだね。
そこで、ヤマトタケルが熊襲族長の妹/カジカと恋仲になり、葛藤する様子はまるでデジャブ(笑)。
思えばカジカって、グズリ/ヒナクの直系子孫なんだよねぇ・・。
原罪をモロかぶってるがゆえ、彼女もまた裏切られるカルマ。
こういうカルマからは、永久に逃れられないのか?
という問いへのアンサーが、あるいは「宇宙編」かもしれない。
この編の主人公/牧村は、歴史の円環どころか、一人無限ループというカルマを背負ってしまった・・。
一人無限ループって、確か「異形編」でもそうだったよな?

どうも火の鳥は、この円環システムを管理/監視してる立場っぽく、その裁量で「時空を操作する」ことも可能なようだ。
ただ単純に【火の鳥=生命エネルギー】とか、それほど単純なものじゃないみたい・・。
とにかく、結構難解な作品である。
果たして手塚先生が本作を何歳対象で想定してたのか知らんが、正直、ある程度の年齢じゃないと、これはちゃんと理解できないんじゃない?
最初、これは「漫画少年」「少女クラブ」(←どっちも知らん雑誌だ・・)に連載してたらしく、どっちも手塚先生の思うようにはコトが運ばなかったらしい。
・・でもそれ、分かる気がするんです。
だってさ、我々は「火の鳥」を最初から名作と聞いてたからこそ読んだわけでしょ?
そういう予備知識もなく、いきなり弥生時代が描かれた漫画なんかに皆さん食いつきますか?
いや、正直キツイと思う。
主人公、めっちゃブサイクだし・・

大体、今の時代だったらこの作品、どの誌に連載すりゃいいの?
少年ジャンプ?
少年マガジン?
少年サンデー?
スピリッツ?
ヤンマガ?
ヤンジャン?
・・いや、せいぜいビッグコミックオリジナルあたりじゃない?
ちょい地味だけど。
で、当時の手塚先生も掲載誌に困ったのか、結局のところその苦悩は
「火の鳥」を連載する誌がないなら、自分で「火の鳥」用の雑誌作ればいいじゃん、という結論に至ったみたいww

1967年、手塚先生は虫プロ商事から月刊COMを創刊した。
・・えぇ、ここで皆さんもお気付きになったでしょう。
これ、虫プロ発足の時と全く同じ流れなんだよ。

ディズニーみたいなアニメ作ってみたいなぁ
⇓⇓
そうだ、自分で制作会社作ればいいじゃん!
⇓⇓
虫プロ
⇓⇓
赤字
⇓⇓
倒産

思い通りに「火の鳥」を描いてOKの雑誌社はないかなぁ
⇓⇓
そうだ、自分で掲載誌創刊すりゃいいじゃん!
⇓⇓
COM
⇓⇓
赤字
⇓⇓⇓
廃刊
うむ、まさにループ構造、円環システム、「原罪」のカルマ、
先生の生き方そのものが「火の鳥」じゃんww
・・だけどね、先生はそれこそ「火の鳥」不死鳥のごとく、どんなに酷い目に遭っても、また再び蘇るオトコなんだわ(笑)。

で、虫プロにせよCOM にせよ、手塚先生個人としては、そりゃ大損だったでしょうが、アニメ/漫画界としてそこから得られたものは非常に大きかったわけですよ。
<虫プロから出て後にブレイクした人物>
出崎統、杉井ギサブロー、りんたろう、高橋良輔、川尻善昭、杉野昭夫
<COMから出て後にブレイクした人物>
諸星大二郎、あだち充、日野日出志、コンタロウ、能條純一、西岸良平
うむ、あとCOMにはもうひとつ大きなエポックがあり、それはこの誌の読者投稿コーナー「ぐら・こん」が、
実をいうと日本の「同人誌」「コミケ」の源流だとやら

そう考えると、手塚先生って「漫画の父」「アニメの父」であると同時に「同人誌の父」「コミケの父」とも呼べるということ?
そんなたくさんの名称はさすがにメンドくさいし、とりあえずそれらを全部ひっくるめた総称として
先生のことは今後「我王」と呼ぶことにしますね(または猿田彦)



