芋出し画像

【短線小説】ニュヌハヌフショヌで高校時代の同玚生に遭遇


ラッキヌペニヌ・コむンブルヌス

ケロンパ
10000文字


そんじょそこらのありきたりの女ず䞀緒にしおもらっちゃ困るんだよね。
螊れお歌えおおしゃべり䞊手。
それになんおいっおもかもしだすような色銙がなけりゃ、芳客の芖線を繋ぎ止める事は出来ない。

スポットラむトから降り泚ぐ光の雚粒。
この緊匵感が心を鷲掎みにしお離しやしない。
ねぇ、俺を芋およ。誰よりも綺麗でしょ

鳎り止たない拍手。
繰り返されるカヌテンコヌル。
鐘の音ず共に、俺の魔法は解ける。

シンデレラ  
通称シンちゃんなんおあだ名を぀けやがったのは䞀䜓誰だ
いや、䞻圹に盞応しいニックネヌムに違いない。


六本朚の䞀等地。
オペラハりスを暡しお創られた莅沢なショヌラりンゞ。
フランス料理のオヌドブルを぀たみ、グラスを傟け芳芧するチケットは、二䞇円そこそこ。
ショヌラりンゞ「バタフラむ」の客足が絶える事はない。
ダンサヌのレベルの高さはもちろん、
圌らの颚貌がちょいず普通ず異なるっおいうのもりケおいる理由だ。

ニュヌハヌフ。性別を超越した神に背く男達。
芋るからに仮装  いや女装ずいった類のオカマちゃんも䞭にはいる。
それはそれでスパむスになり、
なぜか奎等の存圚は芳客に芪近感を䞎えるらしい。

だけどほずんどは  アンタ、マゞで男っすか
ず、目を疑う茩がほずんど。

豊満な胞。
现いうなじ。
爪の先たで色っぜいずきたもんだ。

シヌメヌルず呌ばれる
手術枈みのお嬢様達の気合には頭が䞊がらない。


遊びじゃないよ。人生かけお螊っおんの。


「ねぇ、シンちゃん。背䞭のファスナヌさぁ、䞊げおぇ」

「たかせおください うわ、玫のブラゞャヌっすか。麗子さん。仕事前からあんたり刺激しないでくださいよ」
「あたしの誘惑なんお、い぀もするりずかわしちゃう癖にっ。あぁ、アンタ今日も化粧のノリいいわねぇ。矚たしいわ」

麗子さんのドレスの隙間から芗く悩たしげな背䞭をファスナヌで隠すず、
俺は自分の装いを確認すべく鏡を芗き蟌んだ。

お、今日も別嬪さんっ。

もずもず髭も薄く、肌のキメが现かいタむプだった。
昔付き合っおいた女に、立堎が無いずがやかれた事もあったっけ。

倩職っおや぀かもね。
この業界。


さぁ、金曜の倜だ。街はすっかりお祭り気分。
ほら、楜したなきゃ。人生は短いんだ。

ねぇ、ねぇ、そこのしかめっ面しおいるおネェちゃん。
あぁ、お友達に無理矢理付き合わされちゃったっおダツ
女同士の付き合いも倧倉だよね。

魔法をかけおあげるからさ、
こっちを芋おごらん。

興奮しお。
魅入られお。
囚われる。

ねぇ、ドキドキさせおあげる。
偏芋なんお捚おおしたえば、
芋たこずのないパラダむスが広がる。

ようこそ。いらっしゃいたせ。
今宵、貎方に玠敵な倜を  
ショヌタむムでございたす。

幕があがるず、わっず沞き䞊がる歓声。
オヌプニングは景気よく、フリフリのドレスの裟をたくしあげ、䞀列に䞊んでご自慢の脚を蹎りあげる。
バックミュヌゞックはもちろん生の楜団。
コミカルなリズムず共に、ピ゚ロ圹のオカマちゃんが
おどけながら芳客に投げキッスを莈る。

い぀もながらりケがいいね、サブちゃん。
今日も剃りあげた口元が青々ずセクシヌだよ。

ボンッ。
舞台の䞡脇から景気よく火花が䞊がる。
拍手喝采。

さっきたで眉間に皺を寄せおいたお姉ちゃんが、倧口開けお笑っおる。
皆、子䟛みたいにわくわくした瞳で、次々に繰り広げられるショヌを食い入るように眺めおいる。
  ただ䞀人を陀いおは。

おいおい垭のお兄さん、アンタだよ。
舞台はこっちだっおいうのに、䜕凊芋おいやがる。

  あれ。コむツ、どこかで  


「いらっしゃいたっせ〜」

他の客垭より高い䜍眮にある、バルコニヌ匏にせり出した垭の個宀。
前半の幕が匕けた埌、俺はサブちゃんを連れお乱入した。

スヌツを着た男が、突然抌し入っおきた俺達に目を䞞くしおいる。
連れの女の姿が芋えない。きっず、トむレで念入りに化粧でも盎しおいるんだろう。

「あらぁ、ねぇ、ちょっず芋お芋おシンちゃん。このお客さん、なんか玠敵な男ぉ」
サブちゃんが嬉しそうに男に擊り寄っおいく。
ゆったりずした゜ファの背もたれに遮られお、それ以䞊䞀歩も埌ずさり出来ずに途方に暮れおいる男の様子に笑いを噛み殺す。
チラリず男がこちらに芖線を流した。にこりず最高の笑顔で俺は歓迎の意を衚す。

「シンず申したす、あ、こっちはサブちゃん。初めおのお客様ですよね。これからどうぞごひいきに宜しくお願い臎したすぅ。お連れの可愛い圌女はおトむレかしら 女は面倒よねぇ、ちょっず  なんお蚀ったっおい぀たでも鏡の前でにらめっこしお、トむレに行ったら戻っお来やしないんだから」

ずくずくずシャンパンを泚ぎ、俺は営業スマむルを振り撒いおやる。
女が垭を倖しおどれくらい経っおいるんだろうか。男の芖線がそわそわず萜ち着かないものになっおきた。

グレヌ系のシングルスヌツ。地味だが仕立おは悪くない。
この男も同じだ。無難なサラリヌマンの雰囲気を纏いながら、瞳に浮かぶ知性の深さが奎の聡明さを物語っおいる。

「あの  唐突で申し蚳ないんだけど。頌みっお蚀うか  ちょっずアルバむトみたいな事をお願いしたいんだ」
男が思いがけないセリフを唐突に投げかけおきた。

「アルバむト高いわよぉあたしぃ」
きゃっきゃっずサブちゃんがノリノリの口調ではしゃぎ始める。

男は声を萜しお話しはじめた。俺ずサブちゃんは自然ず顔を寄せ、内緒話に耳を傟ける。

「これから、圌女が戻っお来るんだけど、俺、この店の垞連っお事にしお欲しいんだ」
「ぞ いいけどぉ、それっおどういう意味」
「いや、ちょっず䞖話奜きの䞊叞から勧められた芋合い盞手なんだけど䞊手く断われなくお  こういう店が趣味でしょっちゅう通い぀めおるっお思わせたら呆れられるんじゃないかなっお」

かちゃっ、ず背埌のドアが開いた。䞉人が同時に振り返る。
「わぁ、ビックリしたっ」
そういいながら、女は俺たちに目を䞞くしおいる。

結構、綺麗どころのお姉ちゃんじゃん。俺にはちょっず劣るけどね。
「ご挚拶にあがりたしたぁ。ええず、どうもいらっしゃいたせ〜っ」
䜕事もなかったように俺ずサブちゃんは挚拶をする。
「はっはい。初めおですけどすごく華やかですね。ショヌの続きが楜しみです」
躊躇しながらも、間違いなくこの状況を女は楜しんでいるように芋えた。

垞連っお蚀ったら、振られるどころか䜙蚈に喜ばれちたうんじゃない
堎末でいかがわしいっおタむプの店じゃないからさ、ここ。健党でクオリティの高い゚ンタヌテむメントクラブなんだぜ。

「埌でちゃんずカタ぀けおあげる」
そうひっそりず男の耳元に囁く。
「え」
男がこちらを振り返るのず同時に俺は立ち䞊がった。

「これから第二郚のショヌが始たるからゆっくりずお楜しみくださいねぇ。たたあずで改めお遊びに䌺いたすから」

サブちゃんを匕きずっお俺はルヌムを埌にした。


「あ〜、あんたり圌女が䞍意打ちで䜕にも蚀えなかったわぁ」
サブちゃんが地団駄を螏んでいる。この人のこういう仕草、挫画みおぇだな。笑いを堪える。

「サブちゃん、ここは俺に任しお」
「え〜。でもぉ、あたしも頌たれちゃったんだしぃ」
もじもじずサブちゃんは抵抗しおみせた。
「いいシナリオ考え぀いたんだ」
「珍しい、シンちゃんがそんなやる気だしお。もしかしおぇ奜みだったのあのお客」
「違いたすよ。面癜そうだからかき回しおみようっお思い浮かんだんだけどさ。䞀人のほうが䞊手く立ち回れそうだから」
「ふぅん」
意味深な芖線をサブちゃんが投げおくる。

「いやだなぁ、サブちゃん。俺はノンケですよ、知っおるでしょ 俺はなんちゃっおニュヌハヌフっすよ」
肩をすくたせお芋぀め返す。

「あっこんなずころにただ居たっ 早く二人ずも着がえおっ、二郚始たっちゃうよっ」
廊䞋の向こうからスタッフの焊った叫び声が聞こえる。
やべぇ、すっかり忘れおいた。
サブちゃんず䞊んで走り出し、ばたばたず楜屋に滑りこむ。
埅機しおいたスタッフにせかされながら着替えを始める。


慣れた手぀きで口玅を塗り盎しながら、さっきの男を思い出しおいた。
  倉わらねぇな、アむツ。
俺だっお気付きもしねぇんだもんな、笑っちたうよ。

そりゃそうだ。
幎前、同じ孊生服を着おいた同玚生ずの再䌚にしちゃあ、想定倖っおもんだ。

梶山亮倪。ストレヌトで東倧に入った孊幎䞀番の秀才。
既に受隓なんお諊めお萜ちこがれ組だった俺ずは、共通点なんおひず぀もなかった。
あ、クラスが同じっおいうのは共通点か。
だけど人皮が違うっおいうの
ほどほどの進孊校だったから、ガリ勉野郎は珍しくもなかったけれど、アむツはちょいず毛色が違っおいた。
本圓の倩才っおああいう奎を蚀うんだろう。
面ず向かっお話をしたのなんおたった回だ。

だけど  。
梶山亮倪。梶山亮倪。

アむツがこの舞台を眺めおいるなんお、神様の悪戯ずしか思えない。
しかも、断わりきれない芋合い盞手ず䞊んで俺を芋おるなんおさ  喜劇だな。


闇の䞭、俺を䞭心に立ち䜍眮でスタンバむしたダンサヌ達が、真っ盎ぐ前を芋据えおいる。
幕が䞊がる前の匵り詰めた緊匵感。

どんなに芋おくれをいじくっおみたずころで、隠しようもない郚分もある。
ひず仕事前の男の県差し。いい県をしおいるよね。

笑わせたり。
泣かせたり。
驚かせたり。

人の心を揺さぶるのっお生半可な事じゃない。
いい加枛な螊りで皆の足を匕っ匵れば、8センチヒヌルの螵が飛んでくる。

ダクザたがいの脅し文句で銖根っこを締め䞊げられるなんお、珍しい事じゃない。
鈎を転がすようなコロコロずした゜プラノが、ドスの効いたアルトに急降䞋。その倉貌振りずいったら、ホラヌ映画より血の気が倱せる恐ろしさだ。
以前入ったばかりの瀌儀知らずの新人ちゃんがぱったりず姿を芋せなくなった時には、コンクリヌト、東京湟、そんな物隒な単語が頭を暪切った。


するするず幕が䞊がるず、亀差した光の線が身䜓を絡め取る。
第二幕ミュヌゞカル『シンデレラ』
䞻圹は勿論この俺。

ゲむであるがゆえに、継母や矩姉に蔑たれ、意地悪に耐え忍ぶ可哀盞なシンデレラ。王子様の招埅状は、街に䜏む幎頃の嚘達。
女だったら良かったのに。
そうしたら綺麗なドレスを着お、舞螏䌚に行けるのに。

䞀人取り残された暗い屋敷で絶望を噛み締める。
そんな悲しみの䞭、シンデレラを呌ぶ声が聞こえる。


ダむゞョりブ。ホラ涙ヲ拭むテ、コッチヲ芋テゎラン。

華々しく珟われたのは魔法䜿いサブちゃん。

ビビデバビィデ・ビビデバビィデ・ビデバビィデ・ブヌ

サブちゃんがちょいず颚倉わりなダンスを披露しおいる間に、俺は舞台袖でせわしなく衣装を着替える。
オヌガンゞヌやサテンによるラむトブルヌの濃淡が矎しいドレス。
倧きく開いた胞元には、くっきり谷間の着脱匏停物オッパむ。
廻り舞台がゆっくりず回転するず、きらびやかな倧広間が姿を芋せる。

さぁ、かがちゃの銬車で乗り぀けよう。
女ずしお王子様に愛される為に。
12時の鐘が鳎り響くたで、ひず時の幞せに身をゆだねよう。

王子様ず螊る優雅なワルツが、じわじわずノリのいいアップテンポぞず倉わっおいく。
客が刻む手拍子に合わせお、ダンサヌはゎスペル颚アカペラを歌い始める。

背䞭がぞくぞくしやがる。
そう、これ。この䞀䜓感が至犏のひず時だ。

ちらりず䟋の垭を暪目で眺める。
  梶山亮倪ず芖線が絡んだ。
呆然ず雰囲気に呑たれ、こちらを芋぀める梶山亮倪ず、連れのお姉ちゃんは楜しそうに手拍子をしおいる。

カヌヌヌヌンっ
目が芚めるような鐘の音が響く。

ゎヌヌヌヌンっ
倢の終わりを告げる鐘の音。

ふっず舞台の灯りが萜ちる。
その瞬間、俺の足元がすずんず萜ちた。
舞台䞋に䜜られた奈萜。
スタンバむしおいたスタッフの手が䜕本も䌞びおくる。
おいおい、揉みくちゃだぜ。
螊り子さんは䞁重に扱っおくれよな。

「きゃぁ〜〜〜〜〜
シンちゃぁぁんっ、シンちゃぁぁんっ、玠敵っ」

垞連の女達の黄色い声が合唱する。
暗闇の䞭、突然点滅し始めた滝のような電食を背景に、舞台䞭倮の空いた穎、小れリから俺はじわじわず姿を芋せる。
どっず湧くような拍手。
客垭の熱気で宀枩が䞊がった気さえする。

  い぀もの事ながら、蚳わかんねぇな。
黒いタキシヌド、斜めにかぶったホンブルクハット。
化粧はハケで萜しおだいぶ薄くした。
なんだっおこれがニュヌハヌフミュヌゞカルでりケるのか

“宝塚の男圹みたいで色気があるのシンちゃんは”

垞連の女達がうっずりず口にした台詞を思い出す。
男圹  っお、いや、それっお女が男装した時の呌び方だよな
俺、もずもず男なんですけど。
女装した男が曎に男装っおさぁ、めちゃくちゃじゃん

梶山亮倪が立ち䞊がっお身を乗り出しおいるのが芋える。
驚いた顔  やっず気付いたようだ。
遅いんだよお前。
いくら化粧で化けおいるからっお、党然気付いおくれなくっお、
俺ホントは少しばかり傷付いちゃったんだぜ。

゚ンディングの華やかなフィナヌレ。
意味深な投げキッスをひず぀、奎に向かっお莈っおみせた。


「どうもぉ 楜しんでいただけたしたかぁ〜っ」
深呌吞をひず぀吐くず、䜜り笑顔をたずさえ俺はひずりで垭の扉を開いた。

「わぁ、すっごく良かったです〜」
女が明らかにさっきより矚望を含たせた県差しで俺を芋぀めおくる。
  アンタ、こういうのにはたるタむプだったんだね。そうなれば、話は意倖ず早いかも。

梶山亮倪は至近距離で、再び俺だず認識したのだろう。
蚀葉も出ないずいった様子で抌し黙っおいる。

「ねぇ、お嬢さん、お名前䌺っおもいいかしら」
カマ蚀葉のたた甘えた芖線を投げかける。
女は芋る芋る間に頬を染めお「茜です」ず小さく答えた。
「茜ちゃん、可愛いからもおるでしょう」
「えっ、そんな事  」
「だっおあたしがダキモチ焌いちゃうくらいキュヌトなんだもの」
「やだぁ」
たんざらでもない仕草で、女は嬉しそうに俯いおみせる。

「あたしなんおね、ほら、こんな特殊な人皮じゃないだから恋人䜜るのっお凄く倧倉なの」
「でもっ、シンさんすっごい綺麗だもん。恋人なんお沢山いそう」
「あたしね、すっごく䞀途なタむプなのよ。生涯䞀人だけを愛し尜くしたいなぁっお思うわけ」
「わぁ、幞せ者ですね。シンさんにそんな事蚀っおもらえる盞手は」
「茜ちゃん、本圓に本圓にそう思っおくれるだったら、ねぇ、お願いよ」

俺が䞡手で拝む仕草をするず、「え」ず女は䞍思議そうな顔をした。

「亮倪、あたしに頂戎」
「ぞ」
片目でりィンクを投げるず、奎の頬に手を添えお匕き寄せる。
「えっ、亮倪っお え え 知り合いなの」

ふわりず重ねた唇の枩床。
おでこがくっ぀く距離で県を癜黒させる梶山亮倪が芋えた。

俺に任せおおけっお蚀っただろう。
時の鐘で男に戻ったシンデレラは、開き盎っお王子さたに迫りたしたずさ。


「びっくりしたよ。たさか宇䜐芋だったなんおさ  」
午前時。店の裏口からそっず忍び出るず、俺たちは人通りの少ない路地裏を歩き始めた。
アメリカンラグシヌのシャツにブルヌゞヌンズ。ぺったんこの胞。玠の姿に戻った俺に、やっず梶山は懐かしさを孕たせた県差しをよこしおくる。

「たぁ、うたくいっおよかったな。茜ちゃん応揎したすずすら蚀っおくれたじゃん」
「  そうくるずは思わなかったけどね」
「梶山、煙草持っおる 俺、店に忘れおきちゃった」
「あぁ」
背広の内ポケットから梶山は、マルボロの箱を取り出した。
「悪りぃ、火も貞しお」
立ち止たるず、奎は手銎れた様子でゞッポラむタヌに火を付けおよこした。じじっ、ず煙草の先端に炎を移しながら、あれず懐かしさが蟌み䞊げる。
いい色に色耪せ、セントコむンがボディに匵り付いたゞッポラむタヌ。
蓋に芋芚えのある擊り傷。

「あ〜っ、コレ俺のゞッポじゃん」
はっず、慌おた様子で梶山はラむタヌを持぀手を匕っ蟌めた。
ガチャンっず足元に転がったそれを拟いあげるず、銎染んだ感觊が指先に觊れる。存圚感のある重み。

「卒業匏の日、宇䜐芋が䜓育通裏の階段に萜したのを  拟ったんだ」
バツが悪そうに梶山はポツリず溢した。


あの日  そう、俺たちの唯䞀の接点。

俺は卒業匏の埌、慣れた隠れ喫煙堎所に、最埌の䞀服をしに出向いた。
正門の前は卒業生ず圚校生がごった返し、最埌の別れを惜しんでいる。
自分を埅ち䌏せしおいる䞋玚生の女子達がうっずおしくっお、
ほずがりが冷めるたで避難しようず思ったのだ。

䜓育通裏の短い階段に、意倖な先客が居た。
同じクラスの梶山亮倪。

「よぉ、珍しいな。たさか梶山、ここに䞀服しに来たの」
「え、䞀服っお」

  な蚳、ねぇよな。
俺は奎の隣にどっかりず腰を降ろした。

「正門ごちゃごちゃしおいるから、人が匕くたでここで暇を朰そうかなっお思ったんだ」
ぞぇ、同じこずを考えおいやがる。あぁ、でもコむツ、結構もおるんだよな。

ガリ勉野郎ず思いきや、顔は童顔ながら劙に敎っおいる。
育ちもいいんだろう、人圓たりの良い穏やかな物腰。
しかも孊校始たっお以来の秀才ずくりゃ、モテる芁玠は充分だ。

こんな千葉の片田舎の公立高校から、ストレヌトで東倧工孊郚に合栌するなんお前代未聞。
ただひたすらに遊び尜くしおナンパな俺ずは、䜏む䞖界が違うっおいうの
面ず向かっお話をしたのは初めおかもしれない。
東倧の工孊郚ねぇ  。

おもむろにポケットから煙草を取り出すず、俺はゞッポラむタヌで火を付けた。隣で梶山亮倪が身䜓を固くする空気が䌝わっおくる。

「アンタさ、すげぇよね。東倧ストレヌトで合栌だっおな」
「あ  う  ん」
皮肉めいた口調で俺は話を続ける。
「でもさぁ、そんなご倧局なトコ行っおさ、䞀䜓䜕になりたいわけ」

勉匷しか知らない真面目なクラスメむト。
なぁアンタ、高校生掻楜しかったの
い぀も教宀の片隅で、難しい本ばっかり読んでいたよな。

「  俺さ、倢があるんだ」
えず思わず奎の顔を芗き蟌んだ。
予想だにしない台詞。

倢  そんな蚀葉は䞍意打ち過ぎお、思考回路を混乱させる。

「東倧には航空宇宙工孊科っおいうのがあっおね  」
そう口にしながら梶山亮倪は芖線を䞊にあげた。
その目線の先を远いかけるず、青い  青い空が広がっおいた。

「俺さ、将来ロケットを打ち䞊げる時のボタンを抌しおみたいんだよね」
「ぞ」
「、、、、ドヌンっおさ」
照れ臭そうに梶山は小さく笑っおみせた。

衝撃的だった。
倢なんお、今日卒業しおいく奎等の䜕人が胞に抱いおいるずいうのだろう。
自分の噚を芋極めお、盞応の進路を決める。
珟実の壁に、倢なんお子䟛っぜい事をほざいおいる幎じゃないんだず思い知らされた。

ロケットのボタン。子䟛っぜい倢物語。
それを珟実のものにする為に勉匷を積み重ね、東倧の工孊郚に入る奎が居るなんお。
俺は進孊をしなかった。だからずいっお、就職したわけでもない。
䜕をしたらいいのかなんお、結局は芋぀けられなかったのだ。
ただ、退屈な田舎を抜け出し東京でバむトでもしお、適圓に生掻しおいければいいやだなんお、お気楜に考えおいた。
楜しけりゃいい。今時そんな若者はあふれかえる皋にいるじゃねぇか。

だけど  。

すげぇよ、アンタ。
俺、ちょっずばっかり感動しちゃった。

「䞀本吞う」
目の前に酒でもあったら祝い酒ずでも蚀いたいずころだが、今俺がコむツに差し出せるものずいったら煙草くらいなもんだ。
さっきたでの刺々しい口調が急倉したのがミ゚ミ゚で、ちょいずばっかりバツが悪い。

「高校最埌の日に、ハメ倖すのも悪くないだろう」
きっず、煙草なんお口にしたこずないんだろうな。
「ありがず」
䞀瞬驚いた顔を芋せたものの、嬉しそうに梶山は煙草を摘み䞊げた。

俺は手慣れた仕草でゞッポラむタヌを指先でくるくるず回しおみせた。
パチン、ず着火甚の歯車を指で匟いお火を぀ける。
ぜかんず梶山はラむタヌの炎を芋぀めおいる。

「ほら、火付けろよ」
「  今の手品」
「銬ぁ鹿。カッコ぀けお着火しただけだ」

時代劇のキセル咥えたじいさんみたいに劙な持ち方をしお、梶山は煙草に火を移した。
「ブッ  、ブッハっ」
䞀瞬咳き蟌んだものの、神劙な面持で奎は煙を味わい始めた。

ちらちらず暪目で奎が俺の手元を芗き蟌んでいるのが分かる。
ほらよ、ず持っおいたゞッポラむタヌを手枡しおやる。

梶原が䞍思議そうに指差しながら蚀った。
「セントコむン ラむタヌに匵り付いおるの」
「あぁ、アメリカではセントコむンはラッキヌペニヌずも呌ばれお幞運をもたらすず蚀われおるんだっおさ。だからコレがボディに匵り付いおいるっお事は、幞運をもたらすゞッポラむタヌなんだぜ。ほら、コむンの補造幎芋おみろよ、俺たちが生たれた幎だ」
「ほんずだ  」

子䟛が魅惑的なおもちゃを手にしたずきのように、手のひらに乗せたゞッポをたじたじず梶山は芋぀めおいる。

二ヶ月前、枋谷に買い物に出かけた時アメカゞ屋で芋぀けた。
買う予定だった服を諊めおの衝動買いだった。
かっこいいゞッポの着火方法を、よくこの階段の䞊で緎習した。
䞀床思いっきり手の平から攟りだしおしたい、階段䞋に転がっおいった時に掟手な擊り傷を刻んでいた。
だけど、そんな傷さえゞッポラむタヌっおいうのは勲章に芋せちたうカッコよさがある。
俺のお気に入りだった。

「  お前にやるよ」
「えっ  ごほっ」

煙が目に染みたのか、しかめっ面のたた梶山は俺を芗きこんできた。
䜕の話そんな衚情を浮かべながら。

「合栌祝いっおや぀」

梶山は気付いちゃいないだろう。
もやもやず俺の心を芆っおいた憂鬱や倊怠感を、奎の倢の告癜が䞍思議な力で払いのけおくれただなんお。

先のない未来。芋えない道しるべ。
䜕に察しおも無気力な自分自身に嫌気がさしおいた。

倢だなんお無意味だ。
今の䞖の䞭、やりたい事を手に入れるだなんお宝くじに圓たるようなもんじゃないのか。努力なんお儚いもので、ラッキヌな奎だけが甘い汁を啜れるのだず諊めおいた。
だけど、目の前を真っ盎ぐ前を芋据え、倢に向かっお珟実に歩いおいる奎がここにいるだなんお。
俺もコむツみたいに䜕かを繰り圓おたい。自分の力で  

「こんな倧事なもの貰えないよ」
そっず俺の手に梶山はラむタヌを戻しおくる。
「はぁ なんだよ、シラケる事蚀うなよ」
「だっおさ  」
「遠慮するなよ」
その時だった。

「宇〜䜐〜矎〜っバむクのケツに乗せおくれよ」
遠くの方で遊び仲間が俺を芋぀けお叫んでいる声が響いた。
「早く行こうぜぇっ。着がえお飲みに行くんだろう」
そう叫びながら友達がじりじりずこちらに歩いおくるのが芋えお、俺は咄嗟に立ち䞊がった。䜕故だか、そい぀をこの空気に混ぜたくはなかったから。

梶山ず過ごした䜓育通䞋の階段。
俺にずっお既にここは、ただの喫煙所ではなかった。
掗瀌を受けた神聖な堎所のように感じおいた。
「じゃぁな、東倧生頑匵れよ」
俺は立ち䞊がった。ラむタヌのこずで抌し問答しおいたこずなど
すっかり頭から抜け萜ちおいた。


「宇䜐矎が去った埌、階段の所に転がっおいるのを拟ったんだ。䜕幎も借りっぱなしで悪かった」
スヌツ姿の梶山が頭を䞋げおいる。䞀瞬、時間の感芚がなくなっおいた。

随分昔の事なのに、頭をよぎった幎前の情景はあたりにもリアルだったから  

「別に謝る事なんおねぇじゃん。コレ、お前にやるっお蚀っただろう」
倧事に䜿っおいるなんお埋儀さがコむツらしい。俺からしたら、奇跡だな  ここたで物持ちがいいなんおよ。
俺が笑いかけるず梶山も照れ臭そうに笑っお返した。

「あ、ひず぀誀解がないように蚀っおおくけど、俺ノンケだから」
「  ノンケ」
専門甚語になるのかねこれっお。
意味が぀かめおいない梶山に、俺は説明を添えた。

「別にそういう趣味があっおあの店で女装しおいるっおわけじゃないっお事。もずもず俺はあそこのショヌの挔出を担圓しおいるんだ」
「挔出」
「そう、ステヌゞ挔出を構成するのが本業なの。ダンサヌもやっおいるのは珟堎を肌で勉匷する為。ただただ孊ぶ事いっぱいだからさ」

ただ、あそこだず勉匷させおもらうのに、女装しなくちゃいけないっおいうのは確かに難問だった。
ほんの端圹を務める぀もりが、気が付いたら䞻圹匵っおるっおいうのも 
思わぬ展開だったっお蚳だ。

「すごいなぁ、宇䜐矎は。俺あのショヌの迫力に圧倒されちゃったもん。俺っおほら、すごい平凡な男だからさ、華がある人っお矚たしいよ。本圓に君は昔から倉わらないよね」

平凡 アンタが 
あの䞀瞬で俺の人生を倉えた匵本人がよく蚀うぜ。
「ロケットのボタンは抌したのかよ、梶山」
はっずした顔で、奎はこちらに顔を向けた。
「良く芚えおたね  」
消えそうな語尟だった。溜息のような。
黙り蟌んだ梶山は、煙草を咥えた。
ね、火、付けおよ。俺より頭ひず぀背の䜎い梶山が、䞊目づかいでそう促しおくる。

最近安物ラむタヌばっかり䜿っおいたからちょいずばかり自信がなかったが、指先で匄ぶようにゞッポを回すず、俺はパチリず指を鳎らしお着火甚の歯車を匟いおみせた。

暗がりに蛍のような灯りがずもされる。満足そうに顔を傟けお梶山は煙草に火を移した。
あの時のたどたどしさは埮塵もない。倧人の男の仕草。

「発射ボタンはただ抌しおいないんだ。結構ラむバルが倚くおね」
肩をすくめお奎は矎味そうに煙を吐き出しおみせた。
「お前、明日、宇宙なんたらの仕事は䌑み」
「宇宙航空研究開発機構。明日は  䌑みだよ」
「おっしゃ、じゃあ再䌚を蚘念しお杯飲みに行こうぜ」
「  いいけど」

「飲み屋の垰り、もしもタクシヌ拟えなかったら俺んずこ泊たっおいっおもいいからさ。この道を分䜍、枋谷のほうに歩いたトコにあるマンションに䜏んでるんだ」
「え、でも、こんな急に悪いよ」
遠慮する仕草。こんなずころは倉わっおいないんだな。

「氎臭い奎だな、キスした仲だろう」
誘うように耳元で囁き、からかっおやるず、
梶山は耳たで真っ赀にしお俺からぱっず䞀歩退いた。

男にも女にも免疫無しっおか
「冗談だよ、さっき蚀ったろう 俺はノンケだっお」
取っお食いやしねぇよ。

だけど、あんな䞖界にどっぷりず浞かっお、
俺も少し感芚がおかしくなっおいるのかもしれないず、
苊笑いを噛み殺す。

再䌚の祝杯をあげよう。
ラッキヌペニヌコむンがぞばり぀いたゞッポで照らせば、
開けた未来が浮かび䞊がる。
そしお再び人生の倢を、男二人で語り合うのも悪くない。

【END】


いいなず思ったら応揎しよう