人生タクシー(2015)
こんな映画があるのか、とおもった。
※ネタバレ注意
イランというお国柄とパナヒ監督の情熱から生まれた苦肉の策。
映画制作を禁じられている中、自らタクシー運転手に扮して全ショット ダッシュボードに付けた固定カメラでドキュメンタリー風に撮影されている。
タクシーの車内には次々とイラン社会が流れ込んでくる。
最初の客は、死刑制度の是非について喧嘩しはじめる相乗りした男女。男の言い分は死刑はみせしめになるというもの。
女は教師で命を奪うのはどんな理由があっても肯定してはいけないという。
運転手のパナヒ監督はなにも口を出さない。
次に出てくるのは海賊版の映画を売り歩く男。イラン社会ではグレーどころかブラックな行為だ。図々しくて胡散臭い上、パナヒ監督を利用して儲けようとするが、パナヒ監督はここでも彼を非難することはない。
よく見ると指が6本ある。
もしかしたら、まともな職に就けなかったのかもと、勝手に想像させる人物だ。
次に乗ってくるのは事故にあって今にも死にそうな夫とその妻。夫はパナヒ監督のケータイを借りて死ぬ前に遺言を残そうとする。死に際になっても心配なのは、兄弟による財産の搾取なのだ。家族だからといって、油断はできない。
金魚鉢を大切そうに抱えた老人姉妹も乗ってくる。
正午までに金魚を返さないと死んでしまうと焦っている。
何故かはわからないけどイラン人の信仰深さからくるものなのだろう。人間同士は信じてないくせに神様や縁起はやたら信じてる。
姪を学校に迎えにいってからは、おしゃべりな女の子が"ここが変だよイラン人"的に、映画検閲のルールについて教えてくれる。
その中では、"正しいこととは何か"ではなく、"正しく見えることは何か"が大事なのだ。
極め付けは最後に乗ってくる女性弁護士。
彼女に至ってはパナヒ監督と同じく弾圧された側にいる。ボロボロになりながらも正しいことを唱えるために信念の薔薇を持って戦いつづけている。
ただし、ラストでちゃんと現実を描くのがパナヒ監督らしい。
安全なところなんてどこにもない。
