理学療法学生のグリット・レジリエンス教育介入の効果
論文の紹介
タイトル
An Intervention to Build Grit, Resilience and a Growth Mindset in Physiotherapy Students
(理学療法学生におけるグリット・レジリエンス・成長マインドセットを育成する教育介入)
著者・雑誌・発行年
Marlena Calo, Belinda Judd, Lucy Chipchase ほか
The Clinical Teacher, 2025
論文の概要
本研究は、理学療法学生の臨床実習中におけるグリット(やり抜く力)、レジリエンス(回復力)、成長マインドセットを高める教育介入の効果を検証した研究です。
医療系学生は、臨床実習において
・臨床環境への適応
・患者さん対応
・評価やフィードバック
・失敗への不安
といった様々なストレス要因に直面します。
こうした環境に適応するための心理特性として、
・Grit(長期目標に向かって努力を継続する力)
・Resilience(困難から回復する力)
・Growth mindset(能力は努力で伸びるという信念)
が重要視されています。
本研究では、これらを高めるために5週間のオンライン教育プログラムを実施し、その効果を検証しました。
対象は理学療法学生143名で、
週1回・60分のオンラインワークショップを5週間実施しています。
評価には以下の尺度が用いられました。
・Short Grit Scale(Grit-S)
・Brief Resilience Scale(BRS)
・Dweck Mindset Instrument(DMI)
・Bolton Uni Stride Scale(BUSS:Academic Tenacity)
本研究の特徴は、
・グリット、レジリエンス、マインドセットを同時に介入対象とした点
・それらを統合した概念であるAcademic Tenacityを評価している点
にあります。
主な結果
▶ 全体としての介入効果
介入前後を比較した結果、
・グリット
・レジリエンス
・マインドセット
・Academic Tenacity
いずれも全体集団では有意な変化は認められませんでした。
つまり、すべての学生に一律で効果がある介入ではなかったという結果です。
▶ マインドセットの変化
一方で、ベースライン特性別に分析すると重要な結果が見られました。
Dweck Mindset Instrument – Intelligence(DMI-i)
1.0〜3.0:固定マインドセット(Fixed mindset)
3.1〜3.9:未決定(Undecided)
4.0〜6.0:成長マインドセット(Growth mindset)
固定マインドセットの学生
中央値
3.00 → 3.25(p = 0.043)
未決定マインドセットの学生
中央値
3.75 → 4.50(p = 0.035)
つまり、
・固定マインドセット → 未決定
・未決定 → 成長マインドセット
という方向に改善が見られました。
▶ Academic Tenacity(学習持続力)の変化
Bolton Uni Stride Scale(BUSS)
20〜40:低Academic Tenacity
41〜57:高Academic Tenacity
低Academic Tenacity群
中央値
38 → 41(p < 0.001)
この結果は、
困難に直面しても学習を継続する能力が改善した可能性
を示しています。
▶ グリットの変化
低グリット群では
中央値
2.75 → 3.13(p = 0.08)
と改善傾向が見られましたが、統計的有意差には至りませんでした。
▶ レジリエンス
レジリエンスについては、
有意な改善は認められませんでした。
全体像として重要なポイント
本研究で重要なのは、
・全体では有意な改善なし
・低ベースライン学生では改善あり
・固定マインドセットは変化しやすい可能性
・低Academic Tenacityでは改善あり
という点です。
つまり、
心理教育的介入は、学生の初期特性によって効果が異なる
可能性が示唆されています。
臨床実習は学生にとって非常に負荷の高い環境であり、
・評価への不安
・失敗経験
・患者との関係
・医療チーム内の役割
など、多くの心理的ストレスが存在します。
本研究は、
その適応力を教育的に支援できる可能性
を示しています。

結論
本研究は、
理学療法学生の心理特性を高める教育介入の可能性
を検討した研究です。
結果として、
すべての学生に効果があるわけではないものの、
・固定マインドセットの学生
・低Academic Tenacityの学生
では改善が見られました。
つまり、
学生のベースライン特性に合わせたターゲット介入
が重要である可能性が示されています。
面白かった点
個人的に印象的だったのは、
全体では効果が出なかったという結果です。
教育介入研究では、しばしば「介入で改善した」という結果が報告されますが、本研究では平均的には効果なしという結果が示されています。
しかし、低スコアの学生では改善しているという点は興味深いです。
これは教育研究でもよく見られる現象で、すでに高い能力を持つ学生は伸びにくいということを示唆しています。
教育・マネジメントへの示唆
この研究から得られる示唆は、
教育や組織マネジメントの視点においても重要だと感じました。
教育者やリーダーの役割は、
学生や部下の「今の数値」に一喜一憂することではないのかもしれません。
むしろ重要なのは、
彼らが持つ潜在的な「伸び代」を見極め、その成長を支える環境を整えることです。
今回の結果は、
教育介入がすべての人を一様に変えるものではないことを示しています。
しかし同時に、
適切なタイミングと対象を見極めれば、確実に変化を生み出せる可能性も示しています。
教育やマネジメントにおいて重要なのは、
「平均」だけではなく、誰に・いつ・どのような支援を届けるのかという視点も必要なのだと感じました。
