「あの人がおかしい」と決めた瞬間、わたしの成長は止まっていた。
部下に教えるのが怖かった頃、もう一つ手放せないものがあった。
自分は間違っていない、という気持ちだ。
「どうして、何度言っても分かってくれないんだろう」
任せた仕事が思うように進まないと、わたしはすぐに相手の中へ理由を探しにいった。
そして最後には、
「あの人は、そういう人だ」
と結論を出す。
一度そう決めると、その後の行動まで同じ色に見えてくる。
目の前の人を見ているつもりで、実際に見ていたのは、自分でつけた印ばかりだった。
しかも、向こうをおかしい側に置けば、こちらは正しいままでいられる。
必要なことは伝え、仕事も教えている。
変わるべきなのは、部下の方だ。
その結論は、わたしにとって都合がよかった。
自分の言い方や、声をかけるときの空気は振り返らない。
話を聞く前から答えを決めていたことにも、目を向けずに済む。
その思い込みが崩れたのは、部下育成で大きくつまずいたあと。
わたしの関わりが原因で、一人の部下が職場を離れた。
それでも最初は、「あの人にも問題があった」「全部わたしのせいではない」と、何度も考えた。
きっと、どちらにも言い分はある。
向こうだけが悪かったわけでも、こちらだけが悪かったわけでもない。
ただ、過去の中から問題を探し続けても、気持ちは同じ場所を回るだけだった。
考えるほど、相手の悪かったところは増えていく。
けれど、明日から何をすればよいかは、一つも増えなかった。
本を読むうちに、少しずつ目線が未来へ向き始める。
誰が悪かったのかではなく、これからどうすればいいのか。
どんな関わり方を選べば、自分が思い描くマネジャーへ近づけるのか。
すぐに答えが出たわけではない。
それでも、問いが未来へ向くだけで、考えられることは増えていった。
過去の出来事は変えられない。
けれど、次に選ぶ言葉や、目の前の人との向き合い方は変えられる。
今は、思うように進まないときほど、自分にできることは何かを考える。
自分の課題と相手の課題を分け、こちらの期待を正解として押しつけていないかを確かめる。
伝え方や聞き方は変えられる。
けれど、その言葉をどう受け取り、何を選ぶかは向こうにしか決められない。
そこまで思い通りに動かそうとすれば、また苦しくなる。
今でも、心の中に「またか」が浮かぶ日はある。
そんなときは、その言葉を事実にする前に、一度だけ立ち止まる。
相手を責めるためでも、すべてを自分で背負うためでもない。
わたしにできることを、手放さないためだ。
「あの人がおかしい」で終わらせれば、こちらは何も変えなくていい。
その代わり、自分が成長する機会まで、向こうへ渡してしまう。
だから今は、人を決める前に、自分の関わりへ目を向ける。
わたしまで、そこで止まらないために。
自分の場合は、どこまで振り返り、どこから区切ればよいのか。
それを紙に書きながら整理できるよう、全9ページの実践ワークを作りました。
頭の中だけでは同じ場所へ戻ってしまうときに、必要な選択肢になればうれしいです。
