黒いガラケーのホラー話し
とある夏の夜の話です。
その夜、私は「ラジオ」をのんびり聴いていました。楽しい会話に、一人でゲラゲラ笑っていたのを覚えています。私は自宅の和室にいました。部屋は閉め切っていて、風など吹いていません。ふとスマホから目を離し、棚へ視線を向けた、その時でした。
風もないはずなのに、棚の中で髪の毛ほど細い線が二本、ゆらゆらと揺れているのです。
「……何だろう?」
不思議に思い、少し近づいてみました。
すると、その二本の線には、ちゃんと繋がっているものがありました。その先は、恐ろしいほど真っ黒。
細長く、まるで昔の携帯電話――ガラケーのような形をしています。
そして私は気づいてしまいました。
それはガラケーではありません。
二本の線は触覚だったのです。
その瞬間、私は固まりました。
恐ろしくて、声も出ません。
触覚のついた黒い生き物も、こちらに気づいたようで、お互いに動けなくなりました。ほんの数秒だったのでしょうが、私には永遠のように感じられました。
私は悲鳴をこらえ、すぐそばにあった殺虫スプレーを手に取ります。すると、その黒い"ガラケー"は、とてつもない速さで逃げ始めました。
「怖い!」
それでも、ここで立ち向かわなければ、もっと恐ろしいことになる。そんな思いで、私は無我夢中でスプレーを噴射しました。どれくらい格闘したのでしょう。
時間の感覚は、もうありません。
そのスプレーは優秀でした。
やがて、触覚つきの黒いガラケーは、ぴくりとも動かなくなりました。
私はトイレットペーパーでそれを何重にも包み、その日感じた嫌なことも、恐怖も、憎らしさも全部まとめて、トイレへ流しました。今でも、あの二本の触覚が、風もない部屋でゆらゆら揺れていた光景だけは忘れられません。
