ショパンが私に語りかけたくれた
朝は予定がない限り、お気に入りのレコードをかけながらご飯をゆっくり食べます。
起きると頭の中にメロディーが流れているので、聴きたい曲はいつも決まって、今朝は、ギレリスの弾くショパンのピアノ協奏曲でした。

何度も聴いているのですが、あまりの美しさに、食べることさえ忘れて聴き入っていました。
・・・すると、
ギレリスを通してショパンが私に語りかけている!
と感じたのです。
まるでショパンがすぐそこにいて、自分の心の内を私に語ってくれているよう。
今まで長い間、膨大な数の曲や演奏家を聴いてきて、美しさや圧倒感や胸に染み入る感覚は何度も何度も味わってきました。
でも、こんなに密に作曲家の「声」が伝わってきたのは初めての経験でした。
あまりの感動に長い間呆然とし、自分が体の中にいないような不思議な感覚になったほどです。
私にとって、演奏家というのは、作曲家の意図や想いを、音を通して伝える表現者だと思っています。
演奏家が前に出るのではなく、音楽にたいして、どこまでも深い尊敬の念と純粋な心で、作曲家と共に音楽を創造する存在です。
ギレリスはまさにそんな演奏家。
確固たる自分の音楽や感性を持っていながら、作曲家の媒介となり、ショパンの心の内を表現しているのです。
私が通っていた大学に、ジュリアード出身のアメリカ人の教授がいました。彼は今は亡きピアニストたちのコンサートに足繁く通っていた方で、いつも学生時代や若い頃の話を聞くのが楽しみでした。
グレン・グールドがジュリアードに演奏をしに来たときのこと。
友達と共に興味津々で、グールドが練習しているところをそっと覗きに行くと、暗闇の中、床に座ってピアノを弾いていたそう!
「あれには本当にびっくりしたよ!」
と話していて、二人で大笑いしたのを覚えています(笑)
そんな教授と私はギレリスが大好きで、よく二人でギレリスについて語り合いました。
ある時、教授がポツリと言った言葉が今でも忘れられません。
「僕にとってギレリスは、最も誠実で、最も真摯なピアニストなんだ」
教授のこの言葉は、私に喜びを与えてくれました。
私がずっと感じていることを言語化してくれた!と。
ギレリスは、多くの同胞がソビエトから西側へ渡る中、祖国に留まり、狭いモスクワのアパートで家族と暮らしました。
こんな素晴らしいピアニストなのに、家にはアップライトのピアノしかなかったというから驚きです。
そんな質素な環境でも、家族を大切にし、真摯に音楽に向き合い続けたギレリスだからこそ、ショパンの内なる想いを、ピアノを通して伝えることができるのだと思いました。
余談ですが、ある時教授が、NYの美術館でギレリスの演奏を聴いた時のことを話してくれたことがあります。
ベートーヴェンの熱情ソナタを演奏するギレリス。
教授は、興奮し、前のめりになり、一音一音逃さないように聴いていました。
すると、前に座っていた着飾った奥様方がひそひそと
「これだけ弾けるなんて、よっぽど練習したのね〜」
と話しているのが聞こえたそう。
この話を茶目っ気たっぷりな顔で話された時は、これまた二人で大爆笑でした。
今日も読んでくださりありがとうございます。
素晴らしい一日になりますように!
