【第25話】静かで穏やかな時間と心
【前回】👉 第24話:逃げてもいいと気づいた日
笑い声の中に救われ、日常の温かさに助けられながら、
壊れた心はゆっくりと回復していきました。
ただその隣には、どうしても癒えない場所がひとつだけあって、
私はその境目を抱えたまま、5年を歩いていきました。
穏やかな日々と、消えない影
彼女が工場を去った日から、しばらくの月日が立ちました。
でも、工場には彼がいる。
その事実だけは消えず、私の心はまだ彼の方を向いていました。
相変わらず行けない、ショッピングモール。
カラオケに行っても歌えないミスチル。
そんななかでも、後輩たちと走ったリレーマラソン。
みんなで登ったハイキング。
後輩同士の結婚式で、張り切って作った動画__。
賑やかで穏やかな日々に救われる瞬間が、少しずつ増えていきました。
あの日壊れた心は、ゆっくり、ゆっくりと
少しずつ息ができるようになっていったんだと思います。
同期たちとは相変わらず仲が良く、
毎月のように飲みに行ったり、遊びに行ったり。
大学生みたいなノリが、私の心を軽くしてくれました。
フットワークの軽い後輩が入ってきたことで、
その子たちも一緒に、毎年旅行にも行くようになりました。
四国に行っては、うどん屋を何件も回って、
鹿児島ではベロベロに酔っ払ったり、
なぜか”旅行の度に山を登る”という謎のルールが生まれ
まるでタスクのように毎回登山する私たち。
1合登るごとにやる荷物持ちじゃんけん。
いちいち動画に撮ってはしゃぐ私たち。
山の上でまでやるポケモンGO。
そんなくだらなくて、愛おしい時間。
あの頃の私は「こんな毎日がずっと続けばいい」と本気で思っていました。
あっという間に月日は流れ
気づけば5年という歳月が過ぎていました。
仕事は順調で、負担も軽い。
毎日、帰ってからの事を考えられるくらいには、
心に余裕が戻っていました。
それでも彼のことだけは、ずっと忘れられずにいました。
いつだって冷静で誰からも頼られる人。
あれだけひどい仕打ちを受けたのに、
それでも有り余るほどの尊敬の念があったから。
会うことのない時間が、
むしろ私の心の中での彼を大きくしていたのかもしれません。
そんなある日、私に部署異動の打診がありました。
同じ事務所内での仕事。
産休に入る方の代わりに入ってほしいとのこと。
全く畑違いの仕事。
正直不安がないわけではありませんでした。
でも新しいことに挑戦したい。
そんな気持ちで、お話を受けることにしました。
・・・けれど、この決断が、
思いも寄らない方向へと進んでいくことになるのです。
この異動が、私の人生の歯車を、
また静かに狂わせていくことになるなんて__
あの時の私はまだ、知る由もありませんでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回も読んでいただけると嬉しいです。
【これまでのお話】
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