詩|私を生かすもの
咳をしたらうっかり心臓を吐き出してしまった
赤黒くて 生温くて 毒々しいそれは
手のひらにちょこんと収まって
なんだか恥ずかしそうにビクビクしている
足元を見ると少しだけ地面から浮いていて
私はついに無敵になったのだと知る
試しに思いきり深呼吸をしてみたけれど
もう息を吸っても吐いても私を生かすわけじゃないらしい
試しに人生で初めて買ったCDを流してみたけれど
もう心地よいメロディが私を生かすわけじゃないらしい
試しに押し入れから少女漫画を引っ張り出してきたけれど
もう甘酸っぱい物語が私を生かすわけじゃないらしい
やがて摂取を止めた脳みそは
そそくさと空へ帰る準備を整えて
つられて私もありったけの記憶をバックに詰め込んだ
私はそろそろ還ります。
私はいよいよ孵ります。
街中に響いた5時の鐘が
最後に心臓をドクンと鳴らした
