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通信制大学は「安い昼間大学」ではない――高校卒業後すぐに進学する前に知ってほしいこと

この記事での用語定義:
この記事では、夜間部ではない一般的な通学課程を、便宜上「昼間大学」と呼びます。
夜間部や通信教育課程は、学費・生活リズム・学生生活・就職活動の前提が異なるため、ここでは分けて考えます。

通信制高校から大学へ進む人が増えている。

リクルート進学総研によれば、通信制高校卒業者のうち、大学・短期大学の通信教育部へ進学した人は、2015年度の332人から2024年度には2,567人へ増加した。

もっとも、通信制高校から大学・短大へ進学する人の多くは、現在も通学課程を選んでいる。
それでも、通信制大学という選択肢が以前より現実味を帯びてきたことは確かだ。
そのこと自体は悪いことではない。

しかし、ここで注意したい。

通信制大学は、通学課程と同じ大学生活を、安くオンラインで手に入れる場所ではない。

この記事は、通信制大学への進学を否定するものではない。
むしろ、通信制大学を必要としている人が、入学後に「こんなはずではなかった」とならないために書いている。

通信制大学は「大学」である。
けれど、昼間の大学生活とは前提がかなり違う。

この違いを理解しないまま進学すると、かなり苦労することになる。

通信制大学は「安い昼間大学」ではない

通信制大学は、学費が比較的安いことが多い。

たとえば放送大学(学士課程)は、全科履修生の入学料が24,000円、授業料が1単位6,000円で、卒業までに必要な学費の目安は約77万円と案内されており、入学試験もない(2026年7月11日現在)。

このような情報だけを見ると、

「昼間大学より安い」
「入試がない」
「自宅で学べる」
「大卒資格が取れる」

という点が魅力に見える。

それは確かに魅力であるが、通信制大学は、昼間大学の廉価版ではない。

通信制大学では、授業を受けるのも、履修登録をするのも、単位を確認するのも、レポートを出すのも、質問するのも、基本的には自分で動く必要がある。

もちろん大学によって支援の厚さは違う。ZEN大学のように、少なくとも第一期生の構成を見る限り若年層の比率が高い新しい通信制大学もあるし、日本大学通信教育部のように昼間スクーリングを活用すれば通学課程に近い形で学べる大学もある(詳しくは後述)。

それでも、通信制大学を選ぶなら、「昼間大学と同じ大学生活がそのまま手に入る」と考えてしまうと、入学後に困りやすい。

通信制大学は、良くも悪くも、自分で学ぶ場所である。

昼間大学との最大の違い

偶発的に情報が入る機会が少ない

通学課程では、本人が意識して探さなくても、授業、掲示、友人、教職員との接触を通じて、自然と情報に触れる機会が比較的多い。

通信制大学では、その「自然に入ってくる情報」が少ない。

自分から情報を取りに行かなければ、何が分からないのかすら分からないまま時間が過ぎることがある。

履修登録の方法が分からない。
単位の取り方が分からない。
レポートの書き方が分からない。
どの授業を取ればよいのか分からない。
卒業要件を満たしているのか分からない。
就活をいつ始めればよいのか分からない。

こうした問題は、本人が怠けているから起きるとは限らず、本人は普通に頑張っているつもりのこともある。

なぜなら、高校までの「頑張る」と、通信制大学で求められる「頑張る」は中身が違うからである。

高校までは、先生や保護者、学校の仕組みが「次に何をすればよいか」をある程度示してくれることが多い。
しかし通信制大学では、そもそも自分が何を確認すべきかを自分で見つけなければならない場面が増えるのだ。

自分から制度・人・支援へアクセスする必要がある

通信制大学で必要な力は、単に「机に向かって勉強する力」だけではない。

むしろ重要なのは、次のような力である。

  • シラバスや履修要項を自分で読む力

  • 分からないことを大学に問い合わせる力

  • 締切を自分で管理する力

  • レポートや課題に対する指摘を受け止め、書き直す力

  • 半年から1年単位で学習計画を立てる力

  • 自分の進路に必要な情報を集める力

  • 必要なときに人へ相談する力

これらは、いわゆる「社交性」とも少し違う。

友達が多いかどうか、雑談が得意かどうか、明るい性格かどうか、という話ではない。

大学という組織とコミュニケーションを取れるか。
分からないことを放置せず、質問できるか。
制度を読み、自分の状況に当てはめて考えられるか。
困ったときに、教員・事務・学生相談・キャリア支援などへアクセスできるか。

そういう力である。

入試がないことと、学力が不要なことは違う

通信制大学の中には、入学試験がない大学も多い。
しかし、入試がないことと、大学で学ぶための学力が不要であることはまったく別の話である。

多くの大学科目では、高校までに身につける読解力や基礎知識があることを前提に説明が進む。

たとえば、次のような力はペーパーテストの点数だけでは測れないが、通信制大学での学修にあたって重要な能力である。

  • 教科書を読む

  • 講義を聞く

  • 資料を読む

  • 要点をまとめる

  • レポートを書く

  • 自分の考えを根拠とともに説明する

特に、国語力は重要である。

通信制大学では、資料を読み、自分で理解し、分からないところを言語化しなければならない。
レポート課題では、感想文ではなく、問いに対して根拠を示しながら論じることが求められる。

高等学校卒業程度認定試験(以下高認)に合格した人も注意が必要である。

高認の試験に合格する力と、通信制大学で学び続ける力は同じではない。高認は試験によって学力を確認する制度であり、大学で必要となる論述やレポート作成の力まで直接測るものではない。
高認の対策をしているだけでは、大学で必要になる長文読解、要約、論述、レポート作成、引用、添削を受けて書き直す力までは十分に鍛えられないことがある。

だから、通信制大学に進学する前には、入試対策としてではなく、大学で学ぶための準備として、文章を書く練習をしておくことをおすすめしたい。

具体的には以下のような勉強が望ましい。

  • 小論文やレポートの基礎を学ぶ

  • できれば添削を受ける

  • 自分の文章を他人に読んでもらい、直す経験を積む

また、筆者個人の目安としては、共通テスト形式の基礎的な問題で、5教科全体として6割程度に対応できる力があると、入学後の選択肢を狭めにくいと考えている。
ただし、専攻分野によって必要な科目は異なる。

大卒資格だけで就職が決まるわけではない

通信制大学を選ぶ高校生の中には、

「とりあえず大卒を取れば就職できる」

と考えている人もいるかもしれないが、これはかなり危ない。

通信制大学を卒業しただけで、自動的に就職が有利になるわけではない。
特に、高校卒業後すぐに通信制大学へ進学する場合は、卒業後の雇用まで考えておく必要がある。

また、新卒枠で就職活動をする場合、「学生時代に力を入れたこと」を聞かれることがある。
いわゆるガクチカである。

昼間大学の学生は、大学生活の中でサークル、ゼミ、研究室、アルバイト、インターン、学園祭、学生団体などを通じて、さまざまな経験を積む。
もちろん全員がうまく活用できるわけではないが、少なくとも「ガクチカ」と呼ばれるような経験を作る機会は多い。

通信制大学生の場合、同じような経験を持っていないことも多いが、無理に昼間大学の学生の真似をする必要はない。
通信制大学生には、通信制大学生なりの語り方がある。

たとえば、

  • 自学自習で学習を継続した

  • 仕事や家庭や体調と学業を両立した

  • オンラインでコミュニティを作った

  • 個人開発や制作活動を続けた

  • 資格取得や研究テーマに取り組んだ

  • 社会人学生との関わりから学んだ

  • 自分で学習計画を立て、卒業まで進めた

こうした経験は、きちんと言語化すれば強みになる。
ただし、何もしていなければ語ることはできない。

また、希望する進路に応じた実績作りも考える必要がある。

アルバイト経験も、働くうえで重要な経験である。
ただし、希望する職種によっては、アルバイト経験だけでは必要な能力や専門性を示しにくい場合がある。

必要な準備は職種によって異なる。エンジニアなら個人開発やポートフォリオ、資格職なら指定科目や実習、公務員なら採用試験対策が必要になる。
大切なのは、卒業資格だけでなく、希望する進路から逆算して準備することである。

  • 通信制大学で何を学び、それをどう仕事につなげるのか

  • 大学外でどのような経験を積むのか

  • 自分の経歴をどう説明するのか

これを考えないまま「大卒になれば何とかなる」と思っていると、卒業後に困る可能性がある。

通信制大学生は、大学が用意してくれる活動だけに頼るのではなく、自分の進路に必要な経験を意識して積み上げる必要がある。

通信制高校から進む場合の注意

通信制高校の中には、通信制大学に必要な力がある程度自然に鍛えられる学校もある。

公立通信制高校など、昔ながらの自学自習型の通信制高校では、毎日先生が学習状況を細かく管理してくれるとは限らない。生徒自身が、レポートの締切、スクーリングの日程、試験、履修状況を確認しながら卒業を目指す必要がある。
そうした環境で卒業した人は、通信制大学に必要な自走力をある程度身につけている可能性がある。

一方で、近年増えているサポート色の強い通信制高校では、先生やスタッフが学習進捗、生活リズム、登校状況、進路相談などを日常的に支えてくれることがある。

サポートが手厚い通信制高校が悪いわけではない。
むしろ高校段階では、その支援によって卒業までたどり着ける人も多い。

ただし、大学に入ったあとも同じ密度で締切管理や生活支援が受けられるとは限らない。
だからこそ、進学前に「大学ではどこまで支援があるのか」を確認しておく必要がある。

高校で求められる自立と、大学で求められる自立は違う。

大学によって設計が違う

「通信制大学は若者に向く/向かない」と一括りにすることはできない。
通信制大学といっても、大学によって性格はかなり違う。

若年学生への支援を重視する大学もあれば、社会人の学び直しに向いている大学もある。ビジネス実務に強い大学もあれば、アカデミックな教養教育に強い大学もある。スクーリングに通えることを前提にすれば、通信制でありながら通学課程に近い学び方ができる大学もある。

たとえば、ZEN大学は第一期生3,380名のうち、高校3年生・高等専門学校生からの進学者が59%、N高等学校・S高等学校からそのまま進学した学生が全体の42%と公表されている。10代と20代が占める割合も87%であり、少なくとも第一期生については、若年層、とくにN高・S高からの接続が大きい大学だといえる。

一方で、放送大学は長く社会人学生や生涯学習者を受け入れてきた通信制大学であり、幅広い教養を自分のペースで学びたい人にとって、有力な選択肢である。ただし、入学後に自分で科目を選び、学習計画を立て、必要に応じて相談していく力が求められる。

日本大学通信教育部のように、スクーリングを活用できる場合に若年学生にも向きやすい大学もある。日大通信の昼間スクーリングは、昼間大学と同様に平日の日中に半年間ずつ学ぶ仕組みとして案内されており、東京圏で継続的に通える学生にとっては大きな選択肢になる(参考)。

通信制大学は、それぞれ異なる目的や学生層を想定して設計されており、誰にでも同じように合うわけではない。

大事なのは、自分の目的と、その大学の設計が合っているかどうかである。

なお、大学ごとの違いについては、この記事だけでは扱いきれない。
各通信制大学の違いについては、別の記事で改めて整理したい。

入学前の適性チェックポイント

ここまでの内容を踏まえて、現在の自分が通信制大学に向いている状態か、入学前に準備が必要な状態かを確認してほしい。

通信制大学に向いている人

通信制大学が向いている人とは、たとえば次のような人である。

  • 日常的に自学自習している

  • 学習計画を自分で立て、修正できる

  • 長い文章を読むことが苦にならない

  • 分からないことを調べ、それでも分からなければ質問できる

  • 通信制を選ぶ積極的な理由がある

  • 学びたい分野や卒業後の方向性がある

  • 大学だけに人間関係や経験の機会を期待せず、必要に応じて学外にも居場所や活動を探せる

こうした人にとって、通信制大学はかなり良い選択肢になる。

特に、すでに自学自習の経験がある人、通信制高校で自分の履修やレポートを管理してきた人、体調に波がありながらも学び続けたい人にとって、通信制大学は通学課程より合っている場合がある。

ただし、自由度が高いということは、誰かが毎日管理してくれるわけではないということでもある。
社会人学生にとっての「自由度の高さ」は、高校卒業直後の学生にとっては「放置」に感じられることがある。

ここは、進学前によく考えた方がよい。

入学前に準備が必要な人

逆に、次のような人は慎重に考えた方がよい。

  • 高校の課題提出をほぼ教員や保護者に管理してもらっている

  • 通信制大学を選ぶ理由が「入試がない」「通学しなくてよい」だけ

  • 卒業要件や履修制度を自分で確認した経験がない

  • 長文をほとんど読まない

  • 自分の文章を添削され、書き直した経験が少ない

  • 分からないことがあっても、質問せず放置しやすい

  • 大学に入れば友達・就職先・やりたいことが自然に見つかると思っている

  • 高校卒業後も今の高校と同じ密度の支援が続くと思っている

  • 通信制高校で受けている支援のうち、何が大学でも継続されるのか確認していない

これらに当てはまるからといって、絶対に通信制大学へ行ってはいけないわけではない。
ただし、そのまま入学すると苦労する可能性が高い。

特に、現在の高校で教員やスタッフが、締切の声かけ、学習計画、生活リズム、進路選択まで継続的に支えている場合は、その支援が大学でも同じように受けられるとは考えない方がよい。

また、昼間大学を受験しないこと自体が悪いわけではない。
問題なのは、「入試がないなら大学の勉強も何とかなるだろう」と考えてしまうことである。

これらの条件に当てはまる場合は、進学前に次のような準備をした方がよい。

  • 基礎学力を補う

  • 小論文やレポートの練習をする

  • 添削を受ける

  • オープンキャンパスや説明会で質問する

  • 通信制大学以外の進路も比較する

  • 短大、夜間大学、専門学校、職業訓練、就職、いったん働くことも含めて考える

進路は、通信制大学だけではない。

また、自宅で安全かつ継続的に学習できる環境があるかも確認してほしい。

自宅では集中できない場合は、図書館、有料自習室、大学の学習センターなど、自宅以外の学習場所を確保する必要がある。

家族関係や住環境そのものが学習を妨げている場合は、本人だけで解決しようとせず、高校の教員や相談室、進学先の学生相談窓口、福祉機関などにも相談し、進学後の居住環境を含めて検討した方がよい。

進学前によく考えてほしいこと

ここまでは、通信制大学で学ぶための力や準備について述べてきた。加えて、進学先を決める前には、次の五つを具体的に考えてほしい。

1. なぜ通信制大学なのか

昼間大学や夜間大学などの通学課程ではなく通信制大学を選ぶ理由は何か。

学費なのか。
体調なのか。
地理的条件なのか。
学びたい分野なのか。
自分の生活スタイルなのか。

理由がはっきりしているほど、入学後に迷いにくい。

2. 何を学びたいのか

「大卒がほしい」だけでは、途中で苦しくなりやすい。

心理学を学びたいのか。
教育を学びたいのか。
経営を学びたいのか。
情報学を学びたいのか。
福祉や法律や文学を学びたいのか。

学びたい内容によって、選ぶ大学は変わる。

3. 卒業後にどう働きたいのか

大学卒業後に、どのような働き方をしたいのか。

会社員になりたいのか。
専門職を目指すのか。
資格が必要なのか。
フリーランスや起業を考えているのか。
福祉的就労や支援を受けながら働く可能性もあるのか。

通信制大学に入る前から完璧に決める必要はない。

しかし、「大卒を取れば何とかなる」とだけ考えてしまうと、入学後に困りやすい。

4. 大学外で何を積み上げるのか

通信制大学生は、大学内だけで経験が完結しにくい。

だからこそ、大学外で何を積み上げるかが重要になる。

アルバイト、インターン、ボランティア、個人開発、作品制作、資格、地域活動、学生コミュニティ、研究会、発信活動。

形は一つではない。ただし、活動の数を増やすこと自体を目的にせず、自分の関心や進路とどうつながるかを考えて選びたい。

また、時間の自由度を生かして実務経験を積むのも有効である。

5. 困ったときに相談できるか

通信制大学では、困ったときに自分から相談する力がとても重要である。

大学の問い合わせ窓口に連絡できるか。
学習センターやスクーリングで質問できるか。
学生相談やキャリア支援を使えるか。
メールで自分の状況を説明できるか。

これは、入学前から練習できる。

たとえば、通信制大学の入学準備として、

  • 説明会に参加して質問する

  • 資料を読んで分からないところを問い合わせる

  • 高校の先生や支援者に進路相談する

といった行動を、自分から実際に行ってみることはよい訓練になる。

そうした経験は、通信制大学に入ってからきっと役に立つ。

通信制大学は、楽な道ではなく、別の道である

通信制大学は、通学課程より下の進路ではない。

しかし、通学課程より楽な進路でもない。

通学課程には通学課程の大変さがある。
通信制大学には通信制大学の大変さがある。

通信制大学は、自分で学び、自分で相談し、自分で実績を作り、自分で進路を切り開く必要がある場所である。

その分、合う人にとってはとても自由で、可能性のある学び方でもある。

体調や家庭の事情で毎日通学できなくても、学び続けることができる。
地方にいても、大学教育にアクセスできる。
働きながら、あるいは生活を立て直しながら、学士を目指すことができる。
自分のペースで学び、自分の関心を深めることができる。

だから筆者は、通信制大学への進学そのものに反対したいわけではない。
むしろ、通信制大学があることで救われる人はたくさんいると思っている。

ただし、高校卒業後すぐに通信制大学へ進学するなら、昼間大学と同じ感覚で入ってはいけない。

「安いから」
「入試がないから」
「オンラインだから」
「大卒が取れるから」

それだけで選ぶと、入学後に苦しくなる可能性がある。

通信制大学を選ぶなら、自分が何を学びたいのか、どのように学ぶのか、卒業後にどう働くのか、大学外で何を積み上げるのかを考えておきたい。

通信制大学は、昼間大学の廉価版ではない。
自分で学ぶ力を使って、自分の進路を作っていくための場所である。

その覚悟と準備がある人にとって、通信制大学はとても強い選択肢になる。


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