【運送業の❝気になる話❞】S社事件の“誤解”と歩合給の実務上の混乱を正すため、今こそ歩合給の正しい意味を整理します
運送業専門社労士の吉元です。
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近年、運送会社の賃金制度を拝見していて強く感じることがあります。 それは、
歩合給の名目で支払っているにもかかわらず、 実態が歩合給として扱えないケースが増えている
ということです。
背景には2024年問題による残業規制の影響もありますが、 最も大きなインパクトはやはり
S社(引越し会社)事件(令和6年5月15日・東京高裁)
です。
この判決は「歩合給が認められなかった事案」として 業界に強烈な印象を残しました。
しかし実際には、その後の判例では歩合給が認められています。
S自動車(タクシー)事件(令和6年11月29日・東京地裁)
T社(運送)事件(令和7年3月27日・福岡地裁)
H物流(運送)事件(令和8年3月25日・札幌地裁)
これらの判例では、 歩合給の性質・範囲・制度と運用の一致 が確認できれば、 歩合給は有効と判断されています。
つまり、
S社事件のインパクトが強すぎて、 その後の判例が霞んでいる状態
が実務に広がっているのです。
■なぜ今このテーマを取り上げるのか
理由は3つあります。
① 歩合給の“名目”と“実態”がズレている会社が増えている
歩合給の名目で支払っていても、 次のようなケースでは歩合給として扱えません。
出来高と連動していない
固定的に支払われている
他の手当と混同している
計算式が規程に書かれていない
「歩合給」と呼んでいるだけで、実態は固定的支給
これらは 歩合給の要件を満たしていない ため、 制度として成立しません。
② 固定給を増やした結果、歩合給の“出来高性”が弱まっている
若いドライバーの採用を意識して固定給を増やす会社が増えています。 その結果、歩合給の割合が小さくなり、 歩合給として認められる最低限の条件(出来高との連動性)が弱まるケースが増えています。
名目は歩合給でも、
出来高との連動が弱い
変動幅が小さい
実態として固定的支給に近い
という状態になり、 歩合給として扱えなくなる典型例が生まれています。
これは、歩合給の「性質・範囲・要件」が 不明瞭なまま運用されていることが原因です。
③ 保障給(労基法27条)の扱いが誤解され続けている
保障給とは、 労働基準法27条(出来高払制その他の請負制の最低保障) に基づき、 歩合給が著しく低い場合に支払われる最低保証額 です。
毎月一定額支払われる固定給ではない
完全歩合給制や歩合比率が高いドライバーが対象
営業職の最低保証と同じ構造
しかし、残業代計算では 労基法37条の割増賃金の解釈により「出来高払いの一部」として扱う という特殊な構造があります。
この“性質と計算のズレ”が誤解の原因です。
■歩合給が歩合給として扱われない典型例
ここでは、実務でよく見る典型例を整理します。
① 名目は歩合給だが、出来高と連動していない
出来高と連動していない支給は歩合給ではありません。
② 固定的に支払われている
毎月同額であれば、歩合給ではなく固定的賃金です。
③ 他の手当と混同している
「歩合給」と呼んでいても、 実態が無事故手当・業務手当・調整手当であるケース。
④ 計算式が規程に書かれていない
歩合給は計算式が明確であることが必須です。
⑤ 保障給(労基法27条)の扱いが曖昧
保障給は
歩合給が著しく低い場合の最低保証
毎月一定額ではない
計算上は出来高払いの一部として扱う(労基法37条の解釈)
この構造を理解していないと、制度が崩れます。
■まとめ:歩合給の“誤解”を正し、正しい意味を理解することが先です
歩合給の名目と実態を一致させることも大切ですが、 その前に必要なのは、
歩合給に対する誤解をただし、 歩合給の正しい意味を理解することです。
S社事件の誤解
固定給比率上昇による歩合給の出来高性の弱まり
保障給(労基法27条)の誤解
歩合給の名目と実態のズレ
これらを正しく整理することで、 歩合給制度は本来の形で運用できます。
歩合給は、 ドライバーが走った(仕事をした)分だけ収入に反映されるという、 運送業の現場に根付いた合理的な仕組みです。
会社にとっても、 割増賃金の計算基礎を固定給より低く抑えられるため、 人件費の固定費化を防ぎやすいというメリットがあります。
つまり、歩合給は ドライバーと会社の双方にメリットがある制度です。
だからこそ、 名目と実態を一致させる以前に、
歩合給の正しい意味を理解し、 歩合給に対する誤解を取り除くことが最も重要です。
そのうえで、 歩合給・固定給・保障給(労基法27条)の境界を明確にし、 制度と運用を一致させることで、 歩合給制度は本来の形で安定して機能します。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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