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「登山客が半分以下になった」|事故から1年の知床で、見て、聞いてきたこと

はじめに

こんにちは、YuYaです!
普段は登山やドローン映像などを中心に、アウトドア情報を発信しています。

この夏、北海道遠征で知床を歩きました。羅臼岳に登り、その登山口の山小屋で、こんな話を聞きました。

※実際の山行レポートは本記事末尾のリンクからぜひ読んでみてくださいね。

「去年の事故とその報道で、登山のお客さんは半分以下になった」

去年の事故——2025年8月に羅臼岳で起きた、ヒグマによる死亡事故のことです。

僕はこれまで、ヒグマと人の関係について何度か記事を書いてきました。

報道のあり方について、観光と同調圧力について、海外のルールについて。

ただ、それらはすべて、東京から資料を読んで考えた「遠くからの分析」でした。

今回は、事故からおよそ1年の知床を実際に歩き、現地の方の話を聞き、自分の目で見てきました。

先に書いておくと、この記事は「知床は安全だから来てください」という記事でも、「危険だから行くな」という記事でもありません。

自分で体感したありのままの現実を書きます。

皆さんが読み終えたとき、知床という場所を「正しく知る」ための材料が少しでも増えていれば、それで十分だと思っています。


1. 一年前、何があったか

まず、前提となる出来事を短く整理します。

2025年8月14日、羅臼岳の登山道(岩尾別コース)で、下山中の登山者がヒグマに襲われ、亡くなる事故が起きました。

事故の詳細をここでなぞることはしません。
事実関係は知床財団の調査速報と、知床ヒグマ対策連絡会議の最終報告書として公開されています。
関心のある方は、一次資料にあたっていただくのが一番正確です。

この記事のために押さえておきたいのは、その後の時系列です。

  • 事故直後:知床連山の登山道は全線閉鎖に

  • 2026年4月:事故の最終報告書が公表され、あわせて知床世界自然遺産地域科学委員会が「ヒグマと人の関わり方についての緊急声明」を発出

  • 2026年7月5日:再発防止対策の準備を経て、約11ヶ月ぶりに登山道の閉鎖が解除

つまり知床の山は、まる一つの登山シーズンを閉鎖のまま越えて、この夏ようやく再開されたばかりなんです。

事故当時、報道は連日続きました。
そして報道の大きさに比例するように、SNSでは様々な声が飛び交いました。その構図について考えたことは、以前の記事に書いたので、ここでは繰り返しません。

今回の記事で書きたいのは、その先です。
報道が去って1年が経った知床で、いま何が起きているのか。


2. 現地で聞いた話、見たもの

木下小屋で聞いた「半分以下」

羅臼岳の岩尾別コースの登山口には、木下小屋という山小屋があります。その小屋の方から聞いたのが、冒頭の言葉でした。

「去年の事故とその報道で、登山のお客さんは半分以下になった」

これは統計ではなく、一人の現地の方に聞いた実感です。
ただ、毎日その場所に立っている人の「半分以下」という言葉には、数字の表とは違う重さがありました。
約11ヶ月の閉鎖が明けて、山は再び開いた。でも、人はまだ戻りきっていない。
それが、登山口から見えている景色なんだと思います。

僕が羅臼岳に登ったのは8月2日。
規制はなく、ヒグマの注意レベルは5段階でいう2、といった状況でした。夏山シーズン真っ只中の日曜日に、登山道で出会ったのは20人ほど。

一方、山を下りた後の観光エリアは、レンタカーや観光バスがそれなりに走っていて、人がいないという印象ではありませんでした。評判の良い温泉や食事処にも行きましたが、混雑して入れないような場所はなかった、という程度の混み具合です。

とはいえ、僕は「事故前の知床」を正確に把握しているわけではありません。なので、今の人出が多いのか少ないのか、は語ることはできないのですが、「閑散とはしていなかったが、日本を代表する人気の山を歩くにしては、山は静かだった」という、それだけです。

データでは、どう見えるか

裏づけになる統計も探してみましたが、「知床の登山者数が何割減った」ことを直接示す公開統計は、僕が調べた範囲では確認できませんでした。

一方で、事故直後の2025年8月の報道には、地元のキャンプ場管理人の「予約はキャンセルだらけ。3〜4割、下手すれば5割がキャンセル」という声が残っています。事故直後に観光客の足が大きく遠のいたこと自体は、当時から報じられていた事実です。木下小屋の方の話は、その影響が1年経った今も続いている、という現在地を伝えるものなのだと思います。

そして知床は、世界自然遺産の自然そのものを最大の観光資源とする町です。斜里町の観光振興計画では、コロナ前の総観光消費額は約138億円と試算されています。観光は、この地域の暮らしの柱の一つ。「登山客が半分以下」という言葉は、山の話であると同時に、暮らしの話でもあるわけです。


3. 「共存」は、いま実際にどう動いているか

事故のあと、現地は止まっていなかった

前の記事で、僕は知床を「最初からヒグマの生活圏にいる場所」と書きました。では事故のあと、この場所はどうやって山を再び開いたのか。

経緯を追うと、そこには段階がありました。約11ヶ月の閉鎖期間中に、専門機関による調査と検証が行われ、2026年4月に最終報告書が公表されました。あわせて科学委員会から「ヒグマと人の関わり方についての緊急声明」が出され、再発防止対策の準備を経て、7月5日に閉鎖が解除されています。

現地を歩くと、その緊張感は掲示物からも伝わってきます。
登山口の注意書き、ヒグマ情報の共有。
「開けたから、あとは自己責任でどうぞ」ではなく、開けた後も監視と情報発信が続いている。そう感じました。

再開直後に起きたことが、すべてを物語っている

象徴的な出来事があります。

7月5日の再開からまもなく、羅臼岳でクマに追いかけられた登山者が、クマ撃退スプレーで撃退し、無事に下山するという出来事がありました。そして斜里町などはこれを受けて、登山口を再び閉鎖しています。僕が登った8月2日は、その後にまた開かれた状態だった、ということになります。

この一連の流れを、僕はこう受け取りました。

リスクはある。ゼロにはならない。そのうえで、備えた登山者と、即応する地域の仕組みが、共存を支えている。

スプレーが機能し、人は無事だった。そして地域は、無傷で済んだ事案でも即座に山を閉じ、状況を確認してから再び開けた。
中には、「このようなことがあってすぐに規制を解除するのは無謀だ」という意見もあるようですが、僕は「リスクと向き合い対処する仕組みが機能している」場所、そう思いました。

だから僕も、この山には普段以上の備えで入りました。
登山者にとっては当たり前のことですが、クマ撃退スプレーをすぐ抜ける位置に装着し、見通しの悪い場所では声と手たたきをこまめに。
要注意区間には爆竹も持ち、普段は使わないストックまで携行しました。

装備の中身と使い方の考え方は、他の記事で詳しく書きますので、気になる方は本記事末尾のリンクから読んでみてくださいね。

ここで言いたいのは一つです。

この場所では「備えて入る」ことが、登山者に求められる最低限の作法であり、それがルールを守る来訪として、地域の共存の仕組みを支える側に回ることになるのだと思います。


4. 考えたこと

ここからは、事実ではなく僕の意見です。

報道は「起きたこと」を伝える。「その後の日常」は伝えない

去年の夏、知床の事故は連日大きく報じられました。あれから1年。知床が今どうなっているかを伝えるニュースを、あなたはいくつ見たでしょうか。

報道とは、「起きたこと」は議論を呼ぶように、大々的に伝えますが、「その後も続いていく日常」はなかなか伝えてくれません。
ただその結果、多くの人の中で知床は「ヒグマの事故が起きた危険な場所」のまま、時間が止まっているのではないかと思うんです。
とはいえ、クマの目撃件数は北海道に限らず、全国的に、なんなら世界的にも増えているのは事実です。
異常気象によって山の食糧が減少しているなど様々な要因が考えられています。

話を戻しますが、僕が歩いた1年後の知床には、その後の日常がありました。
検証を経て山を開き直した人たちがいて、備えて登る登山者がいて、温泉があって、食事処があって、観光バスが走っていました。
そして登山口には、「お客さんは半分以下になった」と静かに語る小屋の方がいました。

じゃあ知床に行くべきなのか。

僕は「行くべき」とは言いません。
実際にヒグマとの遭遇リスクがある場所で、1年前には人が亡くなっています。そのリスクをどう受け止めるかは、一人ひとりが決めることだからです。

ただ、ひとつ言えるのは、行くなら、正しく知って、正しく備えること。

恐怖のイメージだけで避けるのでも、絶景の写真だけ見て気軽に入るのでもなく。この場所のリスクと、それに向き合う仕組みの両方を知ったうえで、自分で判断してほしいんです。この記事が、その判断材料の一つになれば十分です。

自然の価値と、人の暮らしは、同じ土台の上にある

前の記事で、知床が世界遺産である理由は「海と陸のつながり」だと書きました。その生態系の頂点にいるのがヒグマです。

つまりこういうことなんですよね。
知床の自然の価値と、ヒグマのリスクは、切り離せない同じものの両面です。そして、その自然を資源として暮らす地域の生活も、同じ土台の上に載っている。どれか一つだけ取り出して「素晴らしい」とも「危険だ」とも言えない場所。それが、歩いてみて分かった知床でした。


おわりに

下山して木下小屋に戻ったとき、小屋の方と交わした話を、帰ってからも何度も思い返しています。

「登山のお客さんは半分以下になった」——この言葉を、悲観でも楽観でもなく、そのまま受け取って持ち帰ることが、現地を歩いた者の役割だと思いました。

知床の自然については前回の記事で、実際の山行の様子は羅臼岳編・斜里岳編それぞれ公開しています。

最後に必ずお願いしたいことを一つ。
知床の登山道の開閉状況とヒグマの出没情報は、日々変わります。
訪れる際は、知床財団など公式の最新情報を必ず確認してください。


今回もここまで読んでくださってありがとうございました!
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