【論文紹介2】 二重反転回復法とスライス並べ替えを導入したマルチスライス高速スピンエコー MRI の効果的な血液信号抑制と、そのプロトン密度・T2 強調同時スキャンへの応用
この記事では、私が英国での博士研究員時代に初めて関わった研究の論文を紹介します。
J Magn Reson Imaging. 2004;20:881-8.
doi: 10.1002/jmri.20190.
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どんな内容?
脂質異常症治療薬研究をウサギの MRI で行うために、腹部大動脈の血管壁イメージングを、高分解能かつ短時間でスキャンする方法 (パルスシーケンス) が必要でした。2000 年頃、血管内の血液信号を黒くして、血管壁を明瞭に描出する black blood imaging のために、二重反転回復 (Double Inversion Recovery, DIR) 法が開発されました。しかし、データを取得できるのが、反転回復時間のタイミングに限られるため、二次元 MRI のマルチスライス法の開発が遅れていました。
2002 年に Song HG らが、二次元高速スピンエコー (Fast Spin Echo, FSE) パルスシーケンスで、反転回復時間付近に連続して二枚スライスをする手法を発表しました。そこで、私は、二枚から三枚にスライス枚数を増やしました。また、Herlihy AH らが反転回復マルチスライスパルスシーケンスのために開発したデータサンプリング法である、K-space Reordered by Inversion time at each Slice Position (KRISP) を導入しました。そこでは、三枚スライスの元データとなる k-空間 (k-space) を位相エンコード方向に沿って三分割し、すべてのスライスの k-空間の中心データを反転回復時間のタイミングでサンプリングするために、繰り返し時間 (Repetition Time, TR) ごとにスライス順を並び替えました (Figs. 1 & 2)。
その頃、動脈硬化の MRI 診断法を開発するために、FSE パルスシーケンスによるプロトン密度強調画像と T2 強調画像が取得されていましたが、共に TR が長いため、スキャン時間の長さが大きな問題でした。そこで、プロトン密度強調画像と T2 強調画像を同時にスキャンする機能も追加しました。そこでは、k-空間の中心データの、さらに中心の部分をエコートレインの前半に繰り返し取得し (Fig. 5d-e の左)、その外側の k-空間データを共有することにより、プロトン密度強調画像 (TE = 15 ms) と T2 強調画像 (TE = 45 ms) を再構成し、ウサギの腹部大動脈画像を示しました (Fig. 7)。
もう少し詳しく! 同時スキャン
MRI の高速スキャン法の開発者にとって、k-空間の埋め方のデザインは、開発の醍醐味の一つと言えます。目的の画像コントラストの実現とスキャン時間の短縮を両立させる訳ですが、失敗すると画像がボケたり、不要な信号 (アーチファクト) が現れます。
この研究では、ウサギの腹部大動脈の血管壁を観察するために、0.2 mm の面内空間分解能を目標とし、512 の位相エンコード数が必要でした。現在では、パラレルイメージングや圧縮センシングといったデータ間引き技術がありますが、当時 (2002 年) は、パラレルイメージング法が発表された頃であり、しかも、研究用 MRI にはそのような技術はありませんでした。
三枚スライスの DIR KRISP FSE パルスシーケンスが完成しかけた頃、同僚から「二つのコントラスト画像の同時スキャンができるだろう」との助言がありました。論文には引用していませんが、押尾晃一先生の論文を参考にし、実際のエコートレインは ISMRM 2003 の要旨の Fig. 1 (A) がお判りになりやすいと思います。その同僚は、IDL (Interactive Data Language) プログラミング言語を画像再構成に活用しており、そのパルスシーケンスで取得したデータを、プロトン密度強調画像と T2 強調画像の k-空間データに分離し、画像再構成をするプログラムを作成してくれました。そのおかげで、MRI の二つの検査を、一検査分のスキャン時間で行えるようになりました。そのようなオフライン画像再構成ができる環境が、このパルスシーケンス開発を後押ししました。
もう少し詳しく! KRISP
この研究に使用した MRI は Varian 社製のもので (横置き 4.7 T UNITY INOVA)、FSE の k-空間軌跡 (k-空間を埋める順) は、テキストファイル (petable) に位相エンコードの位置 (整数値) を書き込むことで、パルスシーケンスに容易に命令できました。KRISP FSE の k-空間軌跡は、k-空間の中心から外側へ移動する centric order を基礎としました。Fig. 5 の左の列は、k-空間軌跡を示したものではありませんが、横軸が位相エンコードの位置 (計 512)、縦軸をエコートレインの何番目に、その位相エンコードによるエコーを取得したかをグラフにしたもので、Figs. 5c-5e の太線は第二スライス (Fig. 1a, FSE2) 用の k-空間軌跡です。それらの k-空間軌跡により、一次元的な物体 (デジタルファントム) がどのように画像化されるかシミュレーションし、示したものが Fig. 5 の右の二列です。三種類の物体のサイズと、二種類の T2 で検討しました。ちなみに、このシミュレーションは、静止している物体の FSE 画像を対象とし、流体を検討したものではありません。
Fig. 5a と 5b は、それぞれ、一般的な FSE パルスシーケンスによるプロトン密度強調画像と T2 強調画像の条件でシミュレーションしたもので、この研究で作成したパルスシーケンスによる画質の比較対象となります。Fig. 5c は同時スキャンは行わずに、血液信号の消えだけに注目した KRISP k-空間軌跡のシミュレーションの結果ですが、一次元画像の表面がギザギザしており、2 ピクセル画像は三本線に変形しています。 Fig. 5d は KRISP + 同時スキャンの導入によるプロトン密度強調画像のシミュレーションの結果ですが、Fig. 5a の結果に近く、その k-空間軌跡によっても画質の大きな低下は見られませんでした。その結果は、左の列の Fig. 5a と Fig. 5d が、そこそこ似ているところからも理解できます。一方、Fig. 5e の KRISP + 同時スキャンの導入による T2 強調画像のシミュレーションの結果は、輪郭の強調が見られますが、「もともと観察したいのは、血管壁という小さな物体ですので、」という目的に戻り、T2 強調効果は弱いけれども、物体のサイズによる信号強度の変化は、一般的な T2 強調画像によるものと変わらないことを示したのが Fig. 6 です。
画質シミュレーションをするにあたり、参考にした論文
Constable RT と Gore JC による論文を参考にしました。この論文は、FSE や RARE (Rapid Acquisition with Relaxation Enhancement)、エコープラナー画像 (Echo-Planar Imaging, EPI) といった高速スキャン法では、エコー信号強度の組織の水の T2 による減弱がエコーデータ間で統一されないため、画像がボケることに加えて、小さな組織の画像信号が低下することを示しています。
点広がり関数 (Point Spread Function, PSF) によるシミュレーションをしていますが、この論文では、PSF による説明は少なく (Fig. 3 のみ)、シミュレーションした一次元画像や実際の MR 画像で示しているので、例えば FSE の k-空間軌跡による画像への影響を直感的に理解することができます。PSF に関する数式の説明もありますが、それよりも、T2 により位相エンコード方向の k-空間データがどのように変調するかを示す変調伝達関数 (Modulation Transfer Function, MTF) を多く扱い、これは、k-空間軌跡と T2 がお判りの方であれば、理解しやすいと思います。
MRI の高速スキャン法を理解しようとする方に、お読み頂きたい論文です。
効果的な血液信号抑制
この研究で使用した二次元スライスの FSE パルスシーケンスは、スライス面に直行する方向の血流が速ければ、エコー信号が再収束できないため、血液は暗く描出されるはずです。その条件を論文中の式3に示していますが、それよりも血流が遅いと、血液の画像信号が血管中に残り、それが動脈硬化プラークに誤認されると大変です。そのようなことのないように、追加の血液信号抑制法が必要で、DIR もそのために開発されました。
この研究のために作成した DIR KRISP FSE パルスシーケンスの血液信号抑制能を調べるために、流体ファントムを作製しました。DIR KRISP FSE パルスシーケンスは、スライスの並び替えなしの DIR FSE パルスシーケンスと比べて、低流速 (~ 6 cm/s) において流体信号抑制能が高く、スライス順と流れの方向が順方向である場合に最も効果がありました (Fig. 4b, KRISP, descending)。そのためには、反転回復時間が最適化されている第二スライス (FSE2) の前に、流れの上流で流体信号を抑制するイベントがあるはずです。KRISP では、第一スライス (FSE1) で k-空間の外側データを取るために、強い位相エンコード傾斜磁場パルスを印加します (Fig. 1a. Gphase)。その第一スライス (FSE1) での強い傾斜磁場が流体信号の位相を分散させ、減弱された流体信号が第二スライス (FSE2) に流れ込んだものと結論付けました。
