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お店の繁盛は「足し算」ではなく「掛け算」

品揃えを増やす。売場替えをする。POPをつくる。接客研修をする。SNSの配信数も増やす。

売上が伸びないときほど、お店では対策が増えていきます。

一つひとつは間違っていません。ただ、あれもこれもと手を広げるほど、限られた人手や時間は分散し、それぞれの対策が中途半端になってしまいます。

かなり頑張っているのに数字の変化がないお店では、努力の量ではなく、力を入れる場所がずれていることがあります。

経営で難しいのは、課題をたくさん見つけることではありません。いま、どこに手を入れれば、これまで積み重ねてきた努力が売上に結びつくのか。

反対に、どこを押さえない限り、ほかの対策を増やしても成果につながらないのか。それを見極めるために、私はお店の経営をいくつかの要素に分けて考えています。


力を入れるポイントをどう見極めるか


「何から手をつければよいのか分からない」

そのようなとき、お店の経営をいくつかの要素に分けて考えます。ここで掛け算の形にするのは、数学的に計算するためではありません。複雑に絡み合った問題をいったん分け、どこが店全体の成果を止めているのかを見つけるためです。

繁盛力=会社力×店舗力×スタッフ力

例えば、「会社力」には、経営者の判断、店の方向性、資金の使い方、決めたことを実行に移す速さなどがあります。

「店舗力」は、立地、集客、商品、売場、販促、接客。

「スタッフ力」は、採用、教育、評価などです。

こうして因数分解すると、「最近、お店に元気がない」という曖昧な感覚が、具体的な経営課題に変わります。

ただし、これらを採点し、点数の低いところから順番に直せばよいわけではありません。繁盛している店でも、すべての力が均等に優れているわけではないからです。

見るべきなのは、お客さまから支持されている長所と、その長所が売上や粗利、再来店につながるまでの流れです。

その流れの途中で詰まっている箇所が、最初に手を入れるべき場所になります。

例えば、ギフトの相談が多いのに売れ筋商品の欠品が続いているなら、販促を増やすより、発注と在庫の見直しが先です。

店長がいる日は売れるのに、休みの日には提案が止まるなら、採用よりも、店長の接客技術をほかのスタッフへ共有することが先でしょう。

因数分解するメリットは、欠点をたくさん見つけることではありません。どこを変えれば店全体が最も大きく動くのか、その最初の一点を見つけられることにあります。

一番弱いところではなく、店全体を大きく動かすポイントを探す


ここは、とても大事です。最初に直すべきなのは、必ずしも一番弱いところではありません。そこを変えたとき、店全体に最も大きな変化が及ぶところです。

たとえば、ギフトに強い店を考えてみます。ラッピング技術は高く、相談に乗れるスタッフもいる。お客さまから「あの店なら贈り物が見つかる」と思われ始めている。

ところが、ギフト需要が高まる週末になると、売れ筋のハンカチや入浴剤が欠品する。ここでSNSの投稿を増やせば、来店は増えるかもしれません。しかし、売る商品が足りなければ、せっかくの集客が失望を増やすことにもなります。

この店で最初に手を入れるべきなのは、販促ではなく発注です。支持の強いギフト商品だけでも発注点を決め、週末前に在庫を切らさないようにする。

それだけで、品揃えの良さやスタッフの提案力が販売につながり、お客さまの期待にも応えられます。発注自体は店の個性ではありません。しかし、ここを外すと、せっかくの長所を売上につなげられません。

別の店では、商品も在庫も十分なのに、店頭を見ただけでは何に強いお店なのか分からないことがあります。店の奥にはよい商品があり、スタッフも説明できる。

それでも入口で「自分に関係のある店だ」と感じてもらえず、入店につながらない。この場合、仕入れを増やしても効果は薄いでしょう。

最初に変えるべきなのは、店頭の見せ方や入口に近い一等地の売場です。扱っている用途や価格帯が入口で伝われば、まず店内に入ってもらえる。そこで初めて、すでにある商品やスタッフの接客を生かせます。

仮に同じ「要改善」と評価した項目でも、優先順位は違います。改善しても店全体への影響が小さいのであれば、優先順位を下げてもよいでしょう。

反対に、欠品、入店しにくい店頭、店長への過度な依存のように、成果につながる流れを大きく妨げている弱点は、先に改善しなければなりません。

ここだけは外してはいけない、三つの見方


最初に手を入れるところを考えるとき、各項目の点数よりも、次の三つを重視します。

一つ目は、すでにお客さまの支持があるかどうかです。オーナーがこれから伸ばしたい分野ではなく、繰り返し売れている商品、遠方からでもお客さまが買いに来る商品や用途、実際によく聞かれる相談内容などを出発点にします。

まだ支持を得ていないものを改善しても、店全体を動かすほどの変化にはつながりにくいからです。

二つ目は、その支持が成果につながるまでの流れが、どこで止まっているかです。そもそも店が知られていないのか。店頭で興味を持ってもらえないのか。入店しても選びにくいのか。売れ筋が欠品しているのか。提案できるスタッフが一人しかいないのか。

同じ売上不振でも、原因は違います。ここを取り違えると、集客に課題がある店で商品を増やしたり、売れ筋商品が欠品している店に広告をかけたりすることになります。

三つ目は、お店側で変えることができ、その結果を確かめられるかどうかです。立地は簡単には変えられませんが、店頭の見せ方なら変えられます。採用には時間がかかっても、売れた理由をスタッフ同士で共有する時間は今週からつくれます。最初の一手には、店全体への影響が大きく、小さく試して結果を確かめられるものを選びます。

なかでも、最も慎重に見なければならないのが二つ目の「どこで流れが止まっているか」です。ここを見誤ると、一つひとつの対策は正しくても、成果につながらないところに人や時間、お金を使い続けることになります。

欠点是正は、店を平均点にすることではない


私は、このnoteで「長所伸展」という長所を伸ばすことの大切さを書いてきました。弱いところを改善する話は、「長所伸展」と反対に聞こえるかもしれません。けれども、「欠点是正」は、欠点を一つずつなくして優等生の店をつくることではありません。

不得意なことが残っていても構いません。小さなお店が、品揃え、価格、接客、発信のすべてで大手と同じ水準を目指せば、人も時間も足りなくなります。店の個性や売上につながらない弱点まで、無理に直す必要はないのです。

直すべきなのは、長所を十分に発揮できなくしている欠点です。ギフトに強いのに、ラッピングを任せられる人が一人しかいない。食品を目当てに繰り返し来店されているのに、定番商品の欠品が多い。こうした弱点は、長所の邪魔をしない水準まで直します。

つまり、欠点是正の目的は、弱点を長所に変えることではありません。店の強みがきちんと売上や再来店につながる状態をつくることです。必要な水準まで直したら、そこで止める。その後は、再び店の強い部分へ人、時間、お金を集中させます。

答えを出す前に因果関係を見る


経営者から相談を受けると、「客数が減った」「スタッフが育たない」「在庫が多い」といった悩みが出てきます。私はまず、その言葉を大切に聞きます。ただし、相談された課題を、そのまま原因だとは決めません。見えている症状と、店全体を止めている原因が同じとは限らないからです。

最初に、何を改善したいのかを確認します。売上なのか、粗利なのか、在庫なのか、再来店なのか。次に、お客さまの動線に沿って店頭を見ます。

何の店か伝わるか、入りやすいか、主力商品が見えるか、選びやすいか。そのうえで、売上、客数、レシート、粗利、在庫、欠品、スタッフの勤務体制などを照らし合わせます。

ここで見たいのは、悪い数字の一覧ではありません。

「この事実が、次に何を引き起こしているのか」というつながりです。たとえば客数が落ちていても、地域の人口減少だけが原因とは限りません。

主力だった食品の欠品が増え、それを目当てにしていたお客さまの来店回数が減り、その結果、食品と一緒に買われていた雑貨まで売れなくなっている可能性があります。

この場合、雑貨の品揃えを広げるより、食品の定番商品を切らさない方が、店全体への影響は大きくなります。

仮説ができても、一度に全部は変えません。

お客さまから支持の強い一部門だけ発注点を変える。入口の一台だけを用途別に組み直す。店長の接客の一部を短い手順にして、全員で試す。変更前の数字と売場の写真を残し、一定期間後に同じ数字と売場を見ます。

結果が動かなければ、現場の努力不足と決めつけず、自分の見立てが違っていた可能性も考えます。

コンサルタントの仕事は、項目を採点し、正解を言い渡すことではありません。店にある事実をつなぎ合わせ、どこを変えれば店全体が最も大きく動くのかを、オーナーと一緒に見つけることだと、私は考えています。

最初の一手は、一つに絞る


課題を因数分解すると、直したいところはいくつも出てくるかもしれません。それでも、最初に変えるのは一つに絞った方がよいと思います。複数のことを同時に変えると、何が結果につながったのか分からなくなるからです。

一店舗だけなら、店の長所とのつながりが強く、四週間ほどで変化を確かめられる一点を選びます。複数店舗がある場合は、条件の異なる二、三店舗で試し、本部に共通する問題なのか、その店だけの問題なのかを見分けます。

発注権限や評価制度のように店舗では動かせない問題なら、店長やスタッフの努力に押しつけず、本部の課題として引き取ります。

点数をつけるとしても、それは話を始めるための補助的要素で十分です。大切なのは、60点を80点に上げることではありません。その一点を変えた結果、欠品が減ったのか、入店客が増えたのか、買上率が上がったのか、ほかのスタッフでも同じ接客ができたのか。実際に、数字や現場が動いたかどうかです。

繁盛を掛け算で見るのは、店の欠点を並べるためではありません。すでにある商品、売場、スタッフの力を無駄にせず、どこを変えれば、それぞれの良さが売上や粗利につながるのかを見つけるためです。

強いお店は、何でもできる店ではありません。

もっとも成果につながる一点を押さえたうえで、自分たちの長所へ、人、時間、資金を思い切って集中できる店です。

あなたのお店のそんな「一点」をぜひ探してみてください。

生活雑貨研究所
所長 佐橋賢治

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