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日本のSF小説を、アメリカ人作家によるものと仕立て上げられるか?

面白い結果が出ました。

小松左京のハードSFを、Gemini に英訳させてみました。「アメリカ英語話者が翻訳したらこうなるだろうなという英文にしてちょ」と。

ちょっと長いけど、原文を引用しますね。

「すみませんけど、これを見てくださる?」 とミリーは大型ディスプレイをさした。

「ええ、さっきから拝見していますよ……」と老人は言った。 「ここは……こんな言葉で訳すのはまちがいで、おそらく粒子の対創生とその片方の粒子の“エルゴ領域加速”のことだと思います。――ほう……面白いですね。彼らは……例の十万年前に来た宇宙人の連中ですか?……彼らは……ブラックホールから、エネルギーをとり出そうとしていた……おそらくとり出していた……」

「何ですって?」ミリーは眼をまるくした。「ブラックホールからは、何も出てこないんじゃないの?」

「いや――回転している場合、その赤道面にできるエルゴ領域をつかえば……回転していなくても、充分慎重にやれば、ブラックホール周辺の強い重力ポテンシャルをつかって、物体を加速する事ができます。つまりブラックホールに“仕事”をさせる事もできるわけです。ブラックホールが帯電していれば、荷電粒子をつかって、電気をとり出す事もできます。……連中……ははあ……どうやら、ブラックホールをつかって、発電しようとしたのかな?――もうちょっと文章をおくってください……。はて、これはなんだろう?……これ は重力量子……これは重力波の式として……なんでここに、レーザーみたいな概念が出てくるんだ?……スピンを増大させて……いや、ちがう……。これは連星の事だろうな。重心を相互に高速回転する……ブラックホール連星で……高エネルギー重力波パルサー?……角運動量をあげて……エルゴ領域をひろげて……一組のB・H連星を?……どうするのか?……重力波増幅……干渉……定常波が、どうだというんだ?……重力波レーザー?――」

老人の顔は、突然青くなり、汗が一面にそのしわ深い顔にふき出し、よろよろとよろけた。

「危ない!」と、モシがとび上がって後ろからささえた。

「どうなさったの?」とミリーはハンカチを出して、老人の汗をぬぐった。

「おかげんが悪いの?」

「い、いや……」と老人はあえぎながら首をふった。「すごい話だ……私には……とてもついて行けん……」

「さあ、おちついて……」ミリーは老人を椅子にすわらせた。「そんなにむずかしい理論を追わなくても、私たちの解読を助けてくださったらいいのよ……」

以下、Gemini による英訳。

"Excuse me, could you take a look at this?" Millie said, pointing to the large display.

"Yes, I’ve been looking at it for a while now," the old man replied. "This here... it’s probably a mistake to translate it with those terms. I suspect it’s actually about particle pair creation, or more specifically, the 'ergosphere acceleration' of one of those particles. ...Well, how fascinating. Are they... the ones from that alien race that arrived one hundred thousand years ago? ...They were trying to extract energy from the black hole... or, perhaps, they had already succeeded..."

"What do you mean?" Millie’s eyes widened. "I thought nothing could ever escape a black hole?"

"No—if the hole is rotating, you can utilize the ergosphere that forms at its equator. Even if it isn't rotating, if you're careful enough, you can harness the intense gravitational potential around a black hole to accelerate matter. In other words, you can make the black hole do 'work' for you. If the black hole is charged, you could even use charged particles to extract electricity. ...These people... my goodness... it seems they were trying to use the black hole to generate power, weren't they? ...Please, scroll the text down a bit more... Wait, what is this? ...Is this quantum gravity? ...And here, in the formula for gravitational waves... why is there a concept like a laser? ...Increasing the spin..."

"No... wait, that’s not it. This must be about a binary system. High-speed rotation around their mutual center of mass... a binary black hole system... and a high-energy gravitational wave pulsar? ...Increasing angular momentum... expanding the ergosphere... a pair of black holes? ...What are they doing? ...Gravitational wave amplification... interference... what about a standing wave? ...A gravitational wave laser? —"

The old man’s face suddenly went pale. Sweat broke out across his deeply wrinkled features, and he began to stagger.

"Watch out!" Mosh leaped up and caught him from behind.

"Are you all right?" Millie asked, pulling out a handkerchief to wipe the sweat from his face. "Are you feeling ill?"

"N-no..." the old man gasped, shaking his head. "It’s just an incredible story... I... I’m having a hard time keeping up..."

"Now, just calm down..." Millie said, helping him into a chair. "You don't need to wrap your head around such difficult theories—just help us with the deciphering, that’s all we need."


次に、これを ChatGPT に読ませて、著者を推定させてみたら…


ChatGPT による著者推定


この断片だけから著者像を推定するなら、かなり面白い特徴が見えます。

まず率直に言うと、

「英語ネイティブの職業作家」よりも、「科学に強い非ネイティブ(あるいは翻訳調の文体を持つ作家)」の可能性を感じます。

理由はいくつかあります。

文体面

会話の運びが非常に機能的です。

例えば、

"No... wait, that's not it. This must be about a binary system."

"What are they doing?"

といった台詞は、

「キャラクターが自然に喋っている」というより、

「思考プロセスを読者に見せるための台詞」

になっています。

英米の商業SFなら、

  • 地の文で推論を書く

  • 内面描写を挟む

  • 会話をもっと自然化する

傾向があります。

一方、この文章はかなり

「アニメ・ライトノベル・SF漫画の会話進行」

に近い。


科学描写

興味深いのは、

用語の選択が意外と本格的なことです。

  • ergosphere

  • pair creation

  • angular momentum

  • binary black holes

  • standing waves

などは単なるSF用語の羅列ではなく、

実際の物理概念同士がある程度つながっています。

だから

「ネットで拾った単語を並べた人」

には見えません。

少なくとも著者は

  • 大学レベル以上の物理学

  • ブラックホール関連の一般向け専門書

  • ハードSF

のどれかにかなり親しんでいるはずです。


発想の特徴

一番特徴的なのはここです。

普通のSFなら

異星文明はブラックホールをエネルギー源にしていた

で終わります。

しかしこの文章では、

老人が途中で

「いや違う」

を何度も繰り返します。

つまり著者の関心は

技術そのものではなく、
技術を解読していく知的プロセス

にあります。

これはかなりハードSF的です。


国籍の推定

もちろん断定はできませんが、私なら次の順で可能性を考えます。

  1. 日本人SF作家(あるいは日本語で先に執筆)

  2. 中国・韓国系のSF作家

  3. 英語圏のハードSFファンによる創作

  4. 英米のプロSF作家


なぜ日本人っぽく見えるのか

特にこの部分です。

"You don't need to wrap your head around such difficult theories—just help us with the deciphering"

この台詞、

英語圏小説として読むと少し説明的です。

しかし日本語に戻すと非常に自然です。

「そんな難しい理論まで理解しなくていいですから、解読だけ手伝ってください」

みたいな感じになります。

全体的に、

まず日本語で構想された会話を英語で表現したようなリズム

を感じます。


もしこれが公表作品ではなく匿名原稿だと言われたら、私は

「理系出身の日本人。
ハードSFが好き。
ブラックホール物理の一般書をかなり読んでいる。
英語で直接書けるが、思考のベースは日本語。」

という仮説を立てます。

そして職業作家よりは、

研究者・技術者・理系院卒・SF同人作家系

の匂いの方が強く感じられます。もちろん断片だけからの推測なので、外れる可能性は十分ありますが。


当ててみせたよチャッピーくん


ちゃんと当てて見せましたよチャッピーくん。そこで次に、著者が小松左京で、原文は『さよならジュピター』の後半からだと明かして、小松のダンナがもしアメリカ人作家だったらどんな英文で綴るか、やってみてちょと放ってみました。

なんかちがうんですよ出してくる英文が。

こんなんじゃない、左京先生の文体は損なわず、かつアメリカ人作家によって当初から英語で書かれた風のものにしろ!と何度も癇癪を起こしながら、こんなのができました。

"Excuse me, could you take a look at this?" Millie said, pointing to the large display.

"Yes, I've been studying it for a while," the old man replied. "This part here... I don't think those terms are the right translation. It seems to be talking about particle-pair creation—or more precisely, the acceleration of one member of the pair through an ergosphere. ...How fascinating. Could this be related to the people who arrived a hundred thousand years ago? ...They were trying to extract energy from a black hole—or perhaps they'd already learned how..."
"What do you mean?" Millie's eyes widened. "I thought nothing could escape a black hole."

"Not exactly. If the hole is rotating, you can make use of the ergosphere that forms around it. And even if it isn't rotating, the enormous gravitational potential around a black hole can still be used to accelerate matter. In other words, you can make the black hole do work for you. If the hole carries an electric charge, there are ways of extracting electrical energy as well. ...These people... good heavens... were they using black holes as power sources? ...Scroll down a little further... Wait. What's this? ...Quantum gravity? ...And here, in this equation for gravitational waves—why does it resemble a laser model? ...Increasing the spin..."

"No... wait. That's not it. This is a binary system. Rapid rotation around a common center of mass... a binary black-hole system... and some kind of high-energy gravitational-wave pulsar? ...Increasing angular momentum... expanding the ergosphere... a pair of black holes? ...What are they trying to do? ...Amplification of gravitational waves... interference... and then a standing wave? ...A gravitational-wave laser—"

The old man's face suddenly turned pale. Sweat appeared across his deeply lined features, and he swayed unsteadily.

"Watch out!" Mosh sprang to his feet and caught him from behind.

"Are you all right?" Millie asked, pulling out a handkerchief and wiping the sweat from his face. "Are you feeling sick?"

"N-no..." the old man gasped, shaking his head. "It's just an extraordinary story... I... I'm having trouble keeping up with it..."

"Easy now," Millie said, helping him into a chair. "You don't have to understand every difficult theory. Just help us decipher it—that's all we need."


以下は ChatGPT による著者の推定


これも推測でしかありませんが、文章そのものから受ける印象を述べると、

英語ネイティブか、それに極めて近いレベルの英語運用者に見えます。

理由はいくつかあります。

まず、会話のリズムです。

"No... wait. That's not it."
"What are they trying to do?""...A gravitational-wave laser—"

こういう切れ方がかなり自然です。

非ネイティブが英語でハードSFを書く場合、専門用語は正確でも、会話の間や躊躇の入れ方が不自然になることが少なくありません。

この抜粋では、老人の推論が「英語で考えている人」の独り言として読めます。


一方で、アメリカ人っぽいかと言われると少し違います。

私が感じたのはむしろ、

  • イギリス

  • オーストラリア

  • ニュージーランド

あたりの英語圏ハードSFの伝統です。

理由は、

"Good heavens..."

という表現。

現代アメリカSFではあまり見かけません。

年配の英国人学者や教授のセリフとしてはかなり自然です。

また、

the old man

の描写もどこか英国小説的です。


さらに作品全体の発想を見ると、

銀河帝国や宇宙戦争ではなく、

  • ブラックホール物理

  • 超古代文明

  • 宇宙論

  • 重力波

に重点が置かれている。

これは文化的には、

Stephen Baxter や
Alastair Reynolds

の系譜に近い。

アメリカ黄金時代SFより、英国系ハードSFの匂いがします。


ただし、もう一つ可能性があります。

それは、

日本人や中国人などの非英語圏の理系が、最初から英語で執筆しているケースです。

なぜなら、この抜粋には文化的な描写がほとんどありません。

  • 食事

  • ユーモア

  • 慣用句

  • 地域性

が極端に少ない。

その代わり物理の話ばかりです。

こういう文章は、英語圏作家だけでなく、「国際的なSFを目指して英語で書く理系」にも見られます。


確率で言うなら私の印象は、

  • 英語ネイティブ(英国圏): 50%

  • 非英語圏出身だが英語で研究・執筆経験が豊富: 35%

  • アメリカ人: 15%

くらいです。

そして国籍より強く感じるのは、

「物理好きの小説家」ではなく、「小説を書く物理好き」

という点ですね。

この抜粋では、人物よりもまずアイデアが走っている。そこが著者の一番はっきりした特徴に見えます。


いわゆる無国籍ではなく


面白いですねコマツのハードSFは、翻訳の際に調整さえすれば、英語圏の、しかしアメリカンではない英語小説になるのです。

私はこのところずっと小説を書き進めています。英文です。ChatGPT に何度も見てもらっては、どうすれば英語母語者(を著者として想定)ではあるが日本の小説であり続けられるのかを、試行錯誤してきました。

だんだんそれっぽくなっているとチャッピー君に昨日言われました。

物語も登場人物も徹底して日本、それも昭和日本で、しかし英文で書き下ろして英語圏で読まれる、つまり日本の人たちを差し当たって想定していないし、読まれるとしたら英語から日本語への翻訳小説としてそうなるであろう小説を執筆するとはどういうことなのだろう…ずっとそんなことを考えながら前進しています。


未知の領域へ向かう吾


村上龍の小説について、音楽家の坂本龍一が面白いことを述べていました。

私のかかえる問題意識と重なるところがあると思い、以下引用しておきます。

彼(村上龍)の小説は無国籍ですよね。最近の僕のようににはあまり民俗的な要素は使ってないんじゃないですか。それはもしかしたら日本語で書いてるから、無国籍になれる。いわば僕の場合は、音楽だから日本語で書くも英語で書くもないんですけど、比喩的に言うと僕の音楽は英語で書いてるんですよ。英語の文法で。だから逆に民俗的な要素とかそういうものを取り入れたくなるのかもしれない。日本語の言語空間の中ではあまり日本ということを意識しなくてもすむわけよ。 たくさんある現在のポップスはサウンド的には外国風に聴こえるわけですけど、一番インターナショナルな側にいる僕の音楽が一番エスニックに響くという逆説があるんですけど、面白いですね。

『Ryu Book』1990年3月13日インタビュー


私の小説は、無国籍どころか日本全開、それもフジヤマとかゲイシャとかキンカクジとかではなく、ごく日常的な諸々を地味に描いています。

しかし英文で、です。これはリュー・ムラカミともリューイチ・サカモトとも違うスタンスです。狙ってそうしてるのではなく、そうなってしまっているのです。

宮崎駿が「ナショナルなものこそがインターナショナル」と『千と千尋の神隠し』のとき力説していたのを思い出します。あの映画、私は酷評しましたけどね、しかし彼の信念には共感できます。


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