【ショートショート】第九話『待ち受け』
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いつもの朝。
目を覚まして、
スマホを手に取る。
待ち受けの写真が、
いつもと違っていた。
公園から見慣れた
駅前の風景。
……のはずだった。

遠くに、
公園が見える。
明らかに、駅側から見た風景だ。
手前には、
コンビニ。
斜め向かいには、
花屋。
そして──
若い男性が、
赤い花束を手にしていた。
見覚えがある。
いや。
知っている。
先週の金曜日。
8月7日 午後2時。
花屋の前で、
彼が赤い花束を手に取った。
あのとき、
ぼくは少し離れた場所から見ていた。
金曜日の夜に、
誰かと食事でもするのだろう。
そんなことを、
勝手に想像した。
だから日時を覚えていた。
でも、
写真を撮った覚えはない。
待ち受けの写真を開き、
詳細を見る。
撮影日時。
2026年8月4日 8:00
……。
おかしい。
8月4日の朝。
その時間、
ぼくは駅前の写真を撮った。
確かに覚えている。
画面を拡大する。
花屋の前の男性。
赤い花束。
その少し手前に──
人影。
背中。
服装。
立ち方。
……。
ぼくだ。
思わず、
スマホを持つ手が止まった。
この写真を撮ったのは、
誰だ?
ぼくは写っている。
それなのに、
写真を撮った記憶はない。
さらに拡大する。
コンビニの向こう。
その先にある公園。
そこにも、
小さな人影があった。
目を凝らす。
公園を背にして、
駅の方向へスマホを向けている。
今度は、正面。
カメラで顔の半分が隠れている。
でも──
あの口髭。
間違いない。
ぼくだ。
8月4日の朝。
ぼくは確かに、
公園から駅の方向を撮った。
その写真の中に、
駅の方向を撮っているぼくがいる。
そして、その写真の中には、
8月7日の午後2時に
花束を買う男性がいる。
時間が、
おかしい。
いや。
もしかすると──
おかしいのは、
時間だけじゃない。
ぼくは、
画面から目を離せなくなった。
一枚の写真の中に、
違う時間のぼくがいる。
違う場所。
違う向き。
そして、
違う時間。
それぞれの「ぼく」が、
別々の方向を見ている。
まるで、
写真の中で、
時間そのものが交差しているようだった。
ふと、
忘れていた違和感を思い出した。
あのときも、
写真の時刻がおかしかった。
朝に撮った写真が、
夕方になっていた。
昼になると、
昼の景色になった。
そして夕方には、
目の前の景色と写真が
ぴたりと重なった。
あのとき、ぼくは
気づかなかったことにした。
今回も──
そうすればいい。
そう思った。
けれど。
待ち受けの写真には、
まだ気づいていない何かがある気がした。
もう一度、
画面を拡大する。
写真の中のぼくが、
こちらを見ていた。
……ような気がした。
ぼくは、
スマホを伏せた。
朝の部屋が、
急に静かになった。
《A Drop Remains.💧》
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