吉村萬壱「臣女」について。
徳間書店から2016年に刊行された臣女は島清恋愛文学賞を受賞しているが、終始、汚い話である。
妻の奈緒美が夫である主人公の浮気を知り、どんどん巨大化する話である。なんやそれみたいな話ではあるが、私にとっては冗談にしきれないような切実さを感じて、胸が痛くなる。
主人公は高校で非常勤講師をする傍ら、小説を書いている。しかし、売れてはいない。妻が大きくなり、糞便を処理するのも一苦労な上、食べる量も増えていく。彼女を介護しながら、収入を増やさなければいけないというギリギリ感が漂う。
木村新之助氏という同僚がなんとも笑いを誘い、これは主人公の見ている夢なのかもしれない、いやそうであってくれという気持ちにさせられる。
主人公の浮気相手はメンヘラで支離滅裂な文面や画像を送ってくる。主人公はドMで尽くし体質なのかもしれない。けれど、主人公の本命は妻・奈緒美であることには違いない。
妻の均衡の崩れた身体や顔を見ても、主人公はどこか愛おしげに彼女を見つめ、介護する。
妻の大便はトイレで処理がしきれず、風呂場の排水溝から流れるように棒でつっつくのだが、それも追いつかない。さらには身体から出た寄生虫をまた棒で殺す毎日。介護とは汚いものと、変容していく相手に向き合う日々なのだ。
主人公がおかしいのか妻がおかしいのかもよくわからない。
かつて恋人だった妻と夫の物語ともとれるし、寝食を共にする家族の話であるようにも思える。
私は汚い物を汚いままに描き切り、そして変身していく妻への愛を介護という形で表現したこの作品が大好きだ。嘘が一つもない。かといって、主人公は被害者ぶらないのも共感できる点かもしれない。
主人公と妻の結末には、私は納得するとともに反発する気持ちも芽生えたけれど、この作品としての終わり方としてはぴったりな終わり方だったと思う。
